【完結済】悪役令嬢の妹様

文字の大きさ
140 / 157
5章 不公平の傍らで

40

しおりを挟む


 アーネストからの声掛に、クリストファとベルクが振り向く。
 見つめては来るが口を開かないアーネストに、クリストファ達が互いに顔を見合わせていると、微かな溜息が耳に届いた。

「ここは君達の生家もしくは領地からかなり遠い。
 帰るとして転移紋は使えるのか?」

 問いにベルクは思わずシャーロットに視線を向けるが、クリストファは身じろぎもせず、ただ沈黙したまま双眸を伏せている。
 シャーロットに顔を向けていたセシリアだったが、そんな様子にアーネストへ耳打ちをした。
 何やらアーネストの顔色と表情が微かに、だけど目まぐるしく変化をする様子に、誰もが固唾を飲んで見守っていると、セシリアがにっこりと微笑みながらアーネストの耳元から顔を離した。

「……ぁ~…ぅん…。
 グラ……あぁ、ベルモール令息とキャドミスタ令息は、済まないが隣室へ移動して貰えるか?」

 アーネストはそれだけ言うと立ち上がり、セシリアに頷きを1つ残して部屋から出て行った。
 王弟夫人であるシャーロットに挨拶もなしである。
 流石に自分がした事の非礼さに気付いたのか、シャーロットがその場で項垂れた。
 部屋に残っていたセシリアだが、執事のハスレーに指示を出し、先に少年2人を隣室へ連れて行って貰う。
 それを見送ったセシリアは、項垂れたまま動かないシャーロットに瞳を伏せた。

 沈黙が室内に溢れ、息苦しくなりそうに感じ始めた頃……。

「……なさ、い……私ったら…。
 ごめんなさい…。

 クリストファに……何もしてあげられなかったあの子に、どうしても強固な後ろ盾が欲しかったの……。
 そればっかりが頭にあって……許して頂戴…他にも……大事な話があったのに、怒らせてしまったわ…」
「シャーロット……」

 セシリアがシャーロットに寄り添った。

「貴方の難しい立場もわかっているわ。
 アーネストもちゃんとわかってる。
 だから門前払いにはしなかったでしょう?」
「私は……間違えてしまったのかしらね…いえ、怒らせたのだもの、間違えたのよ。
 クリストファを守らないとって…ベルクも警護にとついて来てくれて…」
「そう…。
 そうね……心が狭いと軽蔑されるかもしれないけど、それならそれで構わない。好きに蔑んで頂戴。
 けれど……
 子供に罪はない……私達にはそんな言葉、何一つ響かないの。

 理想ではあるけれど、彼等を見ればどうしたって憎い王族を…そして宰相を思い出してしまう。
 ロザリエも義兄も……義両親も……あいつ等に貶められ殺された事を、どうしても思い出してしまうのよ。
 特に義兄様はまだ意識も戻らず、中央に留め置かれたまま……。

 酷い言い方だろうけど、私達には子供でも罪があるの……それを払拭するにはどうしても時間が必要なのよ。
 だからこんな性急なやり方はして欲しくなかったわ」

 シャーロットがキュッと下唇を噛みしめる。

「……えぇ、そうね。
 本当にごめんなさい。だけど時間がないというのも本当なの…」
「一体何をそんなに焦っているの?
 それがどうして婚約の話になるのよ…」
「それなんだけど……」








 ――その頃隣室では…。

 閉じた扉がノックされる。
 返事をすれば、ハスレーが少年2人を案内して入室して来る。

「あぁ、そちらに掛けてくれ」

 アーネストは自分の対面側のソファを示した。
 促され、指示に従う少年2人の行動をアーネストは、ソファの背凭れに身体を預けた状態で観察する。
 片や公爵家令息、片や辺境伯令息。
 公爵家の方は次男だが、2人共マナーは問題ない。

 先程セシリアから耳打ちされた時に知ったが、公爵家の次男の方はかなり冷遇されてきたらしい。しかし、それを感じさせない美しい所作だ。
 勿論存在は知っていたし、過去にアイシアから聞いて潰してやろうかとも思ったが、エリューシア本人がきちんと線引きしていると聞いたので、そのまま日々の忙しさに紛れてしまっていた。

 しかし、まさか子息の了承も取らないままの婚約打診だとは思わなかった。
 あのシャーロットが何故と思うが、そちらはセシリアが上手く聞き出してくれるだろう。
 彼女が何の考えもなしに、こんな強引な手法を取るとも思えない。
 だから、アーネスト自身は当の少年2人に注力しようと考えた。

「それでベルモール令息にキャドミスタ令息だったね」

 背凭れから身体を離し、両足に肘をついて組んだ手に顎を載せて視線を向ければ、少年2人は居住まいを正した。

「ラステリノーア公爵閣下、クリスで構いません」
「私も、どうぞベルクとお呼びください」
「そう。じゃあクリス君、ベルク君、2人は婚約打診の事は知らなかった?」

 さっきの様子を見ていれば一目瞭然だが、今一度確認を取る。

「「はい」」

 シンクロする返事に笑いそうになるが、表情を引き締め直した。

「そうなんだね。
 じゃあ2人は何と聞いてこの地まで来たのかな?」

 先に話し出したのはクリストファの方だ。

「何処へ…というのは聞かされておりませんでした。
 ラステリノーア公爵領へは今まで足を運んだ事はなく、風景からも気付く事が出来ず……本当に申し訳ありませんでした」
「謝らなくとも良いよ。
 なるほどね…やはり夫人はかなり焦っていたのかな……まぁ良い。
 ベルク君は?」
「私は…グラス…ぁ、ベルモール公爵令息が避難をすると聞いたのですが、従者もなく少数だと知り、護衛にとついてきた次第です。
 メフレリエ侯爵令息の方は、あえて残って貰っております」
「そう」

 何物にも代えがたい愛娘アイシアとエリューシアに婚約なんて…と、一瞬で頭に血が上ってしまったが、年齢を考えればそんな話が出てもおかしくはないのだ。
 アイシアは現在12歳、エリューシアは10歳。誕生日がくればどちらも1つ年齢を加算する事になる。

 高位貴族では婚約者が居ないのも最近では珍しくもないが、少し昔なら居ない方がおかしな年齢ではあるのだ。
 しかもいつの間に調べたのか、先程のセシリアの耳打ちでは、2人共素行、人柄、成績、その他諸々含め優良物件だという。

 特にクリストファの方は、学院でもエリューシア、アイシア、どちらもを気遣ってくれているらしい。

 正直王家に繋がるグラストンとザムデンの血筋との繫がりなんて、死んでも認めるモノかと思っていたし、今もそれは変わらない。
 親の恨みを子に向けるなと言う叱責もあろうが、自分はそんなに人間が出来ていないのだと開き直るくらい、あっさりとやってのけよう。

 しかしセシリアの言葉、そしてこれまでの2人の様子から、アーネストは完全拒絶から少し路線変更する事にした。
 婚約云々は最終的には愛娘の意思が重要になるし、あっさり受け入れるつもりもない。
 しかしグラストンでもザムデンでもないと言い張るのなら、ひとまず身柄を預かるくらいはしてやっても良いか…と考えた。
 そして……

   そして…………

 精々こき使ってやろうではないか。
 彼等の愛娘への想いは知らないし、今は聞いてやるつもりもないが、自分から娘達を奪おうというのなら、まずはそれに相応しいかどうかを見せて貰わねば話にならない。

「では婚約云々の話は一旦忘れて欲しい。
 私は自分の目で見ないと納得出来ないしね。それに……私の掌中の珠とも言うべき愛娘達を、そんな簡単に手に入ると思ってもらっては困る。
 彼女達は至高の宝なんだよ。

 だからまずはただの『クリストファ』と、ただの『ベルク』として君達を預かろう。預かった後、君達には身分による忖度は一切なくなる。

 どうだい?
 それでも良いというのなら、足掻く時間くらいは進呈しよう。

 勿論、尻尾を巻いて逃げると言うなら、それでも構わないよ?」

 アーネストは口角を嫌味な程、ニッと釣り上げて笑った。






しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

乙女ゲームの悪役令嬢、ですか

碧井 汐桜香
ファンタジー
王子様って、本当に平民のヒロインに惚れるのだろうか?

水しか操れない無能と言われて虐げられてきた令嬢に転生していたようです。ところで皆さん。人体の殆どが水分から出来ているって知ってました?

ラララキヲ
ファンタジー
 わたくしは出来損ない。  誰もが5属性の魔力を持って生まれてくるこの世界で、水の魔力だけしか持っていなかった欠陥品。  それでも、そんなわたくしでも侯爵家の血と伯爵家の血を引いている『血だけは価値のある女』。  水の魔力しかないわたくしは皆から無能と呼ばれた。平民さえもわたくしの事を馬鹿にする。  そんなわたくしでも期待されている事がある。  それは『子を生むこと』。  血は良いのだから次はまともな者が生まれてくるだろう、と期待されている。わたくしにはそれしか価値がないから……  政略結婚で決められた婚約者。  そんな婚約者と親しくする御令嬢。二人が愛し合っているのならわたくしはむしろ邪魔だと思い、わたくしは父に相談した。  婚約者の為にもわたくしが身を引くべきではないかと……  しかし……──  そんなわたくしはある日突然……本当に突然、前世の記憶を思い出した。  前世の記憶、前世の知識……  わたくしの頭は霧が晴れたかのように世界が突然広がった……  水魔法しか使えない出来損ない……  でも水は使える……  水……水分……液体…………  あら? なんだかなんでもできる気がするわ……?  そしてわたくしは、前世の雑な知識でわたくしを虐げた人たちに仕返しを始める……──   【※女性蔑視な発言が多々出てきますので嫌な方は注意して下さい】 【※知識の無い者がフワッとした知識で書いてますので『これは違う!』が許せない人は読まない方が良いです】 【※ファンタジーに現実を引き合いに出してあれこれ考えてしまう人にも合わないと思います】 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾もあるよ! ◇なろうにも上げてます。

心が折れた日に神の声を聞く

木嶋うめ香
ファンタジー
ある日目を覚ましたアンカーは、自分が何度も何度も自分に生まれ変わり、父と義母と義妹に虐げられ冤罪で処刑された人生を送っていたと気が付く。 どうして何度も生まれ変わっているの、もう繰り返したくない、生まれ変わりたくなんてない。 何度生まれ変わりを繰り返しても、苦しい人生を送った末に処刑される。 絶望のあまり、アンカーは自ら命を断とうとした瞬間、神の声を聞く。 没ネタ供養、第二弾の短編です。

ダンジョンに捨てられた私 奇跡的に不老不死になれたので村を捨てます

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
私の名前はファム 前世は日本人、とても幸せな最期を迎えてこの世界に転生した 記憶を持っていた私はいいように使われて5歳を迎えた 村の代表だった私を拾ったおじさんはダンジョンが枯渇していることに気が付く ダンジョンには栄養、マナが必要。人もそのマナを持っていた そう、おじさんは私を栄養としてダンジョンに捨てた 私は捨てられたので村をすてる

悪役令嬢の慟哭

浜柔
ファンタジー
 前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。  だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。 ※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。 ※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。 「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。 「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。

悪役令嬢はモブ化した

F.conoe
ファンタジー
乙女ゲーム? なにそれ食べ物? な悪役令嬢、普通にシナリオ負けして退場しました。 しかし貴族令嬢としてダメの烙印をおされた卒業パーティーで、彼女は本当の自分を取り戻す! 領地改革にいそしむ充実した日々のその裏で、乙女ゲームは着々と進行していくのである。 「……なんなのこれは。意味がわからないわ」 乙女ゲームのシナリオはこわい。 *注*誰にも前世の記憶はありません。 ざまぁが地味だと思っていましたが、オーバーキルだという意見もあるので、優しい結末を期待してる人は読まない方が良さげ。 性格悪いけど自覚がなくて自分を優しいと思っている乙女ゲームヒロインの心理描写と因果応報がメインテーマ(番外編で登場)なので、叩かれようがざまぁ改変して救う気はない。 作者の趣味100%でダンジョンが出ました。

転生したので好きに生きよう!

ゆっけ
ファンタジー
前世では妹によって全てを奪われ続けていた少女。そんな少女はある日、事故にあい亡くなってしまう。 不思議な場所で目覚める少女は女神と出会う。その女神は全く人の話を聞かないで少女を地上へと送る。 奪われ続けた少女が異世界で周囲から愛される話。…にしようと思います。 ※見切り発車感が凄い。 ※マイペースに更新する予定なのでいつ次話が更新するか作者も不明。

処理中です...