「お前と居るとつまんねぇ」〜俺を追放したチームが世界最高のチームになった理由(わけ)〜

大好き丸

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17章 龍球王国 前編

320、新しい朝

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 夜が明け、朝日が地面を照らす。
 朝露が葉っぱを湿らせる頃、レッドとモミジは2人で正面の門の小門から潜るように出た。

 寝ているみんなを起こさないよう配慮してこっそり抜け出そうと思ったのだが、既に起きていたライトやブルック、アリーシャと言った面々に朝の挨拶と共に送り出された。
 少々照れくさい思いだったが、期待を掛けてくれているのだと受け取り、感謝の気持ちを込めて堂々と出発する。

「皆さん良い人たちですね」
「そうなんですよ。あ、でも気を付けてください。剣聖の方々は試合でも真剣を使用します。その上マジで斬り込んでくるんで申し込まれても受けない方が良いですよ? この前なんて殺す気で来ましたから……」
「えぇ……」

 モミジは剣聖の意外な一面を垣間見た気になりながらレッドの言葉に耳を傾けていた。
 レッドから聞かされるのは大体が仲間の偉大さや器の大きさである。デザイアという侵略者に対抗すべく自分の命をもして集まった精鋭たち。世界のために戦う戦士たちへの感謝。

(……えっ? 集めてるのはレッドさんなのに……? 何で自分を誇らないの?)

 レッドが語る表情に見えたのは尊敬と憧憬。自慢とも取れる言い回しにモミジはレッドの人となりを見た気がした。

「あー……レッドさんは?」
「え?」
「レッドさんはなんでデザイアという人を倒そうと思い至ったのですか?」
「お、俺は……その……」

 先ほどまで他者を褒めちぎっていた当人とは思えないほど言葉に詰まり、もじもじと言い淀む。一拍置いて意を決したように話し始めた。

「……やらないとやられるというか……デザイアさんの子供のスロウが俺の仲間に入ってくれたことを根に持ってて、一方的に因縁を付けてきたというか……」
「スロウさん?」
「今、屋敷の一室を借り切って引きこもってる女の子です。その子をチームから外すように言われて、断ったらキレられたんですよ。殺すって脅しかけられて……」
「苛烈ですね。仲間ってだけでそんな……」
「ですよねっ!?……でも向こうは本気でして……だから俺のは個人的なものだから違うっていうか……」

 だからこそ自分は誇れるものではない。レッドはみんなと比較して自分を卑下している。
 どんな理由であれ、世界を救おうとするその行動は称賛されるべきことではあるが、レッドは自分のことは二の次なのだ。

(もしかして、ホウヨクさんを超える力を持っていてもひけらかしたりしないのは、それが凄いことだと思っていないから? 単に自信がないとか?)

 モミジは少々危機感を覚える。何かの拍子に自分を制御してしまい、必要なことをやらなければいけなくなった時に一歩が踏み出せず、立ち止まってしまわないかと考えた。最強の力を持ったものが自分の力を信じられないなど、現在その力を信じてついて来た人たちに迷惑が掛かってしまうだろう。

 思えばグルガンが何かにつけてレッドを前に前に出そうとし、レッドはそれに流されるままに力を使っていたと感じる。
 今回、モミジと行動を共にしようと言い出したのはレッドからだが、これもグルガンが困っていたから「どうせ自分が行くんだろう」と先に手をあげただけという考えも出来なくはない。

 自分よりも他人を優先する自己犠牲の精神は素晴らしいが、その結果自分の力を制限する事態に陥っているのであれば本末転倒である。
 モミジはレッドの内に内に仕舞い込もうとする精神をほんの少しでも解放することが出来ないかと思い始める。彼女としても頼り甲斐ある方が助かるという自分本位からだが、もっと自分を大切に出来る気持ちを持てれば今後の人生が楽だろうとの配慮──というより押し付け──に近い気持ちがあった。

「レッドさん。今回の作戦の敵はキジン派閥という魑魅魍魎たちです。臆せば喰われてしまいます。常に攻めの気持ちを持つことが大事なのと、判断に誤りがないように注意深く行動することが何よりも重要です」
「え?……はぁ」
「つまりあたしとレッドさんは一蓮托生。2人のそれぞれの解釈を共有しないと難しい問題に直面した時、その問題を解決することが出来なくなるかもしれません」
「確かに……」
「そこで一つ提案なのですが、敬語をやめてみません?」
「……なんで?」
「情報は短く簡潔にまとめる方が伝わりやすいです。敬語にして伝え合うのは情報の取捨選択に困るのではと考えたんですよ。いわゆる『阿吽の呼吸』、『つーかーの仲』といった情報の簡略化です」
「なるほど?」
「レッドさんはどちらかというと裏方よりも表立って戦ってきたのではないですか? 後衛よりも前衛、知略よりも肉弾戦、魔法よりも剣といった具合に。あたしもそうです。考えるよりもまずは体を動かす方なので、レッドさんの気持ちは分かりますっ」

 モミジはピタッと立ち止まる。それにつられてレッドも立ち止まった。

「それで……敬語をやめる?」
「はい。……うん。敬語をやめるのは一歩踏み込んだ話し合いに発展するいい機会だと思うの。あたしもこれからあなたのことをレッドって呼ぶから、あたしのことはモミジって呼び捨てにしてよ」

 モミジはじっとレッドの顔を見る。その真剣な眼差しにレッドはソワソワするが、頭を横に振って気持ちの整理をつけてからモミジと目を合わせる。

「分かったよ……モミジ」
「うんっ!」

 照れ臭そうにするレッドだが、これは最初の一歩。モミジはこれからレッドの中にあるたがを見つけ、それを外すことを密かな目標に据えた。
 もし今、頑なに敬語をやめないと聞き入れてもらえなれば、それはモミジに対する警戒心の表れ。心を開いてもらわなければ作戦遂行も難しくなると考えていたが、それは杞憂に終わりそうだ。

「それでは改めて。よろしくレッドっ」
「あ、よろしく……」

 郵便配達の飛脚や農家の方が籠いっぱいに作物を詰めて横切る側で握手をしている男女というシュールな図がここにあった。

 満足したモミジはレッドから視線を外して遠くを見る。レッドもつられて振り返ると先ほどの風景が広がっていた。

「ここにある石標からあっちが月湧げつゆうと呼ばれる地区だよ。セイリン家の家臣、ツキグマ家の領地」
「へー、ツキグマ家?」
「うん。ナガヨシ=ツキグマって人」
「その人に手伝ってもらうのか……」
「まぁね。と言ってもこれからお願いしに行くの。気難しい人だけど根はいい人だから大丈夫だとは思うけど……」

 不安の残るモミジの言い方では良い印象を受けないが、頼りにしようと思ったことから、信用出来る人物であることはなんとなく分かった。レッドも気合を入れて領地の境界線を跨いだ。
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