「お前と居るとつまんねぇ」〜俺を追放したチームが世界最高のチームになった理由(わけ)〜

大好き丸

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9章

90、噂

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 噂とは風のようなもの。
 風帝フローラはライト=クローラーを探して各地を飛び回る。特に休む必要もなく飛び回る彼女の耳に入ってくるのは女神討伐の噂だ。

「おい、あの奇天烈な異常気象が女神の仕業だって知ってっか?」
「おお、聞いた聞いた。噂になってんべ」
「生きてりゃ凄ぇことに遭遇するもんだなぁ……」
「でもよ、噂を流してんのは女神教って噂もあるべ?となるとよ、神様の威光をかたったって可能性はねーべか?」
「神様ってのはマジでいると思うぜ?あの現象はそうでもなきゃ説明つかねーもん」

 どこへ行っても女神の話で持ちきりだった。神の怒りに触れただの、神の気紛れだの、女神教の頑張りで女神は復活したが何もしてくれず飛び去っただのと様々な噂が飛び交っている。
 一般人だとこのくらいの解像度だが、冒険者の間ではだいぶ違ってくる。それというのも天変地異を起こすほどの大災害たる女神を、ある1人の冒険者が討伐したという噂だ。
 剣士セイバーレッド=カーマイン。
 討伐が事実であるかどうか真偽不明のはずだが、今やこの名を口にしない冒険者はこの世界に存在しない。
 何よりも問題なのは何故それほどのことを為したとされる男がビフレストという今一番有名なチームから追い出されたのかということ。元々あったレッド最弱説と女神討伐説という両極端の噂が矛盾を生んでいる。これについてビフレストからの声明や回答はなし。噂話は眉唾として片付けられそうになった。
 この矛盾を取っ払ったのは魔族に拉致されたルーシー=エイプリルとシルニカである。かなりの功績を持つ人気チームを牽引する2人の女傑。たまたま居合わせたレッドの実力を間近で見てしまった2人は、誰に何と問われても自信を持って答えられた。「レッド=カーマインならあり得る」と。

『ま、当然じゃな』

 ふふんっと鼻を鳴らしながらフローラは勝手に得意げになる。フローラが見出したライトが惚れ込む男という間接的に関わっている状況にしたり顔が止まらない。

『……ん?』

 なにやら不穏な空気を感じる。数々の噂の中にあるのは懐疑や賞賛、嘲笑や嫉妬といった感情が大半である。しかしフローラが感じた念はもっとドロドロとした暗く淀む憎悪に近い感情。
 何故ここまで醜く歪んだ感情を露わにしているのか気になったフローラは、好奇心を刺激されて負の感情の根源を探し出した。
 そこは高級と言って差し支えない豪華な宿屋だ。街で一番大きく、泊まっている客はみんな一流であると想像させられる。そんな高級宿の一室で、苛立つ男が居た。冒険者ギルドが保有する最高の冒険者チーム"ビフレスト"。負の感情の根源たる彼の者は、チームに入って1年目の新人剣士セイバーリック=タルタニアンだ。

「……チッ」

 リックは舌打ちをしてボトルの酒をグラスに注ぐ。やけ酒であることは一目瞭然だが、何をそんなに怒っているのか。気になってしばらく様子を見ているとリックがブツブツと呟き始めた。

「噂が本当なら……俺は何のために……」

 昔の仲間を追放してまでチームへの加入を許されたリック。自分は選ばれし存在なのだと当時は相当浮かれていた。
 少し前だが、加入1年記念にレッドの追放理由を仲間に聞いて回った。どんな奴だったのか興味が湧いたのはもちろんのこと、ビフレストの足を引っ張りまくったヤバい奴を嘲笑してやろうというゲスい気持ちもあった。
 うんざりして話したがらない仲間たちを見ながら、どれほど迷惑していたのかと同情すると同時に心が躍った。しかし、ニールの話してくれた内容はおおよそ自分の考え得る追放理由とは大きく異なっていた。
 強すぎるがゆえの追放。何を言っているのか全く理解出来なかった。内心理由になっていないとすら思った。あまりに馬鹿げているではないか。
 レッドと話してみて真剣に思ったのは、口下手で要領の得ない底辺野郎である。だから正直レッドが手に負えないレベルで強いなど信じられなかった。実績がなさ過ぎることが大きな要因だろう。
 だがルーシーとシルニカの話を聞いた時、冗談の類ではないと悟った。
 女神討伐が本当だとして、それなら益々追放の理由が分からない。その力を利用すれば良いだけだし、側に置いておいて損などし得ない。レッドを利用しなかったのはみんなの言葉をまとめると『矜持が邪魔をしたからだ』となる。冒険者として、実力を出せない冒険などお断りだということだ。

「矜持?はっ!かせよ……ただ自分たちが劣っていると感じるのが嫌だっただけだろ。……はっ!?えっ?!……つまり俺を加入させたのは……!!」

 ビフレストが何故自分を加入させたのかにリックは思い至ってしまった。その瞬間に頭にカッと血が上り、自分を抑えられなくなった。アルコール度数の強い酒を一気に喉に流し込むと、空になったグラスを壁に投げつけ、粉々に砕いた。さらに瓶口に口を付け、喉を鳴らして体内へと流し込む。流石に全部は飲みきれなかったが、許容限界まで摂取したアルコールはいつものリックの思考をもぎ取った。壁に瓶を投げつけ、ガラスと残った酒が飛び散る。

「っざけんな……!俺は恵まれているんだっ!!なのに……何で俺がこんな目に……!!」

 嗚咽を漏らしてボロボロとこぼれる涙。その一部始終を見たフローラは哀れみに満ちた目でリックを軽蔑する。

『はんっ、難儀なもんじゃのぅ。人間というのは』

 興味関心を失ったフローラはライトを探すためにその場を離れた。
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