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2話 追放直後、イケメン騎士に助けられました
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「悪いな。我が国で受け入れられる聖女は1人だけだ。お前は手違いで呼ばれてしまったようだが、送還する術がない。まあ悪く思うな。さあ、出て行ってくれ!」
無情なザカリアス王子の台詞に、私の頭は真っ白になった。
「待ってください! 異世界に召喚されて、いきなり追い出されても困ります!」
「悪いが事態は一刻を争う。これ以上お前の相手をしている暇はない。近衛兵、その女を城からつまみ出せ! 北の裏道へと追い出すのだ!」
「下働きでも構わないから、追い出さないでください!」
「くどいぞ! さっさとその女を追放しろ! 目障りだ!!」
「はっ!!」
豹変した王子は、道端のゴミを見るような目で私を見る。その一方で、シオンちゃんの肩に手を回した。
「エリカさん!」
「聖女シオン様、あのような下賤な輩に構う必要はありません。さあ、こちらへ……」
「きゃっ!」
私は近衛兵に担ぎ上げられ、シオンちゃんから遠ざけられてしまった。
お城から追い出されると、鉄門が固く閉ざされる。私はぽつんと1人、裏道と思しき場所に放置された。
運が悪いことに、外はもう夜だった。空には三日月が浮かんでいる。
……見知らぬ街で、夜にたった1人で放置されてしまった。
「開けてください、開けて――ひあッ!?」
「うるせえぞ! さっさと城から離れろ!」
鉄門にしがみついていると、上から水をかけられた。まるで野良犬扱いだ。……そっちが勝手に呼んだ癖に!
「どうしろっていうの!? あの王子、私に死ねとでも言いたいの!?」
でも悔しいけど、いつまでもここにいたって仕方がない。下手をするとまた水をかけられるかもしれない。
濡れた体で裏道を歩く。辺りには石造り、レンガ造りの建物が並んでいた。足元も石畳だ。
今まで得た情報を総合すると、この世界は中世ヨーロッパ風の世界と見て良さそうだ。
こういう世界だと、大きな街には衛兵とか騎士の詰所とかがある筈だよね。とりあえずそこを目指して保護してもらおう。
「はあ……」
とぼとぼ歩みを進める。違和感に気付いたのは、少し歩いた頃だった。
おかしい。数分歩いているのに、誰にも会わない。
夜だから人気が少ないのは当然だけど、こういう裏道にはチンピラとかが潜んでいるのがお約束だ。
それなのに、絡んでくる悪漢すらいない。絡まれたいわけじゃないけど、誰にも遭遇しないのはものすごく不気味だ。
しんと静まり返った夜道。不意に月の光が遮られる。雲がかかったのかと思ったけど、そうじゃなかった。
まるで夜の闇が具現化したかのように、私の目の前に黒い塊が落ちてきた。
「ひっ!?」
黒い塊はもぞもぞと形を作る。3本の角が生えた羊の頭に、巨大な人間の体。
角の中央に炎が灯り、その姿を照らし出した。黒い翼を持つ異形の化け物が、私の目の前に佇んでいた。
「我ガ名ハ、バフォメット。魔王軍四天王ガ1人デアル。ソノ匂イ――サテハ貴様ガ聖女ダナ?」
「あ、あ――」
「聖女ハ魔王様ニ仇ナス存在……コノ場デソノ命、モライウケル!」
バフォメット、と名乗った化け物が手を翳す。鋭い爪の並ぶ手が、鈍色の光に彩られた。
あれは魔法? これはモンスター?
私はモンスターに殺されるの? 魔法で? それともあの鉤爪で?
状況がさっぱり理解できない。……どうして、こんなことになったんだろう。
異世界に召喚されて、即追放されて、その直後化け物に殺されるなんて。
己の運命を悲観する。だけど心は不思議と落ち着いていた。
突然すぎる出来事の数々に頭が追い付いていなかったとも言えるし、恐怖で心が麻痺していたとも言える。
何にしても、心が凍り付いたまま逝けるのは幸せかもしれない。そう諦めた時だった。
「――そこまでだ」
夜陰に凛とした声が響く。
背後から駆けてきた何者かが、跳躍して私を飛び越えた。
「はっ!!」
その人影は、光り輝く剣でバフォメットを斬りつけた。さらに返す刃でもう一閃。
矢継ぎ早に繰り出される攻撃がバフォメットの体を切り刻み、黒い血を辺りに飛び散らせる。
「グオオオオオッ!!」
「城から追い出された女性を追いかけて来てみれば――魔王四天王が王都へ侵入するとはな。……どこかの結界が破られたのか? 後で確認しなくては」
「貴様アァッ! 何者ダアァッ!?」
「フレイ=パーシヴァル。二つ名は“剣鬼”あるいは“白銀の騎士”。聖剣ブルトガングを継ぎし者。覚えておくがいい、貴様を討ち取る悪夢の名前を」
「――ギイイィィィィイイイッ!!」
フレイと名乗った男の人が、再び剣を振るう。
ズシャっという音と共にバフォメットの首が切断され、地面に落ちた。それでも彼は油断せず、心臓に剣を突き立てる。
「……瘴気が消滅。絶命を確認」
異形の体から剣を抜くと、血を払って鞘に納める。バフォメットの体は、最初から存在しなかったかのように霧散した。
「怪我はありませんか?」
「え、あ、あの……!」
「無事のようですね。立てますか?」
「あ……」
いつの間にか腰を抜かしていた。苦笑するフレイさんに手を貸してもらい、立ち上がる。そこで私は、初めて彼を間近で観察した。
白銀の髪を短く揃えた、アメジスト色の目を持つ青年だ。髪と同じ白銀の鎧に身を包んでいる。
心臓が飛び跳ねる。軽度の電流にも似た刺激が、刹那的に全身を駆け巡った。
「あなた、は……」
「そう身構えないでください。俺はフレイ=パーシヴァル。騎士の称号を持つ者です」
「私は羽佐間……じゃなかった、エリカ=ハザマです。危ないところを助けてくれて、ありがとうございました」
「エリカ殿、ですね」
フレイさんは私をまじまじと見つめる。淡い月の光の下でも、とても整った顔立ちの美青年だというのが伝わってきた。
そんな相手に至近距離で見つめられると、少し気まずくなる。
しかもフレイさんは私を凝視するように眺めてくるから、つい視線を逸らしてしまった。
「……と、失礼しました。実は俺は、あなたが水をかけられるところを見ていたのです」
「えっ!?」
「と言っても、城内の部屋からたまたま目に入ったのですが。こんな夜にうら若き女性になんという仕打ちかと衛兵を問い詰めたところ、殿下の命令で追放されたのだと聞きました」
「……」
「詳しい事情は分かりませんが、あなたのような女性をこんな時間に追い出すなど言語道断です。すぐに追いかけて参りましたが、正解だったようですね。もう大丈夫です、安心してください。俺が安全な場所まで案内しますよ」
「う……」
「? どうしました? っ、エリカ殿!?」
私はフレイさんに抱き着いて泣きじゃくる。
異世界に召喚されて、いきなり追放されて、化け物に命を狙われて……。
理不尽に次ぐ理不尽の連続に、私の存在ってなんなんだろう? と自暴自棄な気持ちになっていた。
でも、ちゃんと気にかけてくれる人がいた。
フレイ=パーシヴァルさん。理不尽な仕打ちを受ける私を見て、放っておけないと追いかけてくれた人。颯爽と現れて化け物を退治してくれた命の恩人。
この世界で頼れる人、信じられる人だ。
そう思った途端、これまで凍り付いていた感情が溶けて溢れ出した。
結果、私は初対面の男の人に抱き着いて号泣するという、みっともない姿を晒してしまうのだった。
無情なザカリアス王子の台詞に、私の頭は真っ白になった。
「待ってください! 異世界に召喚されて、いきなり追い出されても困ります!」
「悪いが事態は一刻を争う。これ以上お前の相手をしている暇はない。近衛兵、その女を城からつまみ出せ! 北の裏道へと追い出すのだ!」
「下働きでも構わないから、追い出さないでください!」
「くどいぞ! さっさとその女を追放しろ! 目障りだ!!」
「はっ!!」
豹変した王子は、道端のゴミを見るような目で私を見る。その一方で、シオンちゃんの肩に手を回した。
「エリカさん!」
「聖女シオン様、あのような下賤な輩に構う必要はありません。さあ、こちらへ……」
「きゃっ!」
私は近衛兵に担ぎ上げられ、シオンちゃんから遠ざけられてしまった。
お城から追い出されると、鉄門が固く閉ざされる。私はぽつんと1人、裏道と思しき場所に放置された。
運が悪いことに、外はもう夜だった。空には三日月が浮かんでいる。
……見知らぬ街で、夜にたった1人で放置されてしまった。
「開けてください、開けて――ひあッ!?」
「うるせえぞ! さっさと城から離れろ!」
鉄門にしがみついていると、上から水をかけられた。まるで野良犬扱いだ。……そっちが勝手に呼んだ癖に!
「どうしろっていうの!? あの王子、私に死ねとでも言いたいの!?」
でも悔しいけど、いつまでもここにいたって仕方がない。下手をするとまた水をかけられるかもしれない。
濡れた体で裏道を歩く。辺りには石造り、レンガ造りの建物が並んでいた。足元も石畳だ。
今まで得た情報を総合すると、この世界は中世ヨーロッパ風の世界と見て良さそうだ。
こういう世界だと、大きな街には衛兵とか騎士の詰所とかがある筈だよね。とりあえずそこを目指して保護してもらおう。
「はあ……」
とぼとぼ歩みを進める。違和感に気付いたのは、少し歩いた頃だった。
おかしい。数分歩いているのに、誰にも会わない。
夜だから人気が少ないのは当然だけど、こういう裏道にはチンピラとかが潜んでいるのがお約束だ。
それなのに、絡んでくる悪漢すらいない。絡まれたいわけじゃないけど、誰にも遭遇しないのはものすごく不気味だ。
しんと静まり返った夜道。不意に月の光が遮られる。雲がかかったのかと思ったけど、そうじゃなかった。
まるで夜の闇が具現化したかのように、私の目の前に黒い塊が落ちてきた。
「ひっ!?」
黒い塊はもぞもぞと形を作る。3本の角が生えた羊の頭に、巨大な人間の体。
角の中央に炎が灯り、その姿を照らし出した。黒い翼を持つ異形の化け物が、私の目の前に佇んでいた。
「我ガ名ハ、バフォメット。魔王軍四天王ガ1人デアル。ソノ匂イ――サテハ貴様ガ聖女ダナ?」
「あ、あ――」
「聖女ハ魔王様ニ仇ナス存在……コノ場デソノ命、モライウケル!」
バフォメット、と名乗った化け物が手を翳す。鋭い爪の並ぶ手が、鈍色の光に彩られた。
あれは魔法? これはモンスター?
私はモンスターに殺されるの? 魔法で? それともあの鉤爪で?
状況がさっぱり理解できない。……どうして、こんなことになったんだろう。
異世界に召喚されて、即追放されて、その直後化け物に殺されるなんて。
己の運命を悲観する。だけど心は不思議と落ち着いていた。
突然すぎる出来事の数々に頭が追い付いていなかったとも言えるし、恐怖で心が麻痺していたとも言える。
何にしても、心が凍り付いたまま逝けるのは幸せかもしれない。そう諦めた時だった。
「――そこまでだ」
夜陰に凛とした声が響く。
背後から駆けてきた何者かが、跳躍して私を飛び越えた。
「はっ!!」
その人影は、光り輝く剣でバフォメットを斬りつけた。さらに返す刃でもう一閃。
矢継ぎ早に繰り出される攻撃がバフォメットの体を切り刻み、黒い血を辺りに飛び散らせる。
「グオオオオオッ!!」
「城から追い出された女性を追いかけて来てみれば――魔王四天王が王都へ侵入するとはな。……どこかの結界が破られたのか? 後で確認しなくては」
「貴様アァッ! 何者ダアァッ!?」
「フレイ=パーシヴァル。二つ名は“剣鬼”あるいは“白銀の騎士”。聖剣ブルトガングを継ぎし者。覚えておくがいい、貴様を討ち取る悪夢の名前を」
「――ギイイィィィィイイイッ!!」
フレイと名乗った男の人が、再び剣を振るう。
ズシャっという音と共にバフォメットの首が切断され、地面に落ちた。それでも彼は油断せず、心臓に剣を突き立てる。
「……瘴気が消滅。絶命を確認」
異形の体から剣を抜くと、血を払って鞘に納める。バフォメットの体は、最初から存在しなかったかのように霧散した。
「怪我はありませんか?」
「え、あ、あの……!」
「無事のようですね。立てますか?」
「あ……」
いつの間にか腰を抜かしていた。苦笑するフレイさんに手を貸してもらい、立ち上がる。そこで私は、初めて彼を間近で観察した。
白銀の髪を短く揃えた、アメジスト色の目を持つ青年だ。髪と同じ白銀の鎧に身を包んでいる。
心臓が飛び跳ねる。軽度の電流にも似た刺激が、刹那的に全身を駆け巡った。
「あなた、は……」
「そう身構えないでください。俺はフレイ=パーシヴァル。騎士の称号を持つ者です」
「私は羽佐間……じゃなかった、エリカ=ハザマです。危ないところを助けてくれて、ありがとうございました」
「エリカ殿、ですね」
フレイさんは私をまじまじと見つめる。淡い月の光の下でも、とても整った顔立ちの美青年だというのが伝わってきた。
そんな相手に至近距離で見つめられると、少し気まずくなる。
しかもフレイさんは私を凝視するように眺めてくるから、つい視線を逸らしてしまった。
「……と、失礼しました。実は俺は、あなたが水をかけられるところを見ていたのです」
「えっ!?」
「と言っても、城内の部屋からたまたま目に入ったのですが。こんな夜にうら若き女性になんという仕打ちかと衛兵を問い詰めたところ、殿下の命令で追放されたのだと聞きました」
「……」
「詳しい事情は分かりませんが、あなたのような女性をこんな時間に追い出すなど言語道断です。すぐに追いかけて参りましたが、正解だったようですね。もう大丈夫です、安心してください。俺が安全な場所まで案内しますよ」
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フレイ=パーシヴァルさん。理不尽な仕打ちを受ける私を見て、放っておけないと追いかけてくれた人。颯爽と現れて化け物を退治してくれた命の恩人。
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