「お前と居るとつまんねぇ」〜俺を追放したチームが世界最高のチームになった理由(わけ)〜

大好き丸

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5章

49、あり得ない事態

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「またのご利用をお待ちしておりまぁすっ!!」

 女性店員に深々と頭を下げられながらレッドはオリーと共に新調した服を纏って店を後にする。レッドは黒い衣装に身を包み、クロークも新しくしたが結局いつもと同じ格好。対象的にオリーは革のブーツに太ももまで覆うニーソックス、ピチッとしたホットパンツ、白いシャツにシックなコルセットを着け、裾の長い羽織物を着たオシャレな出で立ちだ。ベルトや宝石で飾っているのもポイントが高い。長い赤毛を結ってポニーテールにし、その美しい横顔を衆目に晒していた。

(かはっ!う、美しすぎるっ!!)

 ガクッと膝をついたのはライト=クローラー。ラッキーセブンのリーダーである彼は現在単独行動中だ。
 実はライトはレッドの動向を探るために朝一でホテル・アスクレピオスのロビーの一画を陣取り、出てくるのを待っていた。その理由はオリー=ハルコンだ。彼女に一目惚れしたライトは、高身長イケメン最強冒険者というハイスペックを武器にオリーの心を掴もうと画策していた。だが、拠点にしている黒猫亭に置いてきた仲間たちがわざわざ探しにくるという唯一の誤算でハートキャッチ作戦の中止を余儀なくされた。
 女の子たちにホテルに居たことを咎められたが、朝食を奢ることで機嫌を取り、ダンジョンにも潜って怒りを完全に鎮めることに成功する。任務クエストを終えて戻ってきたライトが、こりもせずホテルに張り込もうと単独行動中に偶然見かけたのがオリーの新衣装だったという流れだ。

(なんだ既にチェックアウト済みだったか。ここで見かけたのは幸運だったな……)

 レッドたちがホテル・アスクレピオスとは別の宿に入っていったのを確認し、ライトはようやく立ち上がった。
 ライトは悩んでいた。魔導国ロードオブ・ザ・ケインにて出会った最高の女性、オリー=ハルコンが頭から離れない。多くの女性たちが言い寄り、去っていったライトをってして最も美しいと唸らせる女性。そんな彼女が慕うのは今まで異性から引く手あまただったイケメンのライトではない。その名をレッド=カーマイン。ビフレストから追い出された剣士セイバーだ。

(レッドとオリー……か)

 ライトの悩みとはダンジョンに潜る直前にギルド会館で見かけた名簿の中のチーム名である。素朴で粗野で何も考えていないことが丸わかりのネーミング。昨日までこの2人のチームが存在していなかったのを踏まえると、出来たのは閉館ギリギリだったに違いない。

(こう言っては何だがショボい。彼女の美貌を何も表せていないじゃないか……これじゃまるでカップルチームのような……)

 好きな者同士が公の場で自分たちの愛を高らかに宣言するように作ると言われるカップルチーム。ジョークチームとして知られるこの試みは、作っても長続きしないとされている。
 当然これは冒険者にとって悪手。恋人同士で起ち上げたと一発で分かるチームは地雷である。まず仲間になったところで危険に遭遇した時に恋人以外なら見捨てられる可能性がある上、報酬の分配が恋人以外は露骨に少なかったり、そもそも分配するかどうかを渋られる場合もある。
 現に血縁者のみで固まっているグリズリーベアと呼ばれるチームに、短期募集で参加した冒険者は支払いを渋られた挙げ句、最初に提示された額の半分を渡された。冒険者ギルドに仲介を依頼し、グリズリーベアもようやく観念したのかお金は支払われた。ただし仲介料が発生して結局全額に至らなかったケースもあるのだ。

(……そもそも他の仲間を入れるつもりがないというわけか?俺たちの邪魔をするなと?)

 ギュッと握り拳を作る。気になる女性に見向きもされず、レッドには近寄るなと言わんばかりのカップルチーム。そこまで考え、ふと自分の行動に疑問を持った。

「俺は……結局どうしたいんだ?」

 オリーに振り向いてもらいたい。そのためにはレッドの存在がノイズとなって立ちふさがる。レッドの動向を探ろうと思ったのはオリーがレッドのどこに惚れたのか、何が要因となったのかを知るためだ。前は急げと動いたつもりが何も収穫はなし。仲間たちが探しに来なければ話くらいは出来たかもしれないと思うともどかしいものがある。

「……うん。もうこれしかない」

 ライトは薬で興奮したようなバキバキの目でうんうんと何度が頷きながら何かの覚悟を決め、拠点にしている黒猫亭に向けて歩き出した。



 レッドがグリードを撃破し、ライトが不思議な覚悟を決めた頃、ビフレストが評議国サルカントで動いていた。

「ビフレスト諸君。よくぞこの情報を届けてくれた。魔族の活発化が問題となっていると聞いていたが……まさかこれほどとは……」

 評議国代表の一柱であるエルフはニールから受け取ったヴォーツマス墳墓での作戦と、そのダンジョンの主ハウザーの情報に目を通して小さく頭を振った。湾曲したテーブルに腰掛けたヒューマン、ドワーフ、ハーフリングの代表も同じく頭を抱える。代表たちの苦悩を払拭すべくニールは仲間たちより一歩前に出た。

「ええその通りです。このままでは人間は魔族に滅ぼされるやもしれません。そこで提案がございます」
「ほぅ?提案とな?」

 ドワーフの代表がずいっと前のめりに聞く。ニールはコクリと頷き、腰の魔剣の柄に触れる。

「我ら冒険者に今以上の支援をお願いしたいのです。ダンジョンに潜り、謎多き地形やそこに住まう魔物の正体を知る我々こそが、魔族に対してより効果的なダメージを与えると自負しております」
「……ふむ。この報告書によれば、そなたたちビフレスト他数チームがハウザーを前に敗れているそうだが……そんなそなたたちを信じ、支援を増やせと言うのか?」
「そうだぞ。倒せる見込みはあるのか?」
「あります。高位の魔道具を進呈、あるいはダンジョンにある宝物庫などから手に入れることが出来たのなら、能力を一気に底上げし、魔族を殲滅することも夢ではありません。つきましては、チーム制を廃止し、冒険者の冒険者によるギルドの発足を認可していただきたい」

 その言葉に騒つく場内。

「き、君はっ!冒険者ギルドを解体しろと言うのか!?」
「いったいどれほど冒険者ギルドに助けられてきたと思う!任務の斡旋!報酬!チーム編成や交渉など様々なことで君たちを援護してきた!そんなギルドに君は恩義を感じないのか?!」

 ニールは呆れるように首を振った。

「いいえ、冒険者ギルドの解体を望んでいるわけではありません。今まで通り運営機関としての役割を持つ冒険者と顧客の仲介役を勤めることを望んでいるのです。ただ必要な時に必要な戦力の揃わない現状が間違っていると申し上げたいのです。例えば常にビフレストとラッキーセブン、シルバーバレットや風花の翡翠が動かせる固有のギルドがあればダンジョン攻略は容易です」
「そのような……上位陣だけが揃えば必然弱く使えない冒険者たちが出てきてしまう。失礼、冒険者をけなしているつもりではないのだが、どうしてもそう言う考えが出てきてしまうのだよ。つまりだね、能力に差異が出来れば国ごとのバランスが取れないではないのか?もし万が一にもアヴァンティアのように魔族に攻められでもした時、防ぎ切れずに壊滅してしまうのではないか?そう言う不測の事態に対処出来るかどうかも考えてから提案をしていただきたいのだが……」
「アヴァンティアは運が良かっただけです。もし冒険者ギルドがイベントを開催していない状態だったなら、あれほどの冒険者は集まりませんでした。各国に分散しているチーム制では編成に限界があり、これからの戦いに不向きです。視野を広げてください。ギルドを一般化出来れば、さらなる飛躍が臨めると私は確信しているのです」

 評議委員はこそこそと話し始める。ニールの提案は現在の冒険者ギルドの衰退を意味している。ギルドを冒険者同士で勝手に立ち上げられれば今まで抱えていた顧客の信頼は失墜。どころか個人で立ち上げたギルドに顧客を取られかねない。冒険者ギルドに支援を送りつつ、成功報酬なり何なりでそれなりに手数料を得ている身としてはニールの提案は看過出来るものではない。

「……君の……君たちの活躍には感謝している。しかしこの提案はよく思案する必要がある。申し訳ないがこの場で決められるものではない。追って知らせるゆえ、他に報告がなければ評議会を閉めさせてもらう」

 評議委員の反応からニールの提案は却下されたと判断する。ビフレストは会場を後にし、立派な門から退城した。

「おいニール。何だったんだよさっきのは?」
「そうよそうよ。ギルドの一般化?そーゆーの全然聞いてないんだけど?」
「まったくネ!もし認可が通ったとしてヨ?今後のビフレストの活躍はどうなる算段だったネ?!分かるように説明するヨロシ!!」

 ニール以外の仲間たち全員が寝耳に水の提案だったため、退城と同時に不満が噴出する。リックが率先して不満に対して宥めるような仕草をする。

「まぁまぁ。そういうのニールが考えてないワケ無いだろ?抜け道の1つや2つ用意しているに決まってる」
「そうですよ。御三方とも落ち着いて、ここは冷静に話し合いを……」

 ローランドもニールを擁護する。ニールは仲間たちの不安や不満を特に気にすることはない。

「……今の冒険者ギルドの運用方法は最適ではない。冒険者の成れの果てのような連中が上にいるようでは、人の絶滅は免れないだろう。みんなはそう思わないか?」

 ニールは相変わらず仲間たちとは違う視点から語っている。黙って聞いていたアルマもそろそろ我慢がきかなくなった。

「急に何を言い出すんだ。この体制で長らくやって来たってのに……」
「だから改革が必要なんだ。そう、僕らが引っ張っていくんだ」
「傲慢が過ぎる。人は”他者が”ではなく”己自身が”引っ張っていくことこそ正しい。そのために冒険者ギルドが導き、我らはただ示すだけだ。冒険者としての指針をな」
「ならばせめてもっと強くあるべきだ。まだ鍛えられるなら身体能力を鍛え上げ、身体能力に限界があるなら魔道具で補う。僕らにもまだあるはずさ。余地って奴が……」

 ニールは魔剣を握りながら陶酔した顔を見せ、すぐ踵を返して宿に向かって歩き出す。使命感に満ち満ちた割に足取り軽いニールの後ろ姿を、仲間たちはしばらく呆然と見ていた。

「……あいつどうしちまったんだ?今のギルドを潰してでも冒険者全体のまとめ役をやりたくなったとか?」
「自らギルドを立ち上げようなんて公言していましたし、ドリームチームでも作りたかったのかもしれません」
「う~ん……あの魔剣が手に入ってからどうも様子がおかしいと思うのよね~。真理でも見ちゃった?」
「あり得る」
「それヨ。魔道具うんぬんはアレから来てるネ」
「ま、今はさ……ほっとこうよ。いつもそうだっただろ?」

 ビフレストに若干の不和が生まれていた。ニールは心の底から仲間との考えの違いに呆れていた。

(僕は既に次のステージにいるというのに悠長なことだ……やはり同じレベルでなくては会話にならないのか?ふふ……これがお前の見ていた世界か?なぁ、レッド)

 ヴォーツマス墳墓に保管されていた魔剣レガリア。所持者として認められたその瞬間に能力の大幅な上昇を感じ、人の身では到底辿り着けない境地へと足を踏み入れた。超一流を自負するビフレストの仲間たちを全員相手にしても子供扱い出来るほどの力を手に入れた。もう何も怖くない。

(力を持ってしまったものの代償……というわけか。今ならお前の気持ちが分かる。あの時の独りよがりな戦いはお前にとって普通のことだったんだ。いや、弱者ぼくたちのことを考えて魔物を狩っていたのかもしれない……すれ違いとは恐ろしいな)

 そう思えば当時の自分たちは狭量だったと言わざるを得ない。恥ずかしいとすら思える言動に反省しつつ、魔剣の手触りを心地良く感じながら、ふと視界に入ったギルド会館に衝撃を受けた。

「な……んだと?!」

 ニールは思わずバッとギルド会館に飛び込む。仲間たちはニールの行動に驚いて急いで追うが、全員ギルド会館の前で立ち止まった。ニールの見ていたものをその目にしたから。ビフレストの中でニール以上に驚いたのはおそらくプリシラだろう。

「は?ラッキーセブンが……解散?そんなの嘘でしょ?」

 一瞬の思考停止。冒険者チームでトップレベルの強さを誇り、冒険者をやっている全ての人族がその名を知るほどに有名なチーム。リーダーのライトを中心とし、女性だけで組まれた男が羨むハーレムチーム。そんなみんなの憧れとも言えるチームの解散報告がギルド会館前の掲示板に貼られていた。

「こりゃぁ……なんの冗談だい?」

 ジンは目を丸くし、口をあんぐりと開けながら驚愕している。ジンだけではなく、仲間全員が同じリアクションをとっていた。理解が追いつかずに張れた書面を穴が空くほど読んでいると、ニールが俯きがちに館から出てきた。

「ニール!!」
「事実のようだよ。……こうしてはいられない。すぐにライトに会いに行く」
「おいおい、ライトに会ったところでどうなる?もう解散してんだぞ?」
「何故今解散したのか、何のためなのか……少なくともこの2点は聞かなくてはならない。今後の戦いにラッキーセブンは絶対に必要なんだ」

 プリシラはニールのこの判断にその通りだと千切れんばかりに頭を縦に振る。ジンやアルマは難色を示すものの、プリシラの圧が強すぎてライトに会いに行くことが決まった。

「……ど、どうなっちまうんだよ……」

 リックはこの流れについていけずに震える。ローランドもリック同様に内心慌てていたが、リックの慌てぶりに冷静さを取り戻した。

「神のみぞ知る……ということでしょうか」

 ビフレストはその日の内に評議国サルカントを出国。魔導国ロードオブ・ザ・ケインに向けて旅立った。
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