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4話 ひとまず王都の宿屋で過ごしています
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「……ん……」
窓から差し込む光に目を覚ます。いつの間にか寝ていたみたいだ。
視界に飛び込んでくるのは、見慣れない天井。少し混乱したけど、思考がクリアになってくるにつれ昨夜の出来事を思い出した。
頬をつねる。痛い。……軽い落胆と少しの安堵。
昨夜の異世界召喚は夢じゃなかった。一連の出来事は、確かな現実と認識して問題ないようだった。
***
異世界に召喚されて、はや3日が経過した。
「エリカちゃん、お疲れ様! そろそろ休憩にしたらどうだい?」
「ありがとうございます、女将さん!」
三月の兎亭の1階ホール。お客さんに食事を提供していた私は、女将さんの声に答えてエプロンを脱ぐ。
宿代はフレイさんが払ってくれている。女将さんもご主人も、フレイさんも気にしなくていいと言ってくれた。
でも私としては、ほぼ見知らぬ人の善意に甘え続けるのは居心地が悪い。
というわけで、日中は宿の雑用を手伝っている。
掃除に買い出し、給仕係。簡単な仕事ばかりだけど、おかげでこの世界の文化や生活が少しずつ分かってきた。
あれからフレイさんは、毎日仕事が終わると三月の兎亭を訪れる。今日も夕方になるといつも通りやって来た。
「いらっしゃいませ、フレイさん!」
「こんばんは、エリカ殿。昨日からお変わりはありませんか?」
「何も問題ないですよ。ご主人と女将さんが、とても良くしてくれますから」
今日のフレイさんは白銀の鎧を着ていない。青のサーコートに白いマント、同じく白のズボンといった出で立ちだ。
初めて会った時の衣装もカッコよかったけど、今の姿も素敵だ。美形な上に足も長いから、何を着ても似合ってしまう。少し羨ましい。
「昼間は買い出しにご一緒させてもらっているんです。この辺りの地理や文化について、ちゃんと知っておきたかったから」
「おかげで助かっているわ」
カウンター越しに女将さんが笑う。
この3日間で、王都の状況が少しずつ分かってきた。
文化水準は、中世から近世にかけてのヨーロッパ風。電気も機械もない。
移動は徒歩や馬車だけど、荷車を引くのは馬とは限らない。人の手で飼いならされたモンスターが荷車を引いている姿を見た時には驚いた。女将さん曰く、貴族や富裕層しか利用できない高級品らしいけど。
貨幣はルイン貨幣と呼ばれる金貨、銀貨、銅貨。
信仰されている宗教は、女神スフィアを頂点として、女神とその眷属たる精霊を信仰する【スフィア教】。
お店は青果、肉、魚、雑貨といった具合に専門店が並んでいる。
それとやっぱり魔法があるみたい。もっとも庶民の間では、直接魔法の恩恵に与る機会は限られるみたいだけど。
王族や貴族、騎士、あるいは一部冒険者の専売特許みたいだ。日々の暮らしレベルにはあまり落とし込まれていない。
「本来なら俺が付きっ切りで、エリカ殿にこの世界の事情を教えるべきでしたが……あいにく日中は仕事が入っており、不甲斐ない次第です」
「そんなことないですよ。フレイさんには助けられています」
「不慣れな土地で仕事を優先して、不安を抱える女性を放置してしまうなど……騎士にあるまじき行いです。恥ずべき行動です。エリカ殿、なんなりと罰をお申しつけください。どのような処罰であろうと受け入れます」
「え、なんで? フレイさんのおかげでいい宿に泊まれて、みんなに優しくしてもらえるんですよ。どうして罰さないといけないんですか?」
「それでは、このような不甲斐ない俺を、許してくださるのですか?」
「許すも何も、感謝はしても不満に感じるようなことは何一つありませんよ!」
「……なんと寛容で慈愛に満ちたお言葉でしょうか。エリカ殿は素晴らしいお方です」
「当たり前のことしか言っていないと思うんだけど」
この3日間で、どういうわけかフレイさんの好感度がMAXになっていた。
フレイさん曰く、私は神聖で清廉でありながら、甘美な雰囲気に包まれている――らしい。たぶん、聖女の力が影響しているんだと思う。
フレイさんは生まれつき【風の精霊の加護】を受けているという。精霊は女神の眷属だから、女神の加護に惹かれやすいんだとか。
この世界では、魔法を使うには【精霊の加護】が必要らしい。風の精霊の加護なら、風魔法が使えるってことだ。つまりフレイさんは風属性魔法の使い手ということになる。
スフィア教の信徒は生まれた直後に洗礼を受け、女神の力で守られる。
けれど精霊の加護がない人々は、女神の気配が分からない。ついでに魔法も使えない。
ちなみに私の【女神の加護】とは、聖女にしか現れないレア中のレア。現代風に言うならSSRクラスらしい。
まあ今のところ、最低レベルの支援魔法しか使えないけど。
私が聖女であるということは、今のところ女将さんたちにも伏せている。お城を追い出された身だから、あまり目立つのは良くないと判断したからだ。
そんな事情を知らない女将さんは、面白そうに私たちのやり取りを眺めていた。
「おやまあ、パーシヴァル様も冗談をお言いになるのですね!」
「いや、冗談のつもりはないのだが」
「なんだ、冗談だったんですね。そっか、冗談で私の緊張を解そうとしてくれたんですね。納得しました。フレイさんは優しい人ですね!」
「……何やらエリカ殿の中で、俺の評価が上がった様子。感謝しよう」
「いえいえ」
女将さんは笑いを残し、カウンターの奥に引っ込んでいった。
「エリカ殿。着いて早々恐縮ではありますが、今後の身の振り方について話があります。――あまり人に聞かれたくない話なので、場所を移しましょう」
「なら私の部屋はどうですか?」
「エリカ殿の部屋に?」
「はい、両隣は空室みたいだし。ご主人に人払いをお願いしておけば、きっと誰も近寄りませんよ」
「いけません、エリカ殿!」
「え、なんで?」
「俺たちはまだ知り合ったばかりです。エリカ殿はこの世界にとって大切な尊きお方です。軽々しく男を部屋に上げてはいけません! もっとご自身を大切にしてください」
「はい?」
「そうだ、まずは文通から始めましょう」
「何を言ってるのか分からないんですけど……今後の話をするんじゃなかったんですか?」
「! そうでした……俺としたことが取り乱しました。ご容赦を」
始めて会った時は神秘的で凛とした美青年だったのに、今のフレイさんは微妙に残念なイケメンと化していた。
まあいいけど。そっちの方が、私としても無駄に緊張しなくて済むからね。
窓から差し込む光に目を覚ます。いつの間にか寝ていたみたいだ。
視界に飛び込んでくるのは、見慣れない天井。少し混乱したけど、思考がクリアになってくるにつれ昨夜の出来事を思い出した。
頬をつねる。痛い。……軽い落胆と少しの安堵。
昨夜の異世界召喚は夢じゃなかった。一連の出来事は、確かな現実と認識して問題ないようだった。
***
異世界に召喚されて、はや3日が経過した。
「エリカちゃん、お疲れ様! そろそろ休憩にしたらどうだい?」
「ありがとうございます、女将さん!」
三月の兎亭の1階ホール。お客さんに食事を提供していた私は、女将さんの声に答えてエプロンを脱ぐ。
宿代はフレイさんが払ってくれている。女将さんもご主人も、フレイさんも気にしなくていいと言ってくれた。
でも私としては、ほぼ見知らぬ人の善意に甘え続けるのは居心地が悪い。
というわけで、日中は宿の雑用を手伝っている。
掃除に買い出し、給仕係。簡単な仕事ばかりだけど、おかげでこの世界の文化や生活が少しずつ分かってきた。
あれからフレイさんは、毎日仕事が終わると三月の兎亭を訪れる。今日も夕方になるといつも通りやって来た。
「いらっしゃいませ、フレイさん!」
「こんばんは、エリカ殿。昨日からお変わりはありませんか?」
「何も問題ないですよ。ご主人と女将さんが、とても良くしてくれますから」
今日のフレイさんは白銀の鎧を着ていない。青のサーコートに白いマント、同じく白のズボンといった出で立ちだ。
初めて会った時の衣装もカッコよかったけど、今の姿も素敵だ。美形な上に足も長いから、何を着ても似合ってしまう。少し羨ましい。
「昼間は買い出しにご一緒させてもらっているんです。この辺りの地理や文化について、ちゃんと知っておきたかったから」
「おかげで助かっているわ」
カウンター越しに女将さんが笑う。
この3日間で、王都の状況が少しずつ分かってきた。
文化水準は、中世から近世にかけてのヨーロッパ風。電気も機械もない。
移動は徒歩や馬車だけど、荷車を引くのは馬とは限らない。人の手で飼いならされたモンスターが荷車を引いている姿を見た時には驚いた。女将さん曰く、貴族や富裕層しか利用できない高級品らしいけど。
貨幣はルイン貨幣と呼ばれる金貨、銀貨、銅貨。
信仰されている宗教は、女神スフィアを頂点として、女神とその眷属たる精霊を信仰する【スフィア教】。
お店は青果、肉、魚、雑貨といった具合に専門店が並んでいる。
それとやっぱり魔法があるみたい。もっとも庶民の間では、直接魔法の恩恵に与る機会は限られるみたいだけど。
王族や貴族、騎士、あるいは一部冒険者の専売特許みたいだ。日々の暮らしレベルにはあまり落とし込まれていない。
「本来なら俺が付きっ切りで、エリカ殿にこの世界の事情を教えるべきでしたが……あいにく日中は仕事が入っており、不甲斐ない次第です」
「そんなことないですよ。フレイさんには助けられています」
「不慣れな土地で仕事を優先して、不安を抱える女性を放置してしまうなど……騎士にあるまじき行いです。恥ずべき行動です。エリカ殿、なんなりと罰をお申しつけください。どのような処罰であろうと受け入れます」
「え、なんで? フレイさんのおかげでいい宿に泊まれて、みんなに優しくしてもらえるんですよ。どうして罰さないといけないんですか?」
「それでは、このような不甲斐ない俺を、許してくださるのですか?」
「許すも何も、感謝はしても不満に感じるようなことは何一つありませんよ!」
「……なんと寛容で慈愛に満ちたお言葉でしょうか。エリカ殿は素晴らしいお方です」
「当たり前のことしか言っていないと思うんだけど」
この3日間で、どういうわけかフレイさんの好感度がMAXになっていた。
フレイさん曰く、私は神聖で清廉でありながら、甘美な雰囲気に包まれている――らしい。たぶん、聖女の力が影響しているんだと思う。
フレイさんは生まれつき【風の精霊の加護】を受けているという。精霊は女神の眷属だから、女神の加護に惹かれやすいんだとか。
この世界では、魔法を使うには【精霊の加護】が必要らしい。風の精霊の加護なら、風魔法が使えるってことだ。つまりフレイさんは風属性魔法の使い手ということになる。
スフィア教の信徒は生まれた直後に洗礼を受け、女神の力で守られる。
けれど精霊の加護がない人々は、女神の気配が分からない。ついでに魔法も使えない。
ちなみに私の【女神の加護】とは、聖女にしか現れないレア中のレア。現代風に言うならSSRクラスらしい。
まあ今のところ、最低レベルの支援魔法しか使えないけど。
私が聖女であるということは、今のところ女将さんたちにも伏せている。お城を追い出された身だから、あまり目立つのは良くないと判断したからだ。
そんな事情を知らない女将さんは、面白そうに私たちのやり取りを眺めていた。
「おやまあ、パーシヴァル様も冗談をお言いになるのですね!」
「いや、冗談のつもりはないのだが」
「なんだ、冗談だったんですね。そっか、冗談で私の緊張を解そうとしてくれたんですね。納得しました。フレイさんは優しい人ですね!」
「……何やらエリカ殿の中で、俺の評価が上がった様子。感謝しよう」
「いえいえ」
女将さんは笑いを残し、カウンターの奥に引っ込んでいった。
「エリカ殿。着いて早々恐縮ではありますが、今後の身の振り方について話があります。――あまり人に聞かれたくない話なので、場所を移しましょう」
「なら私の部屋はどうですか?」
「エリカ殿の部屋に?」
「はい、両隣は空室みたいだし。ご主人に人払いをお願いしておけば、きっと誰も近寄りませんよ」
「いけません、エリカ殿!」
「え、なんで?」
「俺たちはまだ知り合ったばかりです。エリカ殿はこの世界にとって大切な尊きお方です。軽々しく男を部屋に上げてはいけません! もっとご自身を大切にしてください」
「はい?」
「そうだ、まずは文通から始めましょう」
「何を言ってるのか分からないんですけど……今後の話をするんじゃなかったんですか?」
「! そうでした……俺としたことが取り乱しました。ご容赦を」
始めて会った時は神秘的で凛とした美青年だったのに、今のフレイさんは微妙に残念なイケメンと化していた。
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