「お前と居るとつまんねぇ」〜俺を追放したチームが世界最高のチームになった理由(わけ)〜

大好き丸

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14章 帝国編

196、力の波動

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 ──……ォオンッ

「っ!?」

 空間を切り裂いたレッドの爪刃は空を駆けて強者たちの気を引いた。
 デザイアが乗る浮遊要塞『パンデモニウム』の中で、ひたすら出番を待っていた山のような求道の魔神モロクは、閉じていた目をギョロリと開けて獣王国の方向に目を向ける。
 その反応に合わせるように玉座に座るデザイアが口を開いた。

「獣王国か……確かあそこにはドラグロスを向かわせていたな」
「はっ。凄まじい力の波動……あのドラグロスがこれほどの力を使わざるを得ない実力者が居たという証明でございましょうか……?」
「ふむ……もしくはドラグロスを屠るために力を使用したそれなりの実力者が居たのか……」
「それはあり得ぬことかと……。この世界の住人にこれほどの力を持つ者が居るとは到底……」

 モロクはデザイアの意見をすぐさま否定するが、デザイアの視線でハッと気づく。

「もしや……レッド=カーマイン……っ?!」
「ふっ……だとしたらいったいどうやってこの大陸に渡って来たのだろうな? この世界の技術力はかなりの進歩を遂げたようだが、空輸の類は未だ発展していない。レッド上陸の報告が上がっていない以上、お前の言う通りドラグロスが少々本気を出したかもしれんぞ?」

 モロクは拳を握り締め、獣王国の方角に視線を送る。
 今感じた力の波動がドラグロスのものなら、是非にも戦ってみたいと体が疼いたのだ。
 赤黒い闘志が可視化されるほどにモロクの体を這い回り、同時に筋肉が隆起し、ブルブルと武者震いし始めた。

「モロク。よせ」
「……はっ」

 デザイアの制止にモロクは答え、先ほどまであった闘志のオーラが一瞬にして消え去った。まるで部屋のスイッチを切ったかのようだ。

「……私がお前を動かす時は決まっている。それはお前も承知のはずだ。……急いては事を仕損じるという。もうしばらく様子を見てみようではないか」
「はっ」

 モロクはデザイアの言葉を聞き入れ、一歩下がる。
 自分の欲求をも嚙み殺すその姿勢は忠臣と呼ぶに相応しい。



 聖王国でこの世界の情勢や常識を学んでいた嫉妬の魔神ヴァイザー=イビルファイドは机の上に広げてあった地図や書物から一瞬顔を上げ、キョロキョロと目だけで周りを見渡す。
 気配の出所が獣王国であると確認したヴァイザーは鼻を鳴らして視線を落とす。

「ふんっ……あのうつけ爬虫類が……」

 ポツリと呟いたヴァイザーは一口紅茶をすすると勉学に励む。



 色欲の魔神グレゴール=ブラッディロアは浮遊要塞の高台で右手の人差し指を頬に当てながら考え事をしていた。

「あらあら、凄いわねぇドラグロスちゃんってば。仕事熱心なことで……」

 裂けた空が徐々に修復していくのを眺めながらため息を吐く。

「まったく……デザイア様も困った御方よねぇ。私たちを連れ出してこの世界を支配しろだなんてぇ……こんな大勢で押しかけちゃ迷惑でしょうに……」

 意味深な呟きにグレゴール直属の配下が口を開く。

「グレゴール様。我々もそろそろ侵略を開始すべきではございませんか? お三方は既に支配を完了されたとの報告がございます。我々も急がねば……」

 チラリと肩越しに部下を確認する。針金のような細い複数の金属が螺旋を描くように顔を覆っている。中身は真っ黒で黄色い目だけが浮いた奇怪な容姿。多分全身が針金で覆われているのだろうが、ローブを纏い、フードを被っているので顔だけしか分からない。
 見た目からは全く分からないが、本人曰く「どちらかというと男性」だそうで、デザイアに服従させられた存在の一人。
 この要塞には別世界でデザイアに無理やり連れてこられた多くの被害者が乗っている。
 乗組員全員グレゴールの足元にも及ばない実力だが、有用で、この世界を侵略するのには過剰戦力と呼べる強い者ばかり。
 部下たちだけでも眼下に広がる雅な国『龍球王国アマツカグラ』を取ろうと思えば、3日で陥落させられるだろうという確信がある。
 それこそグレゴールが下りればドラグロスやガルムと同様、龍球王国は1時間ともたないだろう。

「うふっ良いのよ私たちは。後回しにしたって全然大丈夫だも~ん」
「え? し、しかし、デザイア様のご命令が……」
「今すぐ支配しようと支配しまいと関係ないわよ? 正直何もしなくたって最終的にはデザイア様にかしずくことになるし? それに私たち魔神には権限があるもの。動く動かないも自由に決めて良いってゆーね」
「それはそうかもですが……」
「ま、直接せっつかれた時に動くわよ。それまで待機でいいわ。あなたも少し休んだらどぉ? 顔色悪いわよ~」

 部下は針金の上から顔を撫でる。中身が真っ黒な彼の体調など、会って間もないグレゴールに分かるわけもないが、これは皮肉ではなく心の底から彼の体調をおもんばかってのことだ。
 グレゴールは優れた感覚器官を持っているので、たとえ悟られないように隠していても気付くことが出来る。
 魔神の中では特に優しいと評判であり、こうして体調にも気を使ってくれる。
 しかし優しすぎるがあまり支配する事を拒み、デザイアの命令を度々無視することがあるので、部下たちにとっては心身、特に胃にダメージを受けることもある。

 そんな部下たちの思いを知りつつも支配に乗り出さないグレゴールは、部下に顔が見られないように前方を直視する。眉根を顰め、その目に悲しみを湛えた。

(こんなこと……いつまで続けるつもりなのよ……)



 グレゴールの要塞から最も近しい場所で待機する傲慢の魔神オーギュスト=クラウン=アークレイン。考え込むように左手で顎を触りながらニヤニヤと笑っている。

「なにをニヤ付いてんです? オーギュスト様」

 背後から近付いてきた女性に目を向ける。そこに立っていたのはオーギュストの部下フェイル=ノート。
 猫のようにつり上がった目とツインテールに結った水色の髪が特徴的で小柄な女性。背中に背負った矢筒と手に持った弓矢が彼女を弓兵であると教えてくれる。
 彼女はオーギュストと同郷であり、わざわざ世界を跨いでまで上司であるオーギュストについてきた稀有な存在。

「ああ、フェイルさん。いや、実は……って何で弓を?」
「なんでって……さっきの奴ですよ。凄い力を感じたんで一応武装してるんです」
「ふふっ安心してください。あれはドラグロス様に放たれた攻撃。私たちには関係のないものですよ」
「え? そうなんです? てゆーか、ドラグロスは獣王国を支配したんですよね? ここまで気配が届くって並大抵の敵ではないと思うのですが……」

 フェイルも考えるように腕を組む。

「いけませんねぇ。フェイルさんってばお口が悪い。『様』をお付けなさい。仮にも彼は魔神ですよ?」
「安心するです。ドラグロスと私は格が違うので会話はおろか口を開くことも許されてないです。というかそれ以上に『仮にも』ってのは余計ではないです? オーギュスト様は一応同格の魔神なのですから、会話の機会は多めですよね? 今の内に改めた方が良いですよ?」

 フェイルは無表情で親指を立てながらオーギュストを煽る。
 オーギュストは部下の態度に怒るでもなく自分の額を平手で打った。

「なるほどっ! 一理ありますね。これは一本取られてしまいました」
「ふぅ。何でもないようですので私は自室にこもるです。用があったら呼びつけるです」
「おやおや、せっかく武装してきたのにもったいないですねぇ。せっかくですからちょっとその辺で暴れてきます?」
「……面倒くさいです。それにどうせまだ動く気なんてないですよね?」
「はい。その通りです」

 ニコニコと笑いながら鷹揚に頷いた。
 フェイルはひらひらと手を振りながら自室に帰っていく。

 道化を演じるオーギュスト。
 彼の見る景色は他の魔神とは全く異なっていた。
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