「お前と居るとつまんねぇ」〜俺を追放したチームが世界最高のチームになった理由(わけ)〜

大好き丸

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14章 帝国編

202、フラッシュバック

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 本気と称して二刀流となったガルム。
 だらりと両手を下げて剣を下段に構える。

 全身の力が適度に抜かれた脱力した立ち姿は、先ほどのどんな攻撃よりも危険な構えに見えた。
 ほんの少しでも間合いに入れば一息に真っ二つにされるのではないかと思わせる。

 ライトはガルムの一挙手一投足を見て感動を覚える。
 達人と呼ばれる者にも超人と呼ばれる者にも一貫して存在するのが『自己流』である。如何に自身の最適を見つけて行くかで技量や術理を高く伸ばすことが出来るようになる。
 だがあくまで自己流であり、見様によってはまだまだ研鑽の余地を残している。

 ライトは本人では気付けなかった突き詰められる部分に気付いて改善策を提示出来るのだが、こうしてガルムの姿勢を目の当たりにして削れる部分を見つけられなかった。

(美しい……全てが洗練され、調和している。これがガルムの本気か……)

 ライトは真似して剣を下段に構える。
 ガルムと比べればまだまだだが、パッと見では形になっているので周りから感嘆の声が漏れた。
 まるで同門の流派同士が雌雄を決するような雰囲気すらあった。

(……ん?)

 ガルムはライトが真似した瞬間に先ほどまでぼんやり二重に見えていた像がハッキリ結ばれたような気がする。ようやく見えてきた人物に目を凝らすと、認識したと同時に疑問が襲ってきた。

(あれは……私か?)

 ライトと被って見えたその人影は濡れているようにしっとりと艶めく黒髪の男。
 顔、体型、立ち姿の全てがガルムと似通っているものの、髪の色だけは真逆。
 現在は全ての色が抜け落ちたような白であるのに対して、像を結んだガルムと思しき影は生命に満ち溢れるように黒々としていた。

『……違う』

 ガルムは困惑した。心の中で何かが自分に語りかけて来る。

『……あれはお前じゃない。あれは……俺だ』

 ピクッと右手が動く。ライトは攻撃が来ると思って固唾を飲むが特に攻撃されることはなかった。

(……誰だ? お前は……?)
『聞くまでもない……お前は俺のことをよく知っているはずだ』
(……私はお前など知らん。消えろ。……今良いところなのだ)
『……今良いところか……何故そう言える?』

 ガルムの思考は停止する。

 『今良いところ』と思えたのは『何故』なのか。
 命の取り合いに興奮しているのか。それとも戦いの中で成長するライトに面白みを見出しているのか。全ては単なる暇つぶしなのか。

(そのどれとも……違う……?)

 ガルムが自問自答の末にたどり着いた答え。その瞬間に時間の流れがゆっくり動き出す。時間の遅延に気付いたのは真っ直ぐ見据えたライトの一度の呼吸が体感7秒掛かっていたから。
 不思議な感覚だった。全てが研ぎ澄まされ、段々と時間が遅くなり、光が充満する。



 視界が白に染め上げられ、今自分が床に立っているのかも判然としない。

 次に視界が晴れた時、自分の目の前に立っていたのは2本の折れた剣を構えたガルムと思しき青年と、長髪の青髪を遊ばせ、フード付きのローブを着たレイピアを所持する男性の2人。

(これは……なんだ? 知らない光景だ……)

 ガルムは自分の記憶にない光景に困惑する。
 視点は2人の目の高さに合っているが、少し左に傾き小刻みに揺れている。この視界は疲労や痛みから左膝を地面に突いて休んでいるような風景に見えた。

(……そうか……私は何者かの手によって倒されそうになっているようだ。目の前に立つこの男はきっと私を超えたのだろう。もう虫の息の私を見下し、トドメを刺そうとしている。……しかし、その折れた剣でトドメを刺せるのか?)

 いや、きっとトドメは刺せていない。何故ならデザイア軍に入り、数多の世界の支配を手伝い、現在は帝国に脅威を与えている最中だ。今見えているこの光景が過去のものであるなら、自分は死んでいない。何らかの形でしくじったのだ。ここまで追い詰めながら目の前にいるこの男たちは殺すことが出来なかったのだ。

 そしてガルムの推測は的中する。
 折れた剣を掲げてトドメに入ろうとする青年に対し、レイピアを持つ青い色の長髪の男が後ろから青年を刺した。
 何が起こっているのか全く分からなかったがこれは絶好の機会。ガルムはまるで獣のような毛むくじゃらの腕を前方に伸ばして強力なエネルギーを貯め始める。

(裏切り……何があったのか知らないが、これ以上ない私が死ぬ機会をこのような間抜けな形で逃すとは運のない。きっとこのまま2人とも消滅し、私がいつも通りの勝利を収めるのだろう……)

 何も出来ず、ただ勝利する瞬間を見せられる意味のない時間。こんなことをしているよりもライトと戯れている方が遥かに充実している。

『……ハ……ハハハ……ハハハハッ!! 残念だったなシグルスっ!! 全部僕のものだっ!! 称賛も名誉もヒルデも全部僕のものだぁっ!!』

 ガルムは不意に聞こえてきた声に耳を傾け、名前を反芻する。

(シグルス……ヒルデ……)

 聞き覚えがある。
 名前などそう覚えないが、気に入った敵の名は覚えるようにしている。
 死ぬ一歩手前まで追い詰められたことを思えば、それも当然と言えよう。ヒルデというのもきっとこの後倒したのだと考えた。そうでなければ覚えているはずがない。

 そして追い詰められたガルムが死に物狂いで貯めた黒い何かは放たれた。
 きっとこれは魔力を凝縮して撃たれた全てを消滅させる一撃。何もかもを消し飛ばし、追い詰められた過去さえなかったことにしてしまうのだろう。

(いつものことだ……何も変わらない)

 投げやりになる思考。終わることのない永劫の命。嫌気が差すほどに長きに渡る時間の流れ。本来あるべきところから外れた異端の存在。それがガルム。無意味な勝利と孤独をいつものように手にするのだろう。

『どうしてだ……グンテル……』

 聞こえるはずのない男の声が聞こえてきた。
 これは先ほどライトと対峙し合った時に語りかけてきた声に似ている。

(……あれはシグルスだったのか?)

 レイピアに刺された青年の名はシグルス。裏切ったのはグンテルというらしい。
 その声が聞こえたと同時に闇に包まれる。

 消滅したかと思われたその時、シグルスの記憶が濁流のごとく流れ込んでくるのが分かった。

(え? こ、これは……どうなってる?……私は今、何を見て……?)

 青年の生い立ちや成長の日々、修練の辛さや勝利の余韻、敗北の悔しさと友情、愛おしさと苦しみ。
 流れ込んできた記憶の中に白昼夢で見た光景が出てきた。

 赤髪のおさげが風に吹かれて気持ち良さそうに揺蕩たゆたう。
 その後ろ姿に愛おしさを感じていると彼女はゆっくりとこちらに振り返った。キラキラと輝くルビーのような瞳を向け、微笑む。

『ねぇ、シグルス。この戦いが終わったら、どうするの?』
『この戦いが終わったらか。考えたこともないよ。……君はどうするんだ?』
『私? 私はこの戦いが終わったらさ、槍を置こうと思うの。くわを持って畑を耕したり、本を読んだり。あとは……』
『……一つ言っても良いか? 何というかこう、平凡っていうか……そんなことで良いのか?』
『とにかくずっと忙しかったじゃない? だからゆったり過ごせる家でさ、のんびり過ごすの。静かで暇で退屈なスローライフ。でも平和ってそうなんでしょ?』
『平和か。もうずっと戦ってきたから、平和というのがどう言ったものなのかいまいち分からなくもあるな……』

 会話が途切れ、女性はもみあげを耳に掛ける。

『でさ、シグルス。もし良かったら何だけど。それはつまり戦いが終わった後、特にやることがなかったら。何だけど……この戦いが終わったらさ、私と一緒に暮さない? いまいち分からない平和を2人で実感して行くの。面白そうだと思わない?』
『……俺は退屈な男だぞ? 世間には疎いし世相にも詳しくない。知ってるのは剣だけだ』
『それは奇遇だね。私も槍しか知らないもん。じゃあ……どっちが音を上げるか競争だね!』

 コロコロと鈴を鳴らすように笑う女性。この会話中、包み込むような暖かさと安心感を常に感じていた。
 彼女を幸せにしたい、大切にしたい、傷つけたくない。その想いが溢れて我慢出来ない。

『……分かったよヒルデ。この戦いが終わった後、一緒に暮らそう。約束だ』

 固い握手を交わす2人。これはシグルスとヒルデの愛の誓い。

(何故だ?……何故今、こんなにも鮮明に……?)

 意識の奥深くに刻まれた忘れても消えない記憶。確かに誓いあった2人の幸せの願いはグンテルによって切り裂かれる。

『なぁシグルス。僕たち2人でマーナガルムを倒そう。……どうしてって、ヒルデと一緒に暮らすんだろ? あいつを巻き込んで、何かあったらどうするんだよ。僕は2人には幸せになって欲しいんだ』
『いやでも、お前は一国の王子。立場ある人間だ。次代を担うお前に何かあったら俺は責任を負えない。それなら俺1人で戦いに行く』
『バカ言うなよっ! 僕たちは親友だろっ?! 僕だって実力はある。父さん……いや、王も僕の選択を尊重してくれるさ。とっとと世界を救って、平和って奴を享受しようぜ』

 シグルスはグンテルを疑わなかった。彼を親友だと信じていたから。まさかこの時よりももっと前に魔王とつながりを持ち、シグルスを亡き者にしようとしていたなんて思っても見ない。
 大魔王マーナガルム=スコルをたった2人で相手し最終的にシグルス一人となったが、体力も気力も何もかもを振り絞って戦った結果、死の淵にまで追いやった。全ては仲間のため、ヒルデのため。

 死に物狂いで重傷を負いながらもトドメを刺すために全神経をマーナガルムに向けていた。それが不味かった。実は裏でマーナガルムと内通していたグンテルによって背後から心臓をひと突きにされる。

 裏切られた瞬間に吹き出したのは悲しみと痛み。不思議と怒りや憎しみは湧いてこなかった。
 最後に襲ってきたのは全てが抜け落ちたような虚脱。

『フハハッ! 間抜けだなシグルスっ!! 僕はお前のことが嫌いだったんだよっ! 何が親友だよ気持ち悪いっ!! 僕から何もかも奪いやがってっ!! ヒルデが振り向かなかったのはお前がいるせいだっ!! お前さえ死ねば全てが僕のものになるんだっ!!』

 グンテルはシグルスを殺してその手柄を独り占めしようとしていた。婚約者のヒルデも含めて。

 マーナガルムの最後っ屁として放たれた闇に包まれるシグルス。グンテルはギリギリのところで避け、当たることはなかった。
 死んだと思い、王家に伝わるレイピアを回収するために黒いもやが立ち込める場所まで近づく。
 その顔は達成した安心感と、今後のことに舌舐めずりする醜悪な笑顔が張り付いていた。

 消滅は免れない最強の一撃。かと思われた攻撃だったが、シグルスは原型を保っていた。
 困惑するグンテルだったが、貯めていたエネルギーはマーナガルムの生命エネルギー。つまり消し飛ばす攻撃ではなく、新たな体に入る能力で古い体を捨て大魔王は生き永らえたのだ。

 そして最初の犠牲者はグンテルだった。毛むくじゃらの手でグンテルの頭を握り潰し、この世界から生きた痕跡を根こそぎ消滅させた。

『俺はこの瞬間、シグルス=ヴォルフガングではなく、ガルム=ヴォルフガングとなった』



 ガルムの目に光が戻り、焦点が定まる。
 真っ白になった頭が瞬時に冴え渡り、自分が今何をしていたのかを思い出した。

 ライトと相対し、急に白昼夢に入ってから5秒と経ってない。
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