「お前と居るとつまんねぇ」〜俺を追放したチームが世界最高のチームになった理由(わけ)〜

大好き丸

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16章 聖王国 後編

269、余裕の消失

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 ヴァイザーの部下である魔王たちが壊滅状態にある頃、ふらふらと木を伝って歩く者がいた。

 頭のてっぺんが尖ったように細工されたつばの広いソンブレロ帽子を被り、チャロスーツを着込んだメキシカンスタイル。目深に被った帽子を上げると、そこには真っ白な頭蓋骨が見えていた。

 しかし、アンデッドというわけではなく顔の表面にある皮膚や筋肉だけを取り除いた痛々しい見た目。頭蓋骨の中には大事な器官がそのまま入っているが、表面の筋肉や皮膚がないので心許なく感じる。

 そんな頭蓋骨の表面に赤い塗料で目を丸で囲ってみたり、口元に模様を描いてみたり化粧をしている。
 瞼がなく瞬きは出来ないが、瞬きをしているていなのか一瞬眼球がキョロンッと真上に動いて元の位置に戻ることがある。そういった時より見せる人間のような仕草は気味が悪いことこの上ない。

 神選五党の一角、『ヒッポプス教』の教祖兼ご神体の役目もこなすマイクル=ボビート。
 1人だけ歌やダンスの才能だけで教祖に祀り上げられたために、魔道具や魔法、戦いのために必要な武術の一つも覚えていなかった彼は、身体強化と歌やダンスによって士気を高めることが出来る『吟遊詩人バード』の力を付与されていた。
 1人では戦えない能力故に『メーティル教』の教祖トリーシャを頼ったが、ヴァイザーのせいで喋ることが出来なくなっていたため意思疎通が取れず、七元徳イノセントの3人に軽く伸されてしまった。

「ヨォヨォ……俺ッチ満身創痍……トリーシャ死ンデ落チ込ミSorryソーリー……慰メ欲シイガ、ミンナDeathデスシテマジ黙示録……俺ノ恨ミハ拝謁至極……」

 韻を踏みながらやっとの思いでヴァイザーの居る中央広場まで目と鼻の先まで来た。
 マイクルはヴァイザーに自分をさらに改造するように頼みこもうと画策していたのだ。身体能力も特殊能力も貧弱すぎる今のままでは到底勝ち目など無い。
 仲間であるトリーシャは意思疎通が取れない最大の欠点はあったものの、能力はかなりのものだった。人間だったころから付けていたアンデッドを操るネックレス型の魔道具が機能した結果ではあるが、あれを自分が使えていたらと嘆いてしまう。

「イヤイヤ……俺ッチハ『カリスマ』ダケノ神童ヨ?……神選五党ノ中デ『唯一』ニシテ『随一』……コレすなわチ神ノ導キ……ッテナモンダゼ……」

 疲れ切って頭もよく回っていないマイクルは、二度目の改造によって進化し最強になる自分を思い描きながらようやくヴァイザーを視認する。

「ヘイッ! 兄弟ブロウッ!」

 マイクルは何とか声を張り上げて手を振った。



「バカがっ!! 魔王なんぞ飾りよっ!! 儂の部下はこいつで足りとるっ!!──王冠ケテル

 ヴァイザーが白いガントレットをかざすと巨大な魔法陣が宙空に現れ、そこから何かの管が巻き付いている筋張った真っ白な手が2本ぬぅっと穴から這い出るように突き出された。魔法陣のふちを掴みながらゆっくりと出て来たのは光が照り返すほどにツルツルの表皮を持ったナニカ。

 爬虫類とも昆虫とも取れる体の端々に突き刺さる管が意味深に脈打ち、長く鋭利な尻尾がのたうつ。顔は前に突き出たように長く、目も鼻もどこにあるのか分からないが、口は首と思われる部分の手前まで裂けていた。もちろん牙がびっしりと生え、すべてが鋭利に尖っている。

 ヴァイザーが持つ最強の召喚獣グランドマザー。

 それが出てきた瞬間、底冷えするような恐怖が神選五党のアジト全域に広がる。
 肌が泡立つような感覚に、魔王を倒して意気揚々としていた剣聖たちや七元徳イノセントのメンバーも思わず驚愕した。
 こんなところで油を売っている場合ではない。
 回復もそこそこに全員がアジトの中心に向かって走り出す。それはライトたちも例外ではなく、先ほどの魔王などとは比べ物にならないレベルの気配に武器を構えて走り出す。

 グルガンも先の余裕を返上して敵の強さを分析し始めた。
 これは確実にヴァイザーを超える実力を有している。

「どうじゃどうじゃっ! 言葉も出まいっ!」

 してやられ続けたグルガンにようやく一手取ったとはしゃぐ。根底から覆してやったという自負心から脳汁を垂れ流し、悦に入るヴァイザーだったが背後から聞こえてきた声に邪魔される。

「ヘイッ! 兄弟ブロウッ!」

 イラっとして振り返るとそこには実験体が立っていた。既に死んでいると思われたそれは弱すぎるがゆえにヴァイザーの感知から外れていたようだ。

「なんじゃあいつはっ? 鬱陶しいっ」

 ヴァイザーが手を振るとグランドマザーが動き出す。といっても速すぎて目で追えなかった。
 元の位置に戻って来たグランドマザーは手にマイクルを持っていた。

OHオ~……SHITシット……」

 それが最期の言葉だった。

 ──バリバリバリッ

 頭からかぶりつかれたマイクルは言葉を発することも出来ずに食われてしまった。

「何とも醜悪な怪物だな。貴公は生き物を冒涜している」
「んふっ! 勝てぬと分かり道徳を説くか? それに然程も意味がないと知りつつ儂を糾弾してみるか?」
「事実を述べている。この召喚獣は貴公をよく反映した生き物だと思ったまでだ」
「ほぅ? 今度は品性を貶めるつもりか? 儂のことなど何も知らんくせに」
「いいや、知っている。部下をただの使い捨ての道具としか見ていない。それに人を人と思わぬ人体改造。見た目や言葉で取り繕っても滲み出る子供じみた発想と行動。冷酷で無情で、わがままで自己中心的。救いようがない」

 ──ピキピキッ

「言うではないか。たった一部を切り取って針小棒大に言いよってからに……」
「一部か。確かにこの国に来てからの貴公しか知らないことは付け加えておこう。だがそれで十分だ。ここ数日、我は貴公を観察していた。人体実験の一部始終も丸々な」
「何っ? いや、そんなはずは……」
「気配は隠せる。貴公に気づかれることなく動くことも朝飯前だ」
「……なるほど。見て来たかのように語ると思えば、実際に盗み見していたとわ……気味の悪さに虫唾が走るわい」
「敵を知ることは勝利に最も必要な行為。そのために貴公のような誰も相手にしたくない存在でも観察しなければならないのだ。こんなことをせずに勝てるのならば我の時間を返して欲しいものだな。むしろ相手にしてもらえるだけ感謝するが良い」

 ──ブチッ

「グランドマザーっ!! こやつを殺せぇっ!!」
「キシャアアァァァァァッ!!!」

 ヴァイザーの号令と共に走り出したグランドマザーはひたすらにグルガンに向けて接近する。

「今だっ!!」

 当然その隙を狙って守護者たちはヴァイザーに向かう。

「主人を放置しても良いのか? 何とも薄情な守護者じゃのぅ……んっ?」

 どちらも王手の状況だが、ヴァイザーの方が不味い状況だった。周りから一斉に敵が飛び出して来たのだ。
 剣聖6人、七元徳イノセント5人、守護者戦闘特化8人、アリーシャ、フィアゼス、ライト、ディロンの計23人。
 それも近距離型と中・遠距離型で間合いを計算しての特攻。同士討ちは期待出来ない。
 凶悪な召喚獣がグルガンを狙った隙に仕掛けて来た。

「チィッ!!」

 ヴァイザーは転移を用いて安全な上空に出現する。

「貴公は我とだけ戦っているのではない。世界を相手にしているのだと心に刻め」
「んぉっ!!?」

 ヴァイザーの更に上にグルガンが転移していた。グルガンもグランドマザーの攻撃を回避していたらしい。

「ぬぅっ! おぬしも転移を使えるのかっ?! グランドマザーっ!!」

 バッと下を見ると肝心のグランドマザーは球体の中に閉じ込められていた。
 グルガンの左手に握られていたのは魔剣『白銀の牙カレイドスコープ』。
 能力は超強力なバリアを張ることが出来る。同時に複数張ることも可能で、巨大ドーム状のバリアから1人1人を包む小さなバリアを無数に発生させるなど自由自在。
 ヴァイザーは即座に看破し、ニヤリと笑った。

「ふはっ! 何をしておるかと思えば洒落臭い真似をっ! あの程度の魔障壁が破れんと思うておるのかっ!!」
「捕獲ではない。留めているのだ」

 グルガンはもう1本魔剣を出現させる。その形状を見たヴァイザーは記憶の彼方からその魔剣に気付いた。

「それはまさかデザイアの……」
「その通り。真紅の牙レイジイグナイトだ」

 名前を答えると切っ先をグランドマザーに向ける。

「──獣牙解放オーバーエンハンス。──空間爆破エリアエクスプロード

 バリアの中に爆発するエネルギーを送りこんだ。

 ──チュボッ

「ギィアアアアァァァッ!!?」

 爆炎がバリアの中を駆け巡る。絶えず破裂し、グランドマザーを焼いていく。

「キサマッ!!」

 ヴァイザーは槍を突き出し、グルガンは魔剣を交差させて受ける。甲高い金属音と共に爆炎は焼失し、バリアも消える。
 中でしっかり炙られたグランドマザーが膝を突いてダメージの深刻さを表していた。

「あれはもう虫の息か? いや、まだダメージはそれほどでもないか? だが関係ない。後は皆が倒してくれるだろう」
「図に乗るなよグルガンっ!! もうキサマの口車などには乗らんぞっ!!」
「それは何よりだ。もう時間稼ぎをする必要もなくなったからな」
「その余裕もここまでじゃっ!!」

 槍で剣を弾く。意外にも簡単に弾けるのはヴァイザーの腕力の方がグルガンを上回っているからに他ならない。魔法の威力も魔力の量も桁違い。
 ヴァイザーが遊びを捨て、モロクのように大陸ごと焦土に変えようとすればグルガンなど手も足も出なかったことだろう。

 しかしヴァイザーの執着と支配欲を感じ取ったグルガンは、ヴァイザーが命の危機に瀕するまでの間はなりふり構わずに攻撃してこないと踏んでいた。
 そこに更にデザイアへの恐怖心もあったのでヴァイザーは無意識の内に力を制限して戦っていたのだ。グルガンもそこまでは分からなかった。

 ヴァイザーは何故ここまで押されているのかを思考しつつも無意識にまでは考えが及ばず、徐々に確実に追い詰められていた。
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