「聖女は2人もいらない」と追放された聖女、王国最強のイケメン騎士と偽装結婚して溺愛される

沙寺絃

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12話 初デート

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 約束通り、休息日になると私とフレイさんは一緒に出掛ける。
 パーシヴァル伯爵領は広い。複数の街や村が、あちこちに点在している。
 私は主要な街や村を見たいと頼んだ。フレイさんは馬車を用意して、一つ一つの集落を見て回る。
 農村、牧場、果樹園。領内の第一次産業を担う地帯を通り過ぎると、交易や経済を担う商業都市ウェルスに到着する。
 他にも鉱山都市や淡水漁業を営んでいる街もあるみたいだけど、今日1日ではとても回り切れないと判断したのだ。

「ウェルスには、冒険者ギルドへ登録する際にも足を運ばれたのでは?」
「あの時は登録してすぐ帰ってきたから、ちゃんと見るのは初めてです」
「ではご案内して回ります。お手をどうぞ」
「え、でも……」
「名目上は婚約者同士なのですから、その方が自然ですよ」
「……じゃあ、お願いします」
「はい」

 フレイさんが差し出した手を取る。こんなイケメンと手を繋いで街を回るなんて、ドキドキする。だけど内心の動揺を悟られると、やりにくくなってしまう。私は何でもない様子を装って、街を見て回った。

「わあ、すごい活気ですね」
「王都ほどの規模ではありませんが」
「そんなことないと思うけどなあ」

 フレイさんは謙遜するけど、正直私にはよく分からない。
 王都で過ごしたのはごく一部のエリアだった。活気や立派さという意味では、さほど変わっているように思えない。

「建物の建築様式や、売っている物は王都と結構違うんですね。それは私にも分かりますよ」
「パーシヴァル領は王国でも最北西に位置します。さらに北へ行くと大峡谷地帯、東に向かうと隣国のロウエン都市同盟ですからね。このウェルスは交易都市でもあります。ルイン王国、ロウエン都市同盟、加えてパーシヴァル領の気風が混ざった街です」
「なるほど」

 ちなみにルイン王国とロウエン都市同盟は、友好関係にあるそうだ。
 おかげで人間同士の大規模な戦争はないけど、国境付近の森や山にはモンスターが出る。夜盗も出る。だからウェルスの街は、高い城壁で囲われていた。

「そろそろ正午ですね。昼食に向かいましょう。エリカ殿、食べたい物はありますか? 肉、魚、野菜、果物、軽食、王国風、パーシヴァル風、都市同盟風――あらゆるレストランの候補を揃えています。ご希望の料理をお申しつけください」
「それなら都市同盟風の食事を味わってみたいかも」

 王国風は王都で味わったし、パーシヴァル風はお屋敷で味わっている。都市同盟の料理がどんなものなのか、単純に気になった。

「了解しました。都市同盟風といっても家庭料理と本格料理を出す店がありますが、どちらをご所望で?」
「マナーがよく分からないから、フランクな家庭料理がいいな」
「では参りましょう」

 そういうと、フレイさんは街の中央広場近くにあるレストランに案内してくれた。
 格調高いレストランではなくて、若者やカップルが利用するようなお店だ。メニューに目を通す。
パスタにピザ、カルパッチョにミネストローネ……なるほど、ロウエン都市同盟とはイタリア風のお国柄なんだ。
 ちなみに王都ではパイやシチュー、サンドイッチという具合に、イギリス風の料理が多かった。パーシヴァルのお屋敷ではフランス風の料理がよく並ぶ。
 多国籍というか、無国籍というか。まあ異世界だし、あんまり元の世界の基準に照らし合わせるのも良くないよね。
 ……さすがに日本料理はないみたいだけど。そこだけは少し残念かも。

「わあ、デザートにも色んな種類があるんですね! ティラミスにコロネ、フルーツのタルト……どれも美味しそう!」
「俺のおすすめは、今の時期ならベリーのタルトです」
「フレイさんのおすすめなら間違いありませんね。すみません、ベリーのタルトを一つお願いします!」
「かしこまりました」

 メニューを見ていて思ったけど、この世界には食べるタイプのチョコレートがもうあるみたい。
 まあ魔王や女神や魔法が実在する世界だし、チョコレートがあっても不思議じゃないよね。

「お待たせ致しました」

 やがてタルトが運ばれてくる。できたてのお菓子特有の、いい匂いが辺りに漂った。
 外は生地、中身は甘酸っぱくてジューシー。この近くの果樹園で採れたというベリー類は味も香りも良くて、とても満足のいく味わいだった。
 自然と頬が緩む。そんな私を、フレイさんは優しい微笑みを浮かべて見つめていた。
 ……なんだか居心地が悪い。どうしてこんなに見つめてくるんだろう?
 頭に中に疑問符が浮かんだけど、あることに思い至った。

「ひょっとしてフレイさんも食べたいんですか?」
「え」
「うんうん、さっきもおすすめしてくれましたもんね。フレイさん、甘党だったんですね」
「いえ、あの、俺は」
「大丈夫ですよ! 私、スイーツ男子に偏見ありませんから。でも、それならそれで遠慮しないで頼めば良かったのに」
「エリカ殿、俺は――」
「しょうがないですね。はい、あーん」

 一口サイズに切ったタルトを差し出す。フレイさんはぽかんと見返す。

「エリカ殿、行儀が悪いですよ」
「ここは庶民的なお店じゃなさそうだから、きっと大目に見てもらえますよ。さっきだって隣のテーブルのカップルが『あーん』ってやってたじゃないですか」
「カップルですか」
「そうそう、カップル。……カップル……」

 しまった。あんまり楽しいからうっかりしていた。こんなことを公衆の面前でやるなんて、俗に言うバカップルだ。
 いくら偽装婚約している間柄とはいえ、私ってば、フレイさんに何をやらせようとしているんだろう……!
 今さら恥ずかしくなってフォークを引っ込めようとする。けど、それよりも早く、タルトはフレイさんの口へと消えた。
 彼を取り巻く雰囲気が一層柔らかくなった。

「やはりこの時期のベリーは美味ですね。エリカ殿?」
「あ——な、なんでもない、です……」

 自分でやった手前、今さら恥ずかしくなったなんて言えない。ただ気まずくて、黙々とタルトを口へと運んだ。
 ていうか、これ……今さら気づいたけど、間接……。
 顔に熱が集まる私を、フレイさんはやっぱり楽しそうに眺めていた。
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