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4章 小さな世界に集いしモノ
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しおりを挟む今回も『死』に繋がる言葉や表現が少々出てきます。
苦手な方はどうぞ自衛下さいますよう、お願い致します<(_ _)>
∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽
「それで、その中にメッシング嬢やハナヴァータッケ嬢がいない事は、間違いないのね?」
「はい。身元がわからない子供の死体は男子ばかりで、女子については発見された者に限ってにはなりますが、確認できているそうです」
面倒とは思っているが、死んでほしいだなんて欠片も思っていないから、死体が確認されていない事は本当に良かったと思える。しかし、決して楽観視できない現状にコレと言った考えも浮かばず、ただただ溜息が零れるばかりだ。
視線を流して見回しても、ハロルドはもう血の気が失せて今にも倒れそうな顔色だし、それ以外も揃って険しい表情で沈黙している。
気持ちを一旦切り替えようとするが、失敗して零れ出たのは溜息。
けれど、エリューシアはそれでも何とか顔を上げた。
「ここでこうしていても、何もできないままと言う状況に変わりはありません。
今日はこれで帰りましょう」
「な…にも、でき……ない……」
エリューシアの声に、心どころか魂まで何処かに抜け落ちてしまったのではないかと心配になる程、ハロルドが呆然としたまま反応する。
考えた事もなかったのかもしれないが、突然『死』と言う単語が飛び出した事でその可能性に思い至り、何もかもが追い付かない状態なのだろう。
「エリューシア嬢の言う通り、です……ね。今日は解散としましょう。
メッシング君は流石に心配ですし、私が馬車で送りますので御安心を」
サキュールも同意して立ち上がったのだが、その瞬間ハロルドが弾かれたように叫んだ。
「なんで!? そりゃお前らに迷惑かけたよ! だけど、なんでそんなに落ち着いてるんだッ!!?? チャコが……チャコもマミカもどこに行ったかわかんないんだぞ!! 少しくらい心配してくれたっていいじゃないか!!」
サキュールもアイシア達も痛ましげな表情で固まる中で、エリューシアは一瞬息を詰めた後、ゆっくりと息を吐く。
子供の、しかも被害者家族の心の叫びなのだろうが、八つ当たりもいい所で、いい加減ブチ切れそうになるのを、深呼吸で押さえ込んでいるのだ。
そうして口を開こうとしたとき、クリストファが冷ややかな表情で近づき、喚くハロルドを無言で殴り飛ばした。
ガッと頬を殴る音の後、周囲にあった物が乱雑に飛ばされ、壊れるような音も続けて響く。
「八つ当たりするものではないよ。
これまでの事を思えば、君の話に耳を貸す必要なんて彼女達には、全くないのだとわからない? 君のその頭部は飾りなの?
考えれば…見て、聞いていればわかるはずの事もわからない?
君も貴族家に生まれた者なら、いい加減そんな幼子の様な振る舞いから卒業したらどう?
自分の思い通りにならないからと言って、大声で喚いて突っかかるなんて、みっともないにも程がある。
君が聞いてくれと頼んだから、ここでこうして聞いてるんだよ? ねぇ、それに感謝もないの? 聞くだけじゃなく、彼女達は可能な範囲で情報も持ってきてくれた…なのに何が不満だと言うんだい?
第一最初に『何も出来ない』『助言も出来ないかも』って宣言された事も忘れてる? 本当におめでたい頭をしているね。
にも拘らず心配くらいしてくれとか……本当にあり得ないよ。
甘ったれるな」
身動きもできずに事の成り行きを見守っていたが、エリューシアはクリストファに、心の内で拍手喝采を送った。
エリューシアもきっぱりと言い捨ててしまいたい気持ちはあったが、どうしても前世に引き摺られて、自分が引き下がったり、気を回したりしてしまうのだ。
これは年齢のせいか日本人だったせいかわからないが、ついつい波風を立てないような選択をしてしまいがちになる。
だから、思わずクリストファにも『ごめんなさい』と呟いてしまった。
かなり小さな声だったのに、クリストファはしっかりと拾い上げていたようで、吃驚したようにエリューシアを振り返った。
「…何が?」
「……その……言い難い事を言わせてしまいました…だから、ごめんなさい」
クリストファの口角が微かに上がり、驚愕の表情から微笑みに変わる。
「僕は自分が思ったように行動しただけだよ。だから礼なんて要らない」
「……でも、本当は私が言わなければいけなかった事で…」
そう言うとクリストファは大げさに腕組みまでして考え込み、何か思いついたのか、にこっりと微笑んで頷いた。
「じゃあ今度の週末、僕に時間をくれるかい? 一緒に出掛けよう」
想定外の提案に、エリューシアは思考が間に合わず反射的に頷いていた。
「頷いてくれて嬉しいよ。じゃあ約束ね」
間違いな空気を醸し出した2人に、アイシアやオルガ達が目を吊り上げた。
「ダ……ダメですわ!! エルルが出かけるなら私も一緒ですわ!」
「お嬢様が出かけるのであれば、私も同行せねばなりません」
「やれやれ、アイシアお嬢様もオルガも邪魔する気しかないみたいね。じゃあ私も護衛で一緒しますかね」
そんなやり取りを見せられ毒気が抜かれたのか、床に倒れ込んだまま殴られた頬を押さえていたハロルドが、ゆっくりと立ち上がってぼそりと言う。
「ごめん……俺…」
その様子にエリューシアも表情を引き締める。
「何度も言いましたが、死体が見つかっていないなら、生存の可能性は残されているという事です。
貴方が出来る事は御両親に話を聞く事くらいでしょう。
脅迫状は届いているのかいないのか、届いているならその目的は何なのか……だけど、既に御両親が動いているなら、決して邪魔せず大人しくしている事。
王子殿下だって動いてる可能性があるのですから、何かするにしても邸から出ず、話を聞くくらいにしておく事です」
「そう…だな……うん」
納得したのか、大人しくなったハロルドの背をサキュールが軽く押して促し、去って行くのを見送る。
それからエリューシア達も散らかった室内を簡単に片づけてから、帰路につくべくその場を後にしようとしたのだが、テーブルの上に置かれたままの鍵束に思わず全員固まったのは言うまでもない。
結局クリストファが預かってくれる事になり、無事帰る事が出来た。
翌日、教室に入れば、一番にシャニーヌから大声で謝罪された。
あの後、ポクルとバナンに滾々と説教され続けたらしいのだが、それが余程堪えたのか、涙ながらに頭を下げて謝ってきたのだ。
シャニーヌが今後どういった人生を歩みたいと考えているのか、彼女の家がどう考えているのか知る由もない。だが貴族として籍を置き続けるつもりなら、もう一度淑女教育を受け直した方が良いだろう。
少なくともこの国では必要とされている事で、納得できないからとお座なりにしたままでは済まされないのだ。
彼女の様子にポクルは苦笑していたが、バナンが何故か得意そうにしていて、エリューシアは首を捻ってしまった。
この件はこれで一旦終了にして良いだろうが、その後週末の休みの日になるまで、フラネアは勿論、バルクリスもハロルドも、チャコット、マミカも学院に姿を見せる事はなかった。
週末になるまでエリューシアも何もしなかった訳ではない。
警備隊に話を聞くと言っても、まだ少女と言って良い年齢と言うだけでなく、貴族令嬢であるオルガやメルリナ達には頼み難い。彼女達が皆かなりの腕を持っているとしても、そこはそれ、気持ちの問題だ。
なのでセヴァンに頼んで、アッシュとジョイの警備隊への顔繫ぎも済ませ、その時にも訊ねて貰ったのだが、コレと言った進展はなかった。
中途半端にハロルドから話を聞いたせいで、気掛かりで仕方ないが、こればかりはどうしようもない。
ヒロインの関与を探るにしても、今の状況では難しく、静観するしかないのも辛い所だ。
そんなこんなで行方不明事件も気掛かりだが、フラネアの事も心配だ。
手足の砕けた骨を回復促進しきれないままであった事が、どうにも頭に残って離れない。あの後適切な治療か回復促進魔法を受けて居れば良いが、そうでなければ色々と不都合が残ってしまうだろう。
彼女もクリストファ絡みで面倒且つ鬱陶しかっただけで、何度も言って申し訳ないが、別に顔も見たくない程憎いとか、そう言う感情はエリューシアにはない。
精霊防御やカウンターがある事で、自分に実害が及ぶ事はないと言う安心感も、そういった負の感情を抱き難くしている事は間違いないだろう。
だから本当に、心から心配しているのだが、フラネアの話も一切聞く事はないまま週末を迎える事になった。
―――そして……
週が明けても動きはなく、誰もが何らかの思いを抱えたまま、学院での日々を過ごすしかなかった。
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