【完結済】悪役令嬢の妹様

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5章 不公平の傍らで

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 想定外の事に固まっていると、扉をノックする音が耳に届く。
 その音で我に返ったエリューシアが慌てて返事をすれば、何時ものお仕着せの執事服ではなく、平民が着るような服に身を包んだアッシュが、扉を開けて入ってきた。

「お嬢様、ジョイからの連絡が届きましたのでお持ちしました」
「ぁ、ありがとう…今日は店を開ける日だったかしら? 在庫は……どうだったかしら…あぁ、この前補充したばかりだから大丈夫ね」
「はい。左様でございます。
 在庫も確認ありがとうございます」

 アッシュがエリューシアの視線を辿る様に自分を見下ろして、納得したように頷く。

「………? あぁ、あの衣装では目立ってしまいますから」

 アッシュの言葉に同意を返しながら、差し出された羊皮紙の手紙を受け取った。

「服装もそうだけど、ちゃんと特製眼鏡も使ってね」

 エリューシアの言う『特製眼鏡』とは、自分用の『特製瓶底眼鏡』と同じく変装用魔具で、ちゃんとジョイにも支給してある。

 場所的にも奥まった店舗で『知る人ぞ知る』な商売をしている為、品質の高い薬品類が品薄にならずに済んでいる面がある。
 工場で大量生産でもしているのなら兎も角、エリューシアが一人で生産しているので、販売出来る数に限りがあるのだから仕方ない。
 その為、店番が無駄にイケメンだったり美少年だったりするのは、困った事になりかねないので、おっさんに見えてしまう魔具眼鏡を使用するようにお願いしているのだ。

 店番に出かけるべく部屋を辞するアッシュを見送ってから、エリューシアは受け取った手紙を広げた。

 広げられた羊皮紙には、一見何も書かれていない。だが、それに魔力を流すと文字が浮かび上がってくる。
 万が一、手紙を紛失する等した時の為に、講じてある安全策の一つで、読む側、受け取る側の魔力を流し込んだ魔法インクで書いてあるのだ。
 魔法インクは乾けば透明になるので、他人の手に渡っても読まれる事はない。魔法インクに込めた魔力と、読む際に流す魔力が合致しないと文字は浮かび上がらない。
 ――つまり、今回の場合エリューシアの魔力を流し込んだ魔法インクでジョイが書いた手紙を、受け取った側、エリューシアがその手紙に魔力を流す事で、文字が浮かび上がり読めるようになると言う仕組みだ。


『これまでで分かった事を報告します。

 まずモバロ男爵と言う家ですが、発見しました。
 お嬢様がおっしゃっていらしたように領貴族で、メメッタス伯爵領の隣にあるナイワー伯爵領の代官を務めています。
 他にも存在する可能性を考えて調べましたが、これまで発見出来たのは、その1つだけです。

 父親と姉2人が健在です。
 母親は亡くなっており、フィータと言う娘は3女だそうです。

 10歳の頃に行儀見習いで奉公に出されていて、行先は王都方面と言うところまでは掴めました。

 また何かわかり次第連絡します。       ジョイ』


 メメッタス伯爵領というのは、エリューシアの記憶にしっかりとある。
 ラステリノーア公爵領の隣領を治める家で、水害発生時に危険を知らせる為、アポなし突撃を敢行してきた兄妹の家でもある。
 妹の方は同じ学院の通常棟4年に在籍するヤスミンで、メルリナと仲の良い友人だ。

 まだ実在する事と、本人は王都方面へ奉公に出たと言う事くらいしかわかっていないのに、つい色々と考えてしまう。

 もし彼女が誘拐事件に巻き込まれた事があれば
 もし彼女の周辺に不審人物が居たとしたなら
 もし………

 仮定で考えても仕方ないというのに、どうにも嫌な方向の考えばかり浮かんでしまって、エリューシアは切り替える為にも大きく深呼吸をした。

 返事を書くために、並んだお使い魔具達を少し横へ避難させる。
 抽斗を開いて、中からジョイの魔力が込められた魔法インクと羊皮紙を取り出した。
 書く内容を考え込んでいると、ついつい左手が真珠深の癖をなぞってしまうが、何時もの事なので、最早気にしたりする事はない。

(ん~何をどう書こうかしら…。
 まずは労いと御礼を書いて、で………ぁ
 そうだわ、そうよ…もし誘拐事件に巻き込まれた等の経験があるなら、それによって心的外傷を負った可能性があるわ。
 ―――解離性同一症…。
 そうよ、それなら複数人の魔力を感じる原因に……でも待って…複数の人格と言っても、後天的に作り出されたモノで、元は一人の人間と言う事に変わりはないわ。
 そうであるなら魔力だって一人分……ん~~~わからない…。
 でも、可能性がない訳じゃないわね。
 えっと…確か解離性同一症の原因って、はっきりとわかってなかったような記憶があるけど、心的外傷以外にも極度のストレス等でも発症するとかどうとか…一応誘拐だけでなく災害に遭った経験がないか、虐待された事はないか…その辺りも調べて貰えたら有難いわね。
 ただ幼い頃、5~6歳以前にって話らしいから……随分と過去に遡っての調査になりそう……これは間違いなく難航するわよね。
 ……ジョイ、ごめんなさい)

 申し訳なく思いながらも、思いついた事を書き連ねていく。

(それにしても、この短期間でよく『モバロ』と言う名だけで辿り着けたものよね…この国の領貴族なんて、数え切れない程存在するはずだもの……やっぱり裏の伝手を使ったのかしら……。
 ゲームでなら裏社会と繫がりが出来るのはカーティス…じゃなかった、アッシュの方だったはずなのに、いつの間にかジョイの方が裏社会の人間と繋がりを得てしまっているのだもの…吃驚よ。
 でも……今の所悪い影響はない様子だから静観するにしても、何かあったら直ぐに保護出来るようにはしておかないといけないわね)

 エリューシアはそっとペンを置いて、横に退避させていたお使い魔具を手に取った。
 あの気味の悪い魔力の事は気になるが、少なくとも採取してきたメルリナの魔力は紛れ込んでいない。勿論エリューシア自身の魔力も混ざり込んでいない事は確認済みだ。
 だから、今は理由他は考えずにそのまま登録する。
 全てのお使い魔具に登録を終えた後、1つだけ窓から放つ。
 放たれたソレは登録されたままの魔力を探し辿って、与えられた命令を実行してくれるはずだ。

 エリューシアは暫くの間、お使い魔具が進んで行った方を無言で見つめていたが、視線を落とし小さく息を吐いた後そっと窓を閉じた。














 ギギっと低い音がする。
 普段は穏やかな港の波も、今は強めの雨と風のせいで荒れ気味だ。
 白い波頭が船体が叩く度に、ゆっくりと不安定に揺れ、軋む音は止む事はない。

「まだなの? いったい何時になったら陸地に上がれるのよ」

 イライラを隠しもしない声が鋭く響く。

「ユミリナ、そのキンキン声をやめてくれないか?」
「まぁお兄様、まだ船酔いですの?」
「はぁ、クッキー、酔い止めと水を持ってきてくれないか?」
「…… もうございません」
「じゃあ港で買ってきて」
「…… 上陸許可が下りていません」

 イライラとキンキン声を張り上げているのは、オザグスダム王国第5妃ユフネーの第2子であるユミリナ王女。
 船酔いにヘロヘロになっているのが、ユミリナの双子の兄、オザグスダム第5妃ユフネーの第1子であるユトーリ王子だ。

 クッキーと呼ばれた女性はユミリナ付きの侍女だが、望んできた訳ではない。
 無理やり、命令で、仕方なく、嫌々同行する羽目になった哀れな侍女である。

 そして声を発していないので空気のようになっているが、この場にユミリナと年の近い少女が一人、部屋の隅っこに置かれた簡素な椅子に顔色を悪くして座っている。
 彼女の名はシシリー・ヌサロフ。
 オザグスダム王国の伯爵家の令嬢で、同行したいなんて欠片も望んでいなかった哀れな少女だ。






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