「お前と居るとつまんねぇ」〜俺を追放したチームが世界最高のチームになった理由(わけ)〜

大好き丸

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16章 聖王国 後編

270、偉大なる母

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「シュー……シュー……」

 ヴァイザーを倒す目的で集まったライトたちは上空で戦う2人を意識しながらグランドマザーを注視する。
 グルガンの魔剣によって焼かれたグランドマザーは虫の息といった風な息遣いで顔すら上げない。

「哀れな……私が息の根を止めましょう」

 七元徳イノセントのランドルフが斧を取り出し、グランドマザーの首を刈ろうと一歩踏み出す。しかしそれをフィアゼスが止めた。

「これは私がもらいましょう。あなたは下がっていてください」
「……本来であれば文句など有りません。誰がトドメを刺そうと一緒ですからね。しかし魔族に止められるのは釈然としないんですよ」

 ランドルフの魔族嫌いがフィアゼスに向けられる。過去にあった出来事はトラウマとなって甦り、ランドルフの感情をかき乱している。そんなことなどどうでも良いフィアゼスはランドルフの怒りや憎しみを鼻で笑った。

「ふーっ、まったく。あの怪物が出現した時にあなたはどう感じました? きっと心の底から恐怖し、是が非でも倒さねばならないと体が動いたのでしょう? 私もです。つまり私とあなたにはなんら違いはないということ。加えて、あなたと私の実力はどちらの方が上かご存じのはず。万が一にも最後の力を振り絞って攻撃をされた時、あなたはその攻撃を防ぐ自身がおありでしょうか?」

 ランドルフは押し黙る。フィアゼスの言ってることは的を射ているからだ。
 足先から頭のてっぺんまで感じた恐怖。見ただけでも感じる凶悪な存在。その脅威を前に、相手が虫の息だからと侮るのは間違っている。

「思いあがらないその精神。良いですね。あなたは私のことが嫌いかもしれませんが、私はそういう素直さは嫌いではありませんよ」

 フィアゼスはランドルフを蔑む。クレイはその様に怒りを覚えた。

「嫌味な野郎だな。テメーが上じゃねぇと気がすまねぇたちかよ」

 聞こえるように口に出したが、フィアゼスは涼しげな様子でカタールを手にグランドマザーに向けて歩き出す。
 フィアゼスは聖王国内でも屈指の実力。アリーシャを除けば最強と言って過言ではない。
 だからこそ1人のうのうと歩くフィアゼスを止める者など居はしないが、それがかえって危険だった。

 ──メキャッ

 グランドマザーは危機を感じ取り、抵抗を試みる。体のそこらかしこに刺さっていた多くの管が片側だけ一斉に抜けてフィアゼスに向いた。
 魔法による攻撃だろうが物理攻撃だろうが関係なく対処出来ると踏んだフィアゼスは立ち止まって様子を伺う。
 管が抜けていない部分から大きな何かが押し出されるように、管を通って何かを吐き出し始めた。
 攻撃の類かと思って身構えていたためにグランドマザーのすぐ側にべチョッと落ちる様を見て拍子抜けしたのと、ぬめぬめとした体液に塗れた真っ白な球体状のナニカが気色悪くて臭い匂いを嗅いだように顔を顰めた。

「──生き物のようですね……」

 アリーシャの言葉に真っ白なナニカを二度見する。

「あ、あれが生き物?」

 驚愕しているとグランドマザーは次々と細い管からは想像出来ない大きさの異物を吐き出し続ける。

「何をしているっ! 早くやるんだっ!!」

 痴呆のように眺めていたフィアゼスはライトの言葉に反発する。

「私に命令しないでいただけますか? とても不快です」
「くっ……!」

 大事な場面で戦果を譲ることは大きな代償を伴うこともある。誰が倒そうと同じことだと放置した結果、思考が停止してしまうような厄介な事態が転がってくる。

 ──ヌルンッ

 球状の柔らかいナニカからグランドマザーの幼体のような二足歩行の怪物が姿を現した。まるで卵から孵化したような印象を与えられる。
 1匹が這い出れば、後に続くように次々と生まれ落ちる。その内、グランドマザーの周りが幼体だらけになった。

「キシャアァァァァッ!!」

 フィアゼスに向かって鳴き始めた幼体たちは、グランドマザーを殺させないように庇っているようにも見えた。

「健気なものですねぇ。そんなことをしたって意味はありませんよ。認めたくはありませんが、グルガンさんの魔剣で既に死にかけ。悪あがきも大概に……ん?」

 その時グランドマザーの体が震え始めた。何が始まるのかと思えば、頭から縦に裂けて中から新しいグランドマザーが誕生した。

「脱皮だとっ!?」

 剣聖のブルックは驚愕のあまり声を張り上げていた。脱皮した姿は先ほど焦げて死にかけていたとは思えないほど艶々していて顔にも覇気が戻っていた。しかし脱皮したばかりだからか、心なしか少し小さく見える。
 数にして10数体の眷属と、脱皮によって表面が綺麗になったばかりか回復したように見えるグランドマザー。
 大事なトドメをフィアゼスに任せたのは痛手という他ない。

「ふんっ。暇潰しが出来そうで何よりですよ。今度こそ私の手で葬りましょう」
「バーカ。遊んでる暇なんざねぇよ。魔神の駆除をする必要があんだからこんな奴とっとと殺すぜぇ」

 フィアゼスの右側に並び立つように剣聖のセオドアが現れる。更にフィアゼスの左隣には七元徳イノセントのオーウェンが立った。

「私の隣はアリーシャさんだけと決まってるんですよっ!! 男は下がっていてくださいっ!!」
「そうはいかんな。俺はこの時を待っていた。この筋肉は何のためにあると思う?」
「は?」
「そうっ! いじめ抜くためにあるのだっ!!」
「何も言ってませんよ。何なんですかあなたは……」

 オーウェンの熱量に肩を落とすフィアゼス。しかしすかさず守護者の牡牛座タウロスがオーウェンに近付く。

『気が合うな同士よ。筋肉とは磨き上げるためにある。貴様、名は何と言う?』
「オーウェンだ」
『オーウェンか。ふっ、私には劣るが良い筋肉だっ!私を超えるように精進するが良いっ!!』

 ムキムキと筋肉を誇張し合う2人。
 唖然とするフィアゼスに気づいたタウロスは滑らかな動きでフィアゼスに近寄り、肩をポンッと軽く叩いた。

『貴様も励むことだ……』

 そう言うとオーウェンと共に前に出た。

「ちょっ……何なんですかあれ……」
「前衛だ。攻撃を一身に集め、敵の目を欺く最も重要なポジション。こうなれば即興でポジションを決める他ないな」

 フィアゼスの疑問に答えるようにして出てきたのは剣聖のデュラン。スキンヘッドの照り返しが眩しい。

「総力戦はあたしの不得意とするところなんだけどねぇ……」
「私もあまり乗り気はしないな……」

 剣聖のレナールとブリジットは消極的だ。それもそのはずで、レナールは炎の魔剣で敵を燃やすスタイル。1番同士討ちが起こりやすい戦い方だ。
 ブリジットも氷の魔刀で凍らせてしまう。こちらも危険である。

「何言ってんだよブリジット。お前の刀は『不死殺し』の異名を持つ刀だ。再生する怪物にはもってこいの能力じゃないか。レナールさんはその通りだけども……」

 剣聖のアレンはブリジットの能力に期待しているようだ。
 それを聞いたライトはブリジットの側に立つ。

「ならば俺が切り開こう。その『不死殺し』の刀を奴に叩き込め」
「えぇ……ライトがやった方が早いと思うけど?」
「念には念を入れる。そうだろ?」

 ──ゴンッ

 ディロンも気合を入れて拳同士を合わせた。

「しゃあっ!! あのキモい豚どもをぶっ殺すぜ野郎どもっ!!」
「あら? わたくしは入れてくださらないの?」

 ディロンの号令にクラウディアが反応する。

「やることは分かってんだろ嬢ちゃんっ!! 俺は攻撃すんなよなっ!!」
「だ、誰が嬢ちゃんですって!? あっ! ちょっ……待ちなさいっ!!」

 クラウディアの言葉を無視してズンズン進むディロン。「まぁ落ち着け」とクラウディアをアドニスが止めた。
 ディロンも前衛に加わり、ポジションが決まっていく。更にブルックも前衛にやってきた。

「あ? オメーは遊撃に入れや。破壊力が段違い何だからよ」
「光栄だなドラゴノイド。だが私はここで良い。遊撃にはこのチーム最強の女性が立っている。このチームの要は彼女だ」
「誰だよ?」
「知らないのか? アリーシャだ。聖王国で我が国最強だったティリオン=アーチボルトと双璧を成す存在として有名な方だ。まぁ今回は準剣神級と言われたフィアゼスとガルムを葬ったライトがいる。私は粛々と敵の数を減らすだけだ」

 剣を構えるブルックの横にセオドアも立つ。

「よぉ。何匹狩れるか勝負しようぜぇ」
「面白い提案だな。こうしている間にもあの獣は幼体を生んでいる。十分賭けの対象になり得そうだ」
「乗ったっ! こういうのは強ぇんだ俺」
『ふんっ! 戦いは遊びではないっ! よりクールに、より美しく筋肉を磨くためにあるのだっ!!』
「そりゃ遊びじゃねぇのか?」
『断じて違うぞっ!!』
「まぁいいや何でも。俺たちには俺たちのやり方ってもんがあるからよぉ」
「そういうことだ。いくぞっ!!」

 グランドマザー対連合国軍の戦い。今まで交わることのなかった精鋭たちが命をかけて戦う。
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