「お前と居るとつまんねぇ」〜俺を追放したチームが世界最高のチームになった理由(わけ)〜

大好き丸

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12章 災厄再来

151、わがままの代償

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 広大な海を進む巨大な船。

 積載量も武力もそんじょそこらの戦艦の倍以上。
 海の魔物に襲われようと、大海賊に強襲されようと、どこかの敵国が戦艦3隻で宣戦布告してこようとも余裕で突破出来る頑強な船。

 その船の積荷はただ1人、イアン=ローディウス卿だ。
 その背後、ローディウス卿を乗せたその船を追いかけるように大きめの貨物船がゆっくりと航行していた。

「……国王でもあんな戦艦を持ち合わせていないぞ。過剰戦力ではないか?」

 貨物船の甲板から双眼鏡でローディウス卿を乗せた戦艦を覗き見るのはニール=ロンブルス。その背後にはブルックが腕を組んで瞑想するように目を閉じている。

(……思い通りにならずに不機嫌そうだな)

 返事をもらうことが出来なかったニールは自嘲気味に鼻で笑い、また双眼鏡を覗き込む。

 ──数日前──
 急ぎ聖王国に帰る必要が出来たローディウス卿は誰にも気づかれないようにコソコソと船を用意していた。その動きにいの一番に感づいた聖騎士パラディンのブルックは仲間に相談という形でローディウス卿の動向を教える。
 誰にも周知することなく本土に戻るには何かしら理由があるのだろうが、エデン正教の重鎮が供回りも付けないのは不自然であり無用心である。安全のために護衛が必要だろうと提案が出た。
 血気盛んなレイン=トルーマンが『全員でついて行こう!』と意気込むも、大陸から聖騎士パラディンが全員出ていく異常事態となれば魔族に対抗する術がなくなる。それだけは避けたいというライオット=フーバーの発言から、少数精鋭で護衛が絶対条件だと強く説得される。
 そしてその言葉を待ってましたと聖騎士パラディン最強の男からの熱い要望により、ローディウス卿の護衛にブルックが1人でつくことが決まった。

 出立の日。
 ローディウス卿の船の出立と共に貨物船に乗り込んだブルックだったが、そこに先回りする形でニールがこっそり乗り込んでいた。最初こそ叱責したが引き返すわけにも行かず、ブルックとニールの2人はそのまま航海に出たのだった。

 ニールは双眼鏡から目を離し、チラリとブルックを盗み見る。
 底しれぬ強い男だ。
 レガリアを失った後、塞ぎ込んでいたニールを気遣い、ブルックが剣の手ほどきをしてくれることになった。
 余計なお世話であり、多少弱体化したからと同情してくる傲慢な態度に苛立ちを覚え、あえて手ほどきを受けた。
 返り討ちにしてやろうと黒い心に支配されたが、そこで完膚なきまでに叩きのめされ、実力の差を分からされる羽目になる。
 自分がいかにちっぽけであったかを思い知らされたと同時に、本当の強者に触れることでまだ成長の余地があると感じ取り、ブルックを心の師とすることを決めた。
 今回の勝手な行動はローディウス卿などどうでもよく、ブルックについていくことで更なる力の獲得を求めてだった。

(貸し出された多種多様な聖なる武具……今まで使ってきた魔剣や魔装具に比べてかなり強化されたが、こんなものじゃ足りないよ。今ままでの僕のやり方ではこれ以上の強化は難しい。あの時の……魔剣レガリアを手に入れた時の大幅強化……僕らの大陸では見込めない本当の力が本土ならあるはずなんだ)

 勝手について行ったことで心証はだいぶ悪くなっているだろう。もしもこれでエデン正教での立場や武具の返還を求められたとしても仕方がないと思える。これは賭けだ。リスクを取らなければ著しい変化は望めない。

(……しかしいつまで黙っているつもりだ? 確かに勝手についてこられて苛立つ気持ちは分かるが根に持ちすぎじゃないか?)

 ここ数日、思い悩むように口を噤んだブルックにそろそろ嫌気が差してきた頃、ニールの気持ちが届いたかのようにブルックは目を開いた。

「……どうしようもないな」
「ん? 何がだ?」
「君についてのことだニール。ここ数日良い言い訳を考えていた。でもどれだけ想定しても君を納得させられそうにない。説得は諦めてアノルテラブル大陸で君を置いて1人にすることも考えたが、そんなことをすれば確実に死ぬだろう。ローディウス卿に打診してついていかせることも考えてみた。でもそれをすれば私の秘密をあちらに開示することになる。ふぅ……八方塞がりとは正にこのことだな」
「……話が見えないな。ここ数日黙っていたかと思えば濁流のようにペラペラと言葉を紡ぐじゃないか。もう少し分かりやすくしてくれないか?」
「ああ、良いだろう。……私は元々エデン正教の人間ではない。君たちの大陸の人間でもなければ聖王国『ゼノクルフ』の人間でもない。私の故郷はルオドスタ帝国。そこで剣聖をしている」

 ニールはブルックの言葉を飲み込めずにいた。理解は出来たが納得には至らない。

「帝国の人間? それじゃ君は……間者か?」
「ああ、まぁそういうことだ。君は私と同じく剣の腕のみで成り上がった叩き上げ。エデン正教とのつながりがないことは裏が取れている。その点を考慮すれば、むしろ君で良かったと言えるだろう」
「何だって? それは一体どう言うことだ? もしかして……ローディウス卿をどうにかしようと……」
「違う。私はあの大陸での任務を終えて国に帰るところだったんだ。本当なら1人で帰るはずだったが、まさかここまで行動力があったとは驚いたよ。これも何かの縁だ。私の権限で君を帝国に招待しよう」
「……ぼ、僕が……帝国だって?」
「ああ、君にとっても悪くないはずだ。君は力を欲している。ならば剣の腕を磨くのにもってこいの場所だぞ? 歓迎しよう」

 ニールは口をパクパクさせながら言葉に詰まっていたが、すぐに自分の置かれた状況を理解して破顔した。
 そう、ニールは賭けに勝ったのだ。ブルックがエデン正教に潜り込んだスパイだったとは思いもよらなかったが、そんなことはこの際どうだって良い。
 帝国のことはよく知らないものの、『剣聖』という役職はそれなりに高い地位であることが見込まれる。心の底から湧き上がるこの感情は喜び。これから訪れる未来に希望を寄せ、ワクワクが止まらない。

「是非ともっ」

 ブルックもようやく悩み事から解き放たれたからか、険が取れて柔らかく笑い、ニールと堅く握手を交わした。



「──っざけんじゃねぇ!!」

 大声を張り上げながらガツンッと机を蹴飛ばしたのはビフレストの盗賊シーフジン=ユラン。
 ニールが珍しく寝坊したということで部屋を訪れた際、机の上に置き手紙を見つけた。その置き手紙にはブルックに同行する旨が記載され、本土での修行期間中しばらく帰ってこられないだろうとも書かれていた。
 何の相談もなく、そんなそぶりも見せぬまま、勝って気ままに取り残された仲間たちの心境などニールは知る由もないだろう。

「ちょっとちょっと~。苛立つのは分かるけど傷つけないでくれるかなぁ? それエデン正教の……」
「うるせぇっ!指図すんなヘクター!」

 ジンはヘクターを指差しながら肩を怒らせる。ジンだけではない。リック=タルタニアンもワン=チャンもプリシラ=トートも……そしていつもニールの擁護に回っていたローランド=ヒールダーですら、ニールの身勝手な行動には我慢の限界だった。

「……きっと彼にとって我々は仲間ではなかったのでしょうね……」
「そう見たいね。まったく……アルマが出ていったのが正解とか誰も予想出来なかったわよね」
「え? そう? 私もしかして思ってたヨ。きっと近い未来何か起きるってネ。最近のニール、ずっと暴走してたネ。それでもアルマのように出ていかなかったのは……あー……私やっぱり予想出来てなかったみたいヨ……」

 ため息交じりに肩を竦めるワンの疲れたような声に合わせてリックは座っていた椅子を蹴り倒し、直ぐ側の花瓶を壁に投げ付けた。

 ガシャァンッ

 見事に粉々に砕け散り、飛び散った水がそこかしこを濡らし、生けた花は床にハラハラと落ちる。当のリックは肩で息をするように興奮状態だ。
 割れた花瓶はビフレストそのもの。1から作り上げた花瓶という名のチームの結束、華々しい活躍とその花を枯れさせないように活動する栄養と水が音を立てて砕けたのだ。ニールの他者を顧みない行動が全てを台無しにしてしまった。
 冒険者ギルドと言う枠組みで最も早い栄枯盛衰を目の当たりにしたヘクターは、ため息をつきながら頭をゆっくりと左右に振った。

「……それ、弁償ね?」
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