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16章 聖王国 後編
266、神の血
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ヴァイザーとの戦いは佳境へと迫っていた。
浮遊要塞から解き放たれた異世界の強者たちは、バラバラに展開された敵に一斉に攻撃を仕掛ける。
しかしヴァイザーをジリジリと追い込むために周りを囲んでいたはずの敵は既に合流して、敵の猛襲に備えていた。
剣聖、七元徳、そしてグルガンの魔剣『翠緑の牙』の守護者たち。
ズラッと並んだ錚々たるメンバー。ここに後ライトとディロンが加わる予定だ。
溢れかえる異世界の魔王や魔王の実力に迫るために連れてこられた幹部連中たち全員との数の差は圧倒的にヴァイザー側に軍配が上がるが、量よりも質という言葉があるように戦力の差はほぼ互角。
一方が石に躓くような些細な失態を犯せば破綻する拮抗した戦いとなる。
そしてグルガンのチーム。
今まで温存していたフィアゼスとアリーシャの投入。
真打ち登場。
「ようやく私たちの出番ですか。待ちくたびれましたねぇ」
フィアゼスはカタールを装備した両手を交差させる。
その名を死剣『狂双壊』。
全体が黒く刃が長いカタール型の二刀一対の魔剣。刀身に血のように滲んで光るルーン文字が刻まれている。
ありとあらゆるデバフ効果が付いており、この剣で傷つけられるとその度にバッドステータスがランダムで重なっていく凶悪仕様。
「──これは……この数がもし背後に控えていると考えれば、確かに温存もしたくなりますね……」
アリーシャも剣を構える。
彼女の剣は神剣『聖櫃』。
古代文字ルーンが刻まれており、柄の下に『金緑石』の魔石が付いた白銀の聖剣。
持つ者に比類なき力の上昇とあらゆる魔法による耐性と防御を授けるが、それは副次的効果に過ぎないとされている。本当の能力はアリーシャとエイブラハムしか知らない。
──シュンッ
アリーシャが飛ぶのに合わせてフィアゼスも飛ぶ。彼らの目の前には10体の魔王が襲来する。
「──フッ!」
窄めた口から鋭い息を吐き、剣を振るう。魔王と言われる実力者は迫る切っ先を止めようと腕を出した。
──ズッ
剣が食い込むと同時に筋肉を収縮させて動かないように止めようとするが、その刃は筋肉を物ともせずに腕を切り落とした。
カウンターを狙っていた魔王は自慢の腕を軽く切り落とされたことに驚いて一瞬思考が停止する。
──シパパパパパッ
まるで素振りをするように軽く剣が振られ、そのたびに肉が切り離される。
1体目の瞳が濁る前に前に2体目が斬られ、3体目まで波及する。
「そんなバカなっ! あの細腕でどうしてっ!?」
「関係ありますか? それ?」
すぐ背後に回り込むように現れたフィアゼスに反応することが出来ず、いつ切断したのかも分からない速度で寸断された体はバラバラになって地上へと落ちていく。
命の危険を感じた魔王たちは距離を取ろうと必死に飛行する。
「下がるでないっ!! とっとと殺せっ!!」
ヴァイザーからの命令が飛んでくる。耳を塞いでも聞こえる念波は魔王たちのストレスの種だ。
下がることも防ぐことも出来ない攻撃をどう捌くか試される。
判断はすぐに下された。目には目を、歯には歯を。攻撃には攻撃を以って対抗する。
一方的にやられていた魔王たちもなり振り構わず攻撃を仕掛けることでようやく戦いになってきた。
聖王国の『剣神』と呼ばれたアリーシャとそれに匹敵するフィアゼスは、今ここに集う異世界の魔王たちの頭ひとつ以上上のランクにいる。
そのアリーシャたちを束ねるのは敵の眼前で仁王立ちするグルガン。凄まじい魔法攻撃を受け切り、ダメージも疲弊もない顔でヴァイザーを睨み付ける。
「聖王国の切り札か。素晴らしい実力だ。さて、そちらはどうかな? ヴァイザー」
「ぐぬぬっ! 偉そうにしおってっ!!」
ヴァイザーの魔法を看破する目の能力『目視録』に映るグルガンは光の膜に包まれ、全く隙が無いよううに見える。
(……恐らく時間制限のある無敵状態。それを可能にしているのは魔剣の力との相乗効果。今すぐどうこうは無理かのぅ?)
青筋を立て、ギリギリと奥歯を噛みしめながらも思考は冷静に相手の能力を見極めようとしていた。
恐ろしく多才だ。ヴァイザーの能力の幅に比べればグルガンなど凡庸なものだが、何か違和感がある。グルガンは能力を隠しているのではないかと、心に巣食う疑心という名の蛇が鎌首を上げる。
グルガンはヴァイザーの瞳の揺れ、呼吸の浅さ、手足の挙動などの機微を読み、魔剣をもう一本出現させる。
いきなり現れた魔剣にヴァイザーは槍を構えて背後に飛ぶ。かなりの警戒ぶりにいつものグルガンなら煽り散らすところだが、あえてそのまま下がらせる。
ヴァイザーは槍こそ持っているが、戦闘方法は魔法での遠距離攻撃。魔法使いに遠距離で挑まれればどれほど腕の立つ戦士であっても分が悪い。剣神などの雲の上の存在でもない限り、距離を取るべきではない。
まして相手は魔神。策略では上手であっても実力はヴァイザーの方が数段高い。最悪何も出来ないまま殺されてしまうだろう。
「乙女座。貴公の出番だ」
『はぁいゴライアス様ぁっ』
ヴィルゴは魔法で濃霧を発生させ、一瞬で一面真っ白にグルガンたちを隠してしまう。
「ぬぅっ!?」
ヴァイザーは焦って風の魔法を使用して濃霧を払う。凄まじい勢いの突風に濃霧は軽く吹き飛ばされ、中にいるグルガンたちを曝け出す。
そこにいたのは10数体のグルガン。分身でも使ったようにたくさんひしめき合っていた。
「この儂がこの程度の魔法を見破れぬ筈がなかろうっ!」
──キィンッ
目が虹色に輝く。
目視録を使用してグルガンの特定に急いだが、それで更にこんがらがる。
先ほどまで所持していた魔剣『翠緑の牙』をヴィルゴと呼ばれた女性が持っていて、そこから全ての分身体に魔力が紐付いている。
先ほどグルガンがバリアを使用している時に魔剣と魔力が紐付いているのを確認しているので、この中のどれかが本物であることは間違いなさそうだがヴァイザーの目では判別が出来ない。
「な、何ぃっ?!」
焦るヴァイザーに10数体のグルガンは一斉に動き出す。予備動作がなく、発動が判りにくいはずの目視録を看破されているような動きに恐怖を感じたが、ヴァイザーは心に喝を入れて自分を律する。
「ふんっ! 儂の魔力の枯渇を狙っておるのかっ? 浅いわぁっ!!」
──ビシュウッ
ヴァイザーが背負う光の輪『万能環』からレーザーのような攻撃を仕掛ける。
グルガンの分身体は8体それを回避し、残りはなぎ払われた。貫かれたグルガンたちは臓物を撒き散らしながら地面に投げ出される。
「んぉっ?!」
吹き飛ばされれば何事もなかったように消えて無くなるだろう分身体が、まるで肉体があるかのようにその体を弾けさせる。
しかし残った8体の分身たちは尚を変わらずヴァイザーに接敵しようと走ってくる。
(なんじゃこれはっ?! 全員が本物のようで全員が本物でないっ?!)
ヴァイザーはグルガンの分身への攻撃を諦めてヴィルゴに攻撃を仕掛ける。
──バジュンッ
分身体を攻撃したレーザーを放ち、ヴィルゴは避けることも出来ずに胴から真っ二つにされてしまう。人形のように地面に突っ伏すヴィルゴだったが、分身体は消えることなく走っていた。
「か、関係がないのかっ?!」
ヴァイザーに一番近付いた分身体の1人は腕から刃を出し、少し離れた場所にいる1人は手から魔法の矢を放つ。
「舐めるなぁっ!!」
──ボワァッ
ヴァイザーを中心に円形の衝撃波が巻き起こり、分身体は攻撃を届かせることが出来ずに吹き飛んだ。
危険な状態から脱却したヴァイザーは周りを見ながら荒く呼吸をしている。
「……それで? 本物は見分けられたか?」
いつそこに立っていたのか。グルガンはヴァイザーの目と鼻の先で魔剣を所持して立っていた。ヴァイザーは必死に槍をかざす。
──ギィンッ
槍でギリギリ魔剣を防いだが、ヴァイザーの腕を切っ先がかすめていたらしく、小さな傷跡からツツーッと血が流れ落ちた。
「神も血を流すのだな」
ヴァイザーの目の奥にメラメラと燃える闘志の火が宿った。
浮遊要塞から解き放たれた異世界の強者たちは、バラバラに展開された敵に一斉に攻撃を仕掛ける。
しかしヴァイザーをジリジリと追い込むために周りを囲んでいたはずの敵は既に合流して、敵の猛襲に備えていた。
剣聖、七元徳、そしてグルガンの魔剣『翠緑の牙』の守護者たち。
ズラッと並んだ錚々たるメンバー。ここに後ライトとディロンが加わる予定だ。
溢れかえる異世界の魔王や魔王の実力に迫るために連れてこられた幹部連中たち全員との数の差は圧倒的にヴァイザー側に軍配が上がるが、量よりも質という言葉があるように戦力の差はほぼ互角。
一方が石に躓くような些細な失態を犯せば破綻する拮抗した戦いとなる。
そしてグルガンのチーム。
今まで温存していたフィアゼスとアリーシャの投入。
真打ち登場。
「ようやく私たちの出番ですか。待ちくたびれましたねぇ」
フィアゼスはカタールを装備した両手を交差させる。
その名を死剣『狂双壊』。
全体が黒く刃が長いカタール型の二刀一対の魔剣。刀身に血のように滲んで光るルーン文字が刻まれている。
ありとあらゆるデバフ効果が付いており、この剣で傷つけられるとその度にバッドステータスがランダムで重なっていく凶悪仕様。
「──これは……この数がもし背後に控えていると考えれば、確かに温存もしたくなりますね……」
アリーシャも剣を構える。
彼女の剣は神剣『聖櫃』。
古代文字ルーンが刻まれており、柄の下に『金緑石』の魔石が付いた白銀の聖剣。
持つ者に比類なき力の上昇とあらゆる魔法による耐性と防御を授けるが、それは副次的効果に過ぎないとされている。本当の能力はアリーシャとエイブラハムしか知らない。
──シュンッ
アリーシャが飛ぶのに合わせてフィアゼスも飛ぶ。彼らの目の前には10体の魔王が襲来する。
「──フッ!」
窄めた口から鋭い息を吐き、剣を振るう。魔王と言われる実力者は迫る切っ先を止めようと腕を出した。
──ズッ
剣が食い込むと同時に筋肉を収縮させて動かないように止めようとするが、その刃は筋肉を物ともせずに腕を切り落とした。
カウンターを狙っていた魔王は自慢の腕を軽く切り落とされたことに驚いて一瞬思考が停止する。
──シパパパパパッ
まるで素振りをするように軽く剣が振られ、そのたびに肉が切り離される。
1体目の瞳が濁る前に前に2体目が斬られ、3体目まで波及する。
「そんなバカなっ! あの細腕でどうしてっ!?」
「関係ありますか? それ?」
すぐ背後に回り込むように現れたフィアゼスに反応することが出来ず、いつ切断したのかも分からない速度で寸断された体はバラバラになって地上へと落ちていく。
命の危険を感じた魔王たちは距離を取ろうと必死に飛行する。
「下がるでないっ!! とっとと殺せっ!!」
ヴァイザーからの命令が飛んでくる。耳を塞いでも聞こえる念波は魔王たちのストレスの種だ。
下がることも防ぐことも出来ない攻撃をどう捌くか試される。
判断はすぐに下された。目には目を、歯には歯を。攻撃には攻撃を以って対抗する。
一方的にやられていた魔王たちもなり振り構わず攻撃を仕掛けることでようやく戦いになってきた。
聖王国の『剣神』と呼ばれたアリーシャとそれに匹敵するフィアゼスは、今ここに集う異世界の魔王たちの頭ひとつ以上上のランクにいる。
そのアリーシャたちを束ねるのは敵の眼前で仁王立ちするグルガン。凄まじい魔法攻撃を受け切り、ダメージも疲弊もない顔でヴァイザーを睨み付ける。
「聖王国の切り札か。素晴らしい実力だ。さて、そちらはどうかな? ヴァイザー」
「ぐぬぬっ! 偉そうにしおってっ!!」
ヴァイザーの魔法を看破する目の能力『目視録』に映るグルガンは光の膜に包まれ、全く隙が無いよううに見える。
(……恐らく時間制限のある無敵状態。それを可能にしているのは魔剣の力との相乗効果。今すぐどうこうは無理かのぅ?)
青筋を立て、ギリギリと奥歯を噛みしめながらも思考は冷静に相手の能力を見極めようとしていた。
恐ろしく多才だ。ヴァイザーの能力の幅に比べればグルガンなど凡庸なものだが、何か違和感がある。グルガンは能力を隠しているのではないかと、心に巣食う疑心という名の蛇が鎌首を上げる。
グルガンはヴァイザーの瞳の揺れ、呼吸の浅さ、手足の挙動などの機微を読み、魔剣をもう一本出現させる。
いきなり現れた魔剣にヴァイザーは槍を構えて背後に飛ぶ。かなりの警戒ぶりにいつものグルガンなら煽り散らすところだが、あえてそのまま下がらせる。
ヴァイザーは槍こそ持っているが、戦闘方法は魔法での遠距離攻撃。魔法使いに遠距離で挑まれればどれほど腕の立つ戦士であっても分が悪い。剣神などの雲の上の存在でもない限り、距離を取るべきではない。
まして相手は魔神。策略では上手であっても実力はヴァイザーの方が数段高い。最悪何も出来ないまま殺されてしまうだろう。
「乙女座。貴公の出番だ」
『はぁいゴライアス様ぁっ』
ヴィルゴは魔法で濃霧を発生させ、一瞬で一面真っ白にグルガンたちを隠してしまう。
「ぬぅっ!?」
ヴァイザーは焦って風の魔法を使用して濃霧を払う。凄まじい勢いの突風に濃霧は軽く吹き飛ばされ、中にいるグルガンたちを曝け出す。
そこにいたのは10数体のグルガン。分身でも使ったようにたくさんひしめき合っていた。
「この儂がこの程度の魔法を見破れぬ筈がなかろうっ!」
──キィンッ
目が虹色に輝く。
目視録を使用してグルガンの特定に急いだが、それで更にこんがらがる。
先ほどまで所持していた魔剣『翠緑の牙』をヴィルゴと呼ばれた女性が持っていて、そこから全ての分身体に魔力が紐付いている。
先ほどグルガンがバリアを使用している時に魔剣と魔力が紐付いているのを確認しているので、この中のどれかが本物であることは間違いなさそうだがヴァイザーの目では判別が出来ない。
「な、何ぃっ?!」
焦るヴァイザーに10数体のグルガンは一斉に動き出す。予備動作がなく、発動が判りにくいはずの目視録を看破されているような動きに恐怖を感じたが、ヴァイザーは心に喝を入れて自分を律する。
「ふんっ! 儂の魔力の枯渇を狙っておるのかっ? 浅いわぁっ!!」
──ビシュウッ
ヴァイザーが背負う光の輪『万能環』からレーザーのような攻撃を仕掛ける。
グルガンの分身体は8体それを回避し、残りはなぎ払われた。貫かれたグルガンたちは臓物を撒き散らしながら地面に投げ出される。
「んぉっ?!」
吹き飛ばされれば何事もなかったように消えて無くなるだろう分身体が、まるで肉体があるかのようにその体を弾けさせる。
しかし残った8体の分身たちは尚を変わらずヴァイザーに接敵しようと走ってくる。
(なんじゃこれはっ?! 全員が本物のようで全員が本物でないっ?!)
ヴァイザーはグルガンの分身への攻撃を諦めてヴィルゴに攻撃を仕掛ける。
──バジュンッ
分身体を攻撃したレーザーを放ち、ヴィルゴは避けることも出来ずに胴から真っ二つにされてしまう。人形のように地面に突っ伏すヴィルゴだったが、分身体は消えることなく走っていた。
「か、関係がないのかっ?!」
ヴァイザーに一番近付いた分身体の1人は腕から刃を出し、少し離れた場所にいる1人は手から魔法の矢を放つ。
「舐めるなぁっ!!」
──ボワァッ
ヴァイザーを中心に円形の衝撃波が巻き起こり、分身体は攻撃を届かせることが出来ずに吹き飛んだ。
危険な状態から脱却したヴァイザーは周りを見ながら荒く呼吸をしている。
「……それで? 本物は見分けられたか?」
いつそこに立っていたのか。グルガンはヴァイザーの目と鼻の先で魔剣を所持して立っていた。ヴァイザーは必死に槍をかざす。
──ギィンッ
槍でギリギリ魔剣を防いだが、ヴァイザーの腕を切っ先がかすめていたらしく、小さな傷跡からツツーッと血が流れ落ちた。
「神も血を流すのだな」
ヴァイザーの目の奥にメラメラと燃える闘志の火が宿った。
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