「聖女は2人もいらない」と追放された聖女、王国最強のイケメン騎士と偽装結婚して溺愛される

沙寺絃

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3話 イケメン騎士が保護してくれるそうです

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「うぅっ……」
「……エリカ殿。不安だったお気持ちは分かるのですが……」
「! ごめんなさい! 私ってば、出会ったばかりの男の人に抱き着くなんて……」
「お気になさらないでください。悪く思ったわけではありません」

 フレイさんは私を安心させるように微笑んだ。
 良かった。この世界で頼れる人は、今のところフレイさんだけだ。
 彼にまで見放されたら、いよいよどうしたらいいか分からなくなる。

「ともかく、この場は危険です。先程の魔族は倒しましたが、結界が破られた以上、他にも潜んでいる可能性があります。それに魔族の脅威が去った後は、地元の荒くれ者が戻ってくるかもしれません。この辺りのならず者は、街に不慣れな人を餌食にしていますからね」
「そうなんですか……」

 街の北にある裏路地だというから、おおよそ想像はついていたけど。

「まったく恥ずかしい限りです。騎士や衛兵は何をしているのかという市民からの非難も当然です。上に立つ者は謙虚に民からの意見を受け止め、日々の務めを果たし、己の役割を全うしなければならないと、俺は常日頃から――」
「あ、あのー。助けてもらった上に恐縮ですが、安全な場所まで案内してもらってもいいですか?」
「失礼しました、ただちにご案内します」

 フレイさんが案内してくれたのは、裏路地を抜けた先にある【三月の兎亭】という宿屋だった。
 石床に煉瓦造りの暖炉。テーブルやカウンターに使われている木材も、質が良さそうだ。
 この世界の文化水準はまだ分からないけど、結構高そうな宿屋じゃないかな。

「ここなら安全です。宿の主人とは顔馴染で、信用できる人物です。話も今通しました。安心してお休みください」
「……非常に言いにくいんですけど、私、宿賃とか全然持ってないんです」
「俺が立て替えておきますよ」

 カウンターの奥から出てきた初老の男性――宿の主人と思しき人は、ニコニコと柔和な笑顔を浮かべて頷いた。

「パーシヴァル様の頼みとあらば、断るなどできません! どうぞお嬢さん、3階奥の個室を用意しました。朝昼夕の食事付きです。1週間でも1ヶ月でも、お好きなだけ滞在してください!」
「あ、ありがとうございます」
「エリカ殿。明日の夕方には、再び訪問致します。詳しい事情はその時に……今後の身の振り方についても、追々考えていきましょう。今宵はエリカ殿もお疲れのご様子ですので、ごゆっくりお休みください」

 私の身の安全を確保して、衣食住まで世話してくれた上に、心身の疲労の心配までしてくれるなんて……。
 この世界に来てからろくな目に遭っていなかったから、余計にフレイさんの優しさが身に沁みる。

「あの、本当になんてお礼を言っていいか……ありがとうございます」
「礼には及びません。力なき者や女性に尽くすのは、騎士の務めです。それではエリカ殿、失礼します」

 フレイさんは優美に微笑むと宿屋を出ていった。
 力なき者や女性に尽くすのは騎士の務め……そっか、そういうものなんだ。
 ザカリアスとかいう王子は、女性に対する扱いが最悪の極みだったけど。あっちは王子で尽くされる側だから、誰かに尽くす必要がないってこと? そんなバカな。

「いやあ、相変わらず立派なお方だ。あれぞ騎士の中の騎士、王国が誇る最高峰の騎士だねえ!」
「おじさ――ご主人は、フレイさんをよく知っているんですか?」
「そりゃあね! この王都で“白銀の騎士”ことフレイ=パーシヴァル様を知らない人はいないだろうよ! あの方は王都で見回りをなされる際、うちの食堂で食事をしてくださるんだ! まったく、光栄なことだよ!」
「白銀の騎士?」

 そういえばさっきも二つ名は白銀の騎士だとか、剣鬼だとか言っていたような。

「お嬢ちゃん、何も知らないのかい? なら教えてあげようじゃないか。……あの方は22歳の若さにして、ルイン王国が主催する剣術大会で5年連続優勝! 7年前には王立騎士団の魔物討伐記録で、至上最多かつ最年少記録を更新! その功績を持って、王家に伝わる聖剣ブルトガングの継承者に選ばれた騎士の中の騎士、フレイ=パーシヴァル様だよ! 普段は王国の北西にあるパーシヴァル伯爵領にお住まいだが、時折こうして王都に赴いてはお仕事をなさっているのさ!」
「そんなにすごい人だったんですか?」
「この王都、いや、王国でフレイ様のお名前を知らない人がいるとは……ああ、お嬢ちゃんは旅人だったかな。まあ何でもいい。あのお方が身元を保証してくれるのなら、怪しい人間である筈がないからね。ゆっくり休んでくれ。それとも夜食が必要かい?」
「いえ、大丈夫です。お気遣いありがとうございます」

 宿の主人に案内されて、3階の個室に入る。
 よく手入れのされたベッドに書き物机、暖炉、チェスト、窓辺には花瓶。
 一目で質が良いと分かる部屋だ。フレイさんの頼みだから、身元不明の私でもこんな部屋に泊まらせてもらえるんだろう。
 窓から外を見下ろす。空には三日月と、たくさんの星が輝いている。おかげで街の様子が一望できた。
 区画された街に、赤い煉瓦屋根の建物。遠くには街を囲む城壁らしき壁と、等間隔に設置された塔がある。
 街の中央には教会――大聖堂と思しき尖塔型の巨大な建物。他にも市庁舎らしき建物も見える。
 最南には高い丘があり、その上には私が追い出された王城があった。
 古風なヨーロッパ都市のような街並みに、改めて溜息を漏らす。

「ここは本当に異世界なんだ……」

 これが夢でないのなら、私は本当に異世界召喚されちゃったんだ……。
 あるいは夢という可能性もあるけど。寝て起きたらいつもの自分の部屋だった、なんてオチもありえるだろう。常識的に考えるならその可能性が一番高い。
 夢だったらすべてが丸く収まる。こんな理不尽で恐ろしい世界は、夢であるに越したことはない。
 その筈なのに、心のどこかで夢だったら残念だという思いもあった。
 脳裡に過ぎるのは、銀髪の美青年。颯爽と現れて私を助けてくれた騎士。
 この世界の出来事が夢なら、あの人との出会いも夢になってしまう。それは少し残念だ。
 ――あの人のことをもっと知りたい。私の心は、そう訴えていた。
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