【完結済】悪役令嬢の妹様

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5章 不公平の傍らで

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 先触れに走ってくれたアッシュがメフレリエ家から持ち帰った返事は、2日後か5日後なら可能と言う内容だった。
 正直ギリアン本人とは兎も角、それ以外のメフレリエ家の方々とは全く面識がない。門前払いとまではいかずとも、返事そのものは待たされると思っていただけに、嬉しい誤算だった。
 アッシュには何度も申し訳ないが、そのまま2日後の午後に伺いますと言う返事を持って行って貰う。

 以前は馬に乗せられて白目をむいていたアッシュだが、今ではなかなか華麗に乗りこなしている。現在は馬に乗るのが好きになったのか、エリューシアとしては何度も行き来させて申し訳ないという気持ちなのだが、アッシュは喜色満面に出かけていくのだ。

 返事も持って行って貰ったし、早速2日後の準備を開始する。本はエリューシアが手慰みに編んだレースで包む。
 前世では手芸は好きだったので、今世でもかなり得意だ。
 この世界というか、リッテルセンには包装に拘るような文化はなく、贈答品であっても、箱に色紐をかける程度で終わりなのだ。
 美しく彩った紙や布で包み、それを結ぶリボンや水引の結び方も華やかに…というのは、どう考えても前世日本人である真珠深の感覚だ。
 まぁ『紙』そのものが安価ではないので仕方ないかもしれない。

 次は手土産だが、大抵は商会もしくは町で人気の店の物を購入して、そのまま渡すというのが一般的だ。
 相手に直接渡すと言う場面はほぼなく、使用人から使用人へ渡すと言うのが一般的なので、余計に外箱を飾ると言う文化は生まれにくいのかもしれない。

 しかし今回はあえて一般的ではない手土産を用意しようと、エリューシアは一人ほくそ笑む。
 とうとう出来たのだ。
 ―――『甜菜糖』が!!
 前世知識で製法をぼんやりとでも知っていたのは大きかった。
 えぐみの元となる不純物他を取り除くのに、もっと手間取るかと考えていたのだが、気にならない程度にまで思ったよりはすんなりといけた。

 人気店の菓子も考えたのだが、それよりこの甜菜糖をふんだんに使った、甘さの初体験をして頂こうと考える。

 ケーキでも良いが、一足飛びにケーキってどうよ…と考え、無難に焼き菓子に落ち着いた。しかしビスケット等では芸がないのでマドレーヌっぽい物でも作ろうと考える。
 材料はこの世界にも一通りある。残念ながらベーキングパウダーはないので、重曹で代用すれば何とかなるだろう。
 若干口当たりが変わってしまうだろうが、どうせ初体験の菓子となるので比較対象はなく問題ない。何より甘さに気を取られてくれるだろうと、いそいそと厨房へ向かう。

 これまでもアイシアの食事改善に何度も厨房へは足を運んでいるので、迎える料理人達の方も慣れたモノだ。
 今回は何を作るのだと興味津々に聞かれるが、まだ量が実験室レベルの少なさなので、現時点では明かせないし渡せない。
 まだ実験段階と誤魔化せばあっさりと引き下がって、何時ものように料理人達は厨房を明け渡してくれる。
 何時もの事なのだが、今回ばかりは本当にありがたい。『砂糖』だなんて、料理人達からすれば喉から手が出る程欲しい代物だろうから、おいそれと見せる事も出来ないのだ。
 何れラステリノーア公爵領の特産に出来ればと考えているので、その時までは是非とも誤魔化されたままで居てくれるよう願う。
 使用後の厨房は魔法で一気に綺麗にしまうので、匂いも残らないはずだから、きっと大丈夫。





 そして約束当日。
 今日は何故か起床時から精霊達に落ち着きがない。不思議に思っていると、何時も一番近くに飛び交っている大き目の桜色の光球が見当たらない事に気がついた。
 理由を知ろうにも、会話が成り立たないままなので、知る手段もなく首を傾げるしかないが、何となく周囲に舞う精霊達の数も、心做し普段より少ない気がする。
 声には出さないが、たったそれだけの事でも、普段と違うと言うのは少々落ち着かないが、約束の時間もある事だし、何時までも考えに耽っている訳にもいかない。

 レースとリボンで包んだ本と手土産を持って、馬車を出して貰う。
 本日の面子はエリューシアに従者としてアッシュ、馬車に居残る事にはなるがメイドのサネーラに護衛はメルリナとセヴァン、御者を務めてくれるのは居残り組馬丁のガンツだ。

 借り上げ邸を出て暫く道なりに進めば、精々小屋が時折見えるだけの原っぱと言った風景に木造の家々が見え始める。その前を通り貴族街の方へと更に進めば、建物が徐々に堅牢に、そして大きくなっていくのがわかる。

 エリューシアは実は馬車があまり得意ではない。
 それと言うのも振動が凄いのだ。
 この世界のソレにサスペンションだの何だのを期待する方が間違っている。

 前世でも車の運転はしていた。何なら一時期好んでMT車に乗るくらいには、運転は好きだった。
 自分一人の空間で、1人カラオケするのは大好きであった。

 しかしこっちではそうはいかない。
 流石公爵家の馬車と御者だから、辻馬車等とは比較にならないほど快適なはずなのだ。しかしクッションを重ねようが何をしようが、車体と車輪がガタガタと地面の状態をダイレクトに伝えてくる。
 もしかしたらスプリングくらいは組み込まれているのかもしれないが、馬車の構造など知らないし、現実問題として振動が酷い事は事実なのだ。
 正直移動と言えば馬車を好んで使うアイシア達には尊敬しかない。

 こうして不平を抱えるくらいなら、サスペンションとか開発しろよと言われるかもしれない。異世界転生モノならあるあるだ。
 しかし運転は出来ても、車を構成する部品や構造なんてものは、さっぱりだった。そんなもんわかるくらいなら車検も自分でやったわい!と叫びたくなる程度にはさっぱりだった。
 名前を知っているからと言って、それを理解しているとはならないのだ。はっきり言えば……。

 ―――さすぺんしょん? とるく? 何それ美味しい?

 と言うレベルだ。

 なので馬車改善という事業は、エリューシアの頭にはなく、少しばかり虚ろな目になりつつ現状を唯々諾々と受け入れている次第である。
 いつか誰かがきっと改善してくれる、多分……それを待つとしよう。

「お嬢様…大丈夫ですか?」

 心配そうに声をかけてくるアッシュに、眉尻が下がったまま苦笑いを気力で向けていると、馬車がその速度を緩め始めた。

 完全に止まり、振動他の音に邪魔される事なく、外の音が耳に届く。
 どうやらセヴァンが先行して、メフレリエ家の門番に到着を告げに行ってくれたようだ。
 程なくして戻ってきたセヴァンが、御者を務めてくれているガンツと言葉を交わした。ガンツが『動きますよ』と声をかけてくれて、それに頷けばアッシュが何か伝えてくれている。
 そうして再びゆるゆると動き出した馬車から外を眺めていると、立派な門を丁度抜けた所だった。

 流石にもうメフレリエ家の敷地内に入ったはずだから、座面と仲良ししている訳にもいかない。
 姿勢を正すと、すかさずサネーラがドレスを整え直してくれる。
 流石に本を返すだけとは言え、他家を訪問するのに軽装では不味い。普段は平民の方がマシと言うような恰好を、平気でするエリューシアでもそのくらいはわかる。

 ちなみにだが、ドレスには手を加えている。
 『しょっくあぶそ-ば』だの『すてありんぐしゃふと』だのはわからなくても困らないが、ドレスについてはわからないでは済まなかったのだ。
 何というか……この世界の女性にとっては問題ではない問題が山積みだった。
 勿論公爵令嬢なんて生物に生まれたのだから、今となっては慣れてしまっている。だが、慣れたのはドレスと言う前世日本人からすれば非日常の衣服を、事ある毎に着用すると言う事だけで、その重さ等には閉口してしまった。

 本気で重いのだ。

 ちょっとした小物でも作ろうと手芸品店に立ち寄った経験がある方ならわかるだろう。『ハギレコーナー』などに放り込まれている1m、2m程度の生地でも、モノによっては意外とずっしりしているのだ。
 布そのものも当然ながら化繊等はあるはずもなく、軽量化は考慮されていない。
 それを何m使用してドレスという代物が作られているかと考えれば、その重さは想像する事が出来るだろう。
 そこに宝石だのレースなどが更に付けられるのだ。
 今はまだエリューシアには縁がないが、正式な社交をするようになればクリノリン等とも無関係ではいられない。

 なので比較的軽い木綿等に、色々と開発した錬金薬等を塗布している。
 一例としては光沢を付与したり、水を弾く様な効果を付与したり等だ。
 それのおかげでかなり軽くなって助かっている。何れクリノリン等も、改善する気満々なのだが、如何せんその時間を取れないでいるエリューシアであった。




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