「お前と居るとつまんねぇ」〜俺を追放したチームが世界最高のチームになった理由(わけ)〜

大好き丸

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9章

95、死の谷

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 レッドたちはステラの荷馬車に揺られながら死の谷の入口に辿り着いた。ここまでの道中、常に警戒していたものの、特に魔獣に襲われることもなかったために終始平和な旅となっていた。
 だからだろうか、死の谷を前にして恐怖から震えが足から来た。これなら魔獣たちが2、3匹でも襲ってきてくれた方がステラもレッドたちの実力も知れて安心出来ただろう。

「これが死の谷かぁ……」
「常に霧に覆われた呪いの土地。噂通りらしいな」

 ライトの指摘通り、濃霧が邪魔をして岩肌もまともに見ることが出来ない。ずっと続く濃霧の壁は、来るもの拒まずさりとて逃さず、見るもの全てに忌避感を覚えさせ立ち入りを戸惑わせる。
 中は入り組んでいるのかそれとも単調な一本道か、どんな魔獣が生息しているのか、何故誰も戻ってこられないのかなど尽きぬ想像を掻き立てられる。

「……時間も無いですし、先に進みましょう」

 ステラは萎縮してしまった心に喝を入れ、馬に先に進むように指示を出す。馬はあまりの前の見えなさに躊躇したが、急かす縄に従って前に進む。レッドが不安そうに周りをキョロキョロしていると、オリーがそっと肩に手を置いた。

「レッド、安心してくれ。私は休息を必要としない。見張りは任せてくれ」
「いや、そういうわけには……」
「そうだオリーさん。誰にだって休息は必要だ。ステラさんにもしっかり休んでもらう」
「い、いや私は結構です。馬の世話をしなければなりませんし……」
「それは大丈夫です。馬術が使えますので操縦は任せていただきたい」
『おやおや?は何でも出来るのかい?』
「何でもというわけにはいかないが、スキルは使えるに越したことはない。役に立ちそうなものは粗方取得している」
『ほーん』
「そうなんですね。で、でも私の馬は少し扱いにくいと言いますか……」
「それでは一度交代してみましょう」

 ライトはステラから手綱を受け取り、荷馬車を転がした。一見ただ受け取っただけのように見えたが、これはステラに衝撃を与える。

「え?!な、なんで……」

 馬が止まったりなどの操縦不能の状態にならず通常通り歩いている。ステラが初めて手綱を握らせてもらった時は馬がその場から頑なに動こうとせず、父親から大笑いされたことがあるというのに。

「ステラさんの手綱捌きを側で拝見しました。かなりクセの強い馬ですね」
「わ、私の手元を見ただけで?」
「ええ、覚えるのは得意なので」

 そんなレベルではない。模倣の領域を超えている。

鏡写しミラーリンクかえ?』

 スキル鏡写しミラーリンク。超希少なスキルであり、見ただけで相手の技術を物に出来る。秘匿されたり、こっそり開発した技や魔法などでも使用しているのを一目見れば、同じ動きや魔法を行使することが出来ると言われる凄まじいスキルだ。

「そんな大げさなものじゃない。物覚えの早い冒険者なんてこの世にはごろごろいる。俺はその中の1人。単なる一芸に過ぎないさ」

 ライトは相変わらず宙空に目を向けて独り言を呟く。不思議なのは本当に会話しているようなだ。ちゃんと会話しているかのようなテンポとタイミングが何とも言えない。ステラは意を決して尋ねることにした。

「あ、あの。失礼な質問だったら申し訳ないのですが、先程から何に……誰に話し掛けているのでしょうか?」
「ん?ああ、精霊に話し掛けているのです。不快に思われたならすいません」
「せ、精霊?」

 ステラはライトから距離を置くように上半身を少し反らす。懐疑的な目を向けて信じられないといった視線だが、ライトは馬に集中しているためか気にしていない。そんな様子を見てレッドは穏やかに笑った。

「あ、懐かしいなぁ……俺もそんな目で見られてましたよ。ミルレースと旅してた時は特に……」

 レッドは目を瞑りながら昔を思い出している。ステラがその声に反応して振り返ると、レッドの微笑みに対してオリーは神妙な顔でまっすぐ虚空を見つめている。まるで触れてはいけないことに触れてしまったかのような雰囲気を感じた。

(いったい何なの?このチーム……)

 ステラは更に懐疑的になる。ライトが一緒に来てくれることで浮かれていた気持ちも完全に冷めてしまい、早く仕事を終えたいと心から願っていた。

 ガタッ

 そんなことを思っているとオリーが立ち上がる。

「これはまさか……」

 尚も虚空を見つめるオリーに、また精霊に話しかけ始めたかとステラは呆れる。しかし、その予想は外れていた。

 ……ォオ……ガンッ

 大きな何かが一気に急接近し、挟み込まれる。

「きゃあっ!!」
「おわっ!!」

 ステラはいきなり現れた何かと耳をつんざく音に驚いて身を屈めた。何が起こったのか恐る恐る目を開けると、そこには汚れ1つ無い綺麗で巨大な骨の手が、両側から挟み潰そうとしてきたのが分かった。
 キリキリと金属が擦れるような音がするばかりでステラたちを傷つけることはない。まるで見えない壁に阻まれているかのようだ。

「安心してください。オリーさんが魔法で透明の壁を作っています。この程度なら破壊されることはありません」
「……け、結界ですか?」
「魔障壁だ。結界とは似て非なるもの。しかしまさかあの方と戦うことになるとは……何故今まで気付かなかったのか……」
「えぇ?!しし、知っているのかオリー?!」
「ああ。私の記憶が正しければだが……」
『ほぅ?気付いたか。じゃがもう逃げられんぞ?』

 フローラは楽しそうに含み笑いで成り行きを見守る。レッドがオリーに質問しようと身を乗り出した時、馬車の後方からじわっと滲み出てくるように巨大なトカゲの頭蓋骨が姿を現した。

「!?」

 馬も恐怖から足を止め、ステラとレッドはビクッと体を弾ませる。出てきた骨を凝視していると段々と全体像が見えてきた。それはドラゴンの骨。目玉があったであろう眼孔には青い炎が揺らめき、目の代わりを務めるかのように煌々と光る。肉や皮膚に覆われることのなく、細かい骨も一つとして脱落することなく繋がり、まるで博物館の展示品がそのまま動いているかのような姿。
 アンデッドドラゴン。無念の死を遂げた亡きドラゴンとも、アンデッド同士が寄り集まってドラゴンを形成した怨念の集合体ともいわれている。その存在はかなり希少で、ハウザーが所有していたヴォーツマス墳墓には居なかった。レッドも見るのは今回が初めてであり、恐怖と驚きから目玉が飛び出そうなほど目を見開いてアンデッドドラゴンの動向に注視している。
 ライトはレッドの恐怖を感じ取りながら冷静に周りにも意識を配った。

「アンデッドドラゴンか……一度戦ったことがあるが、生きているドラゴンに比べれば脆弱だ。前はチームで1体仕留めるのに総掛かりだったが、今なら1人でも倒せるだろう。だが……」

 ぐるっと辺りを見渡したライトの目に映ったのは馬車を囲む無数の青い炎。

「チッ……全部倒すのは骨が折れそうだ」
『アンデッドだけにかえ?……ふひひっ!冗談じゃ冗談。そう怖い顔をするなぁ~』

 フローラはニヤニヤしながらライトの険しい顔を茶化す。2人の会話に混ざるようにレッドが口を挟む。

「え?ちょっ……ちょっと待ってください。この状況は何度か経験したことがあります。もしかしたらですけども、このあと俺たちの前に何か凄い方が出て来る予感がするのですが……」

 不安げに話すレッドの予感は的中する。
 荷馬車の真正面からぬぅっとアンデッドドラゴンが顔を覗かせる。その額部分を削り、座れるように飾り付けた箇所に腰を掛けるチャイナドレスの女性。
 陽の光に当たっていない不健康そうな真っ白な肌。濡れそぼったような艶々の黒髪に歪で重そうな角が生えた頭。瞳はアンデッドドラゴンのように青く輝き、片眼鏡を掛けた聡明そうな顔。高身長でスタイル良い身体。豊満な双丘とムチムチの太ももが淫靡な雰囲気を醸し出す。手に持つパイプ煙草からの煙が意味深にくゆる。

「ご明察だレッド。あれは屍竜王ウルウティア。世界の始まりから存在していると云われる最古の竜だ」

 パイプ煙草を咥え、煙を吸い込みながらレッドたちを舐め回すように見渡し、ゆっくりと肺に溜まった煙を吐き出した。

「あらあら……何故かまだ潰れずに形状を保つ荷馬車の姿があるわぁ。どうしてかしらねぇ?」
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