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10章 過去編
119、命がけの説得
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「よくもノコノコと顔を出せたものですねグルガンさん?恥を知りなさいっ!!」
着いて早々ベルギルツに怒鳴られた。裏切ったアレクサンドロスが何もなく迎え入れられるとは思っていなかったが、この大事な局面に糾弾する相手を間違っていると考える。
「まぁまぁベルギルツさん。少し落ち着いてはどうでしょうか?まずは相手の出方を見てから反応しましょうよ」
「甘すぎますねミラージュさんはっ!!」
ぷりぷりと頭に蒸気を上げながらもミラージュの意見に従いベルギルツは一歩下がる。アレクサンドロスはベルギルツのことは心から嫌いだがミラージュのことはある程度気に入っている。1番気に入っているのはどんな時でも腕を組んで様子を窺っているロータスだ。まったく表情を崩さないその冷静さが好きだ。
「それで……ここに来たということは女神関連であろう?」
訂正しよう。話の早いフィニアスが1番だ。
「ええ。その通りでございますフィニアス様」
ここまで黙っていたアレクサンドロスはいつも以上に真面目な顔でフィニアスを見つめた。
「ここにお集まりの皆さんもお気付きのことでしょうが、女神ミルレースには今のままでは勝てません。デザイア様も女神による被害にその御心を痛めて御出です」
「デザイア、様?あなたオルベリウス公に対して不敬ではありませんか?!」
「……黙れベルギルツ。そこは問題ではない」
「でもまぁファーストネームで呼ぶことを許されるほど気に入られているということは余程上手く取り入ったと見て間違いないでしょう。やり手のグルガンさんには頭が下がるといいましょうか、開いた口が塞がらないといいましょうか……ともあれそんなやり手のお方が頭を下げてまで来た理由など何となく察しがつきますが……」
ミラージュの発言に少しも動じることなくアレクサンドロスはフィニアスの前に跪く。顔を上げて睨みつけるような眼光で腹の底から唸るように声を出す。
「共に手を取り合って女神を討伐致しましょう。この世界に害を及ぼす災厄を滅ぼし、我らの世を取り戻すのです。もちろん女神を討伐するまでの間は派閥争いを休戦。食料の提供から魔道具の貸し出しまでを派閥間なく行い、戦力増強に従事。女神討伐が成ればその武勲武功から報奨を別途進呈。こちらからは上乗せで領土を一部譲渡しましょう」
「それはデザイアも承知のことか?」
「委細承知のことでございます」
「信用出来んな。デザイアがそのような譲歩をするわけがない。大方我らすべてが軍門に下るように命令され、こねくり回した末の今であろう?我らを欺くのはお前の専売特許だからな」
「……私はあなた様の元から去った裏切り者でございます。私をさぞお恨みのことでしょう。だからこそあえて、いつでも攻撃可能なようにこうして1人、死する覚悟を持ってあなた方の前にはせ参じ、女神打倒を懇願しているのでございます」
「軽々しく命を口にする。魔族がどれくらい犠牲になったか聡明なお前になら分かっているだろう?それをなんだ?お前の命一つで何を……」
「なればこそ!ここが最後の分岐点にございます!!」
ガッと胸倉に掴みかかるような声にハッとする。
「私をここで殺すのならば好きにするがよろしい。それで絵物語のように世界が救われるというのならこの首を差し出しましょう。しかしながら!これは現実の話でございます!!我が命を犠牲に得られるものなど一時の快楽のみ!私は全身全霊を以って女神に挑み!世界を救わんとこの身を捧げる所存!!」
獅子の咆哮が響き渡る。壁際にインテリアのごとく立っていたデーモンたちも思わず身を引き締めるほどの声音にベルギルツは焦りながらフィニアスを見た。
「い、勢いだけで乗り切れると思ったら大間違いだぞ!そうですよね?!フィニアス様!!」
「黙っていろベルギルツ」
「フィ、フィニアス様……?!」
静まり返った部屋でフィニアスは一つ深呼吸をした。
「……お前の覚悟は分かった。本当ならばこの場で八つ裂きにしてやるところだが、そういうわけにもいかないようだ。デザイアから書面の一つでもあればその提案に乗ろう。近日中に用意出来るか?」
「ええ、実はここにその書類がございます」
「はぁっ!?あ、あなたは!?ならば何故先の茶番を入れたのですか?!」
「偽物だなんだと大騒ぎされ、大切な書類を破られでもしたら一大事でございます。フィニアス様の御前で私の言葉を少しでも信じていただけた時に出すべきであると判断いたしました。何せ私は心配性でして……」
ベルギルツは肩を怒らせぷるぷると震えている。きっと仮面の下は歯を食いしばり、顔が真っ赤になるまで気張ってしまっていることだろうがアレクサンドロスには心底どうでもよいことだ。
「ロータス。書類をここへ」
「はっ」
アレクサンドロスの危惧を汲み取ったフィニアスは書類の受け取りをロータスに任せ、無事に書類をその手に収めた。書類の中身に目を通し、デザイアのサインを確認すると覚悟が決まったと目を閉じる。
「……今後はデザイア陣営とも連携を取り、最大火力を以って女神を討伐する。皇魔貴族が未来永劫繫栄するためにこの時代で決着をつけるぞ」
「ははっ!!」
ザザッとこの場にいた全員が跪く。
「差し当ってグルガンよ。今後のことを話し合うにデザイアとの密な情報交換が必要となろう。すぐにも会談の場を設けよ」
「その必要はありません。私がデザイア軍の全指揮権を委ねられていますので、話は私が聞きましょう」
「なっ!?そんなバカな話が……!?」
「すべて書類に記載されております。もちろんデザイア様も必要な場には顔をお見せになられるでしょうが、基本的に私が受け持ちますのでどうぞよろしくお願い申し上げます」
そこでようやくニヤリと顔をゆがめて見せた。その不遜な表情に恐怖を感じるとともに何故だか安心感を覚えた。この男ならば何かやってくれるのではないかという安心感だ。
「くくく……デザイアめ。この期に及んで戦力を見せぬつもりか……よかろうグルガン。いや、アレクサンドロスよ。お前をデザイア軍の総大将として認める。我が軍の総大将は……ミラージュ。お前が指揮を取れ」
「畏まりましたフィニアス様」
「なっ!?何故私ではなく……?!」
ベルギルツが不満の声を漏らす中、特に気にすることもなくフィニアスは続ける。
「実は我らも戦力不足でな、戦力を募っておったのだ。私はこう見えて顔が広く人望も厚い。お前には裏切られたがな」
「ふふっその節は色々と……」
「ふっ……まぁともかく精霊どもと竜王の連中にも召集をかけている。すでにこちらに向かっていると報告が入った。かなりの手練れだが、女神に対しどのくらい戦えるのかは未知数。アレクサンドロスの加勢でかなりの兵が動かせるなら勝機はある」
「ええ!その通りです!!」
「……凄まじい戦力だ。まず負けんだろうな」
フィニアス陣営は既に戦勝ムードだが、これにアレクサンドロスは水を差す。
「いえ、不十分です。いくら束になってもあの化け物を屠ることは叶いません。我が主であるデザイア様も同意見でございます」
「何を言い出す?それでは何のためにここまで来て共に戦おうなどと……」
「滅ぼせぬなら永久に閉じ込めてしまおうというのが我らの見解となります」
「封印……ということですか……」
ミラージュの言葉にアレクサンドロスはパンッと柏手を一つ打った。
「ご明察。その封印術は我が従者リュート=パスパヤードの使用する結晶化封印術を使用いたします。結晶化のあと細かくバラバラに割れるので、その小さな結晶を我々皇魔貴族で各自保管すれば永久に封印することも可能でしょう」
「なんと……そこまで既に計画済みか」
「はい。ちなみにこの封印術は上手くすればどのようなものにも有効に働いてくれることでしょう。たとえばデザイア様にも……ね?」
「お、お前はまさか最初からそのつもりで……!?」
「?……ふふっ何のことでしょうか?何が言いたいのか分かりかねます」
「末恐ろしいとはこのことよ。……今のは聞かなかったことにしておこう」
「痛み入ります」
皇魔貴族、精霊王、そして竜王というエデンズガーデン最強の軍団がその命を賭しても勝てぬ相手に真っ向から挑む。
女神ミルレース封印作戦始動。
着いて早々ベルギルツに怒鳴られた。裏切ったアレクサンドロスが何もなく迎え入れられるとは思っていなかったが、この大事な局面に糾弾する相手を間違っていると考える。
「まぁまぁベルギルツさん。少し落ち着いてはどうでしょうか?まずは相手の出方を見てから反応しましょうよ」
「甘すぎますねミラージュさんはっ!!」
ぷりぷりと頭に蒸気を上げながらもミラージュの意見に従いベルギルツは一歩下がる。アレクサンドロスはベルギルツのことは心から嫌いだがミラージュのことはある程度気に入っている。1番気に入っているのはどんな時でも腕を組んで様子を窺っているロータスだ。まったく表情を崩さないその冷静さが好きだ。
「それで……ここに来たということは女神関連であろう?」
訂正しよう。話の早いフィニアスが1番だ。
「ええ。その通りでございますフィニアス様」
ここまで黙っていたアレクサンドロスはいつも以上に真面目な顔でフィニアスを見つめた。
「ここにお集まりの皆さんもお気付きのことでしょうが、女神ミルレースには今のままでは勝てません。デザイア様も女神による被害にその御心を痛めて御出です」
「デザイア、様?あなたオルベリウス公に対して不敬ではありませんか?!」
「……黙れベルギルツ。そこは問題ではない」
「でもまぁファーストネームで呼ぶことを許されるほど気に入られているということは余程上手く取り入ったと見て間違いないでしょう。やり手のグルガンさんには頭が下がるといいましょうか、開いた口が塞がらないといいましょうか……ともあれそんなやり手のお方が頭を下げてまで来た理由など何となく察しがつきますが……」
ミラージュの発言に少しも動じることなくアレクサンドロスはフィニアスの前に跪く。顔を上げて睨みつけるような眼光で腹の底から唸るように声を出す。
「共に手を取り合って女神を討伐致しましょう。この世界に害を及ぼす災厄を滅ぼし、我らの世を取り戻すのです。もちろん女神を討伐するまでの間は派閥争いを休戦。食料の提供から魔道具の貸し出しまでを派閥間なく行い、戦力増強に従事。女神討伐が成ればその武勲武功から報奨を別途進呈。こちらからは上乗せで領土を一部譲渡しましょう」
「それはデザイアも承知のことか?」
「委細承知のことでございます」
「信用出来んな。デザイアがそのような譲歩をするわけがない。大方我らすべてが軍門に下るように命令され、こねくり回した末の今であろう?我らを欺くのはお前の専売特許だからな」
「……私はあなた様の元から去った裏切り者でございます。私をさぞお恨みのことでしょう。だからこそあえて、いつでも攻撃可能なようにこうして1人、死する覚悟を持ってあなた方の前にはせ参じ、女神打倒を懇願しているのでございます」
「軽々しく命を口にする。魔族がどれくらい犠牲になったか聡明なお前になら分かっているだろう?それをなんだ?お前の命一つで何を……」
「なればこそ!ここが最後の分岐点にございます!!」
ガッと胸倉に掴みかかるような声にハッとする。
「私をここで殺すのならば好きにするがよろしい。それで絵物語のように世界が救われるというのならこの首を差し出しましょう。しかしながら!これは現実の話でございます!!我が命を犠牲に得られるものなど一時の快楽のみ!私は全身全霊を以って女神に挑み!世界を救わんとこの身を捧げる所存!!」
獅子の咆哮が響き渡る。壁際にインテリアのごとく立っていたデーモンたちも思わず身を引き締めるほどの声音にベルギルツは焦りながらフィニアスを見た。
「い、勢いだけで乗り切れると思ったら大間違いだぞ!そうですよね?!フィニアス様!!」
「黙っていろベルギルツ」
「フィ、フィニアス様……?!」
静まり返った部屋でフィニアスは一つ深呼吸をした。
「……お前の覚悟は分かった。本当ならばこの場で八つ裂きにしてやるところだが、そういうわけにもいかないようだ。デザイアから書面の一つでもあればその提案に乗ろう。近日中に用意出来るか?」
「ええ、実はここにその書類がございます」
「はぁっ!?あ、あなたは!?ならば何故先の茶番を入れたのですか?!」
「偽物だなんだと大騒ぎされ、大切な書類を破られでもしたら一大事でございます。フィニアス様の御前で私の言葉を少しでも信じていただけた時に出すべきであると判断いたしました。何せ私は心配性でして……」
ベルギルツは肩を怒らせぷるぷると震えている。きっと仮面の下は歯を食いしばり、顔が真っ赤になるまで気張ってしまっていることだろうがアレクサンドロスには心底どうでもよいことだ。
「ロータス。書類をここへ」
「はっ」
アレクサンドロスの危惧を汲み取ったフィニアスは書類の受け取りをロータスに任せ、無事に書類をその手に収めた。書類の中身に目を通し、デザイアのサインを確認すると覚悟が決まったと目を閉じる。
「……今後はデザイア陣営とも連携を取り、最大火力を以って女神を討伐する。皇魔貴族が未来永劫繫栄するためにこの時代で決着をつけるぞ」
「ははっ!!」
ザザッとこの場にいた全員が跪く。
「差し当ってグルガンよ。今後のことを話し合うにデザイアとの密な情報交換が必要となろう。すぐにも会談の場を設けよ」
「その必要はありません。私がデザイア軍の全指揮権を委ねられていますので、話は私が聞きましょう」
「なっ!?そんなバカな話が……!?」
「すべて書類に記載されております。もちろんデザイア様も必要な場には顔をお見せになられるでしょうが、基本的に私が受け持ちますのでどうぞよろしくお願い申し上げます」
そこでようやくニヤリと顔をゆがめて見せた。その不遜な表情に恐怖を感じるとともに何故だか安心感を覚えた。この男ならば何かやってくれるのではないかという安心感だ。
「くくく……デザイアめ。この期に及んで戦力を見せぬつもりか……よかろうグルガン。いや、アレクサンドロスよ。お前をデザイア軍の総大将として認める。我が軍の総大将は……ミラージュ。お前が指揮を取れ」
「畏まりましたフィニアス様」
「なっ!?何故私ではなく……?!」
ベルギルツが不満の声を漏らす中、特に気にすることもなくフィニアスは続ける。
「実は我らも戦力不足でな、戦力を募っておったのだ。私はこう見えて顔が広く人望も厚い。お前には裏切られたがな」
「ふふっその節は色々と……」
「ふっ……まぁともかく精霊どもと竜王の連中にも召集をかけている。すでにこちらに向かっていると報告が入った。かなりの手練れだが、女神に対しどのくらい戦えるのかは未知数。アレクサンドロスの加勢でかなりの兵が動かせるなら勝機はある」
「ええ!その通りです!!」
「……凄まじい戦力だ。まず負けんだろうな」
フィニアス陣営は既に戦勝ムードだが、これにアレクサンドロスは水を差す。
「いえ、不十分です。いくら束になってもあの化け物を屠ることは叶いません。我が主であるデザイア様も同意見でございます」
「何を言い出す?それでは何のためにここまで来て共に戦おうなどと……」
「滅ぼせぬなら永久に閉じ込めてしまおうというのが我らの見解となります」
「封印……ということですか……」
ミラージュの言葉にアレクサンドロスはパンッと柏手を一つ打った。
「ご明察。その封印術は我が従者リュート=パスパヤードの使用する結晶化封印術を使用いたします。結晶化のあと細かくバラバラに割れるので、その小さな結晶を我々皇魔貴族で各自保管すれば永久に封印することも可能でしょう」
「なんと……そこまで既に計画済みか」
「はい。ちなみにこの封印術は上手くすればどのようなものにも有効に働いてくれることでしょう。たとえばデザイア様にも……ね?」
「お、お前はまさか最初からそのつもりで……!?」
「?……ふふっ何のことでしょうか?何が言いたいのか分かりかねます」
「末恐ろしいとはこのことよ。……今のは聞かなかったことにしておこう」
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