【完結済】悪役令嬢の妹様

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5章 不公平の傍らで

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 やはりと言うか何と言うか……。
 過去竜心石を持ち込んだ冒険者達に絡んだ者等も、メメッタス領で行方が途切れている。
 そして何より『メメッタス領』にはシモーヌを引き取ったはずの、ゲッスイナー男爵が居た。

 ジョイから報告を貰った後、メルリナに頼んでヤスミンに話を聞いて貰っている。ヤスミンは、そのメメッタス領を治める伯爵の娘だ。
 彼女はメルリナの要請に応じて、両親や兄にも確認してくれたそうだ。

 過去の水害以降、一時的に治安の良くない場所が増え、徴税等が上手く進まなくなったらしい。しかしゲッスイナー男爵が担当していた場所は、治安が悪いにも拘らず大きな問題もなかったため、良くない噂は耳にした事があったが目を瞑っていたのだそうだ。
 そうこうするうちに、領内が落ち着きを取り戻し、処遇を考え始めた矢先に処分を申し渡すまでもなく姿を消したので、そのまま放置していたと言う話らしい。
 話を聞いたヤスミンは『お父様の怠慢だわ!』と憤慨していたらしいが、まさかラステリノーア公爵家を敵に回すような事をしていた等とは、夢にも思わなかっただろうから仕方ない。

「そう、それで泳がせた結果分かった事って?」
「それが……」

 眉間の皺を深くするジョイに、エリューシアは首を傾けた。

「伯爵領へ送り、引き渡したその日の夜には全員死亡してしまったそうです」
「!?」
「衛兵達の目の前で、突然苦しみだしたかと思ったら、そのまま……だったとのことで、原因を探る事も出来なかったと言っていました。
 伯爵領での聞き込みだけの話で、旦那様には確認をしていませんから詳細は不明ですが、一応公爵家の方にも報告は入れたはずだと、話を聞いた衛兵は言っていましたね」

 アーネストがエリューシア達に何も言わなかったのは、泳がせるつもりの手掛りを消されて、そこから先を調査出来なかったからだろう。

「ただ、全員が見た訳ではないそうですが、一部の衛兵は黒い靄が破落戸に纏わり付いていた、呪いだと怯えていたそうです」

 なるほど。
 破落戸達を害したモノは、恐らくだがシモーヌの持っていたとか言う何かだろう。エリューシアはそれが武器か何かだろうと思っているが、実の所あの時現場に居たサネーラとドリスも、『黒いモノ』しか見ていない。
 ただ『何かから黒いモノが伸びてきた』とか、そんな事しか言っていなかった。
 しかしここまで符合して、全く無関係だと思うのは難しい。
 サネーラとドリスに、通常の魔法では回復不可能な傷を負わせたモノと同じモノで破落戸達は消されたのだ。

「ですが……。
 この前の調査との符合を考えると……。
 お嬢様が知りたがるだろうなぁって思いまして…」

 そう言ってジョイは、ニヤリと花の顔に似合わない腹黒い笑みを浮かべる。

「数名、似顔絵を持って調べてきました。
 他は無理でしたが、体格のいい大男の事は覚えてる住民も居まして……。
 その大男、スラムで徴税に関わっていました」
「……ぅん、ありがとう」

 ジョイがカップを傾けて、一時の沈黙が落ちる。
 戻ったばかりで疲れているだろうから、急かしたりする訳にはいかない。
 エリューシアも随分と冷めてしまったハーブティーで、喉を潤した。

「このまま報告を続けますか?」

 ジョイからの問いかけに頷く。

「わかりました。
 他領へ行ったり来たりで、そちらに時間がかかってしまい、それ以外がまだ中途半端な状態なんですが……済みません。
 ズモンタ伯爵家の方ですが、こちらはオルガ様が調べた時とはかなり様変わりしているようです。
 まず使用人が殆どいません」
「……ぇ?」
「半年以上前になるらしいですが、邸が半焼し、その際使用人の大半が逃げ遅れてしまったと、近隣住民は言っていました」
「半焼……って、火災…?」
「はい。
 現在使用人として働いているのは、外に出てこない使用人はわかりませんが、確認出来た使用人は老いた男性一人だけです。
 声に張りも抑揚もなくボソボソとしか喋らず、ちょっとした事で怯えるが、あんまり感情の起伏のない男……」

 ジョイが再びニヤリとするが、その情報から恐らくエリューシアと同じ事を考えたのだろう。

「聞いた記憶、ありますよね?
 そう、先だっての死体の報告をした時、オババの所に来た男性と被りませんか?
 と言う事で、ナイワー領まで再度行ってきました。
 ズモンタ伯爵邸の現在の使用人の似顔絵をオババに見せた所、ゲッスイナー男爵の使用人であるコダッツに間違いないそうです」

 何処までどう繋がるのだ……。

「次にオルガ様が調べた時に『妹』と言うのが出て来たらしいですが、ズモンタ家に第2令嬢が存在したと言う正式な記録はありません。
 中央に届けられていないんですよ。
 第1令嬢が『妹が居る』と話した事があったらしいんですが、それも一時期だけの事で、その後は否定していたようです。
 ですので既に退職した使用人、もしくは近隣住民から話が聞けないかと探しました。
 結果行き当たったのは10年程前まで勤めていた庭師夫婦で、彼等から話を聞く事が出来ました。

 丁度夫人が妊娠している頃だったそうですが、当主には愛人がいたようで、身重の異国の娘が一人、ズモンタ邸に入って行ったのを見たそうです」
「異国…?」
「はい。
 酒場で踊り子として働いていた娘じゃないかとか何だとか……噂だけで実態はまだ不明です。
 ただ、入って行くのを見たという者は他にも居たそうですが、出て行った、もしくは邸に居たのを見た者は居なかったと…。
 もしかすると火事で亡くなった使用人の方々の中には居たかもしれませんが、今となっては確認出来ません。
 ただ当時夫人がかなりヒステリックに当主を責める声は、良く聞こえていたと話していました」

 いや、それは当主が悪いだろう…間違いなく。
 妊娠した夫人と同時期に愛人を妊娠させるとか……酷い話である。
 呆れてものも言えないとはこの事だ。

「当時、愛人は夫人に殺されたんじゃないか等と噂する者も居たようですが、邸の奥の方へ夜中にこそこそと向かう当主の姿を見た者は居るので、地下で幽閉されていると言う噂の方が優勢だったと言っていましたね。

 邸内も調べたかったのですが、要所要所に警備の為の魔具があり、忍び込むのは少し骨が折れそうです。今少しお待ちください」

 悔しげな表情を微かに滲ませたジョイが頭を下げるのを、エリューシアは首を振って止める。

「謝ったりしないで…。
 それに忍び込んだりまではしなくて良いわ」

 傍証だけでも推察する事は出来る。

「……いえ。
 愛人とその子供についてもですが、調査を続行しようと思っています」
「続行って…?」

 流石に10年以上前の話だし、今調べてそれだけなら、これ以上何か出てくるとも思えず、エリューシアはつい聞き返してしまった。

「かなり特徴的な容姿だったようなので、更に調査範囲を広げたら引っかかってくるかもしれないと。
 それに邸内を探れば何かしら出てくる可能性はあります」
「特徴的な…ね。まぁ異国の方だったと言うなら目立ちはしたでしょうけど…」

 しかし邸の地下に引きずり込まれたと言うなら、その後の足取りを追うのは難しいと思われる。
 それに貴族家の敷地内なんて治外法権も良い所の魔窟だ。
 そんな危険を冒してほしいなんて思っていない。

「はい。
 この国ではあまり見ない髪色だったようで、薄いオレンジ色の癖毛が印象的な娘だったそうです」
「!!??」

 エリューシアは驚愕で、ジョイを見つめたまま固まってしまう。

 赤寄りの薄いオレンジ色……フィータ・モバロの色。瞳の色は明るいオレンジ色…。
 だけど本当のフィータ・モバロは、姿絵を信じるなら薄茶色の髪色に澄んだ青の瞳。
 なのに薄いオレンジ色の髪色は、ズモンタ伯爵邸に消えた現当主の愛人の色?

 何が何だか、頭が混乱する。

「それとズモンタ伯爵家の第1令嬢ですか…その人物は見当たりませんでした。
 あ~腸煮えくり返りそうになるんで、名は口にしたくありません。悪しからず。
 エリューシアお嬢様に手を出す不届き令嬢ですから当然でしょうけど、修道院へ行くとか言う話があったそうです。
 その後邸の火災があったりで、ドタバタの内に見かけなくなったみたいですね」

 フラネアが行方不明?

「あと退職した庭師夫婦からの紹介で、老神官に話を聞けたんですが、面白い話を聞けました。
 その第1令嬢、5歳時の鑑定で珍しいモノが見つかったらしいです」
「珍しいと言うと?」
「あまり強い力ではなかったので、簡単な封じだけその場で行ったそうなんですが、従属の魔法と言うか……常時発動タイプだったようなので封じる魔紋を施したと言っていました」

 相変わらず情報量が多すぎる……。





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