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10章 過去編
121、死闘
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アレクサンドロスの指示に従い、魔族や精霊、ドラゴンという世界最強の生物たちがうねりを挙げて女神に大挙する。ミルレースは先の慎重さと一線を画す動きに興奮する。
「あははっ!私の性格をよく知っているようですっ!」
バッと振り上げた剣を杖に変更し、ミルレースも負けじと対抗する。
「悪魔、皇帝、正義、そして戦車。私の敵を蹴散らしなさい」
ミルレースと女教皇の背後に水蒸気のように立ち上る濃霧。その中から霧をかき分けるように複数体の怪物が姿を現した。
悪魔は無数に出現する悪魔の軍団。
戦車は20m前後の鋼鉄の巨大ケンタウロス。
皇帝は大小様々な虫が幾重にもはい回り、10mはくだらない人間の形を成した不気味な虫の塊。
正義はフクロウのような兜を被り、猛禽類の足を生やした5mの巨獣。フルプレートに身を包んでいて、背中からは体をすっぽり包むほど大きな羽が6枚生えている。手にはタワーシールドと突撃槍を持っている全身真っ白な騎士だ。
勇ましく駆け出した皇魔貴族も、荒々しく飛び出したドラゴンも、果敢に挑む精霊たちも、その強大な存在の出現に驚きのあまり硬直する。その硬直からは早く抜け出したものだけが初撃を避けることに成功し、残りの間抜けはミルレースの能力の前に没した。
戦車の巨大なハルバードが唸りを上げて空中の魔族やドラゴンを真っ二つにし、地上を踏み荒らして魔族も精霊も区別なく踏み潰す。
皇帝は無量大数の虫の大群が生き物という生き物を例外なく食い殺す。虫の通った後には何も残らない。攻撃をして虫を大量に破壊してもまた同じだけ虫が湧き出て何もなかったように侵攻を始める。顔に当たる部分に光る目のような虫を潰しても同じで、どこを攻撃しても同じ形状に戻る。永久に減らぬ虫の大群を前に徒労感が凄まじい。
正義の突撃槍は獲物も障害物も区別なく貫き、まるでそこには何もなかったかのようにぽっかりと丸い穴を開ける。タワーシールドはさぞ硬い防御能力を誇るのだろうと思われるが、攻撃を防ぐより近寄る敵を殴り飛ばしてくる。攻撃は最大の防御を地で行く騎士の猛攻。近付くこともままならない。
そしてそこからあぶれた矮小な敵に悪魔が容赦なく襲う。
「強い……想定以上だ……」
アレクサンドロスの頭に敗北の二文字が過ぎる。かなり強いはずの子爵や伯爵が比較的小型の悪魔と同等の力で、見た目から強そうな怪物たちにはかすり傷一つ負わせることも出来ない。存在が希薄な精霊たちも例外なく怪物の凶刃に倒れている。すべての攻撃を搔い潜り、何とか女神に近付くものが居ても、女神本人の力の前に為すすべもない。
嵐のような攻防の中、何とか生き延びているのは皇魔貴族を除けば竜王と精霊王のみ。
士気が高く、戦う前から戦勝ムードが漂っていた最強の軍勢は、一度の戦闘で気持ちまでひっくり返された。このままでは勝算は皆無。
「いや、まだだっ」
アレクサンドロスの目がギラリと光る。その言葉は負け惜しみではない。アレクサンドロスの発言の直後、ミラージュ軍が背後から仕掛ける。
「ああ。挟撃ですか。無駄なことを……」
ミルレースは冷ややかな目で背後を見やる。それと同時にまたしてもアルカナを投入してきた。
「女帝、審判」
女帝。大地が割れ、巨大な植物が芽を出した。そこから急速にまるで映像の早送りのように一気に成長し、巨大な花が咲く。その花の真ん中に胸を抱くように女型の植物人間が現れた。彫像のような美しい見た目だが、悍ましい巨大植物とコロコロと鈴を鳴らしたような笑い声が恐怖を掻き立てる。
審判。それは空から現れた。急に暗雲が空を覆い、次の瞬間、石像のような木像のような素材の分からない苦悶の表情をした巨大な仮面が口を開けて顔を覗かせた。その仮面を覆うほどの同じ素材と思われる巨大な両手が左右から現れ、意味深に待機している。
「さぁ、裁きの鉄槌を下しなさい」
2つのアルカナはミルレースの指示に従い動き出す。
女帝は蠢く触手のような蔓と無数に生えた棘で敵を巻き取り、養分を吸ってそのまま握り潰す。養分を吸った女帝は花を咲かせて花粉をまき散らし、敵を痺れさせては蔓に絡め取る。
審判は苦しみだしたかのように咆哮を上げ、両側の手がわきわきと動く。すると10本の指の先からレーザーのような高出力の光が地上へと降り注いだ。当たった個所は熱で溶かされたように焼き切れ、魔族軍が消滅していく。異様だったのは天からの光に曝されたはずの女帝にはまるでダメージがないことである。アルカナ同士は干渉しあわない。ゆえに相打ちになることもない。
ミルレースの底なしの力。
誰もが嘆き、死を恐怖する中にあってデザイアの瞳は輝いていた。
「何という素晴らしい余興だ。これほどまで楽しんだのは初めてだぞ。……女神ミルレース。興味が尽きぬ」
「オルべリウス様!ここは危険です!すぐにお下がりを!!」
デーモンがデザイアに危険を知らせにやってきた。ふと上を見やると戦いにあぶれた悪魔の群れがこちらに向かってきているのが確認出来た。
「ほぅ?取りこぼしたか。アレクサンドロスには珍しい失態だな。いや、致し方あるまい。部下が弱すぎるからな」
悪魔の群れは鎮座するデザイアに向けて突進してくる。デーモンたちは必死になって止めようとするが、子爵や伯爵で勝てない敵を止められるはずもなく。下卑た笑いを浮かべながら飛んでくる悪魔の表情からは「お前はもう逃げられない」と言っているかのようだった。
そんなデザイアから発されたのは情けない命乞いや、いざ戦おうとする勇猛果敢な言葉ではなかった。
「……邪魔だ雑魚共」
デザイアの視界を遮り、ミルレースの戦闘がまともに見れないことに対する苛立ちの侮蔑。デザイアはスッと右手を上げる。
ドォンッ
空気が振動し、悪魔の群れを吹き飛ばす。右手を中心に衝撃波を放ったのだ。それもただの衝撃波ではない。あれだけ苦戦させられていた悪魔を衝撃波一つで粉々にしてしまったのだ。
見えざるハンマーで打ち据えられたかのように引き潰れた悪魔がぼとぼとと落ちる。巻き込まれたデーモンたちと悪魔は地上のシミとなり、辺り一面を血の海へと変えていく。
デーモンは思う。「そんなに強いならお前が行けよっ!」と。しかしデザイアは動かない。何かを待っているかのようにジッと女神の戦闘を見ていた。
不思議に思うデーモンたちだったが、デザイアが待っていたであろうことが起こって納得する。
女神を取り囲み、休む暇を与えぬ攻撃の嵐。ダメージらしいダメージを与えられずに疲弊する魔族軍の勝機とも思える瞬間がついに訪れたのだ。
ギュバアァッ
ミルレースの後方、ミラージュ軍の側から超高出力の魔力砲が発射された。狙いは女教皇。障壁を張るより早く射出された魔力砲に女教皇の首が消し飛んだ。
「っ!?」
突然のことに驚くミルレースだったが、驚いている暇などなかった。
ギュバアァッ
間髪入れずに発射された魔力砲は今度はミルレースに向けて飛んできた。予想だにしなかった攻撃に動作が遅れたミルレースは魔力砲に右腕を吹き飛ばされる。千切れ飛ぶ腕に魔族軍の士気が上がった。
ミルレースの鉄壁の布陣に穴を開けたのは精霊王でも竜王でもない。
皇魔貴族の二大巨頭の一角。メフィスト=大公=フィニアスであった。
「もう好き勝手にはさせんぞ。女神ミルレース」
女帝と審判の前に立つ威風堂々たるメフィストの姿はミルレースの眉間にシワを刻んだ。
「あははっ!私の性格をよく知っているようですっ!」
バッと振り上げた剣を杖に変更し、ミルレースも負けじと対抗する。
「悪魔、皇帝、正義、そして戦車。私の敵を蹴散らしなさい」
ミルレースと女教皇の背後に水蒸気のように立ち上る濃霧。その中から霧をかき分けるように複数体の怪物が姿を現した。
悪魔は無数に出現する悪魔の軍団。
戦車は20m前後の鋼鉄の巨大ケンタウロス。
皇帝は大小様々な虫が幾重にもはい回り、10mはくだらない人間の形を成した不気味な虫の塊。
正義はフクロウのような兜を被り、猛禽類の足を生やした5mの巨獣。フルプレートに身を包んでいて、背中からは体をすっぽり包むほど大きな羽が6枚生えている。手にはタワーシールドと突撃槍を持っている全身真っ白な騎士だ。
勇ましく駆け出した皇魔貴族も、荒々しく飛び出したドラゴンも、果敢に挑む精霊たちも、その強大な存在の出現に驚きのあまり硬直する。その硬直からは早く抜け出したものだけが初撃を避けることに成功し、残りの間抜けはミルレースの能力の前に没した。
戦車の巨大なハルバードが唸りを上げて空中の魔族やドラゴンを真っ二つにし、地上を踏み荒らして魔族も精霊も区別なく踏み潰す。
皇帝は無量大数の虫の大群が生き物という生き物を例外なく食い殺す。虫の通った後には何も残らない。攻撃をして虫を大量に破壊してもまた同じだけ虫が湧き出て何もなかったように侵攻を始める。顔に当たる部分に光る目のような虫を潰しても同じで、どこを攻撃しても同じ形状に戻る。永久に減らぬ虫の大群を前に徒労感が凄まじい。
正義の突撃槍は獲物も障害物も区別なく貫き、まるでそこには何もなかったかのようにぽっかりと丸い穴を開ける。タワーシールドはさぞ硬い防御能力を誇るのだろうと思われるが、攻撃を防ぐより近寄る敵を殴り飛ばしてくる。攻撃は最大の防御を地で行く騎士の猛攻。近付くこともままならない。
そしてそこからあぶれた矮小な敵に悪魔が容赦なく襲う。
「強い……想定以上だ……」
アレクサンドロスの頭に敗北の二文字が過ぎる。かなり強いはずの子爵や伯爵が比較的小型の悪魔と同等の力で、見た目から強そうな怪物たちにはかすり傷一つ負わせることも出来ない。存在が希薄な精霊たちも例外なく怪物の凶刃に倒れている。すべての攻撃を搔い潜り、何とか女神に近付くものが居ても、女神本人の力の前に為すすべもない。
嵐のような攻防の中、何とか生き延びているのは皇魔貴族を除けば竜王と精霊王のみ。
士気が高く、戦う前から戦勝ムードが漂っていた最強の軍勢は、一度の戦闘で気持ちまでひっくり返された。このままでは勝算は皆無。
「いや、まだだっ」
アレクサンドロスの目がギラリと光る。その言葉は負け惜しみではない。アレクサンドロスの発言の直後、ミラージュ軍が背後から仕掛ける。
「ああ。挟撃ですか。無駄なことを……」
ミルレースは冷ややかな目で背後を見やる。それと同時にまたしてもアルカナを投入してきた。
「女帝、審判」
女帝。大地が割れ、巨大な植物が芽を出した。そこから急速にまるで映像の早送りのように一気に成長し、巨大な花が咲く。その花の真ん中に胸を抱くように女型の植物人間が現れた。彫像のような美しい見た目だが、悍ましい巨大植物とコロコロと鈴を鳴らしたような笑い声が恐怖を掻き立てる。
審判。それは空から現れた。急に暗雲が空を覆い、次の瞬間、石像のような木像のような素材の分からない苦悶の表情をした巨大な仮面が口を開けて顔を覗かせた。その仮面を覆うほどの同じ素材と思われる巨大な両手が左右から現れ、意味深に待機している。
「さぁ、裁きの鉄槌を下しなさい」
2つのアルカナはミルレースの指示に従い動き出す。
女帝は蠢く触手のような蔓と無数に生えた棘で敵を巻き取り、養分を吸ってそのまま握り潰す。養分を吸った女帝は花を咲かせて花粉をまき散らし、敵を痺れさせては蔓に絡め取る。
審判は苦しみだしたかのように咆哮を上げ、両側の手がわきわきと動く。すると10本の指の先からレーザーのような高出力の光が地上へと降り注いだ。当たった個所は熱で溶かされたように焼き切れ、魔族軍が消滅していく。異様だったのは天からの光に曝されたはずの女帝にはまるでダメージがないことである。アルカナ同士は干渉しあわない。ゆえに相打ちになることもない。
ミルレースの底なしの力。
誰もが嘆き、死を恐怖する中にあってデザイアの瞳は輝いていた。
「何という素晴らしい余興だ。これほどまで楽しんだのは初めてだぞ。……女神ミルレース。興味が尽きぬ」
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デーモンがデザイアに危険を知らせにやってきた。ふと上を見やると戦いにあぶれた悪魔の群れがこちらに向かってきているのが確認出来た。
「ほぅ?取りこぼしたか。アレクサンドロスには珍しい失態だな。いや、致し方あるまい。部下が弱すぎるからな」
悪魔の群れは鎮座するデザイアに向けて突進してくる。デーモンたちは必死になって止めようとするが、子爵や伯爵で勝てない敵を止められるはずもなく。下卑た笑いを浮かべながら飛んでくる悪魔の表情からは「お前はもう逃げられない」と言っているかのようだった。
そんなデザイアから発されたのは情けない命乞いや、いざ戦おうとする勇猛果敢な言葉ではなかった。
「……邪魔だ雑魚共」
デザイアの視界を遮り、ミルレースの戦闘がまともに見れないことに対する苛立ちの侮蔑。デザイアはスッと右手を上げる。
ドォンッ
空気が振動し、悪魔の群れを吹き飛ばす。右手を中心に衝撃波を放ったのだ。それもただの衝撃波ではない。あれだけ苦戦させられていた悪魔を衝撃波一つで粉々にしてしまったのだ。
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ギュバアァッ
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「っ!?」
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ギュバアァッ
間髪入れずに発射された魔力砲は今度はミルレースに向けて飛んできた。予想だにしなかった攻撃に動作が遅れたミルレースは魔力砲に右腕を吹き飛ばされる。千切れ飛ぶ腕に魔族軍の士気が上がった。
ミルレースの鉄壁の布陣に穴を開けたのは精霊王でも竜王でもない。
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