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5章 不公平の傍らで
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しおりを挟む「怒るって……何故?」
早足になるとぎこちないと言う事は、足に何か問題を抱えているのかもしれないし、もしそうなら見学と言う流れになるのは自然だ。
正直怒り出す理由が良くわからない。
「それがモバロ嬢も不味ったって顔をしてて、周りも反応に困ってました。
でもまぁ一応形だけでも謝罪はしてたので、そのまま有耶無耶になっちゃいましたね。ただ酷く顔色が悪くて、そのまま保健室に取り巻きに連れて行かれて、後はわかんないですね、戻ってきてないんで」
「そう…」
(本人も不味い態度だったと思ってて、顔色が悪い、か……。
もしかすると事故か何かで後遺症が残ったとかなら、辛くないはずがないわよね…そう言った何かの事情を抱えてる方なのだとしたら……って、まだ何もわからないのに私ったら…。
と言うか、ダンスの件で怒り出すとか、某令嬢の記憶が刺激されてしまったわ。とは言え彼女なら、すんなりと謝罪すると言う姿が思い描けないけれど。
………彼女…フラネア嬢もどうしているのかしら…。
いつの間にか退学してて…それに治しきれなかった骨の損傷も…落ち着いたら少し調べてみても良いかもしれない)
何かやらかしたのかと身構えて聞いていたが、そう言う訳でもなかったようでホッとしていると、オルガが口を開いた。
「では私からも
空いたままの席2名分について調べてきました」
「あ~そう言えば初日から8名とかって言ってたっけ」
流石にこれまでにも話題になっているので、メルリナも上位棟4年の教室に空席があった事は知っている。
「そう、それで調べてたんですが、存外手間取りました…遅くなってしまい申し訳ございません」
「謝ったりしないで。私がつい気にしてしまったから…迷惑かけて申し訳なく思ってるわ、ごめんなさい」
「私もよ、私も呟いてしまったもの…オルガ、ごめんなさいね」
エリューシアとアイシア2人からの謝罪に、オルガが微かに…本当に微かに眉をハの字にしてしまう。
一見表情は変わっていないが、これは確実に困らせてしまっている。
それに助け舟のつもりか、メルリナが空気を読まずに訪ねてきた。
「それで? それで? 誰が来るのよ」
ワクワクとした表情を隠しもしないメルリナに、オルガは溜息を零し、エリューシアとアイシアはクスリと笑みを零した。
「南東にあるオザグスダム王国から来るようです」
オルガの言葉に、全員が黙り込んだ。
リッテルセン王国の南東にはソーテッソ山脈と言う、高く険しい山々が聳え立っている。
その向こう側に位置するのがオザグスダム王国だ。
行き来するにも峠越え等数々の難所があり、陸路での移動はなかなか厳しいのだが、リッテルセン王国の南にあるザムデン侯爵領の港を経由して、鉱石の輸入をはじめとした交易が行われている。
とは言え、行き来が難しい事は幸いでもあるのだ。
オザグスダム王国は国土が乾燥地帯にあるために、農業が難しく、食料の多くを輸入に頼っている。その為か、どうにも戦争に傾きたがる様子がある。
外交も少々強引な所があり、対応の難しい国でもあった。
ぶっちゃけて言えば、あまりお近づきになりたくない国と言う事だ。
ついでに言えば一夫多妻の国である。
当然の事ながら、女性の地位はリッテルセン王国より低い。
そんな国からの留学生と聞いて、つい眉を顰めてしまったのだ。
「しかも第5妃腹の王子殿下、王女殿下らしいです」
「「「……………」」」
正直オザグスダム王国の情報は、戦争志向のある国柄なせいか、あまり知られていない。だがそれでも耳に届く話はある。
鉱山を有している事。
乾燥地帯にあるせいで食料を輸入に頼っている事。
リッテルセン王国宰相であるザムデン侯爵の領地にある港が窓口である事。
一夫多妻で女性の地位が低い事。
王族の子は母親から一文字とって名付けられる事。
そして王子王女に問題児が多い事。
ざっと直ぐに記憶から取り出せるだけでも、第1妃第1子である王太子は女好きと評判で、既に妻が5人に子が11人と聞くし、第2妃第1子の王子はドSというか…甚振って楽しむ性癖があると噂されているし、第4妃第1子の王女は色欲王女と名高い。
オルガが掴んできた情報にある第5妃の王子王女の話は、直ぐには出てこないが、これで絶句するなと言う方が無理であろう。
「いつから来るの…?」
半ば放心状態で訊ねれば、流石にそこまで掴み切れなかったようで、オルガは視線を伏せて首を横に振る。
どんな問題児であろうと、王子王女の情報がほいほい漏洩するようでは困るのだが、心の準備と言うモノがある…出来れば知っておきたかったと、小さく息を吐いた。
ただでさえヒロインの事やモバロ嬢の事で忙しいのに、これ以上頭の痛くなる案件は増えないでほしいと、切実に願うエリューシアであった。
―――下品なくらいに豪奢で目に眩しい一室。
「如何ですかな?」
白髪をきっちりと纏め、年齢を感じさせない姿勢で佇む老人が、誰ぞの絵姿と共に何枚かの書類をテーブルに置いた。
それに渋々と言った表情を隠しもせず、ぶっきらぼうに返事をする男性…現王ホックスは、まだ夜でもないのに酒の入ったカップを乱暴にテーブルに置いた。
「如何も何も、私にはわからん! 大体ザムデンがラステリノーアの娘をと言っていたから、そのつもりだったんだッ!」
「それはそうなのですが、リムジール様経由で釘を刺されましたからなぁ…ですがお望みなのでしたら、小娘一人王城まで連れて来る事は可能ですよ」
ザムデンと呼ばれた老人……エリューシア達と昼食を共にしていたベルクの祖父に当たる、この国の宰相閣下フルク・ザムデンその人である。
老獪な笑みを口角に滲ませ、顎を引き気味に目を細めた。
「可能……なのか?」
ムッとしたまま聞いてくるホックスに、フルクは細めた目を更に細めた。
「勿論梃子摺りはしますでしょうな。
出来れば儂としても避けたい所ですが、王陛下がお望みでしたら、老骨に鞭打つのも吝かではございませんよ」
飄々と宣う老人に口をへの字に曲げていたホックスは、上目遣いにポツリと問いかける。
「ふむ………その、あそこには娘が2人いたな?
どっちか…ロ………ロザリエに似た娘はいるのか?」
下卑た笑みが堪え切れないホックスの表情に、フルクは嘲笑じみた笑みをひっそりと浮かべる。
「亡きロザリエ嬢ですか?
全く……貴方が追い詰めて殺したんでしょうが……そうですな、彼女に似たとなると、現当主に似た次女の方がまだ……」
「あッ、あれはッ!!
事故だ! そうだろう!!?? わ、私は殺してなんかいない!!!
そ、それ…それに! おま、お前がそう言ったんじゃないか!!」
「えぇ、そう処理するしかございませんでしたからな」
「ッ……どうしても欲しくなったんだから、仕方ないだろう……。
ミナは可愛いだけだし、シャーロットは怖い女だったしな…ロザリエは何処までも美しくて賢くて……本当に惜しい事をした…。
しかし…そうか、そうか……似た娘が居るなら、そっちの方が…」
「ですが、そちらは精霊の愛し子で、迂闊に手出しができません。
王子殿下も反撃をされておりましたでしょう?」
どこまでも嫌な笑みを崩さないフルクに気付いていないのか、ホックスは思い出したように眉間に皺を寄せた。
「ッ……そっちだったのか…くそ……儘ならんな…」
良い年をした大人なのに、ホックスはイライラと爪を噛む。
「ですので、こうして別の御縁をお持ちしたんですが……お気に召しませんかな?」
「ロザリエ似の娘なら私が欲しい所だが……ふむ、ザムデンならバルの嫁に相応しい女を選んでくれるだろう? お前に任せる」
「宜しいので?」
「構わん」
そう言った後で、直ぐにホックスはムッと口を歪めた。
「待て…そうだな……ミナにも聞いておく。
あいつが気に入る娘なら良いが……あいつの機嫌が悪いと煩くてかなわんのだ」
「お察しいたしますよ。
ではとりあえずですが、こちらを置いておきますので、聞いておいてください」
ホックスはテーブルに置かれた書類をちらと見てから、面倒くさそうに確認する。
「あ~…どこの女だったか?」
「やれやれ、書類に書いてあるのですがね。まぁ良いでしょう、オザグスダム王国の…一応、王女殿下ですよ」
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