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4章 小さな世界に集いしモノ
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しおりを挟む伯爵令嬢による公爵令嬢への暴言、暴行未遂に、王子殿下含む貴族子息子女による同令嬢への暴言暴行。
返り討ちと言う結果も、加害者側に非がある以上問題が無いように思えるが、おバカな王子のせいで、おバカな王家が騒ぎ立てるなど、頭の痛い話となっていたよらしい。
これまでも問題が無かったわけではない。
外交の一環として作られ、ぬるま湯に浸かるような安穏さで存続を許されてきた学院は、これまでも何度も存続の危機を迎えていた。
それというのもトップが事実上王家である上に、学びの場としての実績がこれまで目立って存在せず、ただの金食い虫でしかないと批判の的になっているのだ。
諸外国の子息子女は国が安定すれば、この国の程度の知れた学院にわざわざ留学する意味等なく、創立以来コレと言った実績もないままで、国内貴族にしても学院を卒業してもステータスとはならない。その為家庭教師で済ませる家も存在する程だ。
結果、学院の存在意義は爵位を越えた友人や婚約相手を探すだけの場となってしまった。良く言えば人脈形成とも言えるが、国内の貴族家だけの交流に、そこまで大きな意味があるかと問われれば、返答に窮するだろう。
学院側としてもここ数年は王弟夫妻の視察等が強行され、副学院長のすげ替え他、人事も大きく揺るぎ、一部では蜂の巣をつついたような状態になっていた。
それも仕方ない事ではある。
トップの王家の私財で運営されているわけではなく、公費が使われていると言うのに、横領などが多発していて、目も当てられない状況が明るみになってしまったのだ。
これで問題にならないはず等なく、色々と刷新し、入学試験も初の不合格者が出る程度には難しくしたはずなのだが、こうして問題が起こってしまった。
騒ぐ王家他、諸々の問題に対処し終え、やっと授業再開となったのは、事件発生から1週間後の事だった。
そんな状態でゆっくり時間を取ることが出来たエリューシアは、新たに私的に抱えたアッシュとジョイの勉強や訓練に付き合っていた。
アッシュもジョイも、借り上げ邸に足を踏み入れた当初こそ、ビクビクと小さくなっていたが、数日の間に構いまくって来るメイドや騎士達のおかげもあって、随分と緊張もほぐれたようだ。今ではよく食べ、よく眠る事が出来るようになったのか、血色も良くなっている。
そういった良い意味での環境変化は、学びにも良い影響を与えているらしく、2人共日々とても楽しそうに学んでいた。
アッシュ――攻略対象で旧名カーティスは、やはりというか当然と言うか…とてもスペックは高かった。
初めて木剣を握ったにもかかわらず、エリューシアの護衛騎士を務めるメルリナの剣をあっさり受け止めた。それだけでなく体術、馬術、暗器の扱いまでも問題なくこなして見せたのだ。
読み書き計算も問題ないどころか、歴史や教養等もどんどん吸収していく。
普通ならありえない才能と言いたくなるが、そこはそれ、元攻略対象と言うのは伊達ではないという事なのだろう。
そして平民であるにも拘らず魔法適性があった。
水魔法が一番馴染むようだが火魔法も行使する事が可能で、エリューシアは、改めてこの世界の魔法は頭で理解が難しいと認識する。前世のゲーム脳では水と火なんて属性相性が悪いのでは?等と考えてしまうのだが、問題なく使えているのだから良いのだろう。
深く考えて理解が進むなら兎も角、進まないのだから仕方ない。考えたら負けと、潔く思考を手放す。
次にジョイ――アッシュの弟で旧名ピオット。前世ゲーム内では死亡ルートもある彼だが、なかなかどうして、兄に負けず劣らずの優等生だった。
残念ながら武の方の才能には恵まれなかったようだが、文と魔法の方はアッシュより高いかもしれない。
性格も穏やかで人懐っこく、借り上げ邸のマスコットとなりつつある。
魔法適性は水と土で、とても楽しそうに借り上げ邸裏の一角に畑を作っているのだが、調子よく畑を広げるので、慌ててエリューシアとアッシュで止めた程だ。
魔法を使うのはジョイにとって、とても楽しい作業らしく何よりだ。
正直言ってどちらも規格外過ぎる。
平民の場合魔法を使えても、多くは1属性。それも生活魔法として使う事がやっとなくらい細やかなモノであると言うのが普通だ。
それが2属性扱えて、2人共生活魔法と言うような範疇ではない。
だが、これはエリューシアにとって嬉しい誤算である。
エリューシアは今後の事を考えて、個人資産を増やそうと計画しているが、その内容はと言うと、錬金や魔具製作の技能を活用して商品を作り、それを市井で販売すると言うもの。
実際、この世界の医療や質の良い薬等は、ほぼ貴族が独占していて、平民の手が届くものではない。
あの壊れた家屋に避難していた間、アッシュは一文無しだった訳ではないと言う。既に労働で得たお金は持っていたようだったが、それでもポーション一つ買う事は出来ず、ジョイは肺炎まで至ってしまった。
エリューシアとしては、純粋な善意で商材を選定してはおらず、売れそうだからという単純な理由で決めたのだが、まぁ役に立ちそうだから良いだろう。商売敵以外はきっと誰も困らない…多分。
アッシュとジョイが居れば市井で店舗を探す事も、店舗がなくても販売経路を得る事も可能だろう。
その上ジョイが畑仕事が苦にならないのであれば、材料も栽培して作り出すことが出来る。そうなれば価格を安く抑え、平民にも手の届く薬品やポーション等は夢ではない。
夢が広がリング! とはこの事だ。
そうして授業再開日を迎えたのだが、アッシュとジョイは借り上げ邸で鍛錬する為お留守番となり、学院へ向かうのはいつもの面子だ。
裏手脇から上位棟に入り教室へ向かえば、いつもの顔ぶれが朝の挨拶をしてくれる。
「「「おはようございます」」」
「おはよう」
「よう、一週間ぶりだな」
「おはようございます」
「お、おお、おはようございマス!」
扉を開き、エリューシア、アイシア、オルガがハモって挨拶すれば、先日以来口を開いてくれるようになったツデイトン侯爵令息ことソキリスが、一番に挨拶を返してくれる。
続いて右手をヒョイと上げ、笑顔で挨拶してくるのはバナン・ドコス。
笑顔と共に穏やかな挨拶をするのはポクル・ボゴヘタス。
最後につっかえながら挨拶してくるのは、もう何日も同じ教室で学んだと言うのに、未だに高位貴族の子息子女に緊張してしまうらしいシャニーヌ・マポントだ。
その後クリストファが入ってきて、少ししてからマークリスが入室してきた。
フラネアがあんな事になり、幼馴染で仲も良さそうだったマークリスからは大層恨まれてるだろうと思ったのだが、彼は顔色は冴えないものの、激高したり文句を言ってきたりする事はなく、ボソリと誰に言うでなく『おはよう』と言いながら席に着いた。
沈んだように見えるのは気掛かりだが、エリューシアに気遣われても、反対に業腹かもしれないと、そっと視線を外した。
やっぱりと言うか、フラネアと言う存在はクラスに思った以上にストレスを与えていたのだろう。久しぶりの授業は順調で、穏やか且つ楽しく進んだ。
教師への質問等もこれまでにない程飛び出し、教師側もホッとしたように微笑んでいる。
昼食もすんなりとそれぞれが済ませ、午後の一番の授業が始まった頃、その騒動はやってきた。
「………けませ…ッ!! あ………ん中で……どりなさい!!」
授業中のどこか静謐な空気に、場違いな怒号が響く。
ざわりと教室内が落ち着きをなくし、教師も学生も揃って声がしたと思われる方向の壁を見つめた。
「……なせって!! 俺に……ある…だッ!! 通せよ!!!」
聞こえてきた声に誰もが何となく顔を見合わせた。
その理由は……聞き覚えがありすぎる声だったからだ。
ハロルド・メッシング――メッシング伯爵家第3令息であり、王子殿下の腰巾着、そしてチャコットの双子の弟。
「だから! 貴方はまだ謹慎中でしょう!? しかも上位棟になんて通せません!!」
「煩い!! 邪魔するな!! 俺はどうしても聞きたいことがあるんだッ!!!」
ハロルドと、阻止しようとする側の声がどんどん近づいてくる。
「出てこい!! 妖精女!!」
教室内の視線がエリューシアに集中する。
声には出ていないが、どの視線も気遣うような、気の毒に思っている事を隠しもしない視線で、エリューシアは本当に小さく嘆息した。
続けて聞こえてくる声も突っ込みどころしかない。
(妖精女って……名前覚えてないんですね。
そも妖精というか、言われるのは精霊って言葉の方なので、言うなら精霊女ですかね。
それ以前に妖精の女でも精霊の女でもなく、精霊の加護持ちというだけなんですけどね)
まぁ、突っ込んでいったらキリがない。
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