「お前と居るとつまんねぇ」〜俺を追放したチームが世界最高のチームになった理由(わけ)〜

大好き丸

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17章 龍球王国 前編

321、朝飯

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 木彫りの家紋が朝日に照らされた。
 ゴツゴツとした味のある掘り方は素人が掘ったように見え、そこに彫られてあったのは熊が鮭を咥えている躍動感のある紋章。かなり年季が入っていて、当時鮮やかだったであろう色味はすっかりせている。
 飾られてあるのは道場の出入り口。道場はその家紋に比べると新しく、建て替えられたのであろう空気を漂わせる。それでも10年は月日が経っているようだ。

 ──ギッ……ギッ……

 所々に10年の歳月の使用感が出る。最も顕著なのは床板だ。歩くと床の一部が劣化したことを知らせる悲鳴を上げた。

 しかし、ただ古いだけではない。歩く男の大きさは龍球の平均身長を遥かに超える。
 肩幅が広く、手足が長く、筋骨隆々。ただそこに存在するだけで見る者を威圧する強者のオーラ。
 かき上げたオールバックの髪型に目鼻立ちのハッキリとした男前の顔が映える。たまにしか剃らないのか、無精髭の髭面で眉毛が濃い。それが野性的な彼には一番似合っている。

 ナガヨシ=ツキグマ。ツキグマ家の当主であり、強そうな名前に見合う剛の者。
 ヒビキから最も信頼されているセイリン家の家老である。

 ナガヨシは道場の床板の上で正座し、ゆっくりと目を閉じる。
 巻藁が周囲に5つ置かれ、左手の届くすぐ側の太刀が抜かれる瞬間を今か今かと待ち侘びる。

 侵し難い静寂が支配する広々とした空間。試し切り用の藁巻に囲まれたナガヨシが1人。
 しばらくじっと座っているとナガヨシの体がゆらゆらと揺れ始める。体幹がユルユルになっているわけではなく、まるで陽炎のように空間が揺れている。

 鼻から息を吸い、肺に溜め込む。瞬間、ナガヨシの目が見開かれ、揺らめく蝋燭の火を吹き消したように体が消える。

 ──ダンッ

 次に現れた時には立って抜身の刀を抜いていた。背後に飛んだ鞘が床に落ち、軽い音を立てながら壁まで転がっていったと同時に思い出したように巻藁が斜めにズレる。

 ──ドサドサッ

 見事な太刀筋によって袈裟に斬られた巻藁は床に散らばった。
 肺に溜め込んだ空気を細く長く吐き出す。

「お見事に御座います。殿」

 男は出入り口に立つ女性に目を向けた。女中がにっこりと笑って立っている。

「……ん。飯か?」
「はい。朝食の用意は整っております」

 壁際にまで飛んでいた鞘を回収し、抜身の刀を納刀する。

「分かった。ここを片付けたらすぐに向かう」
「片付けは私どもが致しますので、殿はお屋敷へどうぞ。素敵なお客様が参られております」
「客? こんな朝っぱらからか? 誰だ?」
「タイジョウ家のモミジ様で御座います」
「モミジ? 確かアキマサのとこの……。何の用か?」
「殿に会って直接お話ししたいと……」

 ナガヨシは片付けようとした手を止め、のっしのっしと剣術道場を出た。
 日の光が眩しく少々眼が眩んだが、お構いなしに歩いて自室へと戻る。客ということなら着る着物も少しは考えねばならない。動きやすいボロ布のような着物を脱ぎ、多少落ち着き払った着物へ袖を通す。姿見で衣装を整え、満足すると客間へと急いだ。

 障子を開けると背筋を伸ばして座るモミジと誰とも分からぬ男の姿があった。

「おはよう御座います。ナガヨシ様」

 ナガヨシの顔を見るなり深々とお辞儀するモミジと赤髪の男。

「ああ、良い良い。そんな畏ることはない。面を上げよっ」

 モミジたちが顔を上げるのを横目に、ナガヨシは朝食が用意されている上座へと座る。モミジと男にそれぞれ軽く会釈しながら口を開いた。

「随分と久しい顔があるな。それにこちらは……」
「あ、レッドです。レッド=カーマイン」
「レッド? ほぉ。見ぬ顔と思えば異国人か。昨日ひと悶着あった異国人とはお前のことか?」
「あ、多分……」
「ん。詳細までは知らぬが、面倒ごとに巻き込まれたようだな。俺はナガヨシ。ナガヨシ=ツキグマだ。……ところでお前たち朝飯は済ませたのか?」
「え、少し……」
「いかんな。食べ盛りの子供が食わんのは成長に差し障る。……おいっ!」

 ナガヨシの呼び掛けに部下と思しき男が襖を開ける。立て膝をしてすぐに動けるような体勢だ。

「2人分の食事を用意せよ」
「はっ!」

 男は即答で会釈をし、襖を閉める。ほとんど待つ間も無くレッドとモミジの前に朝食が出された。

「それほど豪華なものではないが、我が家自慢の朝飯だ。特に米が美味い。話はこれの後でもよかろう」
「ありがとう御座います。いただきます」
「い、いただきます」

 レッドとしてはすぐに話し始めたいところだったが、モミジの成長に差し障りがあるとまで言われては無碍にすることも出来ず、黙々と食べ始める。
 茶碗から箸で摘んだ米を口に運び、転がすように咀嚼すると、米本来の甘みが口いっぱいに広がっていく。あまり白米で食べることを好まなかったレッドは驚きながら飲み込んだ。一緒に用意された味噌汁も味わい深く、焼き魚と漬物もご飯によくマッチして全身に幸福感が広がる。
 リクゴウ家で出されたご飯も格別であったが、何よりおかずに目を奪われていたので、お米を気にしていなかったと素直に認める。
 龍球王国のお米はいままで食したお米の常識を遥かに超えていた。

 会話を忘れて舌鼓を打つレッドの茶碗から米がすぐになくなり、御櫃おひつの中にあったお米まで全部さらってしまった。
 ナガヨシはレッドの豪快な食べっぷりに見入る。顔がとろけるように喜んで食べているのを見れば、共に食べる米もより一層美味しく感じられた。

「はっはっはっ! 良い食べっぷりだっ! 我が家の米を食い尽くす勢いだなっ! んっ! 気に入ったっ!」

 ナガヨシは箸を置いて鉄瓶を持つと腰を上げ、レッドの元に寄ると空っぽの茶碗に熱い茶を注いだ。

「粗茶だが、朝飯にはこれが旨い。飲め」

 レッドの盆の上には湯飲みが置かれ、その中にもお茶が入っていたが、ナガヨシはどうしても酌がしたくなったようだ。モミジは口いっぱいにご飯を詰め込みながらペコペコと頭を下げるレッドをチラリと見ながら、我がことのように嬉しくなって微笑んだ。
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