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4章 小さな世界に集いしモノ
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しおりを挟む「いい加減にしなさい!! これ以上問題を起こすようなら謹慎では済みませんよ!!」
「煩い!! 俺は妖精女に用があるだけなんだ! 邪魔するなッ!!」
警備の者も更に増員して駆けつけたのだろう。
扉もきっちり閉められた教室内からは、何がどうなっているのか視認する事は出来ないが、音と気配から複数人が乱闘しているらしい事はわかる。
暫くして、まだ静かとは言えないものの、騒音はマシになった。
「……おい、立て!」
「………嫌だ………」
「はぁ、仕方ない…身分がどうこう言ってられん。抱えていくぞ」
「聞こえてんだろ!!?? 妖精女出てこいよ!! …………頼むよ……出てきてくれよ……ゥッ」
乱闘騒ぎの間、壁一枚隔てた内側――教室内は全員が騒動が起こっているらしい方向の壁に、再度視線を向けて固唾を飲んで固まっていた。
そんな中、聞こえてきたのは徐々に勢いを失っていく声。最後はとうとう涙声の懇願になっている。
正直出向いてやる義理も義務もないが、あの猪脳筋が泣き崩れて懇願する等、ただ事とは思えない。間違いなく何かあっただろうと、エリューシアは席を立ち扉の方へと足を向けた。
「エルル、行く必要ないわ」
すぐさまアイシアが気づき、立ち上がる。
クリストファも頷きつつ席を離れて、エリューシアの前に立ち塞がった。
「アイシア嬢の言う通りだ。放っておけば良い」
阻まれたせいでクリストファの前で足を止めたエリューシアに、アイシアも近づいてきて顔を覗き込んでくる。
「危ないわ……だから行っちゃダメよ」
「エリューシア嬢が情けをかけてやる必要なんてない」
声をかけて来るアイシアとクリストファに、エリューシアは顔を上げ、困ったように眉尻を下げた。
「情けとかでは…ない、ですよ。みっともない姿を笑ってやろうかと思っただけで……それに『頼む』なんて彼らしくないですし…ですから…」
言い訳のような言葉しか出て来ず、アイシアとクリストファが揃って溜息を吐いたのがわかる。それに行動したのはオルガだ。
オルガの席は最前列の扉側…つまり騒動に一番近い席。立ち上がって扉に近づき、アイシアとクリストファに阻まれて進めないでいるエリューシアを振り返った。
「お嬢様、どうしてもと言うなら私の後ろからにしてください」
「オルガ…」
「優しくしてやる価値等ないと思いますけど……全く…お嬢様は仕方のない方です」
アイシアとクリストファの間をすり抜け、オルガに駆け寄ると大きく頷く。
まさか教室の扉が開かれるとは思っていなかったのだろう。騒動の主役たちは揃って開いた扉の方を凝視している姿が見えた。
縄で縛り上げられたハロルドが、大柄な兵士のような姿の警備の者の小脇に抱えられている。そのハロルドが煩いからだろう、別の者が猿轡を噛ませようとしていた場面で固まっている。
それ以外にも兵士姿の者が居て、ざっと見ただけで警備の者が4人、あと教師か事務の者かわからないが、ローブを羽織った者が2人、総勢6人の大人がハロルド一人に振り回されていたようだ。
流石攻略対象と讃えれば良いのか、脳筋猪男めと蔑めば良いのかわからない。
「お、おい! 返せよ!! 何処にやったんだよ!!??」
猿轡で口を塞がれる前だったので、警備の者に抱えられたまま、エリューシア達の姿に気付いたハロルドが騒ぎ出した。
「こら、大人しくしろ!」
抱えていた警備の者が、ハロルドを抑え込もうとしつつ怒鳴ったが、あまりの暴れ様に小脇からずり落ちそうになった丁度その時……。
―――バシッッ!!
小気味よい音が響く。
見ればいつの間にか近づいてきていたオルガが、抱えられたハロルドの頬を張り飛ばしていた。
「黙りなさい。お前如きにお嬢様が『わざわざ』出向いてくださったのです。
感謝するのは当然ですが、態度がなっていません」
太腿辺りまでずり落ちてしまったものの、辛うじてまだ抱え込むことに成功していた警備の者が、とうとう腕で支えきれずにハロルドの身体を取りこぼしてしまう。
床に落ちる事になったハロルドに、すかさずオルガが近づき、彼の頭を手で押さえ込んだ。
「お前の様な痴れ者にも情けをかけて下さるお嬢様に、最大級の感謝をなさい」
オルガの迫力に呑まれたのか、当のハロルドは勿論、警備の者達もポカンとしている。
流石オルガではあるが、このまま固まっていても埒が明かない。
「ぁ…っと……それで? 先程から何を喚いているのか説明をお願いします」
エリューシアの声が聞こえて、思わず頭を上げようとしたハロルドだが、現在進行形でオルガに頭を抑え込まれているので、身じろぎするのが精一杯のようだ。
子供とは言え自分よりも体格の良い男子を、易々と抑え込むオルガに大人達も顔を見合わせたりしているが、ハロルドを救出しようと動く者はいない。
「っく……は、なせ!!」
「言葉遣いがなっていません」
「ッ◎■※##△◇◎**&!!!!!!!!!!!!」
ハロルドの声にならない声が響き、エリューシアは苦笑いしつつオルガ声をかける。
「そのくらいで……それで?」
「………だ、だから……」
やっと学習したのか、ハロルドの語調が少し大人しくなった。
「返してくれ……どこに居るか教えてくれるだけでも良い……頼む」
ボソボソと呟きに似た言葉に、その場に居合わせた全員が眉根を寄せる。
「どういう意味ですか?」
「お前な…!!$#◇●※!!!」
「本当に頭が悪いのですね。言葉遣いを改めないなら、このまま首を絞めますよ」
ただの脅しだとは思うが、途端にハロルドがビクリと跳ねた。
「う……あ、チャコが……チャコが帰ってこないんだ…マミカも……あの2人が目障りで拉致するかしたんだろ? わかってる…もういっぱい反省した! 悪いのは…迷惑かけたのは俺達の方だって…だから…ちゃんと反省させる。だから頼むよ!! チャコを、2人を返してくれ……」
後頭部を押さえこまれ、顔を床に伏せたまま、ハロルドは泣きじゃくり始めた。
だが、酷い冤罪に頭が痛い。
思わず無言でオルガを見てから、アイシア達の方を振り返りがくりと肩を落とした。
「何をどう考えれば、そういう結論になるのか私には理解不能ですけど。残念ながら私は無関係です」
「嘘だ…だって一番最近やり合ったのはお前ッウグ!!ン!!!」
学習したと思ったのだが、どうやら思い過ごしだったようだ。
「確かに、貴方達が廊下を歩いていただけの私に絡んできた結果、貴方達は謹慎処分になったようですけど……すでに処分の出ている貴方達に、何故私が拉致とか面倒な事をすると思うのです?」
「それは……怒った…から」
「だから拉致? 短絡的すぎて笑いも出ませんが。
普通に考えればそんな面倒な事するはずがないと分かりません?
私ではなく、貴方達の方に処分が出された……つまり誰が見ても非は貴方達にあると認められたという事です。わかります? 悪いのは貴方達の方であって、私ではないと公に認められたという事なんですよ。
なのにあえて拉致だとか……どうして非のない私が、わざわざ手を汚す必要があるというのです? 貴方達は自覚してないのでしょうけど、公に処分を下されるという事は、貴族としてそれなりに痛手なのです。
まだ成人していないから致命的にはならないでしょうけど。
それなのに、どうして私が貴方達と同じ痛手を負わなければならないのです? 自分からそんなレッテルを望むなど、ありえない事だとわかりませんか?」
「………」
「黙っていてはわかりません。どうなのですか?」
「……だったら………だったら誰が…?」
これまでの態度が嘘のように、弱々しく問うハロルドに、エリューシアも困り果てる。
「貴族令嬢が誘拐されたとして、大っぴらに捜索するのは難しい事かもしれませんが、それでも御両親達も可能な限り探していらっしゃるのでしょう?」
「……わからない…わからないんだ」
「……はい?」
メッシング伯爵家は領地を持たず王城に勤める貴族家だった記憶があるので、他の一族等はわからないが、少なくとも伯爵一家は王都の邸で一緒に暮らしていると思われる。
貴族令嬢が誘拐等犯罪に巻き込まれた場合、傷物と言われてしまう可能性が高く、そうなってしまえば婚姻等に大きな影響がでてしまう為、出来るだけ秘密裏に事を運ぼうとするのは、悲しいかな理解できてしまう。
だが、いくら大っぴらに捜索できないとはいえ、邸に出入りする人間が必要以上に増えたりするので、子供であっても同居しているなら気づくのではないだろうか……?
それなのに『わからない』とはどういう事だ?
「……ぁ、もしかして御家族とは別の邸で……あぁ、貴方の場合、王城の場合もあり得ますね。そう言った場所で普段生活しています?」
「え? あ、ううん……父上や母上、兄上もみんな一緒だ」
想定外の質問に思わず素が出たのか、ハロルドの口調が子供っぽくなった。
「そう…それなのに気づかない? もしかすると気づけない程、細心の注意を払っているとも言える?」
これまでカーティスこと現アッシュのように、所在がつかめなかった者は兎も角、所在が分かっている攻略対象については、可能な範囲とは言え当然のように調べている。
勿論エリューシア一人でそこまで調べられるものではないが、貴族名鑑や噂…噂も有名な物なら耳にすることが出来ていた。
そういった情報から、メッシング伯爵がそんなに慎重なタイプに思えなかったエリューシアは困ったように、まずオルガ、後ろを振り返りアイシアにクリストファ、そしてクラスメイトに教師と視線を流すが、誰もが怪訝な表情を隠しもせず首を捻っていた。
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