「聖女は2人もいらない」と追放された聖女、王国最強のイケメン騎士と偽装結婚して溺愛される

沙寺絃

文字の大きさ
28 / 40

28話 ドッグラン

しおりを挟む
「こんな地下牢にずっといるのも疲れない? フレイさん、アモンを上の練兵場に連れて行ってみませんか?」

 翌日。相変わらず口を割らないアモンを前に、私はそう提案した。
 話を聞きだすには飴と鞭が必要。地下牢は鞭だ。こんな暗くて狭いところで1日中閉じ込められていたら、心だって開く筈がない。
 こんな地下牢から解放されて、運動できる環境を与えるのは飴になるだろうと考えた。
 魔力は私が吸収しているから安全面でも問題ないと思う。そう提案してみると、フレイさんは監視付きでならと許可してくれた。

「良かったね、アモン! 今日は思いっきり運動できるよ! しかもこの時間帯は練兵場を貸し切ってあるから、思う存分走り回れるよ!」
「オマエ、完っ全に俺様をペット扱いしてるだロ!?」

 まあ気分はドッグランとか、そんな感じかもしれない。

「友達が一緒じゃないのは残念だけど、他の魔族は魔力を吸収できていないから、安全性を考慮してね?」
「俺様だけじゃなク、俺様の部下までペット扱いしやがってんのか!?」
「お前さえ従順になれば、仲間たちを解放してやらなくもないのだが」
「ケッ! 誰が!!」
「あっ、アモン! フレイさんに噛みつこうとしちゃダメだよ! ステイ!」
「ギャンっ!」
「ライダウン!」
「うぐぐぐ……!」
「よーしよし、よくできました。グッドボーイ」
「クゥーン……って、何やらせんだボケェッ!!」

 フレイさんに向かっていこうとしたアモンは、私が命令すると地面に縫い付けられるようにその場に伏せる。
 大人しく言うことを聞いたというよりも、魔力の主導権がこっちにあるから、アモンは強制的に従わされている感じだ。
 それでも言うことを聞いたのは確かだから頭を撫でると、尻尾を振って喉を鳴らした。
 たぶんこれは本能だ。ご主人様に褒められて嬉しい犬の本能だ。けれど魔族としての誇りもアモンにはある。すぐに牙を剥いて唸り始めた。
 そんな顔をされても、一連の流れを見たばかりの私にとって、ちっとも怖くない。
 ――ボールを使って運動を続けることしばし。アモンの様子を見ていた私は、傍らのフレイさんに話しかける。

「ねえフレイさん、アモンってそんなに悪い魔族じゃなさそうですよ」
「確かに、今の状態ではあまり脅威はなさそうですね」
「たぶん魔力で繋がってる影響だと思うけど、今のアモンは口では反発しても、体は私に逆らえないみたいです」
「おイ!? その言い方は語弊があるゾ!?」
「……」
「フレイさん?」
「エリカ殿と魔力で繋がるとは、なんと羨ま――けしからん。アモン、今後も厳しく取り調べを続けさせてもらうぞ」
「フレイさん!?」
「くっだらねぇ嫉妬してんじゃねえ!! 聖女に魔力を吸収してもらいたきゃいくらでもしてもらえばいいだロ!? その代わり俺様に魔力を返セ!!」
「……ふむ」
「フレイさんも真剣に悩まないでくださいね!?」
「冗談です。今後も魔族と戦い続けることを考えると、アモンに魔力を返すべきではありません。このままエリカ殿の内に留めておいてください」
「あ、はい」

 やっぱり冗談だったみたい。フレイさんは真顔でボケるから分かりにくい。時々反応に困る。

「チッ! 俺様をダシにイチャついてんじゃねえヨ! おイ、聖女に騎士野郎! あんま俺様を舐めンじゃねぇゾ! この俺様を誰だと思ってやがル! 魔王四天王が1人、紅蓮のアモン様だゾ!!」
「シットダウン」
「グヘッ!」
「スダンドアップ」
「ハッハッハ」
「ハウス!」
「キュゥーン……って、ざっけんナ! ハウスってあの地下牢だロ!? 犬扱いされた挙句地下牢に逆戻りかヨ!? なんつー屈辱ダ!!」

 悪態を吐きながらも、アモンは地下牢に戻っていく。本当にすごい効果だ。
 もっと運動させてあげたいけど、残念がながらもうすぐ兵士たちの訓練時間が迫っていた。

「明日また遊ぼうねー!」
「二度とやるカ!!」

 アモンを見張りの兵士たちに任せて、フレイさんと地下牢を後にする。

「お見事でしたエリカ殿」
「うまくやれたかなあ」
「はい。短い時間で上下関係を叩き込み、この相手には逆らえないと体に叩きこむ。実に見事な調教の腕前でした」
「ちょ、調教!? 私としては心を開いてもらおうとしただけなんですけど!?」
「あの様子であれば、アモンが心身ともにエリカ殿に屈する日も遠くないかもしれませんね。……それはそれで面白くありませんが」
「えっと、それも冗談ですよね?」
「さあ、どうでしょうか」

 いやほんと、分かりにくいわ、この人。
 無駄に爽やかな笑顔を浮かべるフレイさんを前に、私は冷や汗を垂らしていた。
しおりを挟む
感想 26

あなたにおすすめの小説

冷酷騎士団長に『出来損ない』と捨てられましたが、どうやら私の力が覚醒したらしく、ヤンデレ化した彼に執着されています

放浪人
恋愛
平凡な毎日を送っていたはずの私、橘 莉奈(たちばな りな)は、突然、眩い光に包まれ異世界『エルドラ』に召喚されてしまう。 伝説の『聖女』として迎えられたのも束の間、魔力測定で「魔力ゼロ」と判定され、『出来損ない』の烙印を押されてしまった。 希望を失った私を引き取ったのは、氷のように冷たい瞳を持つ、この国の騎士団長カイン・アシュフォード。 「お前はここで、俺の命令だけを聞いていればいい」 物置のような部屋に押し込められ、彼から向けられるのは侮蔑の視線と冷たい言葉だけ。 元の世界に帰ることもできず、絶望的な日々が続くと思っていた。 ──しかし、ある出来事をきっかけに、私の中に眠っていた〝本当の力〟が目覚め始める。 その瞬間から、私を見るカインの目が変わり始めた。 「リリア、お前は俺だけのものだ」 「どこへも行かせない。永遠に、俺のそばにいろ」 かつての冷酷さはどこへやら、彼は私に異常なまでの執着を見せ、甘く、そして狂気的な愛情で私を束縛しようとしてくる。 これは本当に愛情なの? それともただの執着? 優しい第二王子エリアスは私に手を差し伸べてくれるけれど、カインの嫉妬の炎は燃え盛るばかり。 逃げ場のない城の中、歪んだ愛の檻に、私は囚われていく──。

偽聖女と蔑まれた私、冷酷と噂の氷の公爵様に「見つけ出した、私の運命」と囚われました 〜荒れ果てた領地を力で満たしたら、とろけるほど溺愛されて

放浪人
恋愛
「君は偽物の聖女だ」——その一言で、私、リリアーナの人生は転落した。 持っていたのは「植物を少しだけ元気にする」という地味な力。華やかな治癒魔法を使う本物の聖女イザベラ様の登場で、私は偽物として王都から追放されることになった。 行き場もなく絶望する私の前に現れたのは、「氷の公爵」と人々から恐れられるアレクシス様。 冷たく美しい彼は、なぜか私を自身の領地へ連れて行くと言う。 たどり着いたのは、呪われていると噂されるほど荒れ果てた土地。 でも、私は諦めなかった。私にできる、たった一つの力で、この地を緑で満たしてみせる。 ひたむきに頑張るうち、氷のように冷たかったはずのアレクシス様が、少しずつ私にだけ優しさを見せてくれるように。 「リリアーナ、君は私のものだ」 ——彼の瞳に宿る熱い独占欲に気づいた時、私たちの運命は大きく動き出す。

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

【完結】偽物聖女は冷血騎士団長様と白い結婚をしたはずでした。

雨宮羽那
恋愛
 聖女補佐官であるレティノアは、補佐官であるにも関わらず、祈りをささげる日々を送っていた。  というのも、本来聖女であるはずの妹が、役目を放棄して遊び歩いていたからだ。  そんなある日、妹が「真実の愛に気づいたの」と言って恋人と駆け落ちしてしまう。  残されたのは、聖女の役目と――王命によって決められた聖騎士団長様との婚姻!?  レティノアは、妹の代わりとして聖女の立場と聖騎士団長との結婚を押し付けられることに。  相手のクラウスは、「血も涙もない冷血な悪魔」と噂される聖騎士団長。クラウスから「俺はあなたに触れるつもりはない」と言い放たれたレティノアは、「これは白い結婚なのだ」と理解する。  しかし、クラウスの態度は噂とは異なり、レティノアを愛しているようにしか思えなくて……?  これは、今まで妹の代わりの「偽物」として扱われてきた令嬢が「本物」として幸せをつかむ物語。 ◇◇◇◇ お気に入り登録、♡、感想などいただければ、作者が大変喜びます! モチベになるので良ければ応援していただければ嬉しいです♪ ※いつも通りざまぁ要素は中盤以降。 ※完結まで執筆済み ※表紙はAIイラストです ※アルファポリス先行投稿(他投稿サイトにも掲載予定です)

罰として醜い辺境伯との婚約を命じられましたが、むしろ望むところです! ~私が聖女と同じ力があるからと復縁を迫っても、もう遅い~

上下左右
恋愛
「貴様のような疫病神との婚約は破棄させてもらう!」  触れた魔道具を壊す体質のせいで、三度の婚約破棄を経験した公爵令嬢エリス。家族からも見限られ、罰として鬼将軍クラウス辺境伯への嫁入りを命じられてしまう。  しかしエリスは周囲の評価など意にも介さない。 「顔なんて目と鼻と口がついていれば十分」だと縁談を受け入れる。  だが実際に嫁いでみると、鬼将軍の顔は認識阻害の魔術によって醜くなっていただけで、魔術無力化の特性を持つエリスは、彼が本当は美しい青年だと見抜いていた。  一方、エリスの特異な体質に、元婚約者の伯爵が気づく。それは伝説の聖女と同じ力で、領地の繁栄を約束するものだった。  伯爵は自分から婚約を破棄したにも関わらず、その決定を覆すために復縁するための画策を始めるのだが・・・後悔してももう遅いと、ざまぁな展開に発展していくのだった  本作は不遇だった令嬢が、最恐将軍に溺愛されて、幸せになるまでのハッピーエンドの物語である ※※小説家になろうでも連載中※※

聖女の力は「美味しいご飯」です!~追放されたお人好し令嬢、辺境でイケメン騎士団長ともふもふ達の胃袋掴み(物理)スローライフ始めます~

夏見ナイ
恋愛
侯爵令嬢リリアーナは、王太子に「地味で役立たず」と婚約破棄され、食糧難と魔物に脅かされる最果ての辺境へ追放される。しかし彼女には秘密があった。それは前世日本の記憶と、食べた者を癒し強化する【奇跡の料理】を作る力! 絶望的な状況でもお人好しなリリアーナは、得意の料理で人々を助け始める。温かいスープは病人を癒し、栄養満点のシチューは騎士を強くする。その噂は「氷の辺境伯」兼騎士団長アレクシスの耳にも届き…。 最初は警戒していた彼も、彼女の料理とひたむきな人柄に胃袋も心も掴まれ、不器用ながらも溺愛するように!? さらに、美味しい匂いに誘われたもふもふ聖獣たちも仲間入り! 追放令嬢が料理で辺境を豊かにし、冷徹騎士団長にもふもふ達にも愛され幸せを掴む、異世界クッキング&溺愛スローライフ! 王都への爽快ざまぁも?

召喚聖女に嫌われた召喚娘

ざっく
恋愛
闇に引きずり込まれてやってきた異世界。しかし、一緒に来た見覚えのない女の子が聖女だと言われ、亜優は放置される。それに文句を言えば、聖女に悲しげにされて、その場の全員に嫌われてしまう。 どうにか、仕事を探し出したものの、聖女に嫌われた娘として、亜優は魔物が闊歩するという森に捨てられてしまった。そこで出会った人に助けられて、亜優は安全な場所に帰る。

【完結】聖女になり損なった刺繍令嬢は逃亡先で幸福を知る。

みやこ嬢
恋愛
「ルーナ嬢、神聖なる聖女選定の場で不正を働くとは何事だ!」 魔法国アルケイミアでは魔力の多い貴族令嬢の中から聖女を選出し、王子の妃とするという古くからの習わしがある。 ところが、最終試験まで残ったクレモント侯爵家令嬢ルーナは不正を疑われて聖女候補から外されてしまう。聖女になり損なった失意のルーナは義兄から襲われたり高齢宰相の後妻に差し出されそうになるが、身を守るために侍女ティカと共に逃げ出した。 あてのない旅に出たルーナは、身を寄せた隣国シュベルトの街で運命的な出会いをする。 【2024年3月16日完結、全58話】

処理中です...