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3章
21、新たなる脅威
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レッドは紙袋を抱えて街から出た。
アヴァンティアは路上で寝ることを禁止されているので街中で寝袋を広げることが出来ない。路上で寝れば衛兵に捕まってしまうので、ホームレスは街一番の教会が所有するだだっ広い市民会館をシェルターとして使用している。人を助けることを念頭に置く教会はこれに一時的に同意し、3泊だけ同じ人の寝泊まりを許している。
しかし流石のレッドもその辺のホームレスと同一視されるのは嫌なので、街を離れるしか道はなかった。
他の冒険者や市民に見られないようコソコソと森に入る。迷わないように商店で購入した黄色いリボンを、森に入った直後の木に巻き付けて滞在する場所まで伸ばす。
ある程度拓けた場所を寝る場所と定めて紙袋を置き、寝袋を広げて拠点を確保した。紙袋の中身はこれまた商店で購入した食料だ。
焚き火をするための木材を掻き集めて火を熾す。昔はプリシラに魔法で火を点けてもらっていたが、今は自力で火を点けている。
1人旅が板に付いて来た証拠だ。同時に仲間のいない自分を悲しく思った。
女神は暇なのか種火から焚き火にする様子をジッと観察していた。森で彷徨っていた時に何度も見せたはずだが飽きないのだろうか。
『気になったのですが、常人でもそれほど簡単に火が点けられるものなのでしょうか?』
「ん?ああ、野宿する奴の必須能力だからな。手際の良い奴ならあっという間に火を熾してくれるよ。野伏とかの職業なんかはちょっと目を離した隙に焚き火してる。え?いつ用意してたの?って驚いたことがあるなぁ」
レッドはゴソゴソと紙袋から食べ物を取り出す。調理器具を持ち歩かないレッドの主な食料はその辺の魔物を獲るか保存の効く干物である。
だが街を出たばかり、または現在のように街に泊まれない場合は食料事情は一変する。
新鮮な肉と野菜を一口大に切って竹串に刺す。これを焚き火で炙る。調味料を一振りすればバーベキューの完成だ。
『簡単ですね』
「こういうのでいいんだよ。こういうのでさ。1人で野営するのに手の込んだ料理なんてやりたくないよ」
レッドは水を入れた革袋を取り出し、飲み物を用意して夕食にする。お昼に食べた高級肉の味があまりのショックで感じられなかったからか、串に差した安い肉の方が美味しく感じてしまう。
革袋独特の臭いがほんのり飲み水から香ってくるのはご愛嬌。1人旅の醍醐味とも言える。更にアヴァンティアで有名なパン屋で買ったロールパンを頬張れば、気分が上がって心晴れやか。疲れもそれなりに消える。
これでミルレースと一緒に夕食を食べれたなら、共有感が生まれてもっと楽しめたとそこだけは残念に思う。
『美味しそうですね。私も一緒に食べられたら良かったのに……』
「!……おっ俺、俺も思ってた!一緒だとなお美味しいんだよな!」
『ふふっ、欠片が集まるまでの辛抱ですね』
ミルレースはレッドに優しく笑いかけた。
レッドは失念していた。冒険とは戦うことだけではない。共に過ごし、共に笑い、共に悲しむことが出来る。それも一つの仲間の形だ。
ビフレストに執着していたのは、ダンジョンで命を預け合えることもそうだが、友として触れ合うのが何より楽しかったからである。
どこかのチームに入れてもらえば昔を取り戻せると躍起になっていた。足掻けば足掻くほどに遠ざかる願いは実は直ぐ目の前にあったのだ。
欠片が集まるまでの特別な期間。ミルレースが完全に顕現すればきっと一緒に旅は出来なくなるだろう。
でも女神降臨の暁には1回だけなら一緒にごはんを食べてくれるかもしれない。
(料理か……覚えるのも悪くないかもな……)
レッドにまた一つ、ささやかな夢が出来た。
*
アヴァンティアからそう遠くない位置に廃れた墓地がある。ここは死の吹き溜まりとなって不死者が出没する地域となっており、直ぐ側には寂びれた神殿がポツンと建っている。
ここはヴォーツマス墳墓。誰が墓を作ったのか、何が埋まっているのか、そもそもいつ出来たのか。
全く詳細の分からない100年以上前から存在する人工物。名前もいつの間にか浸透していた曰く憑きの場所である。
ポツンと建っている神殿はダンジョンの入口だ。ここは腐敗臭がきつく、冒険者はあまり近づかない。
アンデッドは素材としての価値が低いのでほとんど換金出来ないというのも不人気の理由だ。
一応ダンジョン攻略を試みた者が居たが、分かったことは腐敗臭にはその内慣れることと、宝と呼べるようなめぼしいものなどほとんど存在しないということ。
いわゆるハズレダンジョンだ。
身の危険ばかりでリターンが少な過ぎる。これでは潜るだけ損というもの。ただ5階層までしか降りていないので、これから先に何かあったのかもしれないが、それは誰も知らない。
そんなダンジョンからヒョコッと顔を出したのは魔族である。相当数の魔族がわらわらと外にその姿を現した。
好き勝手に動き回る魔族たちは、各々が背中に生える羽根を広げ、示し合わせたかのように同時に飛び立った。
──バサァッ
夜空を駆る黒の大群は暗雲の如く月を覆い隠し、徐々に……徐々に……目標に向かってじわじわ侵攻を開始した。
目標は人間の街アヴァンティア。
いざ、蹂躙せん。
*
その夜、満月の光が煌々と世界を照らす頃。黒死の影が舞い踊る。
その殺気に当てられた冒険者たちは、何事かと目を覚まして外を確認する。微量ながらも背筋を走る悪寒が昼間の恐怖を思い出させた。
「あのプレッシャーは何かの凶兆だったわけか……」
冒険者ギルドの中でも1、2を争う強者、ライト=クローラーはテキパキと装備を整えていく。
腰に佩いた魔剣、魔法が付与された鎧、その鎧に装飾のように付いた手斧が2つ、手の先に刃物と両足に仕込まれた飛び出し式の2つの棒、これらを合わせた時に3mくらいの槍に変化する。
隠しナイフを10本と弦を引くだけで魔法の矢が射出可能な魔導弓を装着。全身武器だらけになりながらも首に巻いたスカーフや鎖帷子、腕輪や指輪などの魔導具で身体能力の底上げから回復能力まで備えたわがまま装備。
”人間武器庫”とは彼の異名だ。
彼は戦士というカテゴリーでは収まらない。ニール=ロンブルスの魔法剣士同様、彼だけに与えられた職業が存在する。
その名も武器の主。
「ライト!!」
ガチャッとノックをすることもなく飛び込んできたのはライトのチームメンバー。装備を全て付け終えたライトを確認し微笑んだ。
「……ふっ、もう準備万端って感じだね」
「ああ……みんなは?」
「大丈夫。みんないつでも行けるよ」
「よし。ロビーに集合しよう」
ライトの言葉を聞いた聖職者の女性は頷いて踵を返した。
冒険者チーム”ラッキーセブン”。リーダーのライト以外全員女性で構成された支援中心のチーム構成をしている。先ほどの聖職者と魔獣使い、死霊使いと吟遊詩人といった感じだ。最前線は全てライトが担う。
とはいえ全員戦えないわけではないので、前衛であるライトから万が一にも漏れ出た魔獣など、特に問題なく対処可能。ビフレストに次ぐ優秀な冒険者チームだ。
準備を整えたライトは部屋を出てロビーに向かう。久方ぶりの高級宿を堪能していたというのに、襲撃とは無粋なことだ。ライトは苛立ちを抑えつついつもの調子でチームに合流する。
「やあみんな。少しは休めたかな?」
ライトの優しい声音に女性たちが振り返る。ライトの顔を見て不安げだった彼女たちの顔から険が取れ、少し余裕が生まれた。
「もっとしっかり休みたかったけどね。まぁこれも力あるものの性質って奴?」
「お姉ちゃん何か気取ってない?」
「そーそー、そんな真面目ちゃんじゃないくせに~」
静かだったロビーはライトの到着で活気を取り戻す。それだけ不安だったということだろう。彼女たちも昼に感じた恐怖に押し潰されそうになって伏せっていた。
オキアミが鯨に飲まれる瞬間の絶望。絶対に助からない恐怖に腰が抜け、中には涙を流すどころではない粗相をしてしまった子もいる。あの瞬間は、個室で駄弁っていたことだけが唯一の救いだ。
さらにこの脅威は市民はおろか、ほとんどの冒険者も気付いていない。ある一定の水準に達したものにしか恐怖が分からないほど、途轍もない巨大な何かが一瞬だけ滲み出たのだ。
いや、これも一つの救いだったのだろう。もしも一般人レベルがこの脅威に気付いてしまったら、大恐慌を巻き起こしたに違いない。
今日死ぬかもしれないことを思えば、表情が暗くなるのも納得出来る。
「あ!ライトだ!」
ライトは聞き覚えのある声に振り返る。そこに居たのはニールが率いるビフレストだった。声を上げたのはプリシラ。
「久し振りだなビフレスト。プリシラは元気そうで何よりだ」
「何よ親になったつもり?相変わらず鼻持ちならない態度ね!」
険悪なムード。リックは近くに居たワンにコソコソと尋ねた。
「……あのライト=クローラーとプリシラさんとは何か因縁があるのか?」
「……あるヨ。元々はラッキーセブンのメンバーだったネ。よくある痴話喧嘩ヨ」
「そこ!聞こえてるからね!」
プリシラは整えた眉をキッと逆立てた。ニールはそんなプリシラの前に出て怒りを鎮めるように両手をかざした。
「まぁ落ち着いてよプリシラ。今はそんな場合じゃないだろ?」
ニールの言葉にプリシラはふんっと鼻を鳴らして外方を向く。苦笑いで頬を掻くニールにライトから話し掛けた。
「ふっ、そうか。つまり貴様らもこの殺気に当てられたというわけか」
「ああ、何かの悪意が近づいているのを感じてね。でもラッキーセブンが居るなら心強いよ」
「イベントはあまり乗り気ではなかったが、こうなってくると来て良かったと思える。これほどの危機はかつて無いからな……」
ライトの真剣な眼差しにジンが首を傾げた。
「ん?おいおい、その物言いだと何が来てるか分かっているような口振りじゃねぇか?お前らに因縁があるとか?」
「いいや違うさ。貴様らは感じなかったか?昼間に降り掛かった強烈なまでの恐怖を……あれが来たというなら、アヴァンティアは崩壊すると確信した。我々冒険者がアヴァンティアに揃ったタイミングとは、運が良いんだが悪いんだか……」
それを聞いたラッキーセブンとビフレストはリックを除いて神妙な顔になった。
「え?昼間?恐怖?……って何のことだ?」
リックただ1人だけライトの考える一定の水準に則していない。ビフレストの新人とはいえ、チーム内にレベル差が生じていることになる。それを起用しているのは今後の成長に期待してか、はたまたコネか。
ワンはリックをチラリと見たが、リックの肩を軽く2回叩く程度で特に何も言わずに正面を向いた。その行動からライトも察する。
「……冒険者の大半はそんなものだ。貴様には今後に期待させてもらおう。で?どうするつもりだニール」
主語もなく急に質問をするライトだったが、ニールには分かっている。
「うん。ギルド会館に一度顔を出すつもりだったけど、このまま街の外に直行する方が良いかもしれない。僕の勘がそう言っている」
「なるほど……賛成だな」
「でもでもライト。一応上には話し通しといた方が……」
ぶりっ子のように振る舞う見た目根暗な死霊使い。それを見たプリシラが「でもでも~」っと雑に真似して相手の神経を逆なでしている。
「よせ。遊んでる場合じゃないだろ」
「ギルドに連絡か……うん、彼女の言っていることは正しい。でも大丈夫。ちゃんとメッセンジャーが来てくれてるから」
そう言うニールの言葉に答えるようにバンッとけたたましい音を立てながら女性が駆け込んできた。
「はぁ……!はぁ……!あっ!ロンブルス樣!!クローラー樣も!!丁度良かった!私は冒険者ギルドの者です!」
慌ただしい女性の意図は分かっている。魔物か人間かは分からないが、とにかくこの街に何かが襲撃を仕掛けてきているのだろう。
ライトは感心したようにニールを見た。それに合わせてニールは笑い掛ける。
「ははっ、最高のタイミングだね」
アヴァンティアは路上で寝ることを禁止されているので街中で寝袋を広げることが出来ない。路上で寝れば衛兵に捕まってしまうので、ホームレスは街一番の教会が所有するだだっ広い市民会館をシェルターとして使用している。人を助けることを念頭に置く教会はこれに一時的に同意し、3泊だけ同じ人の寝泊まりを許している。
しかし流石のレッドもその辺のホームレスと同一視されるのは嫌なので、街を離れるしか道はなかった。
他の冒険者や市民に見られないようコソコソと森に入る。迷わないように商店で購入した黄色いリボンを、森に入った直後の木に巻き付けて滞在する場所まで伸ばす。
ある程度拓けた場所を寝る場所と定めて紙袋を置き、寝袋を広げて拠点を確保した。紙袋の中身はこれまた商店で購入した食料だ。
焚き火をするための木材を掻き集めて火を熾す。昔はプリシラに魔法で火を点けてもらっていたが、今は自力で火を点けている。
1人旅が板に付いて来た証拠だ。同時に仲間のいない自分を悲しく思った。
女神は暇なのか種火から焚き火にする様子をジッと観察していた。森で彷徨っていた時に何度も見せたはずだが飽きないのだろうか。
『気になったのですが、常人でもそれほど簡単に火が点けられるものなのでしょうか?』
「ん?ああ、野宿する奴の必須能力だからな。手際の良い奴ならあっという間に火を熾してくれるよ。野伏とかの職業なんかはちょっと目を離した隙に焚き火してる。え?いつ用意してたの?って驚いたことがあるなぁ」
レッドはゴソゴソと紙袋から食べ物を取り出す。調理器具を持ち歩かないレッドの主な食料はその辺の魔物を獲るか保存の効く干物である。
だが街を出たばかり、または現在のように街に泊まれない場合は食料事情は一変する。
新鮮な肉と野菜を一口大に切って竹串に刺す。これを焚き火で炙る。調味料を一振りすればバーベキューの完成だ。
『簡単ですね』
「こういうのでいいんだよ。こういうのでさ。1人で野営するのに手の込んだ料理なんてやりたくないよ」
レッドは水を入れた革袋を取り出し、飲み物を用意して夕食にする。お昼に食べた高級肉の味があまりのショックで感じられなかったからか、串に差した安い肉の方が美味しく感じてしまう。
革袋独特の臭いがほんのり飲み水から香ってくるのはご愛嬌。1人旅の醍醐味とも言える。更にアヴァンティアで有名なパン屋で買ったロールパンを頬張れば、気分が上がって心晴れやか。疲れもそれなりに消える。
これでミルレースと一緒に夕食を食べれたなら、共有感が生まれてもっと楽しめたとそこだけは残念に思う。
『美味しそうですね。私も一緒に食べられたら良かったのに……』
「!……おっ俺、俺も思ってた!一緒だとなお美味しいんだよな!」
『ふふっ、欠片が集まるまでの辛抱ですね』
ミルレースはレッドに優しく笑いかけた。
レッドは失念していた。冒険とは戦うことだけではない。共に過ごし、共に笑い、共に悲しむことが出来る。それも一つの仲間の形だ。
ビフレストに執着していたのは、ダンジョンで命を預け合えることもそうだが、友として触れ合うのが何より楽しかったからである。
どこかのチームに入れてもらえば昔を取り戻せると躍起になっていた。足掻けば足掻くほどに遠ざかる願いは実は直ぐ目の前にあったのだ。
欠片が集まるまでの特別な期間。ミルレースが完全に顕現すればきっと一緒に旅は出来なくなるだろう。
でも女神降臨の暁には1回だけなら一緒にごはんを食べてくれるかもしれない。
(料理か……覚えるのも悪くないかもな……)
レッドにまた一つ、ささやかな夢が出来た。
*
アヴァンティアからそう遠くない位置に廃れた墓地がある。ここは死の吹き溜まりとなって不死者が出没する地域となっており、直ぐ側には寂びれた神殿がポツンと建っている。
ここはヴォーツマス墳墓。誰が墓を作ったのか、何が埋まっているのか、そもそもいつ出来たのか。
全く詳細の分からない100年以上前から存在する人工物。名前もいつの間にか浸透していた曰く憑きの場所である。
ポツンと建っている神殿はダンジョンの入口だ。ここは腐敗臭がきつく、冒険者はあまり近づかない。
アンデッドは素材としての価値が低いのでほとんど換金出来ないというのも不人気の理由だ。
一応ダンジョン攻略を試みた者が居たが、分かったことは腐敗臭にはその内慣れることと、宝と呼べるようなめぼしいものなどほとんど存在しないということ。
いわゆるハズレダンジョンだ。
身の危険ばかりでリターンが少な過ぎる。これでは潜るだけ損というもの。ただ5階層までしか降りていないので、これから先に何かあったのかもしれないが、それは誰も知らない。
そんなダンジョンからヒョコッと顔を出したのは魔族である。相当数の魔族がわらわらと外にその姿を現した。
好き勝手に動き回る魔族たちは、各々が背中に生える羽根を広げ、示し合わせたかのように同時に飛び立った。
──バサァッ
夜空を駆る黒の大群は暗雲の如く月を覆い隠し、徐々に……徐々に……目標に向かってじわじわ侵攻を開始した。
目標は人間の街アヴァンティア。
いざ、蹂躙せん。
*
その夜、満月の光が煌々と世界を照らす頃。黒死の影が舞い踊る。
その殺気に当てられた冒険者たちは、何事かと目を覚まして外を確認する。微量ながらも背筋を走る悪寒が昼間の恐怖を思い出させた。
「あのプレッシャーは何かの凶兆だったわけか……」
冒険者ギルドの中でも1、2を争う強者、ライト=クローラーはテキパキと装備を整えていく。
腰に佩いた魔剣、魔法が付与された鎧、その鎧に装飾のように付いた手斧が2つ、手の先に刃物と両足に仕込まれた飛び出し式の2つの棒、これらを合わせた時に3mくらいの槍に変化する。
隠しナイフを10本と弦を引くだけで魔法の矢が射出可能な魔導弓を装着。全身武器だらけになりながらも首に巻いたスカーフや鎖帷子、腕輪や指輪などの魔導具で身体能力の底上げから回復能力まで備えたわがまま装備。
”人間武器庫”とは彼の異名だ。
彼は戦士というカテゴリーでは収まらない。ニール=ロンブルスの魔法剣士同様、彼だけに与えられた職業が存在する。
その名も武器の主。
「ライト!!」
ガチャッとノックをすることもなく飛び込んできたのはライトのチームメンバー。装備を全て付け終えたライトを確認し微笑んだ。
「……ふっ、もう準備万端って感じだね」
「ああ……みんなは?」
「大丈夫。みんないつでも行けるよ」
「よし。ロビーに集合しよう」
ライトの言葉を聞いた聖職者の女性は頷いて踵を返した。
冒険者チーム”ラッキーセブン”。リーダーのライト以外全員女性で構成された支援中心のチーム構成をしている。先ほどの聖職者と魔獣使い、死霊使いと吟遊詩人といった感じだ。最前線は全てライトが担う。
とはいえ全員戦えないわけではないので、前衛であるライトから万が一にも漏れ出た魔獣など、特に問題なく対処可能。ビフレストに次ぐ優秀な冒険者チームだ。
準備を整えたライトは部屋を出てロビーに向かう。久方ぶりの高級宿を堪能していたというのに、襲撃とは無粋なことだ。ライトは苛立ちを抑えつついつもの調子でチームに合流する。
「やあみんな。少しは休めたかな?」
ライトの優しい声音に女性たちが振り返る。ライトの顔を見て不安げだった彼女たちの顔から険が取れ、少し余裕が生まれた。
「もっとしっかり休みたかったけどね。まぁこれも力あるものの性質って奴?」
「お姉ちゃん何か気取ってない?」
「そーそー、そんな真面目ちゃんじゃないくせに~」
静かだったロビーはライトの到着で活気を取り戻す。それだけ不安だったということだろう。彼女たちも昼に感じた恐怖に押し潰されそうになって伏せっていた。
オキアミが鯨に飲まれる瞬間の絶望。絶対に助からない恐怖に腰が抜け、中には涙を流すどころではない粗相をしてしまった子もいる。あの瞬間は、個室で駄弁っていたことだけが唯一の救いだ。
さらにこの脅威は市民はおろか、ほとんどの冒険者も気付いていない。ある一定の水準に達したものにしか恐怖が分からないほど、途轍もない巨大な何かが一瞬だけ滲み出たのだ。
いや、これも一つの救いだったのだろう。もしも一般人レベルがこの脅威に気付いてしまったら、大恐慌を巻き起こしたに違いない。
今日死ぬかもしれないことを思えば、表情が暗くなるのも納得出来る。
「あ!ライトだ!」
ライトは聞き覚えのある声に振り返る。そこに居たのはニールが率いるビフレストだった。声を上げたのはプリシラ。
「久し振りだなビフレスト。プリシラは元気そうで何よりだ」
「何よ親になったつもり?相変わらず鼻持ちならない態度ね!」
険悪なムード。リックは近くに居たワンにコソコソと尋ねた。
「……あのライト=クローラーとプリシラさんとは何か因縁があるのか?」
「……あるヨ。元々はラッキーセブンのメンバーだったネ。よくある痴話喧嘩ヨ」
「そこ!聞こえてるからね!」
プリシラは整えた眉をキッと逆立てた。ニールはそんなプリシラの前に出て怒りを鎮めるように両手をかざした。
「まぁ落ち着いてよプリシラ。今はそんな場合じゃないだろ?」
ニールの言葉にプリシラはふんっと鼻を鳴らして外方を向く。苦笑いで頬を掻くニールにライトから話し掛けた。
「ふっ、そうか。つまり貴様らもこの殺気に当てられたというわけか」
「ああ、何かの悪意が近づいているのを感じてね。でもラッキーセブンが居るなら心強いよ」
「イベントはあまり乗り気ではなかったが、こうなってくると来て良かったと思える。これほどの危機はかつて無いからな……」
ライトの真剣な眼差しにジンが首を傾げた。
「ん?おいおい、その物言いだと何が来てるか分かっているような口振りじゃねぇか?お前らに因縁があるとか?」
「いいや違うさ。貴様らは感じなかったか?昼間に降り掛かった強烈なまでの恐怖を……あれが来たというなら、アヴァンティアは崩壊すると確信した。我々冒険者がアヴァンティアに揃ったタイミングとは、運が良いんだが悪いんだか……」
それを聞いたラッキーセブンとビフレストはリックを除いて神妙な顔になった。
「え?昼間?恐怖?……って何のことだ?」
リックただ1人だけライトの考える一定の水準に則していない。ビフレストの新人とはいえ、チーム内にレベル差が生じていることになる。それを起用しているのは今後の成長に期待してか、はたまたコネか。
ワンはリックをチラリと見たが、リックの肩を軽く2回叩く程度で特に何も言わずに正面を向いた。その行動からライトも察する。
「……冒険者の大半はそんなものだ。貴様には今後に期待させてもらおう。で?どうするつもりだニール」
主語もなく急に質問をするライトだったが、ニールには分かっている。
「うん。ギルド会館に一度顔を出すつもりだったけど、このまま街の外に直行する方が良いかもしれない。僕の勘がそう言っている」
「なるほど……賛成だな」
「でもでもライト。一応上には話し通しといた方が……」
ぶりっ子のように振る舞う見た目根暗な死霊使い。それを見たプリシラが「でもでも~」っと雑に真似して相手の神経を逆なでしている。
「よせ。遊んでる場合じゃないだろ」
「ギルドに連絡か……うん、彼女の言っていることは正しい。でも大丈夫。ちゃんとメッセンジャーが来てくれてるから」
そう言うニールの言葉に答えるようにバンッとけたたましい音を立てながら女性が駆け込んできた。
「はぁ……!はぁ……!あっ!ロンブルス樣!!クローラー樣も!!丁度良かった!私は冒険者ギルドの者です!」
慌ただしい女性の意図は分かっている。魔物か人間かは分からないが、とにかくこの街に何かが襲撃を仕掛けてきているのだろう。
ライトは感心したようにニールを見た。それに合わせてニールは笑い掛ける。
「ははっ、最高のタイミングだね」
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