「お前と居るとつまんねぇ」〜俺を追放したチームが世界最高のチームになった理由(わけ)〜

大好き丸

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16章 聖王国 後編

252、会敵

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 ガサガサと草木をかき分けながら進む七元徳イノセントのランドルフ。その後ろにクレイが一緒についていく。

「ふっ……この私が魔族の作戦に参加することになるとは思いもよりませんでしたね」
「同じ意見だよ。魔の物に抗うために鍛えてきたはずなんだけどな」
「それもまさか憎き皇魔貴族とは……これもまた神のご意志ということなのでしょうね……」
「あ、それ気になってた奴だ。その皇魔貴族ってのは何なんだよ?」

 ランドルフはチラリとクレイを見る。一瞬の沈黙の後、滔々とうとうと語り始めた。

「私が孤児院で育ったことはご存知でしょうが、それ以前のことはお話ししていませんでしたね。私は『忘れられた大陸』出身なのです。小さな町の領主の家に生まれた私は、このまま幸せに一生を終えるのだと漠然とした未来に思いを馳せていました。しかし、幸せとは儚きもの。魔族に攻められた私の町は一夜にして滅ぼされました。自らを皇魔貴族と名乗り、町を焼いたのです」
「そうなのか? やたら魔族を毛嫌いする理由はそこにあったんだな」
「ええ。私自身も死の淵まで追い詰められたので嫌でも記憶にこびり付きましたよ。その名をヴェイト=男爵バロン=ダンベルク。いずれ私の手で復讐を果たすと心に誓っています」

 クレイは話を聞く内にハッと気付くことがあった。

「だからローディウス卿の護衛に立候補したのか? 忘れられた大陸への足掛かりを得るために……」
「いえいえ、あれはたまたまです。猊下に選ばれたのは何かの縁かと勘ぐりましたが、気のせいでしたね」

 ランドルフは振り向きざまにニコリと笑ったが、その笑顔に影が落ちているように見えた。

「しかし今のタイミングで良かった。ティオさんと出会う前に今の状況になっていたらあの場で戦闘を始めていたでしょう」
「ティオが? あいつと何かあったのかよ?」
「彼女は誰にも分け隔てない善良な心の持ち主。良し悪しを決めるのは種族ではないと私に悟らせてくれました。……だからこそ私は悪を許せない。ここに住まうよこしまで悪辣な連中を討滅します」

 メキメキと音を立てて全身の筋肉が盛り上がる。背中に下げていた聖装『償いの聖斧エクスピアティオ』を両手に握りしめ、戦闘態勢に入った。クレイも遅ればせながら敵の接近に気付き、背中に下げていた聖盾『神与の聖守イージス』を装備し、盾に付属品のように付いている聖剣『十字星剣クロスクルセイド』を抜き払った。

「退がれランドルフっ!!」

 クレイはランドルフの脇をすり抜けるように前方に移動し、いきなり飛んできた巨大な何かを盾で防ぐ。

 ──ゴォンッ

 常人なら一発で血煙になってもおかしくない攻撃を全身で受け切った。

「あぁんだぁっ?! くっそ硬ぇなぁっ?!」

 立っていたのは目測だけで全長4mはある巨大な怪物。頭部には虫のような複眼が8つあり、左右に開く顎は噛み付いた獲物を逃さない。全身は硬い外殻に覆われ、ちょっとやそっとでは破壊不可能。8本の脚先には人間のような手がついていて、頭の側の2本の前脚にはハサミがついていた。計10本の脚から蟹と蜘蛛を魔合体させたような怪物。背中にはイソギンチャクが定着しているかのように黒い触手がうねうねと蠢いている。

「まぁいいやぁ、剥けば柔らかい肉があるだろうしよぉ。俺今猛烈に腹が減ってるんだよねぇ。さっきから何を食っても満たされねぇんだよなぁ。いっそ人間でも食っちまえば腹の虫も治るんじゃねぇかって思ったとこなんだよなぁ。つーことで記念すべき第一号はお前らに決定。俺に最初に食われるなんざお前らついてるぜぇ」

 ビチャビチャと涎が地面に落ちるのを見てランドルフの顔に青筋が浮き上がる。

「……醜悪な怪物め。この世界にやって来てしまった不幸を呪いなさい」



 ランドルフとクレイの戦いが始まるのと同時に他の七元徳イノセントの戦いも始まった。
 オーウェンが前衛に立ち、クラウディアが後衛、アドニスが遊撃の編成で眼前の敵と戦う。

「アアァアアァァァアアァアアァッ!!」

 ──ゴバァッ

 悲しげに泣き続ける亡霊の如き女性型の怪物。
 2mを超える体躯。ミイラのように皺々の体表に怨嗟を叫ぶ苦悶の顔がいくつも浮き出ている。漆黒のチリチリの毛髪が水中にいるかのように揺らめき立ち、皮膚が剥ぎ取られ、目玉がくり抜かれた筋肉組織丸出しの顔が血の涙を流しながら叫び続ける。首にかけられた首輪が絶えずチリンチリンと金属音を鳴らしていた。

「くっ……! 編成をミスりましたわね。やはりわたくしがランドルフと行くべきでしたかっ!?」

 クラウディアは聖装『輝きの天翼フリューゲル』を使用し、12本の剣を怪物へと差し向ける。

「いや、そんなことはない。確かにクレイの持つ聖盾はアンデッドを通しはしないが、アンデッドに奴だけが有利というわけではない」

 アドニスの発言にオーウェンも答えた。

「その通りっ!」

 オーウェンは体を開いて怪物の前に立つ。怪物が泣きわめくと身体から無数の幽体が飛び出して襲ってくる。
 幽体たちをまとわりつかせ、生命力を吸おうとする瞬間「ふんっ!」という掛け声と共に胸筋と腹筋を強調するダブルバイセップスを披露する。

 ──パァンッ

 まとわりついていた幽体はオーウェンが発する気合によって消滅させられた。

「私がすべての攻撃を受け切るっ!! 2人で奴を削り切れ!!」
「流石の肉体派ですわね。かしこまりましたっ!」
「言われずともっ!!」

 アドニスは聖鎗『肉を切り裂き骨穿つペニトゥレイト』を怪物に向けて突き出した。空気を切り裂く風切り音が質量を持って怪物に襲い掛かり、怪物の肩の部分を丸く削り取る。パァッと花開いたように血液のような黄土色の体液が吹き出した。

「うっ!? い、異世界の血は赤くないのですわね……」
「引いている場合ではなーいっ!! 攻撃の手を止めるなぁっ!!」
「言われずともそうさせていただきますわっ!!」

 3人の連携で怪物の体力を削っていく。

「ァアアァァァアアァアアァッ!!!」

 怪物の嘆きの声に呼応するかのように新手が現れる。

「ヨォ、ヨォ、苦戦シテルジャネェカヨォ……。オイラガ手ヲ貸シテヤルヨォ……」



「……どうやら始まったようだな」

 グルガンはあちらこちらで鳴る破裂音や金属音に耳を傾ける。同時に目の前に浮かぶ禿頭のおじいさんが地図とそれに設置された様々な形をした駒をジッと見つめる。

『北と南西がおっぱじめよった。西と北西方面も会敵。北東付近は敵の方が接触を恐れているように見える。……おや? 少し目を離した隙に順次開戦となったわい』

 その言葉に応じて、敵と思われる赤い駒と味方と思われる青い駒が配置された場所から少しずつ動いて接触する。地図の真ん中に立つ大きめの駒と東側に置かれた大きめの駒がチェスで言うキング、将棋で言う王将を表しているのは誰の目にも明らかだった。

「ご苦労天秤座リブラ乙女座ヴィルゴもありがとう。2人ともに感謝している」
『はぁ~い。ゴライアス様に喜んでいただけるなら何でも致しますわぁ』

 グルガンの隣にゆるふわ系お姉さんが立っている。ウェーブがかったピンク髪で右目が隠れた巨乳でセクシーな美女。古代中国の女性が着用していたような美しい漢服を身に付け、ピンクの長髪を三つ編みにし、右肩から前に出している。肩と胸元を露出した際どい服装をしながらも、美しさゆえに天女のように神々しい。
 彼女は乙女座を関する女性で、名をヴィルゴという。
 禿げ上がった頭に地面につきそうなほど長い髭と小人のような見た目をした仙人のようなおじいさんはご存知、天秤座のリブラ。
 彼らはグルガンの魔剣『翠緑の牙ゾディアック』の中に眠る守護者ガーディアンの2人。

『ほれヴィルゴや。ボーッとしとらんとそこの駒を動かしてくれい』
『えぇ~? はい』

 チョイっと指を動かすと配置された駒が動く。幻を操ることが出来るヴィルゴは地図の上に駒を出現させている。

「思ったよりも悪くないか。七元徳イノセントがどのレベルのものかと心配したが……」
「私たち以外はすべて不安が残りますよ。グルガンさん、あなたを含めてねぇ」

 フィアゼスはアリーシャにスススッと近寄る。アリーシャは避けるように地図に近づき、駒の配置を確認する。

「──ですが油断は出来ません。時間を掛けるわけにはいかないでしょうね。そろそろ動きますか?」
『はぁん? まだよ、まだまだ。敵にもう少し負荷を与えて焦らせるのよ』
「アリーシャさんの言う通り無駄な時間ですよ。私が出ていけば事足ります」

 アリーシャに迎合するフィアゼスにヴィルゴが否定する。最後の決定権がグルガンにあると言うように全員の目がグルガンに向いた。

「……このまま待つ」

 今動くのには消極的だった。
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