「お前と居るとつまんねぇ」〜俺を追放したチームが世界最高のチームになった理由(わけ)〜

大好き丸

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16章 聖王国 後編

276、完全開放

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『あ……』

 ガクンと膝を折る乙女座ヴィルゴ
 それを皮切りに次々と守護者たちもへなへなと崩れ落ちる。

「どうしたっ?! 何かあったのかっ?!」

 七元徳イノセントのオーウェンは共に戦っていた牡牛座タウロスを気に掛ける。あれだけ元気に筋肉アピールしていたはずのタウロスは一気に脱力して四つん這いのまま苦しそうに息をしている。

『そいつは心配ねぇよ。さっきの毒が回って来てんだ。俺の生成したポーションを飲めば回復する』

 ふらふらと足取り重く蠍座スコーピウスがやって来た。オーウェンは手渡されたポーションをタウロスの口に持っていく。タウロスは『すまない』と謝罪しながらもオーウェンの介護を受けた。

『あんたは大丈夫かい? 毒が回ってねぇのか?』
「俺は特別な鍛錬をしていてな、気功と魔力の併用で毒を体外に排出しているから割と平気ではある。しかしポーションの予備があるなら頂けると助かる」
『あるよ』

 オーウェンもポーションを飲んで毒を完治させたが、タウロスは未だ元気が無さそうに項垂れていた。

「……薬の後遺症か?」
『いや、疲労だ』
「疲労? そうか致し方なし……」

 スコーピウスの診断にオーウェンが納得していると、バタバタ足音をさせながらレナールが水瓶座アクエリアスを抱えて来た。

「あんた医者でしょ?! この子急に倒れちゃったんだけど看病してくれない?!」
『あ? ああ、そいつは大丈夫だ。ほっといても死なねぇよ。俺よりもあんたが介抱してあげた方が喜ぶぜ?』
「はぁ? それってどういう……?」
『立ち眩みみてぇなもんだから。主人マスターからの魔力供給が切れちまったから省エネモードに入っただけだよ』
「っ!?……やられたの?」

 恐る恐るといった感じでレナールは尋ねたが、その言葉にアクエリアスが反応し、首だけをちょこっと動かした。

『……パパは死んでない……死ぬわけないもん……』

 そう言いながら首に手を回す。不安をレナールで解消しようとしている動きに思え、レナール自身も複雑な表情になる。スコーピウスは一瞬呆れたような顔をアクエリアスに向けたが、すぐにキリッと虚空を睨み付けた。

『ああ、そうだ。やられねぇよ。俺たちに回してる魔力が必要になっただけだ。主人マスターも本気ということだぜ……』



 ヴァイザーの固有結界に閉じ込められたグルガンだったが、その不利をひっくり返す秘められし力を発動する。

「──荒くれる獅子王ワイルドトリガー

 それは今まで解禁したことのないグルガンの真の切り札。

(……おかしい。これだけの魔力をどうやって隠し持っていた? 儂の目を誤魔化す何か……幻や魔法ではない。もっと単純な何かじゃ)

 ヴァイザーが思考の渦に飲まれようとしていたその時、グルガンが動いた。

 ──ヴァンッ

 鼓膜が震え、前方に立っていたグルガンがブレるように消えた。今まで聞いたことがない音にヴァイザーは即座に身構える。
 しかし防御も反撃も間に合うことはない。金色に光る眼が移動する軌跡を残しながらヴァイザーの懐に飛び込み、グルガンの拳が腹部に突き刺さった。

 ──ドボッ

「ゲブッ!?」

 その拳はヴァイザーの腹筋を貫通するだけに留まらず、下半身の蜘蛛の腹までも貫通した。あまりの威力に衝撃波が巻き起こり、ヴァイザーの巨体を吹き飛ばす。
 ヴァイザーが吹き飛び、グルガンが1人残った現状を好機と捉えた鏡の中のヴァイザーが自動的にグルガンを攻撃する。
 四方八方から放たれた虹色のレーザーのような魔法はグルガンの肌に触れた途端に軌道を変えてどこかへと飛んでいく。
 反射ではなく受け流し。
 筋骨隆々で力だけに特化したように見えるグルガン。その実、冷静で全ての攻撃に対応出来るように感覚を研ぎ澄ませている。
 鏡の中の分身体であるヴァイザーでは穴を開けることも傷を付けることも出来なかった。

 グルガンは喉奥から唸るように咆哮し、再生するヴァイザーに接近する。ヴァイザーは触手を伸ばしてグルガンの動きを止めにかかるが、触手はグルガンが通り過ぎただけで弾けて千切れ飛んだ。

「なっ!?」

 驚いている場合ではない。顔面を狙われたヴァイザーは魔力を顔に集めて防御の姿勢を取る。

 ──ガツンッ

 だがそれでもグルガンの打撃は芯まで響き、顔の穴という穴から血を吹きだした。
 もし防御が遅れていたらこの瞬間に終わっていただろう。

 ヴァイザーの頭は冷える。
 一方的な狩りのはずが、逆にやり返されている事実。
 グルガンは格下などではない。同じ魔神であり、一歩間違えれば命を落とすのだと心に刻み込んだ。

 ヴァイザーは回復に使用していた魔力を身体強化にすべて注ぎ込む。殺されないように立ち回らねば勝機はない。

(考えろっ! 考えるんじゃっ! 奴は何と言っておった?!……そうじゃっ! 奴はこの力を使うことをためらっていたっ! 対応されたらどうのとのたまっておったが、果たして対応出来る生き物がこの世界に居るのか大きな疑問じゃっ! きっと何かあるっ!)

 グルガンが迫ってくるのを視認して槍で防御しようとするが、その間を縫って超暴力が襲う。

 ──メキメキメキッ

 肋骨を破壊する一撃。しかし先ほどとは違って貫かれるようなことはなくなった。
 それだけだ。

 グルガンは拳に魂を乗せているかのようにヴァイザーに連撃を放つ。一発一発が重すぎて防御が防御にならない。

「ガパッ! グボッ! ゴブッ!」

 殴られる度に空気が漏れ出るように声が出る。
 信じられないほどに強すぎる。

 だが、この忙しないと思えるほどの連撃に一つの答えを導き出す。

(──もしや、本気を長時間維持出来ないのでは?)

 天啓。
 顔面を殴られ、意識が飛びそうになりながら降りて来た確信を突くひらめき。

 もしこれが正解なら、この猛攻に耐え切ればヴァイザーが勝利出来る。力を失ったグルガンを一気に叩くことだって夢ではない。
 今までの恨みをすべて乗せ、グルガンが肉塊となってプチッと押し潰れる瞬間をその目にしたのなら、さぞ気持ち良いことだろう。

 ──メシャッゴキッ

 ヴァイザーは好き放題殴られながらも『悪魔の右手クリフォト神の左手セフィロト』を発動させる。黒と白のガントレットを装着した。
 グルガンに欠陥品扱いされた忌み子ともいうべき能力。
 赤み掛かった視界の中で白いガントレットを真上にかざした。

「──王国マルクトっ!!──天地開闢ドーン・オブ・ジェネシスっ!!」

 ──カッ

 ヴァイザーの体が光り輝きグルガンの攻撃を押し返す。
 さらに固有結界内すべてが光だし、グルガンを包み込んだ。

 痛みはない。
 ここに来て目潰しはないだろうと攻撃に備え、グルガンは全神経を研ぎ澄ます。

 光が晴れた先に見れたのは先の鏡張りの空間が狭く感じるほどに広大な空間。ヴァイザーの背後に天を衝く城が立ち、城下町を囲う城壁が霞んで見える。
 城は装飾品のようなもので意味はないのだろうが、空は先ほどと同様に鏡張りであり、床は大理石を敷き詰めたようだ。全面鏡張りの空間とは違って多少目に優しくなっている。
 肝心のヴァイザーはグルガンから離れ、かなり遠くの場所に居た。ボコボコに殴られたのが相当効いたと見える。

「新たな世界か。面倒な……」

 ──ボッ

 やることは変わらないとヴァイザーに向けて走り出し、一瞬にして間合いを詰めて攻撃を放つ。

 ──パアァァンッ

 しかしヴァイザーには攻撃が通らなかった。寸でのところで弾かれたのだ。
 すぐさまグルガンは間合いを開けて地面へと着地する。

「……魔障壁か」
「ゲホッゲホッ……そうじゃ……ヒュー……無敵の魔障壁じゃ……誰にも……ゴホッ……破れんのぅ……」

 さらにヴァイザーの直下にある床からメキメキと何かが這い出すような動きを見せていた。
 それは召喚獣グランドマザーに似ている。管と口がないグランドマザー。戦闘に特化させ、他の機能を廃した作りになっているのだろう。それがグルガンの前方の平面全てを埋め尽くしている。

「ヒュー……カヒュー……け、形勢……逆転じゃ……のぅ」
「厄介な世界に放り込んでくれたなヴァイザー。まだ隠し玉を持っていたとは思ってもいなかったぞ。……しかしなんだ、魔障壁と部下の出現だと? どこかで見たことのある能力だとは思わないか?」
「カハァッ!……ふ、ふざけるなっ!! ブフッ……儂が先じゃっ! キサマは後発なんじゃっ!!」
「そうか。能力の構成は似るものなのだな。……まったく以って心外だが」
「そ、その余裕もぉ……ここまでじゃっ!!──慈悲ケセドっ!!」

 白いガントレットの力でヴァイザーは大回復を図る。これにより一気に魔力を消耗したが、死の淵からは脱却される。

「ふーっふーっ……まったく馬鹿な奴じゃ。どれだけ追い詰めようと神を殺すことは叶わぬ。こうしてすべての盤上をひっくり返してくれるわ。おぬしがどれだけ強かろうが関係ない。儂こそが魔神なのじゃ」

 ヴァイザーは余裕の表情でグルガンを見下した。

「……聞いておきたいことがある。貴公は我のバリアにケチをつけていたが、貴公の魔障壁はこの世界がある限り永続的に貴公を守り続けると考えても良いのか?」
「その通りじゃ。そしてこの空間ではおぬしは魔法が使えぬ。儂に攻撃を仕掛けることは不可能。無限に湧き出る部下と儂の魔法で跡形もなく消し去ってくれるわい。どうじゃ? 絶望したか?」

 グルガンは小さく首を横に振った。

「……1度ならず2度までも。貴公はどうしてそう悪手を踏めるのだ?」
「何ぃっ? キサマ何が言いたい?」
「貴公の負けだと言ったのだ」

 サッと手を広げると、そこに魔剣が現れた。敵の魔法が封じられるはずのこの空間で、あり得ない事態が目の前で起こっている。

「我の魔法は封じられようと、魔剣の効力は有効なようだ。魔力自体が封じられていたなら我も流石にお手上げだった」
「な……まさか、それを出現させたのは……」
「うむ。魔剣の力だ。そして……」

 握られたのは魔剣『真紅の牙レイジイグナイト』。ヴァイザーの口からヒュッと息を吸う音が聞こえた。
 デザイアの心臓を加工して出来たとされる魔剣。その効果は絶大だ。

「我も一度試してみたかったことがある。いつもは力を制御して使っていなかったが、完全開放した時どれほどの威力を発揮するのか……──獣牙解放オーバーエンハンス。──空間爆破エリアエクスプロード……」
「ば、馬鹿……や、やめ……っ!!」
「──フルバーストっ!!」

 ──ジュワッ……ゴバババッバババババババッバッバババババァッ

 ヴァイザーの体にピタリと纏うように展開された魔障壁。その内部に真紅の牙レイジイグナイトの爆炎が絶え間なく弾け続ける。

「ぃぎゃああああぁあぁぁっ!!!」

 絶対安全の魔障壁だったはずが、逃げることの出来ない地獄へと変化する。
 殴られていた方がマシだったのではと思えるほどに辛く厳しい炎獄の中、ヴァイザーの頼みの綱である魔力もとうとう底を尽きる。
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