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11章 新たなる敵
135、水の支配者
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ロータスに連れられて辿り着いた海は日の光を浴びてキラキラと輝いていた。
砂浜に降りてシャリシャリと子気味良い音を立てながら歩く海岸線は負の感情など忘れさせてくれる。
「懐かしいなぁ。海に来るなんていつぶりだろうか……」
「私は初めて~」
「私もだ。火竜王ウルレイシアの記憶におぼろげながら存在する海だけが私の中のすべてだったが、ここまで綺麗だとは思いもよらなかった」
「うんうん。100点満点の景色だよね~。みーちゃんひーちゃんもそう思うよね~」
「そうかな? 単なる大きな水たまりだよね?」
「広いだけで何もないなんてバカみたいだよな!そう言うの大げさって言うんだぜ!」
「……海にもいろんな生物がいる……重力が関係ない分、地上より多様な進化を遂げた生物が多いのだ。水たまりだの広いだけなどという小さな世界で物事を語るな……」
「な、なんだぁっ?!」
「おぉっ!? こいつ偉そうにっ!!」
極戒双縄はロータスに突っかかる。だがロータスはどこ吹く風といった風にまるっと無視して灯台のような建物を指差した。
「……拠点だ。まだ怪物の居場所を捜索中だからな。一旦あの場所で待機するぞ……」
「あ、はい。すぐに……」
思ったよりも白波の近くに立っていたレッドは振り返ってロータスについていこうとする。
──ザパァッ
歩き出したと同時に背後から巨大な何かが姿を現した。水しぶきが掛かったレッドは迷惑そうに背後を確認する。
そこに居たのは見たこともない化け物。
外見はクジラとイカを合体させたような奇妙な生物。体長10m前後の巨大な体、クジラと思われる頭の鼻先に直径2mはある大きな目玉がついていて、側頭部に水晶玉のような目玉がズラリと列をなして並んでいる。2本の長い触手と全身を支える8本の足がうねうねと動く。
ロータスもこれほど奇怪な生物を見たことがなかったために今まで見たこともないほど目を丸くしていた。
「……う、うわぁっ!なな、なんだこいつっ!?」
レッドもその異様な姿にたじたじになったが、奇怪な化け物が口を開け、気色悪いほどに並んだ数万本に及ぶ鋭く細い牙を見せた瞬間に剣を抜いた。
敵対行動を見せたレッドに化け物は口からゲロッと酸を吐き出す。
触手に巻き取るでもなく齧り付くこともなく急に酸を吐き出すとはどういった進化なのか。理解の外にある行動ではあったが、レッドは回避行動を取ることもなく剣を振りかぶった。
「爪刃っ!!」
ボッ
放たれた真空の斬撃は化け物が吐いた酸を退け、化け物を一刀両断にしてしまう。それだけならいざ知らず、海をも両断してしまった。
「「……は?」」
その光景を見た極戒双縄は我が目を疑う。一瞬何が起こったのか理解出来なかったほどに。
「ひゅ~っ焦ったぁ……殺されるかと思ったよ……」
レッドの気の抜けた言葉だけが空しく響く。
スロウも珍しく驚いて目をパチクリとさせたがすぐに頷いた。
「うん。これはグリードも勝てないよ~」
「いや、待ってください姫様!そういう問題かなぁっ?!」
「ほん……本当に人間……なのか?」
極戒双縄はオリーやロータスに目を配る。特に驚いている様子もなく、静かにコクリと一つ頷いた。
「……むっ?!」
ロータスは何かに気づいたように割れた海中に目を見張り、体に薄い膜のような魔力を走らせながら海に飛び込んだ。
「えっ?!ロータスさん?!」
ロータスの突然の行動に何も出来ず硬直する。
「説明もなしに飛び込むとは忙しない奴だ。……どうするレッド」
「ど、どうするったって……」
「拠点に行かないの~?」
「え……俺たちだけで行って大丈夫かな? ロータスさんを待った方が……」
「じゃ、待機だね~」
スロウは砂浜にコロンと寝転がる。日差しが砂を温めていたからかまるで布団のように気持ち良い。
「ああっ!ちょっと姫様!砂まみれになっちゃうよ!!」
「もー……何も考えずにすぐ寝転がるんだから……」
「えへへ~」
案内役を失ったレッドたちはこのまま拠点に向かったら良いのか待った方が良いのか分からず、結局砂浜に待機することにした。
*
レッドたちが待機して数分後、ロータスは何事もなく砂浜に上がってきた。一切濡れていない姿を見れば海から上がってきたとは思えないが、薄い魔力の膜を張ったのは濡れないようにしたことが理解出来た。
「あ、お、おかえりなさいロータスさん」
「……」
レッドはにへらと笑ってロータスを迎え入れたが、その姿は彼女にとって受け入れ難いものだった。
レッドたちは砂浜に座り込んで小さな砂の城を作っていた。オリーもレッドに便乗して複雑なレリーフを小指の爪の先を要して城を崩さないように慎重に彫っている。スロウに至ってはぐっすりと寝ているように見える。
「どこに行っていた? まったく……どこかに行くならちゃんと説明してから行け。いきなり飛び出す奴が……」
──バスッ
レッドとオリーがこの数分間で作った砂の城をロータスが蹴って崩した。
「「ああぁぁっ!」」
「あぁっ……じゃない、遊ぶな……そこは寝るな……」
悲しむレッドたちを腕を組んでロータスは見下ろす。
「……先ほどレッドが倒した水棲生物……その側にも似たような化け物が居た……そいつがどこかに逃げて行くのを見つけたから追ったまでのこと……」
「つまり怪物の根城を見つけたということか?」
「……そうだ」
「凄いですね。そんな奴が居たなんて俺全然気付きませんでしたよ。ってことは拠点に行かずに直接その根城に?」
「……そんなこと、言わなくても察しろ……」
「あ、はい……」
ロータスの突き離すキツイ言葉にレッドはガクッと肩を落とす。オリーは眉を顰めながら苦言を呈そうと口を開きかけた時、先にロータスが言葉を発する。
「……だがレッド……貴様が居なければこれほど早く見つけることは不可能だった……感謝する……」
その言葉でレッドは救われたように表情が緩んだ。
機嫌の治ったレッドとオリー、寝ぼけ眼のスロウを連れてロータスは怪物の根城へと案内するために海に潜った。
海はレッドが小さなときに遊んでいた頃と全然変わらず、穏やかな環境がそこにあった。
イソギンチャクのような定着性の生き物がゆらゆらと波に揺らめき、流線型をした様々な生き物が水の抵抗がないかのようにスイスイ泳ぐ。
魔障壁で濡れないように海に入ったレッドたちは透き通る海と息づく生命に感動し、ロータスの言うように海の凄さを実感させられていた。
決して観光目的ではないのだが、冒険者の役得として目いっぱい享受する。
しかしそんな甘いひと時はほんの一瞬。すぐに薄暗く、冷たい深海へと降りていく。
そのまましばらく進んでいくとポッと火を灯したような淡い光が瞬いているのを発見する。先行していたロータスがその光を指差す。光の届かない深海でも彼女の動きが見れたのは、単純に魔力の薄い膜をまとうロータスとオリーの魔障壁は仄かに明るいからだ。
深海で良く目立つその姿は、この場所で暮らしてきた魔物たちの格好の餌食となるところだが、どういうわけかそういった類の海の魔物を見る機会がなかった。
ともかくレッドたちはロータスの指し示す灯りに向かって進んでいく。
灯りの元は深海に突然現れた断崖絶壁の穴の中。この中に例の怪物が居るのだ。レッドたちは気を引き締めて穴の中へと入っていった。
「え? あれ?」
中に入るとロータスが普通に立っていた。海の底に立つことくらい出来るだろうがそういった感じではなく、ロータスの立ち居振る舞いには重力を感じる。
「……魔障壁はもう大丈夫だ……ここには空気があるからな……」
「空気が?」
ロータスに言われるがままオリーは魔障壁を解除し、レッドとスロウと共に怪物の根城に侵入。広い一本道を少し歩くと大広間に出た。
所々に鍾乳石と思われるものが地面から牙のように生え、魔力で灯された光を乱反射してその存在感をアピールする。
壁は薄い水色で覆われており、深海という暗闇の奥底にあるとは考えられないほど美しい。いや、奥底だからこそ誰の目にも触れることなくありのままの美しさがそこにあるのだろう。
「わぁ……」
スロウも感動している。封印される前も怠惰ゆえに領域外に出たがらず、外の神秘的な光景など見ようともしていなかった。レッドの仲間になってからはどんどん外に出るようになり、今日だけでスロウにため込まれた美しさの価値基準は何倍にも膨れ上がっていた。
冒険者として様々な場所を見て回っていたレッドも圧倒されるほどの美しさに目を奪われそうになったが、ここが怪物の根城ということを思い出して頭を振る。
さすがに緊張感がないだろうと心の中で言い聞かせた。
「ふぉーっふぉっふぉっふぉっ!!そなたたちが朕の召喚獣を倒した輩たちでおじゃるか?」
ハッとして声の方を見ると、柔らかそうな玉座に腰掛ける巨大なカエルを思わせる怪物を発見した。肥満体形で頭頂部から生えた巨大な二本の角が特徴的な怪物はニヤリと笑いながらレッドたちを見ている。
「……見た目は最悪……だが力は本物か……」
ロータスはにじみ出るような魔力と隠し切れない支配者のオーラをヒシヒシと感じ、こめかみ付近から汗が一粒流れ落ちる。
(ん? あれは……チッ……不味いな……こうあってほしくない想定にピタリと当てはまったか……)
視界に入ったのは水で出来た牢獄。その中に囚われた美女二人はロータスの知る限りでは水帝と水竜王。どちらもロータス以上の戦闘能力を有している。さらに体に走る悪寒と圧迫感から察するに、この水棲生物はフィニアス以上の戦闘能力を有しているだろう。
「あ~、あれ召喚獣だったのか。どおりで見たこともない気持ち悪い生物だったわけだ」
「おじゃっ!? なんという言い草っ!朕の召喚獣『超生物』に向かって無礼極まりないっ!!」
「え? あ、すいません……」
「謝ることはないぞレッド。レッドの言うように実際気持ち悪かった。あんな醜悪な生物を操る存在はさぞかし醜いのだろうと思っていたが的中したようだな」
「……そこまでにしろ……すべて本当のことだが悪戯に敵を刺激するな……」
「おじゃじゃっ!? ゆ、許されざる罵倒っ!そなたら覚悟するでおじゃるっ!このヴォジャノーイ=アルタベルジュがその身に死の恐怖と朕の偉大さを刻むでおじゃるぅっ!!」
巨大なカエルの化け物は自らをヴォジャノーイと名乗り、水で出来た玉座から立ち上がる。
立ち上がったと同時にヴォジャノーイの傍らに召喚獣『超生物』と思しき気持ちの悪い生物が周りを固め、水を操る力を持つヴォジャノーイは玉座の水をそのまま攻撃用へと転換する。
ヴォジャノーイの頭上にはその肥満の巨体を超える水の塊が球体となり、惑星の自転のごとく回りながら攻撃の機会を窺っている。
「そうか。えっと、オジャノーイ=アータベージュ……?」
「……違う……ヴォジャノーイ=アルタベージュ……だ」
「あ、ヴォジャノーイ=アルタベージュか」
「どっちも微妙に違うでおじゃるっ!ヴォジャノーイ=アルタベルジュでおじゃるっ!!」
「あ、え? 違う? すいません。えっと……ヴォジャノーイ=アルタベー……。あ、そういえば自己紹介がまだだったな。俺の名前はレッド=カーマインだ。レッドでいいよ」
「いや、誤魔化されないでおじゃるよっ!? 何がレッドでおじゃるか!こうなったらその身に朕の名も刻んでやるでおじゃるぅっ!!」
ヴォジャノーイの咆哮と共に召喚獣が押し寄せる。
レッドたちの戦いが始まった。
砂浜に降りてシャリシャリと子気味良い音を立てながら歩く海岸線は負の感情など忘れさせてくれる。
「懐かしいなぁ。海に来るなんていつぶりだろうか……」
「私は初めて~」
「私もだ。火竜王ウルレイシアの記憶におぼろげながら存在する海だけが私の中のすべてだったが、ここまで綺麗だとは思いもよらなかった」
「うんうん。100点満点の景色だよね~。みーちゃんひーちゃんもそう思うよね~」
「そうかな? 単なる大きな水たまりだよね?」
「広いだけで何もないなんてバカみたいだよな!そう言うの大げさって言うんだぜ!」
「……海にもいろんな生物がいる……重力が関係ない分、地上より多様な進化を遂げた生物が多いのだ。水たまりだの広いだけなどという小さな世界で物事を語るな……」
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「おぉっ!? こいつ偉そうにっ!!」
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「……拠点だ。まだ怪物の居場所を捜索中だからな。一旦あの場所で待機するぞ……」
「あ、はい。すぐに……」
思ったよりも白波の近くに立っていたレッドは振り返ってロータスについていこうとする。
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歩き出したと同時に背後から巨大な何かが姿を現した。水しぶきが掛かったレッドは迷惑そうに背後を確認する。
そこに居たのは見たこともない化け物。
外見はクジラとイカを合体させたような奇妙な生物。体長10m前後の巨大な体、クジラと思われる頭の鼻先に直径2mはある大きな目玉がついていて、側頭部に水晶玉のような目玉がズラリと列をなして並んでいる。2本の長い触手と全身を支える8本の足がうねうねと動く。
ロータスもこれほど奇怪な生物を見たことがなかったために今まで見たこともないほど目を丸くしていた。
「……う、うわぁっ!なな、なんだこいつっ!?」
レッドもその異様な姿にたじたじになったが、奇怪な化け物が口を開け、気色悪いほどに並んだ数万本に及ぶ鋭く細い牙を見せた瞬間に剣を抜いた。
敵対行動を見せたレッドに化け物は口からゲロッと酸を吐き出す。
触手に巻き取るでもなく齧り付くこともなく急に酸を吐き出すとはどういった進化なのか。理解の外にある行動ではあったが、レッドは回避行動を取ることもなく剣を振りかぶった。
「爪刃っ!!」
ボッ
放たれた真空の斬撃は化け物が吐いた酸を退け、化け物を一刀両断にしてしまう。それだけならいざ知らず、海をも両断してしまった。
「「……は?」」
その光景を見た極戒双縄は我が目を疑う。一瞬何が起こったのか理解出来なかったほどに。
「ひゅ~っ焦ったぁ……殺されるかと思ったよ……」
レッドの気の抜けた言葉だけが空しく響く。
スロウも珍しく驚いて目をパチクリとさせたがすぐに頷いた。
「うん。これはグリードも勝てないよ~」
「いや、待ってください姫様!そういう問題かなぁっ?!」
「ほん……本当に人間……なのか?」
極戒双縄はオリーやロータスに目を配る。特に驚いている様子もなく、静かにコクリと一つ頷いた。
「……むっ?!」
ロータスは何かに気づいたように割れた海中に目を見張り、体に薄い膜のような魔力を走らせながら海に飛び込んだ。
「えっ?!ロータスさん?!」
ロータスの突然の行動に何も出来ず硬直する。
「説明もなしに飛び込むとは忙しない奴だ。……どうするレッド」
「ど、どうするったって……」
「拠点に行かないの~?」
「え……俺たちだけで行って大丈夫かな? ロータスさんを待った方が……」
「じゃ、待機だね~」
スロウは砂浜にコロンと寝転がる。日差しが砂を温めていたからかまるで布団のように気持ち良い。
「ああっ!ちょっと姫様!砂まみれになっちゃうよ!!」
「もー……何も考えずにすぐ寝転がるんだから……」
「えへへ~」
案内役を失ったレッドたちはこのまま拠点に向かったら良いのか待った方が良いのか分からず、結局砂浜に待機することにした。
*
レッドたちが待機して数分後、ロータスは何事もなく砂浜に上がってきた。一切濡れていない姿を見れば海から上がってきたとは思えないが、薄い魔力の膜を張ったのは濡れないようにしたことが理解出来た。
「あ、お、おかえりなさいロータスさん」
「……」
レッドはにへらと笑ってロータスを迎え入れたが、その姿は彼女にとって受け入れ難いものだった。
レッドたちは砂浜に座り込んで小さな砂の城を作っていた。オリーもレッドに便乗して複雑なレリーフを小指の爪の先を要して城を崩さないように慎重に彫っている。スロウに至ってはぐっすりと寝ているように見える。
「どこに行っていた? まったく……どこかに行くならちゃんと説明してから行け。いきなり飛び出す奴が……」
──バスッ
レッドとオリーがこの数分間で作った砂の城をロータスが蹴って崩した。
「「ああぁぁっ!」」
「あぁっ……じゃない、遊ぶな……そこは寝るな……」
悲しむレッドたちを腕を組んでロータスは見下ろす。
「……先ほどレッドが倒した水棲生物……その側にも似たような化け物が居た……そいつがどこかに逃げて行くのを見つけたから追ったまでのこと……」
「つまり怪物の根城を見つけたということか?」
「……そうだ」
「凄いですね。そんな奴が居たなんて俺全然気付きませんでしたよ。ってことは拠点に行かずに直接その根城に?」
「……そんなこと、言わなくても察しろ……」
「あ、はい……」
ロータスの突き離すキツイ言葉にレッドはガクッと肩を落とす。オリーは眉を顰めながら苦言を呈そうと口を開きかけた時、先にロータスが言葉を発する。
「……だがレッド……貴様が居なければこれほど早く見つけることは不可能だった……感謝する……」
その言葉でレッドは救われたように表情が緩んだ。
機嫌の治ったレッドとオリー、寝ぼけ眼のスロウを連れてロータスは怪物の根城へと案内するために海に潜った。
海はレッドが小さなときに遊んでいた頃と全然変わらず、穏やかな環境がそこにあった。
イソギンチャクのような定着性の生き物がゆらゆらと波に揺らめき、流線型をした様々な生き物が水の抵抗がないかのようにスイスイ泳ぐ。
魔障壁で濡れないように海に入ったレッドたちは透き通る海と息づく生命に感動し、ロータスの言うように海の凄さを実感させられていた。
決して観光目的ではないのだが、冒険者の役得として目いっぱい享受する。
しかしそんな甘いひと時はほんの一瞬。すぐに薄暗く、冷たい深海へと降りていく。
そのまましばらく進んでいくとポッと火を灯したような淡い光が瞬いているのを発見する。先行していたロータスがその光を指差す。光の届かない深海でも彼女の動きが見れたのは、単純に魔力の薄い膜をまとうロータスとオリーの魔障壁は仄かに明るいからだ。
深海で良く目立つその姿は、この場所で暮らしてきた魔物たちの格好の餌食となるところだが、どういうわけかそういった類の海の魔物を見る機会がなかった。
ともかくレッドたちはロータスの指し示す灯りに向かって進んでいく。
灯りの元は深海に突然現れた断崖絶壁の穴の中。この中に例の怪物が居るのだ。レッドたちは気を引き締めて穴の中へと入っていった。
「え? あれ?」
中に入るとロータスが普通に立っていた。海の底に立つことくらい出来るだろうがそういった感じではなく、ロータスの立ち居振る舞いには重力を感じる。
「……魔障壁はもう大丈夫だ……ここには空気があるからな……」
「空気が?」
ロータスに言われるがままオリーは魔障壁を解除し、レッドとスロウと共に怪物の根城に侵入。広い一本道を少し歩くと大広間に出た。
所々に鍾乳石と思われるものが地面から牙のように生え、魔力で灯された光を乱反射してその存在感をアピールする。
壁は薄い水色で覆われており、深海という暗闇の奥底にあるとは考えられないほど美しい。いや、奥底だからこそ誰の目にも触れることなくありのままの美しさがそこにあるのだろう。
「わぁ……」
スロウも感動している。封印される前も怠惰ゆえに領域外に出たがらず、外の神秘的な光景など見ようともしていなかった。レッドの仲間になってからはどんどん外に出るようになり、今日だけでスロウにため込まれた美しさの価値基準は何倍にも膨れ上がっていた。
冒険者として様々な場所を見て回っていたレッドも圧倒されるほどの美しさに目を奪われそうになったが、ここが怪物の根城ということを思い出して頭を振る。
さすがに緊張感がないだろうと心の中で言い聞かせた。
「ふぉーっふぉっふぉっふぉっ!!そなたたちが朕の召喚獣を倒した輩たちでおじゃるか?」
ハッとして声の方を見ると、柔らかそうな玉座に腰掛ける巨大なカエルを思わせる怪物を発見した。肥満体形で頭頂部から生えた巨大な二本の角が特徴的な怪物はニヤリと笑いながらレッドたちを見ている。
「……見た目は最悪……だが力は本物か……」
ロータスはにじみ出るような魔力と隠し切れない支配者のオーラをヒシヒシと感じ、こめかみ付近から汗が一粒流れ落ちる。
(ん? あれは……チッ……不味いな……こうあってほしくない想定にピタリと当てはまったか……)
視界に入ったのは水で出来た牢獄。その中に囚われた美女二人はロータスの知る限りでは水帝と水竜王。どちらもロータス以上の戦闘能力を有している。さらに体に走る悪寒と圧迫感から察するに、この水棲生物はフィニアス以上の戦闘能力を有しているだろう。
「あ~、あれ召喚獣だったのか。どおりで見たこともない気持ち悪い生物だったわけだ」
「おじゃっ!? なんという言い草っ!朕の召喚獣『超生物』に向かって無礼極まりないっ!!」
「え? あ、すいません……」
「謝ることはないぞレッド。レッドの言うように実際気持ち悪かった。あんな醜悪な生物を操る存在はさぞかし醜いのだろうと思っていたが的中したようだな」
「……そこまでにしろ……すべて本当のことだが悪戯に敵を刺激するな……」
「おじゃじゃっ!? ゆ、許されざる罵倒っ!そなたら覚悟するでおじゃるっ!このヴォジャノーイ=アルタベルジュがその身に死の恐怖と朕の偉大さを刻むでおじゃるぅっ!!」
巨大なカエルの化け物は自らをヴォジャノーイと名乗り、水で出来た玉座から立ち上がる。
立ち上がったと同時にヴォジャノーイの傍らに召喚獣『超生物』と思しき気持ちの悪い生物が周りを固め、水を操る力を持つヴォジャノーイは玉座の水をそのまま攻撃用へと転換する。
ヴォジャノーイの頭上にはその肥満の巨体を超える水の塊が球体となり、惑星の自転のごとく回りながら攻撃の機会を窺っている。
「そうか。えっと、オジャノーイ=アータベージュ……?」
「……違う……ヴォジャノーイ=アルタベージュ……だ」
「あ、ヴォジャノーイ=アルタベージュか」
「どっちも微妙に違うでおじゃるっ!ヴォジャノーイ=アルタベルジュでおじゃるっ!!」
「あ、え? 違う? すいません。えっと……ヴォジャノーイ=アルタベー……。あ、そういえば自己紹介がまだだったな。俺の名前はレッド=カーマインだ。レッドでいいよ」
「いや、誤魔化されないでおじゃるよっ!? 何がレッドでおじゃるか!こうなったらその身に朕の名も刻んでやるでおじゃるぅっ!!」
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