「お前と居るとつまんねぇ」〜俺を追放したチームが世界最高のチームになった理由(わけ)〜

大好き丸

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17章 龍球王国 前編

326、商店街

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 トウダ本家を目標に南東方面に下っていると、活気のある商店街に入る。
 飴細工のように綺麗な櫛や陶芸品が並んでいたり、呉服屋があったり、屋台が出ていたりと目に映る光景だけで賑やかだが、あちらこちらか呼び込む声のおかげで祭りのように感じられた。

 レッドやオディウムには珍しい光景に見えたが、一緒に歩く2人には普通の光景なのか気にすることなく足早に歩く。
 屋敷を見張るための絶好のスポットをこれから探すのと共に、亀鎧がクロバ家を強襲する前には陣取らねばならない。駕籠は目立ちすぎるので何とか徒歩で間に合わせようと先を急いでいるのだ。

(みんなこの辺で買い物とかしたのかな?)

 レッドは昨日、挨拶回りに駆り出されていたので商店街などを回る余裕が無かった。というよりも予定に入れてもらえず、今日も今日とて情報収集に奔走している。

(……いや? そういえばこの大陸に来てから特に他国を堪能するなんて無かったかもなぁ……。やってる暇ないけど……)

 デザイアの侵略行為を止めるために、出る予定もなかった自分の大陸からわざわざ出て来たのだ。観光など二の次どころか入れてはいけない。
 ただ、やはりそこは悲しきさがかな。遊ぶ目的ではないにせよ、初めて訪れた国を見て回れないのはどうしても損した気持ちになる。それもこれもグルガンとレッド以外が観光がてら内部情報を探りに街を散策したのが原因だろう。
 みんなが楽しむのを指を咥えて見ていることしか出来ないのは、レッドの心に少しだけ陰りを与えたようだった。

「ほらレッドっ遅れてんぞっ。ちゃきちゃき歩けっ」
「あ、ごめんっ」

 モミジと距離が開いていたのをオディウムが注意する。考えに耽っていたせいで注意力が散漫になっていたようだ。レッドはネガティブなことはなるべく考えないようにしようと心に誓いつつ歩調を合わせる。
 もうすぐ商店街を抜けるかと思われたその時、前方から2mを優に超える何者かが立ちはだかった。

「っ!?」

 最前列を歩いていたコウノキは驚いて鞘を握り締めたが、次の言葉で肩透かしを食らう。

「ほらやっぱりそうじゃないのぉっ。レッドよっ。レッド=カーマインよぉっ」

 高身長で肩幅のガッシリとした男性が振袖とふわっふわの真っ白なショーテールを身に纏い、レッドに手を振っている。その隣にはツインテールの女性が立っている。
 どちらもこの国の人間ではなさそうだし、女性に至ってはパンツスタイルの動きやすそうな服装であり、この国に合わせて着物を着ようという試みが全く感じられない。誰がどう見ても異国人だと分かりやすい2人だった。

「……知り合いか?」

 コウノキが肩越しにレッドを見るが、レッドは首を横に振る。コウノキはレッドの反応から鯉口を切ろうと指を刀の鍔に沿わせた。モミジもキッと睨むように大男を見る。

「ん? あっいや、待てよ? どっかで見たことがあるな……あ、そうだっ! あの時デザイアさんと一緒にいた人でしょっ!」

 レッドの言葉に身構えた2人がガクッと肩を落とす。「結局知り合いなのかよっ!」とオディウムには強めにツッコまれた。

「当たりっ。人ではないけどね」
「なに?」
「紹介が遅れたわね。私はグレゴール。色欲の魔神グレゴール=ブラッディロアよん。どうぞよろしく」

 まさかの魔神とのエンカウントに驚愕する。

「……っと、言われても魔神とはいったい……?」
「あれですよコウさん。浮島の……」
「なんだとっ! 何故浮島の主がこんなところで自由に歩き回っておるのだっ?!」

 グレゴールは懐から扇子を取り出してバッと広げ、口元を隠しながら悲しそうに演技し始める。

「およよ~っ……これには山よりも高く海よりも深い理由があるのよ~……」
「なにが『およよ~』ですか。面倒なので普通に喋れです」

 隣に立っているツインテールの女性は呆れた物言いでため息を吐く。グレゴールは会ったことがあるのを思い出したが、女性の方は全く知らない。

「んも~っ。フェイルちゃんったらご機嫌斜め?」
「名前を呼ぶなですよ。こんな奴らに覚えられたくはないです」

 魔神オーギュストの配下フェイル=ノート。魔神撃破とドラグロスの裏切りにより幸先が不安となったデザイア軍のこれ以上の戦力低下を防ぐべく立ち上がった献身的な部下。というよりもオーギュストの命、ひいては自分の命の危機を救うべくわざわざ龍球まで足を延ばしたのだ。

「冷めてるわね~。そんなんじゃ友達出来ないわよ?」
「いらないです。……しかし、ここで会ったが百年目ですレッド=カーマイン。お前のせいで低下した戦力の責任を取ってもらうですよ」

 フェイルは担いでいた弓に手を伸ばす。だがレッドはサッと頭を下げた。

「いや、すいません急いでいるもので今はちょっと……」
「えっ?」
「だからやることがあるので、今はその……時間が無いというか……」

 レッドは露骨に戦闘を避けようとする。フェイルは構わず弓を掴んだが、それをグレゴールが右手をかざして制する。

「……私を野放しにしても良いの?」
「そ、そう言われると不味い気もしますが、フェイルさんと違って着物を着ていますし、敵意も感じません」
「名前を呼ぶなです」
「あ、すいません……と、とにかくっ。グレゴールさんは悪い人には見えませんし、むやみに物を壊したりするような方ではなさそうなので。か、観光を楽しんでください」

 レッドはにへらと笑って見せた。その顔を見たグレゴールの目は少し見開かれる。

「ちょっと待てレッド。そういうわけには……せめて監視でも付けねば納まりが付かんっ」
「それなら大丈夫じゃない? 私が顔を出すたびに必ず監視は付いているみたいだし?」

 グレゴールの目がチラッと右に動く。それに気づいたコウノキはグレゴールの目の先を確認する。
 そこに居たのは店の外で器を持ってうどんを啜る人物。湯気の立つ熱々のうどんを豪快に啜る様は男のようだが、小豆色の長い髪と美しい顔立ちから女性に見える。
 汁を飲み干し、箸を器に置いた後、脇を水平に開いて両手を合わせて頭を下げる。やってることはおっさんと変わらないが、スッと立ち上がった時に見えた肩幅が狭く骨盤の広い女性特有の骨格で、男性であることを否定している。シュッとしたモデル体系で手足が細く長い。しかし小銭を投げて器の側に置いたり、店の中にいる店主に気付くように手を上げてお勘定の位置を指し示す行動はやはりおっさんのようだ。何よりも胸が平坦であることが勘違いしやすい部分だろう。
 女性にモテそうな女性を体現するこの人物にコウノキは見覚えがあった。

「あの莫迦あんな堂々と……っ!!」

 女性は爪楊枝を咥えてコウノキを見やると顎で商店街の外を挿して誘導する。それに従いレッドたちは商店街を出ると女性はコウノキ目と鼻の先まで接近する。

「ナガヨシィ、何やってんのよアンタ」
「その名で呼ぶなっ。お前こそここで何をやっている」
「ウチらはあいつを監視してんのよ。アンタこそ勝手な真似はやめなさいよっ」

 額を合わせる勢いで凄む女性を見て戦々恐々とするレッド。モミジはそんなレッドを見てコソッと紹介する。

「……フウカ=ミケネさん。セイリン家の乱波師。虎噤や走狗のような部隊は組織してないけど、忍者を鍛えて輩出してる結構すごい家柄だよ」
「そこっ!」
「はいっ!?」
「褒めるなら大々的にやりな。ウチそういうのは大歓迎だから。元気そうだねモミジちゃん」
「お久しぶりですフウカさんっ!」
「んで? そっちは?」
「え? あ、レッドです。レッド=カーマイン」
「あ~。例の異国人? 初めましてフウカで~す」
「ど、どうも……」

 商店街の外でやいのやいのとやっているレッドたちを見てフェイルは弓を取る。

「隙だらけですね。この距離は私の間合いです」

 ギュッと引き絞ると魔法の矢が出現する。それと同時にすぐ側の店から刃先が覗いた。

「おやめ下さい浮島の方。そいつを放っちまったらもういくさですよ? それだけはこっちとしても勘弁願いたいです」
「……人間風情が何人集まろうと一緒です。多勢に無勢なんて強大な個の前に無力なのですよ」
「あんたみたいな小柄なのが俺たちを捌けるんですかい? その自信があろうがなかろうが、関係ありませんがね」

 ずっと密かに囲んでいた草の者が小刀を抜いて戦闘態勢に入った。

「んも~っ。やめなフェイルちゃん。買い物に来たんだから争いはな~し。それにあなただけの間合いではないかもしれないわよ?」
「……は?」

 フェイルがグレゴールに質問する前にその意味を理解した。レッドが引き絞るフェイルを肩越しに見ているのが分かる。その瞬間、先ほどまで確かにあったはずの隙は消失し、レッドがフェイルの命に届く距離まで一息で詰めてくるイメージがくっきりと浮かぶ。

 ──ゾゾッ

 全身を駆け巡る冷ややかな感覚は恐怖によるものだと認識し、フェイルはすぐに弓を背中に戻した。

「ありがとうございやす。これで戦は回避された」

 部下たちもすぐに刃物を仕舞い、定位置へと戻っていく。フェイルの素直な様子にグレゴールは肩を竦めた。

「凄いわね、あの子」
「ふんっ! たまたまですよ。たまたまっ」

 フェイルは気に入らなかったのか肩を怒らせながら先へ先へと歩いていく。グレゴールはレッドから目を離すことなく口を開いた。

「……ドラちゃんをよっぽど信用しているようね。面白い子。もう少しドラちゃんの話を真剣に聞いてみようかしら?」

 グレゴールは鼻で笑いながら商店街へと消えていった。
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