【完結済】悪役令嬢の妹様

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5章 不公平の傍らで

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 時刻は夕刻、場所は王都の自店。

 今日は作ったポーションの陳列作業があった為、一息つく頃には、すっかり空が朱に染まっていた。
 何時もなら作成の合間の気分転換に、そういった雑用を終わらせるのだが、ちょっと見つけた物があって、色々とし始めてしまった為に、空き時間が無くなってしまったのだ。

 これまでも時々王都の店巡りと称して散策していたのだが、偶々立ち寄った万屋で見つけた物があった。
 本当に…何処の何なのかもわからない民芸品のようなモノから、民間療法の怪しげな薬等まで、何の一貫性もなく手あたり次第集めたのかと眉を顰めるような店だった。
 そこに『遠い異国の常備薬』と、胡散臭い商品説明の書かれた植物を見つけたのだ。
 一見すると赤茶色のカブで、使用するのは葉の方だそうだ。
 それを乾燥させて擦りつぶした物を服用すると、腹痛等の痛み症状だけでなく、擦り傷切り傷、果ては発毛や白髪にも良く、兎に角何にでも効くのだというのだが、この時点で怪しさしかない。

 いや、この世界にはポーション等の魔法薬が存在しているし、万能薬的な薬草も実際に存在してはいるが、とんでもなく高価だ。
 だが、赤茶色のカブのようなそれは、3つでパン1つの半分程度の値段というリーズナブルさだった。
 もうその時点で、そんな万能薬な訳はないとわかる。

 しかし、それでもあえて、エリューシアは購入した。
 3つどころか、その店にあった全てのソレを買い占めたのだ。

 最初は記憶の端に引っかかっただけ。

(あれって……うん、葉はホウレンソウみたいで、根は…色は兎も角カブみたいな形状。
 ん~真珠深の記憶が確かなら、あれは甜菜とか言うのに似ている気が…
 待って…落ち着いて真珠深。
 落ち着くのよ、エリューシア。
 
 見た目が似てるからと言って、必ずしも前世の記憶に合致するかどうかなんてわからないんだから。
 これまでだってあったでしょう?
 見た目はタンポポみたいなのに、香りはラベンダーなんて言う植物が…。
 あれはあれで活用させて貰っているけれど。

 ふぅ……

 まずは鑑定っと…………………こ、これは…………買いだ)



 甜菜――サトウダイコンとも呼ばれる植物で、砂糖の原料になる植物だ。

 説明書きには『遠い異国の常備薬』と書かれているだけだし、店の人に聞いてもそうとしか言わないので、その植物の名前は不明のまま……なので名前は甜菜ではないかもしれない。

 そうして、いそいそと購入したソレを店の裏部屋に持ち込んだのだが……。
 ……鑑定した時点で糖分を含有している事は分かっていたのだから、そこまででやめておけば良かったのに、興味本位でちょっぴり口に入れたのがいけなかった。
 もう、表現が難しい…何と言うか、えぐみとか渋みが口の中に残る。
 水でうがいをしようと何をしようと、ずっと口の中にその味が残ってしまい、エリューシアの眉間は自然と寄った。
 葉の形からホウレンソウに似ていると気付いていたのに、やらかしてしまった訳だが、考えようによってはその『えぐみ』のおかげで、砂糖の原料になると考えた者が居なかったのかもしれない。
 そう考えれば、結果オーライ、万々歳である。

 この国でも砂糖は希少品で、とても高価だ。
 下手をすると神殿製ポーションも買えてしまうかもしれないと、考えてしまうくらいに高価だ。

 砂糖に限らず香辛料等の調味料の類は、それなりに値の張るモノが多い。
 輸入に頼らざるを得ないという事情も手伝って、高値がつけられているのだから仕方ないのだが…。

 だからと言う訳ではないが、エリューシアは王都の散策時だけでなく、ピクニックに行った時とかも、その辺に生えている雑草等を時折鑑定するようにしている。
 調味料の原料や代替品になる物を狙って探している訳ではないのだが、何か使えそうなものがあれば良いな、くらいの気持ちで続けていた。

 その甲斐あって、こうして有用な植物を、しかも安価に手に入れる事が出来たわけだ。
 ほくほくと栽培に回す分を分けていると、天井から蜘蛛が一匹降りてきた。

 普通ならギャアアと叫ぶ所なのだろうが、降りてきたソレはお使い魔具の蜘蛛――叫ぶ必要はない。
 蜘蛛型のお使い魔具に登録した魔力は2種類。
 一つはターゲットであるフィータ・モバロの、あの言いようのない魔力。
 もう一つは帰還点となるエリューシアの魔力。

 つまりお使い魔具の蜘蛛さんは、エリューシアとフィータの間を行ったり来たりしているのだ。

 机の上に音もなく降りてきた蜘蛛は、大人しくじっとしている。
 エリューシアは防音と遮音の魔具の動作を確認してから、お使い魔具が拾って来た音を再生した。


[………………………………………]

 一人で行動中なのだろうか、人の声は聞こえない。

[………………………………………]
[………………………………………]
[………………………………………]

 主に『人の声』を拾うように調整しているので、それ以外の環境音等はそんなに拾われていない。
 何か重い物でも落としたような音が1度拾われていたが、それ以降も静かなものだ。

(そう言えば取り巻き達も微笑みを浮かべて整列してるとか言ってたわね……
 なら、居たとしても話はしてないと言う事なのかも…それはそれで違和感が凄いけれど)

[******************************]

 何か違う音が入った。
 扉を開けて廊下を歩く音だろうか……お使い魔具さんはしっかり追尾してくれているようで安心した。

[******************************]

 続く音は……馬車にでも乗ったのだろうか?
 環境音は絞っているので、そこまで煩くはないが、そのまま拾わせていたらかなりな騒音になっていただろう。

[************………………………]

 どうやら馬車が止まって降りたようだ。

[……………お帰りなさいませ]

 低い、だけど何処か感情が置き去りにされたかのような抑揚のない男性の声。

[お母様は?]
[奥様は自室にいらっしゃいます]

 エリューシアは一瞬理解が追い付かず、固まったまま動けなくなった。

(お母様と言った…?

 ……どう言う事?
 確かジョイの報告では母親は死亡していたはず……どこかの養子にでもなった?
 でも、それもおかしい…。
 それなら姓が変わっているはず…学院で『モバロ』と名乗っている事の説明がつかない…。
 いったいどういう事なの…)

[…………**********************]
[******************************]
[………………………………………]

(歩く音……かしら、そして扉を開けて…ちょっと靴音が硬質になったわね。
 床が石製なのかしら…ぁ、止まった…ノックの音が拾われてて)

[お母様、戻りましたわ]
[…………ッ! ぁ、ぁ……お、お帰りな、さい…]

(ぅん? 娘か義娘かはわからないけれど、帰宅した子供に……怯えてる?
 母親が娘に怯えるって、どんな状況よ…)

[……はぁ、辛気臭い顔しないでよ、何が不満なの?]
[……………………不満、なんて……]
[これまで通り、ドレスも宝石も好きに買えるんだから、何も困らないでしょ?]
[…………………そ…………それ、それで……どう? 学院は…………]
[どうって…………学院に入るための試験の出来もあんまりで通常棟になっちゃったし……何より男爵家では近寄り難くて、もう最悪よ]
[………………………………………]
[せめて子爵家の出か、伯爵家の出の者にしてくれてたら助かったのに]
[………………………………………]




(……………何を……何を話して……意味が…わからない)




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