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17章 龍球王国 前編
319、影の首謀者
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「……なに? 捕らえられた?」
鎧を脱ぎ、楽な服装で休んでいたシンクロウ=クロバは、急ぎ帰って来た部下からの報告を聞いて愕然とする。
魔導戦艦には現在主要人物が乗っておらず、人質に取るのに格好の的であると踏んで部下を送り出した。アキマサの客人だという異国人に何をさせようとしているにせよ、人質を盾に動きを封じる考えがあったのだ。
小隊規模の人数でなら攻め落とせると踏んでいたのだが、相手の力を甘く見ていたようだ。
(もしかすると八剣聖全員があの未知の船に乗り込んでいた可能性があるのか? 聖王国側の強者は皆船から降りたであろうことは確認出来たが、剣聖は6人だった。2人は残って船の警備に当たっていた可能性が高い。もしくは剣師1級の連中が何人か居たか……)
剣聖クラスが相手では分が悪い。龍球最強と謳われるホウヨク=オオトリでも向かわせられれば話は別だが、それほどの練度を持った者などキジン派閥には期待出来ない。
(そもそも何故国の最終兵器たる武人たちが一斉に国外に出ているのだ? 意味が分からな……いや、考えるなシンクロウ。今それは詮無き事。いずれにしても人質作戦の戦力を見誤ったのは事実だ)
シンクロウは口元を隠すように手を当てて考え事をしていたが、すぐに部下に冷ややかな目を向ける。
「……ほとんどが捕まるとは情けないことですが、少しでも戻って来たことに感謝しときますか。思った以上の戦力に手こずったようですが、いったい誰にやられたのでしょうか?」
最初から聞くべきだろうが、シンクロウは悪いことが起こった時に部下に焦った顔を見せないよう、先に失敗の原因を想像することで驚かないように心の準備をする癖がある。前にせっかちな部下が次々と報告したせいで折檻を食らったことがあったので、シンクロウの部下は主人の機嫌を見つつ報告をしなければならない。
普段なら1つずつ噛み砕くようにする報告方法で問題ないが、緊急時の報告くらいさっさと伝えさせて欲しいと考えてしまう。
「ではっ。敵は爬虫類の魔物2体でございます」
「え……魔物っ?」
「はい。ドラゴンと思しき2足歩行の魔物と角の生えたヒキガエルのような魔物の2体でして……異能と思われる不可思議の力で一網打尽にされてしまいました。我らが捕まらなかったのは恐らく我々の主人、つまり殿に脅威を伝える目的かと思われます」
シンクロウはまたも手を口元に当てて考え込む。その目は見開かれ、プルプルと揺れるように虚空を見つめていた。今までにない表情に部下も若干引いてしまう。その格好のままニヤリと笑ってギョロリと目だけを動かしながら部下を見た。
「ふふふっ……人質を取ることが最善の策であると思いましたが、魔導戦艦内に魔物の影ですか。これは歴とした国家反逆罪ですねぇ。それも明確にコウカク寄りのアキマサの客人であることを思えば、キジン派閥の将来は明るい。素晴らしいっ! 良き手土産が出来ましたっ」
「殿。捕まった部下たちの救出は……?」
「時間の無駄です。魔物相手ではすでに食い殺されている可能性が濃厚。万が一生き残れたとして、一生寝たきり生活を余儀なくされることでしょう。そうなるくらいなら死んだほうがマシでしょうし、もしも食い殺されるなら我々としても情報の漏洩を防げる。悪くないですね」
「そんな……っ!? それはあまりに殺生にございますっ! 部下に慈悲をお与えくださいっ!」
「……私にどうしろというのですか? 新たに部下を派遣して返り討ちに遭えば犠牲者が増える一方です。深追いは厳禁ですよ?」
シンクロウは話は終わったとばかりに踵を返す。
「お待ちください殿っ!」
「ふぅ……あなたも協力していただかないと困りますね。彼らの犠牲があったればこそ、あなたは我が子を成人するまでその目で見守ることが出来るのですから……」
肩越しに迷惑そうな顔で答えた。シンクロウの言葉の裏にはこれ以上食い下がるなら子供がどうなっても良いのかという脅しが入っている。
どんな時にも引き際というものがある。最も大切なものが危険に曝されるとあってはもう口は出せない。
口を固く結んで頭を下げることしか出来ない部下を鼻で笑って自室に戻ろうとしたが、砂利を踏み締める音にシンクロウの足が止まる。せっかく整えた庭の地面が抉られるように力強く走ってきた別の部下は、スライディングでもするかのように脛当てを滑らせて片膝をつく。
「申し上げますっ!! 謹慎中のトガノジョウ様が領地から離れ、行方を晦ましましたっ!!」
「なっ!?」
これには流石のシンクロウも驚かずにはいられない。身を翻して裸足のまま部下に掴み掛かる。
「あれほど目を離すなと再三に渡って命令したはずっ! 何故目を離したっ!!」
「も、申し訳ございませんっ! 常に見張っていたのですが、トガノジョウ様は我らの目を欺き……っ!」
「言い訳はいいっ! 殿が向かいそうな目星はついているのであろうなっ!」
「は、はいっ! 3ヶ所っ! すでに分散して向かっておりますっ!」
掴んだ胸ぐらを投げるように離すと、部下は尻餅をついて何度か咳をした。
「不味い……ここで暴走されては私の計画が……」
珍しく狼狽するシンクロウ。だがすぐにキッと目を光らせる。
「殿を見つけるまで探し続けるのです。良いですね? あなたも。せっかく拾った命、今こそ存分にお使いなさい」
「畏まりましたっ!!」
目の前にいる2人の部下に命令を下し、さっさと自室へと戻っていく。しかしまだ正気には戻っていないのか、砂だらけの足のまま障子を開けて屋敷に入って行った。
鎧を脱ぎ、楽な服装で休んでいたシンクロウ=クロバは、急ぎ帰って来た部下からの報告を聞いて愕然とする。
魔導戦艦には現在主要人物が乗っておらず、人質に取るのに格好の的であると踏んで部下を送り出した。アキマサの客人だという異国人に何をさせようとしているにせよ、人質を盾に動きを封じる考えがあったのだ。
小隊規模の人数でなら攻め落とせると踏んでいたのだが、相手の力を甘く見ていたようだ。
(もしかすると八剣聖全員があの未知の船に乗り込んでいた可能性があるのか? 聖王国側の強者は皆船から降りたであろうことは確認出来たが、剣聖は6人だった。2人は残って船の警備に当たっていた可能性が高い。もしくは剣師1級の連中が何人か居たか……)
剣聖クラスが相手では分が悪い。龍球最強と謳われるホウヨク=オオトリでも向かわせられれば話は別だが、それほどの練度を持った者などキジン派閥には期待出来ない。
(そもそも何故国の最終兵器たる武人たちが一斉に国外に出ているのだ? 意味が分からな……いや、考えるなシンクロウ。今それは詮無き事。いずれにしても人質作戦の戦力を見誤ったのは事実だ)
シンクロウは口元を隠すように手を当てて考え事をしていたが、すぐに部下に冷ややかな目を向ける。
「……ほとんどが捕まるとは情けないことですが、少しでも戻って来たことに感謝しときますか。思った以上の戦力に手こずったようですが、いったい誰にやられたのでしょうか?」
最初から聞くべきだろうが、シンクロウは悪いことが起こった時に部下に焦った顔を見せないよう、先に失敗の原因を想像することで驚かないように心の準備をする癖がある。前にせっかちな部下が次々と報告したせいで折檻を食らったことがあったので、シンクロウの部下は主人の機嫌を見つつ報告をしなければならない。
普段なら1つずつ噛み砕くようにする報告方法で問題ないが、緊急時の報告くらいさっさと伝えさせて欲しいと考えてしまう。
「ではっ。敵は爬虫類の魔物2体でございます」
「え……魔物っ?」
「はい。ドラゴンと思しき2足歩行の魔物と角の生えたヒキガエルのような魔物の2体でして……異能と思われる不可思議の力で一網打尽にされてしまいました。我らが捕まらなかったのは恐らく我々の主人、つまり殿に脅威を伝える目的かと思われます」
シンクロウはまたも手を口元に当てて考え込む。その目は見開かれ、プルプルと揺れるように虚空を見つめていた。今までにない表情に部下も若干引いてしまう。その格好のままニヤリと笑ってギョロリと目だけを動かしながら部下を見た。
「ふふふっ……人質を取ることが最善の策であると思いましたが、魔導戦艦内に魔物の影ですか。これは歴とした国家反逆罪ですねぇ。それも明確にコウカク寄りのアキマサの客人であることを思えば、キジン派閥の将来は明るい。素晴らしいっ! 良き手土産が出来ましたっ」
「殿。捕まった部下たちの救出は……?」
「時間の無駄です。魔物相手ではすでに食い殺されている可能性が濃厚。万が一生き残れたとして、一生寝たきり生活を余儀なくされることでしょう。そうなるくらいなら死んだほうがマシでしょうし、もしも食い殺されるなら我々としても情報の漏洩を防げる。悪くないですね」
「そんな……っ!? それはあまりに殺生にございますっ! 部下に慈悲をお与えくださいっ!」
「……私にどうしろというのですか? 新たに部下を派遣して返り討ちに遭えば犠牲者が増える一方です。深追いは厳禁ですよ?」
シンクロウは話は終わったとばかりに踵を返す。
「お待ちください殿っ!」
「ふぅ……あなたも協力していただかないと困りますね。彼らの犠牲があったればこそ、あなたは我が子を成人するまでその目で見守ることが出来るのですから……」
肩越しに迷惑そうな顔で答えた。シンクロウの言葉の裏にはこれ以上食い下がるなら子供がどうなっても良いのかという脅しが入っている。
どんな時にも引き際というものがある。最も大切なものが危険に曝されるとあってはもう口は出せない。
口を固く結んで頭を下げることしか出来ない部下を鼻で笑って自室に戻ろうとしたが、砂利を踏み締める音にシンクロウの足が止まる。せっかく整えた庭の地面が抉られるように力強く走ってきた別の部下は、スライディングでもするかのように脛当てを滑らせて片膝をつく。
「申し上げますっ!! 謹慎中のトガノジョウ様が領地から離れ、行方を晦ましましたっ!!」
「なっ!?」
これには流石のシンクロウも驚かずにはいられない。身を翻して裸足のまま部下に掴み掛かる。
「あれほど目を離すなと再三に渡って命令したはずっ! 何故目を離したっ!!」
「も、申し訳ございませんっ! 常に見張っていたのですが、トガノジョウ様は我らの目を欺き……っ!」
「言い訳はいいっ! 殿が向かいそうな目星はついているのであろうなっ!」
「は、はいっ! 3ヶ所っ! すでに分散して向かっておりますっ!」
掴んだ胸ぐらを投げるように離すと、部下は尻餅をついて何度か咳をした。
「不味い……ここで暴走されては私の計画が……」
珍しく狼狽するシンクロウ。だがすぐにキッと目を光らせる。
「殿を見つけるまで探し続けるのです。良いですね? あなたも。せっかく拾った命、今こそ存分にお使いなさい」
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