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5章 不公平の傍らで
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しおりを挟む今日も今日とて、帰還した蜘蛛兄弟が拾って来た声に耳を傾ける。
とは言え、問題のフィータ・モバロは独り言が多いタイプではないようで、日々これと言った収穫等あるはずもなく、捗る事はない。
お使い魔具である蜘蛛兄弟にGPSっぽい機能を取り付けられれば、過日の『お母様』とやらの所在も知る事が出来るのだろうが、そんな機能は開発出来ていない。
魔力探知も現場に居て警察犬のように辿るのなら兎も角、離れた場所から遠隔でとなると、今のエリューシアでは難しい。
それ故、現在は何の進展もないまま、ジョイからの報告待ち状態だ。
エリューシア本人が、凡そ調査諸々に向かない人材である以上、どうしようもない事態である。
そんな状態なものだから、盗聴内容の確認が終わればこれと言ってする事がなくなってしまう。
課題はあってもすぐ終わらせてしまうタイプの人だし、オルガもアッシュやジョイに触発されてか、自己鍛錬に余念がなく、『暇だから』等というくだらない理由で邪魔する事は憚られた。
当然メルリナもそれに付き合っていて忙しい。
お茶に誘おうにも、アイシアは現在ヘルガを伴って買い物に出かけている。勿論護衛はてんこ盛りに同行して貰っているが、ゲーム本編が始まる前にヒロイン死亡が確実となってしまい、少々気が抜けている事も事実だ。
これまでエリューシアは、最推しアイシアの事を第一に考えて行動してきた。
―――どうすれば最低最悪な事態にならずに済むか…。
これまでの全てが順調にいった訳でも、上手く嚙み合った訳でもない。
中には後から思い返して『馬鹿な事をしたものだ…』と自己嫌悪や羞恥に身悶えた事だって少なくない。
まだ不穏な影はちらつくし、決して油断出来ないと頭ではわかっているのだが、ラスボスともいうべきシモーヌが既にこの世に居ないと分かり、張り詰めていた糸が切れると言うか……何とも現実感がないと言うか…魂が半分抜けた状態と言うか……ふわふわとどうにも言い様のない…言うなれば、気の抜けた状態なのだ。
(そう…まだフィータ・モバロ嬢の正体もわからない……どうにも上位棟に近づこうとしている節があるのに、別人かもしれないなんて安心出来る訳がない。
訳はないんだけど……はぁ、何と言うか……何も手につかないし、考えも纏まらない。
暇潰しに付き合ってくれそうな人も居ないし…こういう時は頭空っぽにして掃除でもするのが一番よね)
普段から散らかさないように気を付けているのだが、どうしても調べ物等で、本類は机の端に平積みになりがちだ。
これらを片付けているうちに気持ちも落ち着くだろうと、片付ける本類をごっそり収納へ放り込む。
借り上げ邸はその名の通り『借りている邸』なので、自邸のように図書室や図書館、書庫等は特にない。
ただ学院生として既に3年以上ここで生活しているので、『本』と言う名の私物は特に増えてしまい、いつの間にかエリューシアとアイシアの部屋の前の空室が本に占拠されてしまっている。
そこへ入ったエリューシアは、大きなテーブルの上に収納に入れて運んできた本達を置いた。
私物の本もあるが、中には学院の図書室などから借りた本もあり、それらをまず分ける事にする。
ふと1冊の本を手にした所で、エリューシアの動きが止まった。
「これ……いけない、返さないと」
魔具製作上級者向けの本なのだが学院図書室にはおいておらず、エリューシアは取り寄せようとしたのだが、魔法大国チュベクからの取り寄せとなるらしく時間がかかると言われた。
苦り切っていた所に、温室の主である魔法及び魔具オタクのギリアンが貸してくれたのだ。
丁度3年最後の週に借りたので、そのままちょっとした休暇…所謂春休みとなってしまい、4年に上がった途端ギリアン達が早々に学院から姿を消してしまった事で、つい返しそびれていた物だ。
まだ取り寄せた本は届いていないが、希少な本である事は確かなので、いつまでも借りておく訳にもいかない。ギリアン本人は返却は何時でも良いと言っていたが、可能な限り急いで読破し返そうと思っていた。
「この短期間に色々あったもの……でも、どうしようかしら」
返すにもギリアンはあれきり姿を見ない。
彼の兄でラステリノーア公爵家騎士団に所属するロベールの話は聞かないから、平素と変わらぬ日々を送っていると考えられ、ギリアンに何かあった訳ではないと思われる。
クリストファやベルクについても同様で、気にはなるが心配しないようにしていた。
「……クリストファ…様……って、私は何を」
無意識の呟きに自分で狼狽えてしまう。
「いけない、そうじゃなくって…どうやって返そうかしら…」
兄であるロベールに託す……これは現実的ではない。というのもロベールは借り上げ邸居残り組ではなく、公爵領の方に居る。
勿論転移で渡しに行く事は可能だ。
可能だが渡した後は? 弟君から借りたのだと渡しても、遠い公爵領に居る身であれば困るだけだろう。
同級生に託す……これもやはり現実的ではない。彼はほぼ温室の住人と化していた。教室で姿を見るのは試験の日くらいで、それ以外は温室か魔具製作実習室くらいでしか見る事はない。
同じクラスでなくとも友人に託す……うん。その御友人が揃って姿を見せないのだから、これも現実的ではない。
寮の管理人に託す……確かクリストファと同じく寮住まいだと言っていた気がする。しかし記憶は曖昧で、そんなあやふやな記憶だけを頼りに男子寮に突撃する勇気はない。
ならばどうする…と考えた所で、ふと真っ白な世界に今も居るだろう一人の女性幽霊を思い出す。
辺境領に避難中に色々調べていたが、学院生となってからは他の事に忙しく、ついそのままになっていた。
(メフレリエの王都邸に行った所で、私にはアマリアに伝える術も何もないけれど……家の、家族の話が出そうになると悲しそうな苦しそうな…そんな表情を浮かべる彼女を、何となく実家に連れて帰ってあげたかったのよね…。
彼女が生きていた頃と変わらぬ何かがあれば良いけれど…って、そも250年程前の人みたいだから、暮らしていた場所も何もかも違うかもしれない。
彼女に何処に住んでいたとか、聞いておけば良かったわ……後悔先に立たず…ね。完全な見当違いなりそうな気がしなくもないかも。
あぁ…となると、どうせ行くならメフレリエ領の方が良いもかもしれない?……でも、そっちだと更に行く理由がないのよね…困ったわ。
けれどギリアンに面影が残っている気もしたから、やっぱり子孫に…ギリアンとロベール以外の子孫にも会わせてあげたい。
まぁ、私が行ったからと言ってアマリアにそれが伝わるかわからないし、里帰りにもならないかもしれない。盛大な自己満足である事は確かなんだけど……。
って、そもそもアマリアって普段は何処に居るのかしら…。私の中?
私の中なら私が赴く事に意味を見いだせるかもしれないけど、そうじゃないなら全くの無意味なのでは!?
……………
ぇぇい! 悩んでいても何も始まらないわ。
自己満足だって良いじゃない!
私がアマリアを連れて行ってあげたい! だから行く!
それで十分だわ。
そうとなれば…)
エリューシアはアッシュを呼んで、メフレリエの王都邸に先触れを出してくれるようお願いした。
まさかそこで………。
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