「お前と居るとつまんねぇ」〜俺を追放したチームが世界最高のチームになった理由(わけ)〜

大好き丸

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17章 龍球王国 前編

335、同じ空の下

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「ふぅ……」

 トイレを済ませたレッドは流水で手を洗う。近くに掛けてあった手拭いで濡れた手を拭き取ると宴会場と化した部屋に戻るために歩き出す。

「レッド」

 廊下の隅で隠れるように立っていた人影が声を掛けてきた。腕を組んで待ってましたとばかりに現れたのは剣聖のブリジット。レッドが屋敷に到着し、食事をし始める前から席を外していた彼女は着物からいつもの服装に着替えて半身で立っている。

「ああ、ブリジットさん。どうかしたんですか?」
「……今大丈夫か?」
「はい。なんでしょう?」
「稽古に付き合ってくれ」
「え……い、良いですよ」

 レッドは食後のデザートを食べたかったが、せっかくの頼みを断るのもどうかと感じ、逡巡こそしたが了承した。ブリジットは初日こそみんなと着物を着て街を散策していたようだが、2日目からは敷地内の道場にいたようで、アレンに龍球王国の剣術の基礎を教えてもらったらしい。
 1日そこらで手に入れたにわか剣術ではあまり役に立たないかもしれないが、レッド相手に試したくなったというのが本音だ。

 道場に着くとブリジットは礼をして入る。この国の基本動作だ。レッドも初日にホウヨクがやっていたことを思い出しながら道場に上がる。
 場内の隅に置かれた木箱に何本も竹刀が立て掛けられているのを発見し、ブリジットに促されるままに1本手に取った。

「3本先取で……」
「それって1本はどうやって決まるですか?」
「無論、致命の箇所を打った時が1本。仕切り直すか、そのまま続けるかは1本取られた方が決める」
「あぁ。了解です」

 つまりホウヨクとやった時と一緒かと思いつつレッドは道場の真ん中に歩みを進める。しかしブリジットは背後を見せた瞬間に竹刀でレッドに襲い掛かった。

 ──ビュンッ

 ブリジットの竹刀は空を切り裂く。レッドは真っ直ぐ打ってきた竹刀を半身になって避けつつそのまま横一線に竹刀を振った。

 ──パチンッ

 竹刀同士が交錯する音が響き渡り、ブリジットは壁を蹴りながら間合いを開けた。

「えぇ、急に……やけに力が入ってると思ったらもう始まってましたか。ホウヨクさん……この国の人と試合形式でやった時とは違ったんで驚きましたよ」
「……そのホウヨクとの試合は?」
「あれはその……俺が……」
「でしょうね」

 床を踏み抜く勢いでブリジットは一気に間合いを詰める。しかし竹刀は後ろに下げたままで一向に打ってくる気配はない。目と鼻の先まで接近された時、レッドは剣を振りかぶって重心を前に移動させた。その瞬間、ブリジットは異様な足捌きを見せて左右に分かれた。
 残像の領域を超えた分身。左右に分かれたブリジットは一方が胴を、一方が足を狙って竹刀を振るう。

 ──トンッ

 レッドは奔る竹刀を飛び越えて回避する。空中で回転しながら分身で分かれた2本の竹刀を同時に狙った。
 弾いたのは胴の竹刀。左から通り過ぎようとした方を本物であると認識し、ブリジットの首に竹刀を当てようとした。
 しかし竹刀は空を切り、左に通り過ぎたのはただの影であることが判明する。レッドは豆鉄砲をくらった鳩のように驚いていた。その隙を狙いすましたかのように右手に居たブリジットは身を翻して竹刀を上段に構えたが、その場でピタッと静止する。
 レッドが背後に竹刀を突いてブリジットの首に切っ先を突きつけていた。

 ──パシンッ……タンタンッ

 弾いた竹刀が床に落ちて転がった。

「……1本」

 ブリジットは苦々しい顔でレッドのポイントを呟いた。
 その後は流れるようにブリジットが攻撃を繰り出すも、呆気なく2本取られてレッドに敗北した。

「最初のやつ凄かったですね。前にやった時は使ってなかったように思うんですけど、隠してたんですか?」

 レッドは浮かれ気味に声を掛ける。

「昨日覚えた。まだ完成じゃないけど……」
「き、昨日っ?! 凄いなぁ。俺あんな器用なこと出来ないから尊敬しますよっ!」

 ブリジットは相変わらずムスッとしていたが、修行の成果を褒められて若干頬を赤く染めた。

「足捌きの応用。アレンがこの道場でここの当主の剣術の『紫天一流してんいちりゅう』を習ってたから、それを自分なりに使いやすくした。レッドだってコツを掴めばすぐ出来るようになる。その運動能力を生かさない手はない」
「いやぁ……どうもこんがらがっちゃって。俺に出来るのはせいぜい死なないように立ち回るくらいですよ」

 竹刀を元の場所に戻しながら苦笑いするレッド。剣聖たちの攻撃をことごとく回避し、初めて使用した分身攻撃にも瞬時に対処したレッドの戦闘技術を鑑みれば、謙遜が逆に鼻につくというもの。だがレッドの性格を考えた時、茶化す気も見下した様子もないことは想像に難くない。

「……レッドは攻撃を回避出来ないことがあるの?」
「え? そりゃ俺にだってありますよ。魔法とかで全体攻撃とかやられたら確実に当たるじゃないですかっ」
「そう。点ではなく面の攻撃なら防ぎきれないということね」
「はい。ていうか皆さん同じでは?」
「魔剣の効力で避ける必要がないパターンもあるし、壁を作ることも一つ。レッドも魔剣を持てば便利さに気付く」
「はぁ、そんなもんですかねぇ……?」

 いまいちピンと来ていないレッドにブリジットは微笑む。
 壁はまだまだ高いと思い知らされて尚、絶対に上り詰めてやると思わされるのはレッドの人柄あってのものだ。出る杭を打つような傍若無人ならどこかで心をへし折られていたのかもしれないが、レッドにはそれがない。
 ブリジットは天才だ。1つ教えたら10のことが出来ると称される稀代の天才。剣聖の中で最も若いのはその才能あってこそ。
 いずれ到達するだろう剣の道の先はまだまだ遠い。

「何かと思えばあなたたちでしたか」

 道場の入り口に立つ人影。
 どんな時にも鎧を脱がない魔族。というより鎧が本体の魔族フィアゼス=デュパインオードだった。

「こんな時にもお稽古ですか? 真面目ですねぇ」
「フィアゼスさん」

 ブリジットはフィアゼスを見た瞬間に感情が抜け落ちたように無表情となった。

「……レッド。時間をどうも」
「あ……はい。また誘って下さいっ」

 ブリジットは特に反応せずにフィアゼスの隣を横切って道場を出て行った。

「ふっ……嫌われてますね。あなた」
「そ、そうですかね? フィアゼスさんはどうしてここに?」
「どうしてって……まぁ、夜風に当たっていたら音が聞こえてきたので気になっただけというか……」
「そうですか。俺は屋敷に戻ろうかと思うんですけど一緒に戻りませんか?」
「は? 勝手に戻ったら良いじゃないですか」

 フィアゼスはサッと身を翻して歩き去った。
 レッドはちょっぴり寂しい気になりながらも道場を出る。

「……俺嫌われてんのかな?」

 戻る最中に小さくため息を吐きながらポツリと呟くと、その陰気な雰囲気を感じ取ったのか声を掛けられた。

「レッドさーんっ」

 手を振ってきたのは食事の席に居なかったリディアは縁側に座っていた。そして隣にはアリーシャが座っている。2人で話でもしていたのだろうか。

「お団子いただいたんですよ。一緒に食べませんか?」
「──いわゆる月見団子、だそうです」

 レッドは皿に積まれた団子を見て顔を綻ばせた。

「良いんですか?!」

 フィアゼスに嫌われてることとデザートが食べられないと思って荒んでいた心が晴れる。
 アリーシャがレッドを手招きし、すぐ隣に座るように誘導してきた。何故かレッドだけ視認出来ないそうなので隣に呼んだのだろう。
 レッドは呼ばれるままに縁側に座り、3人で団子をつつき合う。甘く美味しい団子に舌鼓を打っていると、アリーシャが不安げな顔を見せた。

「──レッドさん。今日はその……どうでしたか? 何か進展はございましたか?」
「あ~……仲間が増えたくらいでこれといってって感じですかね?」
「早速仲間が出来たのですね。だったらこれからですよ」
「ありがとうございますリディアさん」

 レッドの言葉で特に気が晴れることはなく、アリーシャは一層顔が曇っていく。

「……どうかなさったんですか?」
「──いえ……申し訳ございません。不安にさせてしまいましたね。何となくですが、この国には負のオーラが溢れています。その毒気に当てられて少し気分が落ち込むことがあるのです。この国には何かあります」
「……何かって……何です?」
「──それはまだ。でも、気をつけて下さいレッドさん。何かあったらと思うと私は……」

 アリーシャは真剣な顔付きでレッドに注意喚起をする。レッドは頬張っていた団子を飲み下し、アリーシャの顔を見る。

「俺なら大丈夫です。不安に思われるのは何なのか分からないせいだと思いますので、分かり次第みんなにはお教えします。任せて下さい」
「──頼もしいお言葉ですね」

 アリーシャは団子を摘むとレッドの顔があるであろう場所に持ち上げた。

「アリーシャさん?」
「……『あーん』ですよレッドさん」

 ワクワクしているような顔でリディアは団子に指を差す。レッドはそんなバカなと思いつつも静止するアリーシャの手から団子を口で受け取った。

 ──バキィッ

 木が砕けるような凄まじい音がどこかで鳴ったが、家鳴りだろうと無視をする。

「──信じてますよ。レッドさん」
「は、はい。ありがとうございます」

 レッドはアリーシャとリディアの気遣いに喜んだ。

 明日もまた情報収集を頑張ろうと、より一層気持ちを強く持ったレッドだった。
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