「お前と居るとつまんねぇ」〜俺を追放したチームが世界最高のチームになった理由(わけ)〜

大好き丸

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16章 聖王国 後編

268、探り合い

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 アリーシャは逃げる魔王の背中を追っていた。
 ヴァイザーがグルガンに集中し始めた時、主人の目を盗んで逃走を図ったのだ。

「まったく見苦しいことですねぇ。ねぇ、アリーシャさん」

 背後で戦っていたはずのフィアゼスがいつの間にか並走している。

「──もう片付いたのですね」
「ええ、恙無つつがなく。あとは4体ですか。2体ずつ倒せば丁度半分ですねぇ」

 フィアゼスは嬉しそうにくつくつと笑っている。何がそんなにも面白いのか分からなかったが、アリーシャはフィアゼスの笑っている様を無視することにした。

「──そうですね。お願い出来ますか?」
「もちろんですよアリーシャさん。私に任せておけば万事解決致しましょう」

 10体中互いに5体倒せば均等に分けられる。この男はそれを狙っている。アリーシャと『半分こ』したい一心で立ち回っているのだ。
 わざわざアリーシャが倒した数を確認してから仕掛けるだけの余裕まで見せていた。実力を見せつけるような挑発にも似た行為だが、アリーシャは気にしていない。

 ──異世界の魔王、恐るるに足らず。

 魔王と言えども実力はピンからキリ。探せばアリーシャやフィアゼスと互角以上に渡り合える実力を持ったものも出てくるかもしれないが、ヴァイザーの部下はハッキリ言ってそれほどではない。
 中堅よりやや上といった実力者揃いなのだが、それではこの世界の剣神クラスには遠く及ばないのだ。

 因みにエデンズガーデンに先遣隊として送られたヴォジャノーイ、アナンシ、サラマンドラの3魔将の実力は、強すぎもせず弱すぎもしない丁度中堅どころである。

 魔王たちは恐怖していた。
 散々異世界を旅させられたが、これほど追い詰められたのは今回が初めてだからだ。

 デザイアの支配に屈し、無理やり連れ回されたとしても本来の実力に支障はない。
 とどのつまりは今居るこの世界が渡って来たこれまでの世界と自分の世界とを比較しても、力の水準が高いことの証左となる。

 デザイアの侵攻を皮切りに尊厳が踏みにじられ続けた魔王たちは、最後の希望であった自分たちの命の火も消えそうな状況にある。

(嫌だっ! 死にたくないっ!!)

 であれば命を懸けて戦う時ではないだろうか。向かってくる敵に自慢の能力を振りかざし、取られる前に取る。
 先ほどヴァイザーが彼らに命令した際、アリーシャとフィアゼスは攻撃の手を止めて防御に回った。何も出来ずに殺されていった間抜けな魔王たちに比べれば善戦していたと思える状況。

 だからこそ逃げた。攻撃を受けきられ、かすり傷一つ負わない2人を見て気付いてしまった。
 2人は魔王たちが何をしてくるのか観察していたのだ。
 どんな力を使ってくるのか余興感覚で見られているような圧倒的な戦力差を目の当たりにすれば、誰だって逃げ出す。

 なりふり構わず逃げ出せば呆れて追わない選択を取るかもしれないと考えての行動だったが、アリーシャは何が来ても対処出来るように若干間合いを開けて付いてくるし、フィアゼスもアリーシャを抜かさないように並走して付いてくる。
 振り切れないことを悟った4体は、近くで戦っているはずの魔王たちの元に向かっていた。ほんの少しでも心に余裕を求めての行動だったが、これは完全に裏目に出る。

 ──ガサッ

 木々の葉っぱを散らしながら飛び出す影。前方からやって来たのは全身が鱗で覆われたドラゴノイド。
 魔道具『竜之禍玉りゅうのまがたま』を使用したディロンが空気を切り裂きながらやって来たのだ。
 急な出現に面食らったが、前方の敵は背後から追ってくるアリーシャたちと比べれば倒せそうだった。

「退けっ!! 雑魚がぁっ!!」
「オメーが雑魚だコラァっ!!」

 ──スパァンッ

 ディロンのアッパーカットは敵の防御を貫き、そのまま頭蓋骨ごと粉砕した。
 頭が消滅し、墜落する肉塊。しかしそれを目で追っている場合ではない。次が来ている。

「よせっ!! 来るなぁっ!!」

 ディロンの後を追いかけるように刀を抜いたライトが目を光らせた。

「──葬刃そうじんっ!」

 放たれた瞬間に終わりが見える冥府へのいざない。
 ガルムとの壮絶な戦いの末に手にした最強の斬撃は2体の魔王を一瞬で真っ二つにした。

「へぁっ?!」

 すっ頓狂な声を上げたのはフィアゼス。
 当然だろう。アリーシャの剣は既に最後の1体を細切れに切り刻んでいたのだから。

「そんなぁっ! そんなぁっ!?」

 アリーシャとしては多く倒そうが、横取りされようが些細な問題ではない。しかしフィアゼスにとっては重大な問題である。せっかくの『半分こ』はお預けとなった。
 ガクッと項垂れるフィアゼスを放っておいて、地面へと着地した3人は健闘をたたえ合う。

「やるじゃねぇか嬢ちゃん。見た目以上の強さを持っているみてぇだな」
「──いえ、それほどでもありません。あなた方もかなりのお力を有しておいでですね。特に刀のあなたは……」
「俺もまだ途上だ。世界にはまだまだ上がいる」

 ライトは納刀し、キョロキョロと辺りを見渡した。ディロンも忙しなく首を動かす。

「──何かお探しですか?」
「おう、ちょっとな。あ、そうだ。オメーらこの辺ででっけぇ腕の魔族見なかったか? 顎が突き出たアホっぽい奴」
「──いいえ。見ていません」
「そうか~……逃がしちまったんだよなぁ。野郎をぶっ殺さねぇと奥歯に物が挟まった気分だ。スッキリしねぇぜ」

 頭をボリボリ掻くディロンの言葉にフィアゼスが反応した。

「ん何ですってっ!? どこに居るのですかそいつはっ?! 私が殺して辻褄を合わせねばっ!」
「おいコラ。俺の獲物だぜ。おめーにはやらねぇよ」
「早い者勝ちですねぇっ!!」

 走り出そうとするフィアゼスにアリーシャは声をかけた。

「──ダメですよ。グルガンさんの元に戻らねばなりませんから」
「そ、そんなぁ……!」
「──良かったらお2人とも一緒に行きますか?」
「えっ?! アリーシャさん? それはどうかと……」

 アリーシャの言葉に2人は顔を見合わせる。

「手持ち無沙汰だったんだ。一緒に行こう」
「ま、しゃあねーか。俺もあの野郎は諦めるぜ」

 ライトとディロンが加わり、グルガンの元に戻ることになった。加勢が決まった時、フィアゼスはぶつぶつとアリーシャに聞こえないくらいの小さな声で文句を垂れていた。



「儂のこの能力は両手合わせて20種の多様な力を持っておる。この宝珠は見ての通り儂の意識に合わせて自動的に動くいわば第三の手。儂の背負うこのエネルギーの輪も儂のこの目も、全てが破格の力を有しておる」

 ヴァイザーは吹っ切れたようにベラベラと解説し始めた。グルガンは止めることなく聞いている。

「ふふふっ。突然儂が何を言い出したかと困惑しとるのじゃろうが、これは全て事実を述べておる。儂はデザイアを抜けば誰よりも多種多様な力を持つ魔神。誰よりも単純なのはドラグロスじゃろうが、あやつはもう良い。死んだ者になど興味はないからのぅ」
「確かに技が豊富なようだが、それで?」
「つまりは儂をどれほど翻弄しようとて無意味ということじゃ。儂が真の実力を発揮すれば何も出来ぬまま死ぬ。じゃが、儂とて神と信仰されし者。そう簡単に本気を出せばその名誉も地に落ちよう」
「なるほど。何を言い出すかと思えば言い訳か。我に接近されたのが余程こたえたらしい」

 グルガンは腕を組んでため息をつく。

「勘違いするな。儂がこうしておぬしに教えてやっとるのは愉悦からじゃて。絶望する前にほんのちょっぴりエッセンスを加えて諦めを加速させるためのな。宣言しておこう。おぬしは儂の前に跪き、何も出来ぬ悔しさ、未熟、無力を抱えて死んでいくとなぁ」
「語彙力はあるようだが、能力の開示は終わりか?」
「ふふっ。開示したことを間抜けと思っているようじゃが、それは違う。例えば儂が言った全てのどれくらいが本当でどれくらいが嘘かおぬしに見破れるかな?」
「煙に巻こうというのか? ならば我からも1つ。貴公の保有する戦力は全て葬られた。今し方報告が入ってな、これから貴公を包囲する。我と貴公では戦力に差があっても、数の暴力に貴公はどれだけ耐えられる?」

 グルガンの言葉にヴァイザーは表情には出さないように周りの気配を探る。確かに部下の気配がない。

「……ふっ。数を誇るでないわ。儂は単身でもおぬしらになら勝てるわい」
「先に数を持ち出したのはそちらだがな」

 ヴァイザーは苛立ちから白いガントレットをかざした。

「バカがっ!! 魔王なんぞ飾りよっ!! 儂の部下はこいつで足りとるっ!!──王冠ケテル

 ヴァイザーの声と共に現れたのはとんでもない怪物だった。
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