「お前と居るとつまんねぇ」〜俺を追放したチームが世界最高のチームになった理由(わけ)〜

大好き丸

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16章 聖王国 後編

254、良心の欠落

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 戦いに不慣れなベルギルツは幸運なことに先にデュランとアレンを視認し、脱兎のごとく逃げ出した。

(なんで私が戦わなければならないのですかっ!? 頭おかしいでしょっ!!)

 他の魔王たちと同じように戦うことを強要され、デュランたちのやってくるルートを任されたのは何を隠そうベルギルツ。
 部下たち対人間2人なら臆せず足を止め、部下たちの背後でふんぞり返りながら煽るくらいの気概を見せられたかもしれないが、この状況と戦力では分が悪すぎる。
 接敵すれば瞬殺されてしまうほどの実力差に恐れ慄き、即座に踵を返したのだ。

(時間を稼げとか何とか言ってましたが、そんなことせずともヴァイザー様が出れば何もかも解決出来るでしょうにっ! というか動くなら浮島ごと部下を全員連れてくればいいでしょっ!! 新参の私でも分かることが何で分からないんですかっ?!)

 頭の中でぶちぶち文句を言いながら音を極力出さないように走る。ほんの少しでも気配を察知されたら敵に気付かれ殺されてしまいかねない。
 自分よりも強い者や上層部と呼ばれる力ある者に取り入り、危なくなったらどさくさ紛れに隠れて生き延びるのはベルギルツ家の御家芸。命をかけて戦うなど馬鹿のやることで、生きていればいくらでも再興は可能。

(とにかく研究室まで戻ってヴァイザー様を巻き込めば態勢を立て直せるっ! これで奴らは終わり……?)

 研究室の方向から何かが来ていることに気付いて足が止まる。この気配は恐怖で支配していた人間たちのものだ。信じられないほど複数の気配を感じる。

(まさか……生き残っていた全員を改造し尽くしたとでも言うのですかっ? 幹部連中を改造するくらいしか時間はなかったはず……はっ! これが時間を稼げということだったのですねっ?!)

 だが配置されてから言うほど時間は経ってないし、ベルギルツは異世界の魔王たちと違って戦ってすらいない。
 やはりこの短期間に戦力を作りだすのは不可能である。

(いや、そうかっ! ヴァイザー様が本気を出したに違いない! 元より我々が戦っている最中にこの軍勢が到着する手はずだったんだ!)

 そう思えばヴァイザーが仲間思いの良い魔神に見えてくる。喜び勇んで軍勢の陰に隠れようとするベルギルツだったが、その姿を見ぬ内から違和感を持ち始める。

(なんでしょうか? なんだかこの判断はとてつもないほど間違いな気がしてなりませんね……)

 湧き上がる言い知れぬ不安感。
 ベルギルツはその勘に従い、特異能力『星がきれいオアシス』を発動する。

 風景と同一化したように認識させる隠ぺい能力で、気配や影、衣擦れの音も遮断することが出来る。
 ただこの能力はベルギルツ本体と身に着けている無機物しか作用せず、誰かに付与することも出来なければ、触れている間は一緒に隠ぺい出来るなどという便利なものではない。
 あくまで認識阻害の能力にすぎず、地面を踏み鳴らせば音は出るし攻撃を透過することも出来ないのだ。
 暗殺者アサシン系のジョブに特化した能力であることは間違いない。

 ベルギルツは戦いを完全に放棄し、安全圏から観戦に回ることを目標に動き始めた。



 ──ガサッ

 物音が聞こえた前方に注意を払い、デュランとアレンは剣を構えた。
 周りはとっくに戦いが始まっているというのに、敵と遭遇しなかった辺りここが一番手薄だったのだろうとつい先ほど結論付けた時にやって来た。

「ふっ……なるほど。我々が到着する以前に持ち場を離れたか、もしくは時間内に間に合っていなかったと見える。どちらにしろ碌でもない奴だ。味方に居なくて幸運だったな」
「大勢来ますよデュランさんっ!」
「分かっているっ! いつでも来いっ!!」

 掛け声と共に草木の陰から現れたのは大勢の人々。神選五党の部下と思われる。
 姿かたちは人間だが、体内から赤い光が漏れ、焦点の合っていない目で涎を垂らしながら腐乱死体のような様相で立っていた。

「相手は死霊使いネクロマンサー……か? わざわざ殺して無理やりアンデッド化するとは邪教と呼ばれる所以が分かるな……」

 デュランは邪悪さに吐き気を催すと同時に怒りが込み上げてくる。これをしでかした奴は生かしておいてはいけない。
 もし逃してしまったら今後も同じことが起こる。戦士だろうが農民だろうが殺した先からアンデッドに変えられてしまう可能性があるからだ。
 背後に鎮座しているであろう巨悪を見据え、剣を握る手に力が入る。すると正面の人間もどきの体がピクッと動き、口をパクパク動かし始めた。

「ジ……ジート……グノーシス」

 それを皮切りに他の人間もどきも唱え始める。
 大合唱になった『ジート・グノーシス』。
 この言葉はグノーシス正教の使う文言で、ジートには『万歳』の意味が込められており、祭儀を執り行う時に使用される言葉である。
 閉鎖的なコミュニティのマイナールールなど知る由もない2人には意味が分からな過ぎて気味が悪く感じられた。

「ジート・グノーシスゥゥッ!!」

 1人の男が他の誰より早く突進してきた。

「俺が出ますっ!」
「任せたっ!」

 アレンが飛び出し、デュランが支援に回る。赤い光が血液のように巡る人間もどきに接敵し、一切の容赦なく斬撃を放った。

 ──ザンッ……チュドッ

 軽く斬り捨てるアレンだったが、次の瞬間その体が爆ぜる。威力も相当なものでアレンは爆炎に包まれた。

「人間爆弾だとっ?! アレンっ!!」

 デュランの必死の呼びかけにアレンはバックステップで煙から出てくることにより答えた。少し煤けたように汚れていたが、ほぼ無傷のようだ。

「すいません。油断しました」
「……いや、無事ならそれで良い。怪我はないか?」
「ええ。魔剣のおかげで大丈夫です」

 アレンの持つ魔剣『竜乗ドラグライド』は火、風、雷に対して耐性が付き、竜鱗スケイルという効果で防御能力も向上する。ちょっとやそっとのダメージは通らない。

「しかし厄介ですね。ダメージを与えたら爆発するなんて……」
「ああ。見るからに10や20ではきかない数がここに居る。いや、下手したら他のところにも押し寄せている可能性があるな」
「つまり神選五党は……」
「うむ。グルガン殿がアジトに潜り込んで水晶に映し出した一部始終を鑑みれば、全員が非道な実験の餌食になったことは想像に難くない」

 デュランは魔剣を握り締めて憐れむ。
 反社会勢力として自由気ままに暴力を繰り返し、法を逸脱することに酔ってきた末路がこの様。自由意思を剥奪され、突っ込んで消えるだけのみじめな存在。

「……介錯してやるのが我らが出来る最大の供養になるだろう」

 その言葉にアレンも頷き、攻撃の意思を見せたところで「大きな間違いだ」と前方から声が聞こえた。

「何者でもなかった者たちはついに役割を手にした。彼らはようやく創造神グノーシスの一部となり、その力を発揮するのだ」

 草を踏みつぶし、木をなぎ倒しながら現れたのは3mはあろうかという巨人。
 全身に鎧のような白い外骨格を纏い、鋼鉄のような筋肉組織が剝き出しになった異様な見た目をしている。胸元にはめ込まれた水晶玉が赤く光を放ち、心臓部であることを示唆している。
 首までは白い外骨格に覆われているが、頭だけは変異することなく元のままであり、他よりも黒く見えるためか心臓部の水晶と合わせて悪目立ちしている。

「異世界の魔王か……? それにその胸の水晶の色……この者たちを人間爆弾に変えたのは貴様かっ?!」
「その通りだスキンヘッド。私はグノーシス正教の教祖、スモーキー=モラル。いや、もう教祖などではない。私こそがグノーシスであり、私こそが絶対者である。目の上のたん瘤であったゲムロンもかしずかせ、私が真の支配者としてこの世に君臨するのだ」

 ヴァイザーは魔法使いマジックキャスターであった彼の貧相な肉体を改造し、大幅な強化を施してある。単独で強力なドラゴンと戦っても遜色無いほどには強い。

 頭の改造だけは免れたスモーキーはヴァイザーによって潜在能力を引き出されたことで本当の姿、すなわちグノーシスへと姿を変えたのだと思うようにしていた。
 祀り上げていた神の姿は実は自分だったのだと驚嘆し、感動するように思考を誘導する。
 つまり現実逃避することで精神を保っていた。

「お前たちは私の力を確固たるものにするための試金石。無駄な足掻きをせずに私に傅くのだ」
「断る」
「……ならば死ね」

 スモーキーが手をかざすと人間爆弾がデュランとアレン目掛けて一斉に走り出す。

「ジート・グノーシスッ!!」

 森に囲まれたアジトの中心まで爆音が響き渡った。
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