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4章 小さな世界に集いしモノ
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しおりを挟む今回は『死』に繋がる言葉や表現が多く出てきます。
苦手な方はどうぞ自衛下さいますよう、お願い致します<(_ _)>
∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽
「部屋からチャコの姿が消えてて、母上は気を失うし、父上や兄上達は凄く機嫌悪そうな顔で……俺、もう……チャコを見つけないとって、それしか…」
年相応に泣きじゃくり始めたハロルドに、サキュールがカップを置いて近づき寄り添った。
「ここまでお聞きしましたけど……」
アイシアが苦しそうな表情でエリューシア達を見回す。
「メッシング伯爵家がどう考え動いているかはわからないままだから、私達が出来る事なんて限られてる…と言うより殆どありません、残念ですが」
「そうだね。せめて金品の要求があったかどうかだけでもわかれば、少しは筋読みも出来そうだけど、あの様子じゃ今は聞けそうにないし」
アイシアの言葉を続けるように呟いたエリューシアに、クリストファも苦り顔で、泣きじゃくり続けるハロルドに視線を流してから、肩を小さく竦めた。
「営利目的かどうかは不明なままですが、警備隊に小さな子供が帰ってこないのだと、濁して話を聞くくらいなら出来そうですけど……」
「じゃあ私が行ってきますよ」
そう言って立ち上がったのはメルリナだ。
しかしメルリナは過日の警備隊詰所訪問時には同行していない。
顔繫ぎをしていないので門前払いを喰らいかねないのではないかと問えば、セヴァンを連れて行ってくると言う。確かにセヴァンならあの時同行していたし、ヨラダスタン隊長と会えるかもしれない。
身分他明確にしない事等、細心の注意を払ってくれるよう頼んでおく。
メルリナは『つい』が多いが、セヴァンが同行してくれるなら大丈夫だろう。
話はセヴァンに頼むように言えばムッと口をへの字に曲げていたが、しっかりと頷いてから足早に出て行った。
その音に吃驚したのか、ハロルドは泣き止み、サキュールは困惑したように扉の方を見ていた。
「王都の警備を担っている警備隊の方へ、少し話を聞きに行ってくれています。
もし営利目的だったとしてもメッシング嬢、ハナヴァータッケ嬢には危険が及ばないよう、身分他を明かさず、出来るだけ濁して聞くようには言ってあります」
話に追いつけていないのか、ハロルドは目を瞬かせていたが、サキュールの方はすんなりと話を飲み込めたようで、顎に軽く手を添えて暫し考え込む様子を見せたが、直ぐに頷く。
「警備隊に話が聞ける状態なのですね?
残念ながら私には警備隊の方に伝手がないので……ただ深入りはしないよう注意してください」
「勿論です。犯人の目的がわかりませんから、悪戯に騒ぎ立てる事は決してしません」
注意に返事をしたエリューシアに、当のサキュールが目を丸くしてからフッと目を細めた。
「本当にエリューシア嬢は不思議と言うか……こんな犯罪かもしれない話に狼狽えず、しかも出来る手立てを考えるなんて」
すみません、ごめんなさい、前世はミステリー小説も大好物だったんです……なんて口が裂けても言えない。
眉をハの字にして、困ったような笑顔で受け流すしかなかった。
メルリナが戻って来るまでの間、折角泣き止んだ事だし、ハロルドの話をもう少し引き出せたらと質問を繰り返す。
結果、やはり彼の邸における人の出入りは増えていないものの、当主の部屋と執務室には執事達の出入りが増えている事は分かった。
脅迫状等の直接的な事は一切わからないままだが、少なくとも当主であるメッシング伯爵は、何らかの動きをしていると思われる。
だが残念な事にエリューシア達は個人的には勿論、家としても縁が殆どないので、当主の話を聞く事は難しい。
ハロルドとチャコットがバルクリス王子の傍付のようになっているから、そちらからなら話は出来るかもしれないが、王家の方は王家の方でマミカの行方不明で、恐らくではあるが騒ぎになっているだろう。少なくとも王妃と王子は騒いでいると思われる。
それにチャコットも王子には近しい存在なのだから、放置はしないだろう。
となれば、外野が出来る事はやはり何もない。
ハロルドの気休めの為に、メルリナが持って帰ってくるであろう情報を一緒に待つ事くらいだ。それさえ、これまでの事を考えれば若干モニョってしまうが、ここは前世含めれば良い年をした大人なのだから、エリューシアが飲み込んでおくのが良いのだろう。
待つ時間と言うのは、とても長く感じるモノだ。
メルリナが出て行ってから、感覚的にはもう何時間も経っているように感じるが、窓から見える風景はまだ夕暮れにもなっていない。
誰もが言葉もなく、ただ沈黙が流れるに任せていると、ノックの音が響いた。
サキュールが扉を開けに行くと、そこにはメルリナとセヴァン、サネーラまでたっていた。
「すみません、遅くなりました」
3人が室内に入り、オルガが3人分のカップを追加で用意する。
その流れのまま、皆のお茶を入れ替えてくれた。
「えっと、何処から話したら良いですかね…」
困ったように零すメルリナに、冷たく目を細めてからセヴァンが後を引き継いでくれた。
「メルリナは黙ってて良いよ。後は私が話す」
「スミマセン……オネガイシマス」
とほほと言わんばかりにしょぼくれたメルリナを一瞥してから、セヴァンが話し出す。
「まず、メルリナとサネーラの顔合わせを装って、警備隊隊長に取り次いで頂きました」
「そう、顔合わせに寄ったついでという体にしたのね」
「はい。行方不明の件については、メルリナが同級生から聞いた話を切っ掛けにして切り出しました」
セヴァンとエリューシアの受け答えの合間に、メルリナが口を挟む。
「ほら、クロッシーの話です、誘拐されそうになって言うアレ」
メルリナの言葉にサキュールが驚いたような顔をしていたが、それには今は構わず話を続ける。
「で、やはり警備隊の方でも誘拐事件が増加傾向にあるという事は把握していました。ただその男爵家の話は知らなかったようで……あくまで未遂だった事ですし、御令嬢本人が話している事ではあるのですが、一応口止めをお願いしておきました」
「えぇ、そうしてくれて良かったわ。ありがとう」
エリューシアから微笑み交じりに言われて、セヴァンが律儀に頭を下げる。
「勿体ないお言葉です。
それでなのですが、その話を呼び水に、ここ最近の子供の迷子や行方不明の話を聞いてきたのですが……」
そこまで話してから、セヴァンが躊躇うように視線を泳がせた。
「話すのは不味い事なの?」
「不味いと言うか……その…エリューシアお嬢様は大丈夫だと分かっておりますが、アイシアお嬢様、そして……」
セヴァンがハロルドの方を痛まし気に見つめる。
その様子にエリューシアはすっと目を細めてから、一瞬瞼を下ろした。
「それは『確認された』という事?」
「いえ、発見されたのは平民もしくは貧民だというのは、確認が取れているようです」
エリューシアとセヴァンの話し方に、アイシアとハロルド以外の全員が苦り切った表情を浮かべている。
クリストファまで同じような表情なのは驚いたが、彼も彼で色々とあるのだろう。
「エルル……どういう事?」
「お姉様、その……」
「俺も、俺もよくわかんないけど、いい話じゃないって事なんだよな? だけど聞かせてくれ! 頼む」
アイシアの不安そうな様子と、ハロルドの苦しげな表情に、エリューシアは小さく息を吐いた。
「『確認が取れた』のは平民か貧民の子供達で、メッシング嬢やハナヴァータッケ嬢ではありません。ですので落ち着いて話を聞いていただけますか? ただ……その、かなり刺激が強い言葉が出てくるかもしれませんので…」
視線を伏せながらのエリューシアの言葉に、アイシアが頷く。
「大丈夫よ。わからないままの方が反対に気になってしょうがないわ」
アイシアに頷いてから、エリューシアはハロルドを見つめれば、ハロルドも大きく頷いた。
「わかった。暴れたりしないから聞かせてくれ」
それ等の言葉を聞いて、エリューシアはセヴァンに頷いた。
「承知しました。
これまで行方不明になった子供の内、数名が死体で発見されているとの事でした。
あくまで攫われたと分かる案件に限ってで話しますが、傾向として、これまで死体で発見される子供は、痩せ細った男子が多かったそうです。恐らくですが攫われてから労働力として使われていたのではないかとの事ですが、最近発見された遺体には女子が含まれており、その様子から労働力としてすり減らされたのではなく、また、背中から刃物を突き刺されて殺害されているとの事でした。
ただ、これまで背中から刺殺された者は、容姿の整っている者ばかりで、そう言った暴行の痕跡もなく、何故殺害したのかわからないと言っていました」
「……まぁ、そうよね」
器量良しの少女を誘拐というなら、その目的はかなり限られる。
一般的と言い難い性癖を持つ者等に売りつける、娼館に売りつける……どの目的にしろ金銭に変えるのが殆どだ。攫った本人が暴行目的で、というのも勿論あるが、今回は『そう言った暴行の痕跡もなく』と言っているから、売りつける事を目的にしていると考えるのが自然だ。
監禁されていたが逃げたと言うのであれば、犯人側としては再び捕らえれば良い事で、殺害されている以上、例え逃亡したのだとしても、犯人側の手に一度は戻されたという事だ。
嫌な影がちらつく。
ゲーム内でエリューシアに似た色と面影を持っていたヒロインの事が、どうにも脳裏に浮かんでしまう。
だが、こちらについての追及は後にすべきで、今はメッシング嬢とハナヴァータッケ嬢の話だ。
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