「聖女は2人もいらない」と追放された聖女、王国最強のイケメン騎士と偽装結婚して溺愛される

沙寺絃

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17話 王子ともう1人の聖女

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 場所はパーシヴァル伯爵領から、王都へと移る。
 堅牢な城壁に覆われた王都の内側にありながら、さらに城壁に囲まれた王城。
 城壁の中には政治的機能を有する、一般的に“城”と呼ばれる建物と、王族が生活する“宮殿”にエリアが分けられている。
 聖女召喚の儀から1ヶ月ほどが経過した昼下がり。ザカリアスは聖女シオンが居住するゲストルームにやって来た。
 警護に当たらせている女騎士を押しのけて、部屋の扉を開く。

「これはこれは、シオン様! ご機嫌麗しゅう存じます!」
「……ザカリアス様」
「おお、本日も麗しい! さて、本日は天候に恵まれましたので、庭で茶会といきましょうか!」
「……またですか?」
「シオン様は茶会が嫌いか? いやいや、はっはっは! そんな筈はありますまい!」
「嫌いではありません。でも――」
「でも?」
「この1ヶ月、毎日お茶会や晩餐会、舞踏会ばかりではありませんか。私はこんなことをする為に、この世界に呼び出されたのですか? 召喚の目的は、魔王の脅威に立ち向かわせる為ではなかったのですか?」
「……はっはっはっはっは! ご指摘の通り! しかし、こちらにも色々と事情があるのですよ! シオン様はまだ聖女として覚醒されていない様子。今はまだ魔王や、その手下と戦う時期ではありません! 力が覚醒するまでの間、私がシオン様の身を厳重に保護せねばならぬのですよ!」

 大仰に芝居がかった態度を取るザカリアスに、シオンは胡散臭そうな眼差しを向ける。

「そもそも1ヶ月前、私と一緒に召喚されたエリカさんという人……あの人にあんな仕打ちをしたザカリアス様を、信頼することはできません」
「その件では、既に何度も謝ったではないか」

 この1ヶ月の間に、何度も蒸し返された話にザカリアスは苛立ちを露にする。
 敬語も忘れて荒々しく前髪をかき上げる。

「それに事情も話したではないか。聖女召喚は魔族に感知される。魔族の手からシオン様を守るには、エリカを生贄にするより他になかったのだと」
「……仮にその話が真実だったとしても、もっと他にやり方があったのでは? それに私は、自分の為にエリカさんを犠牲にしてほしいなんて思わなかったです」
「ほう。では聞くが、どんな方法があったと言うのだ?」
「それは……たとえば聖女を狙う魔族に対して、防備を固めるとか……」
「聖女を仕留められない限り、魔族は何度も刺客を送り込んでくるだろう。その度にルイン王国の兵や民を危険に晒せと? たった1人の犠牲で丸く収まるかもしれないのに?」
「それは――」
「あなたが言っているのはそういう意味だ。私はこの国の王子として、民の平和と異世界の少女の命を天秤にかけ、より重い方を選んだだけだ。責められる謂れはない」
「……嘘ですよね」
「何?」
「この1ヶ月、あなたという人を見てきて確信しました。あなたは兵や民のことなんて考えていない。いいえ、私のことだって本心では何とも思っていない筈ですわ。ザカリアス様の冷たい目を見ていると、よく分かります」
「――」

 ザカリアスは張り付いたような笑みを浮かべたまま、顔を引きつらせる。

「ザカリアス様が愛しているのはご自身だけ。私は自己愛を満たす為の手段。違いますか?」
「……はっはっは、これはこれは、知ったような口を。あなたに私の何が分かるというのか?」

 こんな少女に内心を見透かされ、頭に血が昇ったザカリアスはシオンの腕を掴む。

「きゃッ!?」
「思い上がるのも大概になされた方がよろしい。私はこの国の王子だ。誰があなたを庇護してやっていると思うのだ」
「庇護してくれなんて、頼んだ覚えはありません……っ!」
「では今すぐに出ていくか? あのエリカとかいう小娘のように、身一つで放り出されて魔族の餌食になりたいのか?」
「……ッ!」

 もちろんザカリアスは、エリカが魔族の餌食になっていないと知っている。
 フレイ=パーシヴァルに保護され、パーシヴァル伯爵領で魔族の目くらましになっているだろう。
 だが、シオンにそんなことを伝える必要はない。この城以外に行き場などないと思い込ませればいいのだ。シオンの顔が歪む。泣き出すのかと思ったが、そうではなかった。

「修道院にでも入ります! 私が聖女だというのなら、この国の国教――スフィア教の教会は、私を受け入れてくれる筈ですもの!」
「……この私が、そんなことをさせると思うのか?」
「いや、痛いっ!」

 盲点を突かれたザカリアスの手に力が入る。腕を掴まれたままのシオンが苦悶の声を漏らすと、入り口に待機していた女騎士たちが部屋に飛び込んできた。

「殿下、お止めください!」
「ええい、邪魔立てするか!!」
「いくら殿下とはいえ、聖女様への狼藉は看過できません!」
「聖女様は女神様より遣わされた御子です! たとえザカリアス殿下であっても、傷付けることは許されません!」

 女騎士が2人がかりで、ザカリアスをシオンから引きはがす。廊下に追い出されたザカリアスは扉が閉ざされる直前、軽蔑と怒りに満ちたシオンの視線が自分に向けられているのを見た。
 約1ヶ月かけて機嫌を取り、ようやく口を効いてもらえるようになったというのに。晩餐会や舞踏会を連日開き、茶番に付き合ったというのに。これでまた振り出しに逆戻りだ。

「ええい、貴様ら! このような真似をして、ただで済むと思うなよ!!」

 やり場のない怒りを女騎士たちにぶつけると、ザカリアスは足音を立てながらその場を後にした。

「……だ、そうだ。きっとクビだな。これからどうする?」
「どうするもこうするも、受け入れるしかないでしょうね」

 女騎士たちは、万が一にも聖女と“間違い”が起きないようにと護衛につけられた者たちだ。片方は叩き上げ、片方は騎士の家柄の娘である。

「あーあ、ルイン王室はすっかり腐敗してしまったわね。かつての栄光はどこへやら……」
「アルメリア王女は病身、ザカリアス様はあの通り……この国の未来は暗いな」
「生まれた時代が悪かったのよ。諦めましょう。私はもう諦めたわ。クビになるのなら、他の土地へ行って自由騎士か冒険者にでもなろうかしらね」
「簡単に言うな」
「だってどうしようもないじゃない。それとも革命でも起こそうっていうの?」
「おい、滅多なことを言うな! ここは宮殿、私たちはまだ護衛の騎士なのだぞ!」
「あらやだ、今のは聞かなかったことにしてくれる?」
「まったく……お前も王子のことをバカにできんぞ」
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「そうだけど、やっぱり残念よ。カッコよかったし」
「……それには同意する」

 女騎士たちは小声で会話を交わす。幸い2人の会話は誰にも聞きとがめられず、お互いの胸だけに仕舞い込んだ。
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