「お前と居るとつまんねぇ」〜俺を追放したチームが世界最高のチームになった理由(わけ)〜

大好き丸

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17章 龍球王国 前編

288、天征十一将

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 天征十一将。
 それは龍球王国アマツカグラの支配者たちの総称である。

 『コウカク家』を頂点とし、他『オオトリ家』『ビャクガ家』『セイリン家』『ゲンム家』『トウダ家』『リクゴウ家』『キジン家』『テンコウ家』『タイイン家』『タイジョウ家』『テンクウ家』の11の家々が領主となって龍球王国を統治している。

 モミジが苦虫を嚙み潰したような顔になった『公家』とは則ち『キジン家』のことであり、国を第一とする保守層からは忌み嫌われている。

 ──カコーンッ

 キジン家の領地である『菩黎ぼれい』。
 政界の魔物と謳われる公家の住処であり、風情を念頭に置いた街づくりに力を注ぐ雅な領地。
 公家の中でも最上位の者だけが住まうことを許された選ばれし地として内外に喧伝している。

 中でも最も広い土地を有し、最も大きな屋敷から鹿威ししおどしの音が鳴り響いた。

「ほっほっほっ。いい音じゃ。今日の酒は何とも旨いのぅ」

 手に余るほどの朱の盃を片手に酔いどれ気分で足を崩す男。
 顔を白粉おしろいで塗り、口紅を申し訳程度につけ、額に円形の眉を2つ描いた典型的で特徴的な化粧。狩衣かりぎぬを着たその姿は公家以外の何者でもない。

 キジン家当主、ヨリマロ=キジン。

 面長でひょろりと長い体躯をしているがその実内包されている筋肉は鋼のようであり、見た目に反して武芸に秀でているのが雰囲気から漏れ出ている。
 ヨリマロの向かいに座る男は深々と頭を下げた後、スッと顔を上げた。

「はっ。お陰様で私どもの酒も好調な売れ行き。ヨリマロ様のお口添えがあったればこそ、こうして美酒に酔えるのでございます」

 ヨリマロに媚びを売るこの男の名はムネヤス=テンコウ。
 商人を生業とするテンコウ家の当主であり、天征十一将の当主の中でも一番の老将。
 歴史を物語る顔に刻まれたシワの数と頭頂部が禿げ上がり、みじめにも伸ばした横の白髪は枝毛だらけ。その御労しい頭からも老いを察することが出来る。
 何よりも特徴的なのは長く太い鷲鼻と、抜けることを忘れて剛毛になった眉毛にある。この顔を見たほとんどの者が口を揃えて『天狗』と呼称するほど。

 ムネヤスの側に控える武将は微かに片眼を開いて主人たちの動きを確認している。

「ん、苦しゅうない。良きに計らえっ」

 ヨリマロはクイッと盃を傾けて酒を呷ると侍女に酒を注ぐよう無言で盃を差し出す。侍女は待ってましたとばかりに瓢箪ひょうたんの蓋を取り、そっと注ぐ。

「しかしムネヤスよ。麻呂は危惧しておる。つい先日密会したグレゴールとやらはいつになったら動くのか? 麻呂には何の通達も無いようでおじゃるが?」
「はっ。その件に関しましては現在キキョウ殿と調整中にございます。今しばらくお待ちいただきますようお願い申し上げます」
「そろそろ麻呂の我慢も限界でおじゃるよ? コウカクの小娘なんぞに盗られたキジンの春を取り戻さねば麻呂は死ぬに死に切れん」

 疲れたようにため息をつくヨリマロにムネヤスは思いつきを口にする。

「この際、力ある武家の女を娶り、お子を儲けてはいかがでございましょう? アマツカグラを支えるのは竜神の力を持つコウカクの家のみとされていますが、コウカク家を超えうるのはやはり血を分けたキジン家の血族。さらに優秀な名家の血を入れることが出来ますれば、竜神の力を覚醒することは元より、この上ない力を持ったお子が生まれるやもしれませ……」

 ──パシャッ

 ムネヤスの饒舌に回る口を酒を浴びせることで止めた。

「力無き子を産ませた麻呂が不甲斐ないと申すか? 麻呂の行動が伴っていないと、そう申すのか?」
「……いえ、決してそのような……出過ぎた真似をお許し下さい」
「ムネヤス……そなたの忠義には大いに感謝しておる。しかし今居る我が子を差し置き、新たな子を孕ませろなど笑止千万。麻呂を種馬か何かと誤認しておるのであれば今すぐにも考えを改めよ」
「はっ。誠に申し訳ございません」

 深々と頭を低くし、謝るムネヤスを見ながら侍女に酒を注がせる。

「……おもてを上げよムネヤス。……良いか? 麻呂はそなたの進言に怒ったのではない。その在り方について怒っているのだ。詰まるところ名家の女を抱くという行為には興味がある。特にタイジョウの牝牛は抱き心地が良かろうなぁ……」
「……手配致します」
「ん。良きに計らえ」

 ヨリマロは酒を呷りながら機嫌を取り戻す。

(ゲスな話だ……)

 ムネヤスに仕える武将オキノブ=カラスマは反吐が出る思いだった。
 誉れある武人として、小柄な身でありながら体を鍛え上げ、学問にも力を入れてきた。このような会話の中に身を置くために築き上げてきたわけではない。
 しかし主君のため、自己の考えなど捨てて目を伏せる。
 ヨリマロは正直どうでも良いが、ムネヤスのためなら命をも捨てられる。
 オキノブが一人で勝手に盛り上がっていると、ヨリマロの部下が耳打ちにやってきた。

「……なに? アキマサがここへ?」

 それを聞いてムネヤスとオキノブは肩を強張らせる。後ろめたいことのある2人だったが、ヨリマロは気にした様子もなく手を振る。

「良い。呼べ」
「!……会われるのですかっ?」
「駄目か? 麻呂たちのことを知ったところでアキマサ如きに何が出来るというのじゃ? 良いではないか。奴の腹を覗く機会と捉え、ここで話し合いの場を設けよう」
「……承知致しました」

 ムネヤスはそれ以上何も言うとこなく同意し、アキマサを迎え入れるために端に寄る。
 奥へ通されたアキマサはヨリマロとムネヤスを目にし、ニヤニヤと笑いながら口を開く。

「これはこれはっ! ヨリマロ殿に会いに来たらまさかムネヤス殿までいるとは思って見なかった! いや~っ偶然というのはあるものだなぁっ!」
「戯けたことを……」

 ヨリマロに手招きされ、一礼して部屋に入る。一定の距離を開けて座ると、両拳を突いて軽く頭を下げた。

「お通しいただき感謝申し上げますヨリマロ殿」
「ん、何の用じゃ。茶器なら買わんぞ?」
「ええ、結構で御座います。今日は商人アキマサではなく、アキマサ=リクゴウとして参上致しました」

 その瞬間ピリッとした空気が流れる。その空気を感じたアキマサはニヤリと笑った。

「勘違いしないでくださいよ。裏でコソコソやっていることを責めに来たわけじゃなく、そいつを水に流せる話を持ってきたんです」
「……話を聞こうか?」

 安心したヨリマロは質問を投げかけた。
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