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5章 不公平の傍らで
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しおりを挟む「ど…どういう事?」
幽霊になっても魔法って使えるのだろうか?
いや、その前に完全修復が可能な魔法とは?
エリューシアの頭には『?』が乱舞するが、それに気付く事なくアマリアは言葉を続ける。
【ほら、私ってイヴサリア様のおかげで留まれてるじゃない?】
「ぁ、それは……そう、ね?」
どう言う原理で幽霊が境界世界で存在を保てているのか、わかりようもないので、頷くにしても酷く曖昧模糊とした表情になってしまう。
【つまり、イヴサリア様の御力があってこそなの! わかる?】
「ぁ~…イヴサリア様の力がアマリアの身に宿ってるとか?」
正直、理解できそうにない事象だが、当人がそう言うならそう言うモノなのだろう。
【そう! 流石エルルだわ!】
何が流石なのかさっぱりだが、どう反応するのが正解か不明で、ハハ…と力なく笑う他ない。
【その力を解放すれば、きっと元通りに出来る】
「……解…放?」
待て……解放と言う事は、アマリアの身に宿った力がなくなってしまう事にならないだろうか? もしそうだと言うなら、女神の力がなくなったアマリアはどうなってしまうのか……嫌な予想に血の気が引いた。
「アマリア……解放なんてしたら、貴方はどうなるの?」
思わず転げ落ちた言葉は、抑揚もなく酷く淡々としていた。
【さぁ? でも、どうなったっていいのよ。
だって、ほら…もう私死んじゃってるんだもの。何かあったって今更よ】
星守 真珠深として生きた前世を終え、この世界で意識が戻った時に最初に迎えてくれた声。
次に出会えたのは、初めて自分の顔を鏡で見た時だった。
寂しさと悲しさを纏う声との再会は、ほんの少しの時間許されただけで、直ぐに目覚めてしまったけれど、それのおかげで敵がいる事も知れた。
その次は5歳前の襲撃の後…。
初めての光魔法の発動で、魔力枯渇で生死の狭間に陥った時。
その時に初めて幽霊の名前を知った。
『アマリア』と名乗った幽霊は、女神イヴサリアの事、精霊の事、エリューシア自身の事、他にも色々と話してくれた。しかし、アマリアの家名を聞いた事で、すっかりそれらが吹っ飛んでしまった事も、ちゃんと覚えている。
ここまでの10年で、エリューシアとアマリアは、そんなに長く接した事はない。
意識を深く落としてしまった時のほんの数回だけ。
それでもアマリアは、エリューシアにとって大切な存在になっていた。
24時間フル監視体制ではないが、それでも見える事があると聞いて、一方的に身近に感じていたのだ。
そのアマリアに何かあるかもしれないなんて、おいそれと頷ける訳がない。
ふと廊下の方へ視線を動かせば、オルミッタも驚愕に固まっている。
250年近く、連綿と受け継がれてきた遺言……それが果たされた直ぐ後の急転直下では、それも仕方ないだろう。
視線を戻し、アマリアをひたと見つめてから、ゆるゆると首を横に振った。
「手帳を戻したいのなら職人さんにお願いすれば良いだけだわ。
アマリアに何かあるかもしれないのに……認められない…」
【エルル……】
「ねぇ、まだ一緒に居られるのでしょう? イヴサリア様からのお仕事もまだ終わってないのでしょう?」
アマリアに訪れるであろう何かに、ぼんやりとでも予測がついている以上頷いたりしない、出来ない。
「ずっと一緒に居てくれるのではないの?」
【………】
「嫌よ…行かないでよ……お願いだから」
気付かないうちに、エリューシアの頬には幾筋もの雫の後が光っていた。
「傍に居てよ……見えなくても…私の我儘でも……」
【エルル……ありがとね
引き留めてくれて、とっても嬉しい。
最初ね、絶対に恨まれるって思ってたのよ。ほら、エルルには重い事ばかり話したから……それなのに、そんな風に思ってくれてたなんて、本当に嬉しいわ】
「だったら!!」
【でもね……このままじゃ私……お兄様や他の皆にも……会えないまま】
寂し気に語尾が掠れた言葉に、エリューシアはハッと息を飲む。
【ここに来て、お兄様の話を……遺言に残してまで私を探してくれたお兄様を思い出して……私…会いたくなっちゃった】
おどけたように笑うアマリアの双眸も潤んでいた。
【エリューシア……私の我儘を許してくれない?
女神様からの御力を使って、解放して……私、人としてまた生まれて来たいわ】
そんな細やかな、だけど真摯な願いに、一体誰が否と言えるだろうか…。
「………」
【もしかしたら、あっち……彼岸と言うのだったかしら?
そこでお兄様やお母様、お父様……それにヒューにだって会えるかもしれない…だったら、私……行ってみたいわ、彼岸に。
許して……くれる?】
「アマリア……ズルい聞き方…ね。ダメって言えないじゃない……」
丁度帰邸したメフレリエ家の当主であるゲウート、そして嫡男スロークが使用人に話を聞いたのか、慌てて駆けつけたのを切っ掛けに、アマリアにとっては思い出深い旧館の、アマリアの部屋に上がって修復となった。
きっとあまり理解できていないだろう当主と嫡男には申し訳ないが、今は説明する暇はない。
そんな時間をとるより、1分でも、1秒でも、長くアマリアと言葉を交わして、その姿を記憶に残しておきたかった。
【まぁ! ふふ、なーんにも変わってないわ♪】
「ここがアマリアの部屋?」
【そう! ぁ、そうだ。そこの机の中に飾り箱が残ってたら…エルル、貰ってくれない?】
「ぇ?」
【エルルは公爵家の御令嬢だから、渡されても困ってしまうだろうけど、私の宝石箱なの。
お値段は追及しちゃダメよ?
ふふ、だけど思い出がたーーくさん詰まった宝石達なの】
「……そんな大切な物、私が譲り受けて良いの?」
【うん♪】
アマリアはオルミッタ達に向き直る。
【長く……お兄様の遺言だったとは言え、長くご迷惑をおかけしました。
皆様には迷惑な話だったと思いますが、こうしてお会い出来て…私はとても嬉しかったです。
本当にありがとうございました。
これより先は、遺言等忘れて、どうか幸せな時間をお過ごしください】
オルミッタが口元に手を添えて泣き崩れた。
「迷惑だなんて…思った事はございませんでした。
時間が経ってしまった事もあり、お探しする事が叶わなかった私達こそを、どうかお許しください」
当主と嫡男も、泣き崩れたオルミッタを支えながら、頷き、そして頭を下げた。
時間が止まったままのアマリアの部屋に置かれた小ぶりな机の上に、今にも朽ち果てそうな手帳をそっと置く。
その傍に降り立ったアマリアが、くるりと振り返って、エリューシアに満面の笑顔を見せた。
【エルル、今までありがとう
私の事、忘れないでくれたら嬉しいわ。
いつかまた会いましょう?
その時までに、今以上に幸せになってなきゃ、怒るからね?】
その言葉が終わると同時に、アマリアの姿は薄れ、止まったままの空気の中へ掻き消える。
思わず伸ばしたエリューシアの手が中空で止まらざるを得ない程、あっけない最期だった。
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