「お前と居るとつまんねぇ」〜俺を追放したチームが世界最高のチームになった理由(わけ)〜

大好き丸

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15章 聖王国 前編

213、神のなすべきこと

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 聖王国の首都から西側に数キロ離れた場所にある街『ソルブライト』。この街はエデン教の諸教派が実権を握っている。聖王国の首都に匹敵する大きな街だ。
 その街の中心に近い場所にある大きな館。その最上階の窓を開け放ち、聳え立つ城を眺めるように立ちながら一息をつく女性がいた。
 開いた窓からそよそよと入り込む風によってホワイトブロンドの髪がふわりと棚引たなびく。

「──邪悪」

 ポツリと呟いた女性は体にベールの様な白いオーラを纏わせながら力を高める。

 ──コンコンッ

 ノック音が鳴り響く。
 女性は纏わせた白いオーラを解除し、「どうぞ」と返答する。ガチャリと開いた扉の先に立っていたのは凛々しい男性だ。顔に刻まれたシワともみあげに生えた白髪が人生の苦労を物語っている。

「どうだ王国は?」
「──邪気を孕んでいます。既に黒く染まってしまっている様ですね」
「やはりか。浮島が領空侵犯した時から動きがないのはおかしいと感じていたが既に敵の術中だった様だな。……もし、だ。もしも七元徳イノセントと戦うことになれば……勝てるか? アリーシャ」

 アリーシャと呼ばれた女性はゆっくりと肩越しに振り返る。その目は真っ赤な布で覆われて見ることは出来ないが、彼女にはこの布で目を覆う必要があった。

「──エイブ。勝てる、などと断言することは致しません。その時が来れば全身全霊にて戦うのみです」
「……そうか、頼もしいよ。……ハワードと約束がある。同行願えるか?」
「──ええ、もちろん」
「即答か。珍しいこともあるものだな」
「──個人的にあの方々は好きではありません。……しかし聖王国に蔓延はびこる邪気を払うには彼らの力も必要だと判断致しました」
「……流石の判断だ。下で待っているぞ」

 男は踵を返し、扉を閉じて立ち去る。
 アリーシャは今一度城に顔を向け、ガッカリした様に肩を落として部屋を後にした。



 ベルギルツは高揚していた。
 ヴァイザーが不在の間、全ての指揮を任されたベルギルツの前にズラリと並んだ愚鈍な魔族たち。彼らはデザイアの威光で連れてこられた異世界の魔王や幹部たちである。
 田舎の大陸で小さな領地とそれなりのダンジョンしか運用してこなかったベルギルツなど羽虫のように叩き潰せる数倍強い支配者たちが今、ベルギルツの手足となって動いてくれるのだ。戦略家で策略家であると自負してきたベルギルツにとってかつてないほどの状況に心が躍る。

(しかし……なんとも微妙な連中ですねぇ。どうにもパッとしないというか……何故ヴァイザー様はこの様な愚鈍な連中を部下として引き連れているのか理解に苦しみます)

 如何にもパワータイプといった見た目に少々ガッカリする。自分と同じ知的なタイプが見当たらなかったので、とりあえず目に付いた魔族を呼び付けた結果だ。
 ベルギルツにとってそこだけは不服だがおおむね満足といったところだ。

「なぁベルギルツよぉ。本当にオラたちがこの街に降りても良いだか?」

 魔族たちの中でひときわ大きな魔族が話しかける。前腕が異様に発達し、頭よりも大きな顎が特徴的な魔族だ。控えめに言ってもアホ面である。

「ん? どうかされましたか?」
「この国の王様がこうべを垂れたそうでねーか。もう支配完了してるべ?」

 その愚鈍な魔族に追従するかのように他の魔族も「んだんだ」「当然だべ」と口々に街に降りることを拒否する。

「何を言い出すのですか? この地はまだ完全にヴァイザー様が掌握したわけではありません。あなた方はどうやって自分の国を治めて来たのですか? ああおっしゃらないで。そう、恐怖による支配だったはずです。反骨の芽を摘むためにも、我々の戦力を見せつけるのが得策でしょう。それにヴァイザー様の真の目的はデザイア様の名を轟かせること。デザイア様が目立たなければ意味ないでしょう?」
「それはそうかもしれねぇ。けんどオラたちはあんま外出んなって言われてっからなぁ。船動かすのがオラたちの仕事だし」
「チッ……まったく……!」

 ベルギルツは頭を抱える。しかしすぐに頭から手をパッと離し、踵を返して背中越しに語り始める。

「……あぁまぁ、よろしいでしょう。このことはヴァイザー様にはご報告させていただきます。ここにお集まりの皆様は『全権』を任された私の命令に背いたとねぇ」
「なっ……!?」

 本来であれば『外に出るな』というヴァイザーの命令は絶対。でも全権を握っている今この場ではベルギルツが最高権力者である。命令に逆らえば後でヴァイザーに告げ口され殺されてしまう。
 それに加え、全権を許されるほど気に入られているならベルギルツの口を塞ぐことも出来ない。バレた時点で死は確定する

「そ、それだけは勘弁してけろ! オラたちが間違ってただ! 言う通りにするからヴァイザー様にはどうか……っ!!」

 魔族はベルギルツに縋り付くように懇願する。ヴァイザーが雲の上の存在すぎてあまり分からなかったが、自分よりも強い魔族が震え上がっているのを見ると老人にしか見えないヴァイザーが滅茶苦茶強く感じて来た。それを従えるデザイアとは何者なのかという疑問も湧いて出る。
 しかしヴァイザーやデザイアがいくら強いかなどベルギルツにはどうでも良かった。何故なら自分よりもよっぽど強い魔族たちが恐怖によって懇願し縋りついてくる様を見て愉悦を感じていたからだ。

「ふっ……分かれば良いのですよ。これからは私に逆らわない様にお願いしますよ?」

 先祖代々受け継がれし奥義『強い者に巻かれ、強い者の威を借りふんぞり返る』。ベルギルツの一族はこの思想を『戦略』と題して恥じらうことなく使用してきた。責任から逃げ、他責で乗り切ってきた結果、誰にも好かれず生きているのが不思議な存在へとなり下がる。

 だがそれで良い。裏切り者のそしりを受けたとて最後には元の地位に返り咲く。馬鹿正直に実力を示したとて上がれぬ場所なら、卑怯卑劣に悪辣を一摘みして取り戻そう。それがベルギルツの本心である。

 説得が成功し、部下となった魔族たちと共に街に繰り出す。
 景観を損ねないように清掃が行き届いたきれいな街に似つかわしくない暴力の化身が練り歩く。今まで魔物の侵入を許したことがないだけに国民は動揺し、そこら中から悲鳴が木霊する。

「ふふふっ……良い音ですねぇ」

 ベルギルツはうっとりと酔い痴れる。
 いざという時のために国民に混ざり、見張っていた聖騎士パラディンたちは交代で上に報告に向かう。報告を聞いた枢機卿カーディナルの面々は表情を曇らせた。

「……猊下。この事態をどう解釈すればよろしいのでしょうか? 安らぎを与えて下さるならいざ知らず、国民に恐怖を感じさせるなどあってはならぬこと。これが神の御業と言えますか?」

 ガブリエルに強い口調で問い詰めるように質問する。ガブリエルは少し真剣な表情で片眉を上げ、ジロリと睨むように見る。

「耐えるのです。我々をお試しになられている。これもまた試練ということでしょう」
「魔族の汚い足で我々の土を汚させることがですかっ!?」
「すべてはっ!……神のなすべきこと」

 今まで感じたこともない圧に驚いた枢機卿カーディナルたちはゴクリと固唾を飲んでガブリエルに目を見張る。もうそこにふわふわとした日向ぼっこでもしてそうな老人は居ない。ハッキリと芯の通った老練な男がそこに居た。
 何があろうとも絶対に曲げない信念。神は全知全能であり、全てを見通していると信じ切った眼差し。
 ガブリエルはヴァイザーを心から信じる。それがたとえ間違いであったとしても。
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