一般トレジャーハンターの俺が最強の魔王を仲間に入れたら世界が敵になったんだけど……どうしよ?

大好き丸

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第十章 虚空

第十二話 怒れる熊男

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 ラルフが交渉している裏で、ベリアはエレノアに対して険悪な空気を発していた。

「マサカ オ前ニココデ会ウトハナ……」

 腕を組んで座っているが、即座に手が出そうな程の殺気が漂う。
 当然だろう。彼女は共に死線を潜った仲間を死に追いやった張本人。幾ら十数年の時が過ぎようとも、忘れ難い忌むべき存在である。

「久し振りねぇ。あの頃よりぃ、一回り大きく見えるのは気のせい?」

「コイツハ備エダ。イズレ来ルカモシレン戦イニ対シテノナ……ソシテワザワザ ソッチカラ現レテクレタッテ訳ダ」

 少し前のめりにエレノアを睨む。

「……ヤルカ?コレカラ……」

 すぐにも飛び掛かってきそうな雰囲気だが、エレノアは涼しい顔でベリアを見据える。

「止めときましょぅ。私たちはもぅ、敵ではないし……」

「魔族ハ敵ダ。オ前ガ魔族デアル限リ、ドウアッテモ相容レナインダヨ……!」

 ビキビキと音を立てて筋肉が隆起し、見た目の強さは最初に見た時の三割増しとなる。ナタリアとの戦いが遊びだったと感じさせた。

「じゃあ俺も敵ってことですね」

 エレノアの側で座っていたブレイドが声を上げる。

「小僧……身ノ程ヲわきまエロ。オ前ガ出ル幕ジャネェ事ハ分カル筈ダゼ」

 ブレイドは臆すことなく右手を差し出した。

 ズッ

 その時、ブレイドの右手が影に覆われる。いや、そう見えただけで、実際は白い肌から褐色の肌に変化していった。

「何ダ……?」

 その変化に目を白黒させる。何が起こっているのかと記憶を辿るが、何らかの変身能力だろうというだけで全く分からない。変色した右手で右目を隠し、指を開いた時にブレイドの瞳は爬虫類のように縦に割れていた。

「魔族!?擬態……?イヤ……」

 ブレイドの左目と右目の違い、肌の変色。心当たりが一つだけあった。”半人半魔ハーフ”と言う忌み子の存在。

「……トンデモネェ話ダ。詰マル所アノ旅ハ オ前ラ二人ノ壮大ナ ラブストーリーダッタッテ事カ……コレジャ イーリス モ オリバー モ浮カバレネェゼ」

 聡明で強かった二人の英雄を思い出す。今いる白の騎士団の面子など可愛く思えるほどの戦士であったとベリアは考えている。

「確かに父のブレイブは裏切り者です。その事実は覆しようがありません。しかしアスロンさんから話を聞く限り、一番厄介であろう魔王を倒す切っ掛けになりました。結末は悲劇ですが、人類の勝利には必要不可欠な犠牲だと考えます」

「……犠牲?犠牲ダトッ!!」

 ガタッと怒りのままに立ち上がる。エレノアはブレイドの方を見てバツの悪い顔をしたが、これこそがブレイドの狙い。エレノアに対する一方的なヘイトを自身に収束させた。城内でナタリアとの戦いの再現が始まろうとしていた。そうなればせっかくの豪華な建物は滅茶苦茶となるだろう。
 とはいえ、もちろん戦う気などない。

「待ってください。俺はお二人を貶める気も辱める気もありません。飽くまでも客観視した意見です」

「十五、六ノ小僧ガ ナマ言イヤガル……経験ノ浅イ クソガキニ何ガ分カルッテンダ!!……ブッ殺スゾ」

 目がイってる。血走った眼にはブレイドの顔がくっきりと映っていた。

「なーんだ、ただの病気の人じゃん」

 ミーシャが横から口を挟んだ。その瞬間、ベリアの姿はブレイドの目の前から消える。その巨体が次に姿を現したのはミーシャの目の前。拳を振り上げ、殴る寸前の姿だった。

 ブンッ

 振り下ろされた拳。その拳はミーシャに届くことなく寸での所で空打った。
 最強の拳士であるベリアがよもや間合いを見誤ろうはずもない。もちろんミーシャは1mmも動いていなかった。

「!?」

 腹部に圧力を感じる。下を見れば、女の華奢な腕がまとわりつき、ベリアの体を後方に退がらせていた。殴ろうとする瞬間に、僅かに背後に引っ張られたのだ。だが200kgはあるベリアの巨体を、まるでバッグでも持つ感覚でスルッと後ろに提げられるとは夢にも思わない。

「失礼な獣ヨな。ミーシャ様に失礼であろう?」

「コノ……クソ魔族ガ……!!」

 後ろを振り向こうとするが、ベルフィアが腰に組みついてビクともしない。手を後ろに回してベルフィアの肩を掴む。そのまま力任せに肩を握りつぶした。

 ベキッゴキッ……

 枯れ枝をへし折ったような音が響く。その音に空王の侍女やアロンツォ、ナタリアも目を見開く。生き物の骨を難なく握りつぶしてしまうその握力。そしてその餌食となってしまった被害者であるベルフィアに向けての驚愕だったが、事態は一変する。

「何デ……!?」

 肩を握りつぶした感触はある。普通の生き物であるなら、腰に組み付いた腕の力が抜けて損傷箇所を庇うものだが、ベルフィアにそれは通用しない。

「ふふ、こノまま捻り潰そうかえ?」

 戦いのために練り上げた腹筋。その自慢の腹筋が締め上げられ、徐々に腕が食い込んでいく。肺の空気が否応なく吐き出されていく。全く為す術もなく死に向かうのを感じ、脂汗を流すベリア。

「やめろ」

 誰も止められない流れを断ち切ったのは、交渉ごとを終えて戻ったラルフの声だった。

「あ、ラルフ」

「何じゃ、そう時間かからんかっタノぅ……」

 ベルフィアは残念そうに腕の力を抜き、ベリアを解放した。

「ブハッ!!ゴホッゴホッ……!!」

 一気に新鮮な空気を慌てて取り込んだせいでせた。

「俺たちは戦争しに来たわけじゃない、技術をもらうために来たんだ。それをお前一方的に……」

「何を言う。ミーシャ様に手を出そうとしタノじゃぞ。当然ノ報いじゃ」

 握りつぶされていた肩が逆再生のようにあっという間に治っていく。初めてそれを見たものはその様子に釘付けとなった。

「……まぁ、それはダメだな。でもベルフィアからお仕置きを受けた。それで手打ちってことでどうかな?獣王さん」

 獣王は舌打ちをしながら「ソウダナ」と返した。ベリアとのいざこざも一応の収束をし、ラルフたちがまったりしようとしていた頃合いで獣王が気づいた。

「ナタリア、アロンツォ。何故此処ニ居ル?オ前達ハ行カ無クテ良イノカ?」

 ”何処に”が抜け落ちた問いかけに、二人は首を傾げた。

「……一体、何の話でしょう?」

「白ノ騎士団召集ノ件ダ。ガノン カラ書状ガ届カ無カッタノカ?」

 二人は顔を見合わせて肩を竦める。

「国に帰ればあるかも……」

「うむ、その様だな……ところで獣王様。差し支えなければ書状の内容を教えて下さいませんか?今から我らが国へと言うのは些か時間がかかる。故にご容赦いただければと……」
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