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5章 不公平の傍らで
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しおりを挟む「ま、待って……待って待って、ストーーーーップジョイ君!」
懐かしいフレーズにほっこりする間もなく、エリューシアはジョイの言葉を止める。
衝撃的且つ怒涛の展開に思い切り呆然自失となっていたが、ちょっと整理する時間が欲しい。情報量が多すぎだ。
(えっと……シモーヌって……まさかと思うけど、ヒロインのシモーヌよね?
ここまで来て単なる同名人物でした~なんて展開……まぁ、なくはないだろうけど…。
何にせよ別人の可能性もある以上、一旦『仮』として考えるべきかしら。まぁ『明るいオレンジ色の瞳』と言う言葉もあるし、全くの別人である可能性はとても低そうだから、気にして区別しなくても良いかしら。
シモーヌは娼婦と男爵の間に生まれた婚外子…この辺りはゲーム設定と齟齬はない。
で、名前がシモーヌ・ゲッスイナー……まぁこの名前じゃ作中には出せないのも頷ける…うん。
ヒロインの家名が、何だってよりにもよって『下衆い』…ぁ、もしかして『下水』の可能性もあるか…まぁ名前の事は置いておきましょう…突っ込み始めたらキリがないわ。だって『ナイワー』に『ハナヴァータッケ』『ウジワーク』多分他にも突っ込みどころ満載な家名はゴロゴロしてそう。そうそう『ベーンゼーン』ってベンゼンの捩りよね……って、現実逃避してどうするの…。
結局の所、ゲーム本編開始前にヒロインは死亡の可能性あり。
ならもうシアお姉様が害される事はない?
メイン攻略対象の王子も姿を見ないし、王子だけじゃなく他攻略対象もアッシュとロスマン以外は同様の状態だもの。
あぁ、ニックも見ないと言えば見ないと言えるわね。
そうなるとフィータ・モバロ嬢の存在は不気味ではあるけれど、単に彼女と周辺がおかしいというだけで、お姉様の害になる訳じゃない?
もしそうなら放置でも問題ないかしら。
ん~…盗聴での会話内容が不穏なのは確かなのだけど……学院では取り巻きは居るものの、本人も取り巻きも、特に目立った行動はとっていない。
相変わらずソキリス達に絡みに行っては居るようだけど、大抵不発に終わっているみたいで、彼らから彼女の名を聞く事もめっきり減っているのよね…。
後は…やっぱりズモンタ伯爵家の名が出てきた事は引っ掛かるわね。とは言え、流れとしてそこまで不自然な訳じゃない。
真面目に働いて実績を積んだ奉公人が、貴族家に紹介して貰うというのは珍しくはないもの。
うん、ここまでは大丈夫……続きを聞きましょう)
「ごめんなさい、途中で止めてしまって…情報量が多かったものだから」
「いえ、問題ありませんよ。何でしたら少し休憩しますか?」
ジョイが微笑みつつ訊ねてくるが、それにエリューシアは首を横に、ゆるゆると振った。
「大丈夫。ジョイが疲れたなら休憩で構わないけど、そうでないなら続きを聞かせて貰っても良い?」
「承知しました。
一応ゲッスイナー男爵についても調べてきました。既に亡くなっていると言う話でしたから、大した話は拾えないかもと思ったのですが、念の為に。
ゲッスイナー男爵はメメッタス領の下級役人と言う事でしたが、徴税の補佐をしていたようで、良い噂のない人物でした。
有体に言えば嫌われ者…ですね。破落戸を手下に使って脅す等は日常茶飯事だったようです。
5年程前から手下の破落戸の姿を見なくなり、気づけば男爵とその身内は居なくなっていたとの事です」
「5年程前ね…」
「はい、もう少しはっきり覚えている者は居ないかと探したのですが、嫌われ者が居なくなって清々したとか、その程度だったようで…」
エリューシアはそこまで聞いて、ふと考え込む。
5年程前、破落戸、と聞いて脳裏をよぎるのは5歳のお披露目会前の襲撃事件だが…。
「男爵も5年程前に居なくなったと言う事?」
「いえ、5年程前に手下に使っていた破落戸が居なくなって、徴税の補佐も上手くいかなくなったようです。
暫くはそれでも続けていたようですが、1、2年程の間に全く姿を見なくなったようでした」
何となく嫌な符合だ。
メメッタス領で見つかった干からびた死体に襲撃事件。
見かけたシモーヌと薄汚れた男性……この頃にはシモーヌは男爵に引き取られていたからメメッタス領……つまりラステリノーアの隣領には居た訳だ。そうでなければ彼女はナイワー領に居たはずで……一緒に居た薄汚れた男性は男爵本人だった?
本当に嫌な符合であるのは間違いないが、どれも想像の域を出ていない。所謂状況証拠ばかりで、決定打に至らないと言う感じだ。
そう言えば、あの襲撃事件の時に捕縛された破落戸はどうなったのだろう。
「ジョイ、少し調べて欲しい事が出来たのだけど、良いかしら」
「勿論です」
「私が4歳の時に襲撃を受けたって話はした事があったかしら……その時捕縛した破落戸達が誰だったのか、どうなったのか知りたいの」
「承知しました」
恭しく一礼するジョイに、慌てて付け加える。
「ぁ、ちゃんと旅の疲れが取れてからで良いから!」
「いえ、その程度なら大した手間でもないですから、直ぐに取り掛かりますよ」
そう言って身を翻そうとしたジョイが『ぁ』と小さく零して動きを止めた。
「これ、渡してほしいと預かった物なんですが、お嬢様にお預けしても良いですか?」
そう言えば、モバロ男爵からフィータへの預かり物があるとか言っていたのを思い出す。
「家族の姿絵だったかしら?」
「えぇ、母親が生存時のモノのようで、この真ん中の女性が母親だそうです。
その女性が抱きかかえている少女がフィータ嬢だと言ってました」
丁寧に包まれていた布を取り、絵を見つめる。
穏やかで幸せそうな5人一家勢揃いの姿絵だった。
長女か次女か、精一杯のおしゃれなのだろう、栗色の髪に結んだリボンがとても微笑ましい。
顔立ちは長女は父親似、次女は母親に似ている。幼いフィータはよくわからないが、一家全員が揃って青い目で、とても澄んだ色に描かれているのが印象的だ。
「揃って青い目なのね。ここまで澄んだ色に……ぇ…」
「お嬢様?」
学院に在籍しているフィータ・モバロの瞳は何色だった?
過日の一場面が、言葉が脳内で再現される。
《……ぁ、あ~~~そうですね。髪と瞳が特徴的でしたね。少し赤みがかった薄いオレンジ色の髪色で、こう…ふわっふわなんですよ》
そう言ってメルリナは手をひらひらさせていた。
《へぇ、確かにそんな髪色はこれまで居なかったから目立ちそうだね》
ギリアンが言った言葉に、メルリナは同意とばかりに大きく頷いていた。
《瞳も明るいオレンジ色で…》
そうしてメルリナが続けた言葉を、エリューシアは遮った……。
フィータ・モバロの瞳は幼い頃は青色だった。
絵なのだから画家次第ではあるが、多少ドレスの光沢を多くしたり等はあり得るが、色味そのものを変える事はしないのが普通だ。
想像の絵なら兎も角、モデルがいる以上、その姿をきちんと写し取れてこそ画家も胸を張れるのだから。
ならば……オレンジ色の瞳の彼女は……本当にフィータ・モバロ本人なのだろうか?
フィータ・モバロを名乗る彼女は一体誰だと言うのだろう……?
エリューシアは静かに言葉を追加した。
「ジョイ、ごめんなさい、ズモンタ伯爵家の調査もお願いできる?」
過去、オルガが調べると言ってくれていたが、結局フラネアとは早々に関わる事がなくなってしまい、調査は中止で良いと告げていたのを、エリューシアは後悔していた。
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