【完結済】悪役令嬢の妹様

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5章 不公平の傍らで

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[ほんと気が利か……………………]

 まだ言葉の途中だったが、音は徐々に遠ざかるように小さくなり、そして消えた。

[………………………………………]
[………………………………………]

 後には無音が続くばかりだ。

 どうやら時間になり、会話の途中で戻って来る事になったのだろう。
 魔石の持続時間と言う限界がある為の設定だからどうしようもないのだが、何もこんな所で途切れなくても良かったのにと、タイミングの悪さに思わず額を押さえてしまった。

 それにしても気になる箇所の多い会話だった…。

 『お母様』とは誰なのか……。
 もしフィータ・モバロ本人であるなら、その実母は既に鬼籍の人だと言う報告が、調査に当たってくれているジョイから齎されたばかりだ。

 『奥様』が『お母様』と言う事は……。
 そう、奥様が母親だと言うのなら、フィータ・モバロは『お嬢様』と言う事になるのではないだろうか? 
 この王都でフィータ・モバロを『お嬢様』と呼ぶような者がいるのだろうか…。
 自邸ならまだわかる。領貴族の男爵家であっても一応貴族の端くれ、そう呼ばれていたとしても何ら不思議ではない。
 しかし彼女の実家があるナイワー伯爵領は王都からそれなりに離れていて、馬車の移動でどうにかなる距離ではない。

 結論から言えば『フィータ・モバロ』の正体は、ますますわからなくなった。

 考えられるケースがない訳ではない。
 王都に住まう貴族家の養子になった場合だ。しかし、これについては先だって生じた疑問の通り、名を『モバロ』と名乗っているのは何故かという壁にぶち当たる。
 ジョイは最初…恐らくだが、領貴族に限定せず、広く貴族家から探したはずだ。
 『これまで発見出来たのは、その1つだけです』と態々書いてあったのだから、まず予想は外れていない。
 同姓の貴族家がもしあったとしても、あれば拾っているはず。特に王都に居住しているような貴族家なら、尚更ジョイが調査漏れを許す等考え難い。

 次に考えられるケースは………正直、これは外れて欲しい予測だが、誰かが『フィータ・モバロ』という少女に成りすましている可能性。
 この場合『養子縁組』より、筋が通ってしまう。

 元々『お嬢様』と言う立場にあった少女が『フィータ・モバロ』の名を使っているのだとするなら、王都に『お母様』が居てもおかしくないし、学院から馬車で移動できる距離に家があってもおかしくない。

 だが……元々『お嬢様』と呼ばれるような人物が、王都から離れた地方の、しかも低位貴族の娘に成りすます必要等あるのだろうか?
 例えあったとしても、理由も事情もさっぱり想像出来ない。
 平民貧民なら兎も角、王都内に家があって、尚且つ『お嬢様』と呼ばれるような人物なら、それなりに裕福なはずだ。
 態々下位貴族の娘に成りすまして、どんなメリットがあると言うのだろう?


 エリューシアはずるずると机に突っ伏す。

(現状、これ以上の情報はないのよね……。
 ん~何だか頭がパンクしそうだし、一旦保留にしておくのが良さそう……っと、いけない、次の蜘蛛を放っておかないと。
 この移動時間が空白になってしまうのも……あの会話を聞いてしまうと、出来るだけ空白時間は作りたくないと思ってしまうのだけど…。
 どうする?

 私の手元に戻ってから次を放つのではなく、あちらで交代して貰うと言う形態にしたらどうなるかしら…?
 ふむ、そうすると今の数だとちょっと足りない、かな…。
 ぁ~やっぱり難しいかも…数を作って放っても、結局魔石の動作時間と言う制限は無くならないもの。
 困ったわね……とりあえず先に次の蜘蛛を放つとしましょ)

「次は君だ…良い仕事をして来てくれ賜へ。
 蜘蛛次郎君、健闘を祈る。

 あぁ、蜘蛛太郎君は魔石の交換があるから、そこで大人しく待っているように」

 いつの間にか名付けしていた次のお使い魔具さんを放ち、素早く去って行く姿を見送った。













 窓から王城がはっきりと見える一室。
 それでリムジールは、届けられたばかりの手紙を前に、考え込んでいた。
 そこへ榛色の艶やかな髪を緩く結い上げた、琥珀の瞳を持つ女性がノックの後に入ってきた。

「旦那様」
「あぁ、シャーロットか。どうした?」

 リムジールは手紙からシャーロットに顔を向ける。

「そろそろシディルを、クリスの元に戻してやってくださいませんか?」

 シャーロットの言葉に、リムジールは途端に眉根を寄せた。

「それは……今は無理だ。
 病弱なチャズンをティーザーだけでは……」

 ティーザーと言うのは嫡男チャズンナートの乳兄弟で、今はチャズンナートの専属従者となっている少年の事だ。
 とても優し気な気質で、そこを見込まれて従者となったのだが、現在では災いでしかなくなっていた。主であるチャズンナートを諫める事も出来ないでいる。
 それだけでなく、少々……いや、かなり覚えも悪く、クリストファの専属従者であるシディルの手を借りて、やっと務められているという有様なのだ。
 今度はシャーロットが、あからさまに表情を曇らせる。

「何故シディルなのです?
 クリスの事は可愛くありませんか?」
「何故って……チャズンがシディルが良いと言うのだから仕方ないだろう?
 それに可愛くない訳ではない。だがなぁ…クリストファは次男でスペアだ。優先されるべきは嫡男なのだから、聞き分けるべきだろう?」
「そんな……あんまりですわ。そうやって旦那様が甘やかすから…」
「む…甘やかして等いないぞ? チャズンは嫡男だから、それに相応しい扱いをしているだけだ」

 王弟で、次男で、末子であるリムジールは、現王である兄ホックスのスペアとして生まれ、ずっと兄を支え、助けるよう、徹底した嫡男至上主義を教え込まれてきた。
 ホックスが、友人であるはずのアーネストの家にとんでもない事をしでかした時も、事実を突きつけて諫めはしたが、反省を求めるだけで終わってしまった。
 その上ホックスに代わって説明と謝罪まで、リムジールが行ったのだ。
 女性にも紳士的で、王太后モージェンとホックスの暴挙に苦しんでいたシャーロットも救ってくれた。
 シャーロットは本当に嬉しかった。
 シャーロットは自分も希望を持って良いのだと思えた。

 だから我慢もしたし、公務も担って必死に支えてきた。

 だが、その徹底した嫡男至上主義が、今となってはシャーロットを苦しめていた。
 チャズンナートの我儘で、長女のコフィリーを見殺しにした事も、次男のクリストファから従者シディルを取り上げ、辺境に一時的とはいえ追いやった事も、リムジールは『仕方ない事』と捉えている。
 だが、それはシャーロットにはどうしても受け入れ難かった。

 シャーロット自身も公爵家の娘として生まれ、男性至上主義、嫡男至上主義の中で育ってきたし、そう教育もされてきた。
 だからわからない訳ではない。
 しかし…だからと言って受け入れられるかどうか、納得出来るかどうかは別問題なのだ。

 シャーロットにとっては、クリストファも、今は亡きコフィリーも、愛しい我が子に違いない。

 シャーロットはグッと唇を噛むと、自分を落ち着かせるように瞼を落とし、小さく深呼吸をする。

 まだ爆発してはいけない。今はまだ耐えなければならない。
 我が子クリストファを食い潰すだけのこんな家から、彼とその従者らを逃がすのだ。






∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽

『賜へ』は誤入力ではなく、あえてそう入力しています。
紫は『おはよう』を『おはやう』とか言ったりするのが、結構好きだったりします。他にも『蝶々』を『てふてふ』とか…。
ちょっと変化球で『ただいま』を『ただ芋』とか『たで芋』とか(笑)

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