「聖女は2人もいらない」と追放された聖女、王国最強のイケメン騎士と偽装結婚して溺愛される

沙寺絃

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34話 天国への階段

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 バフォメット城を占拠した私たちは、城の権限をアモンに渡す。

「いいのカ?」
「ああ。元よりそのつもりだった。この城は魔族の城だ。眼前には大峡谷、魔王の根城の目と鼻の先だ。他の土地と比べると、魔の瘴気が強い。我々人間が占拠するよりも、お前に任せた方が得策だと判断した」

 フレイさんがそう言うと、アモンはニヤリと笑って頷いた。

「そういうことなラ、遠慮はしねえゼ! しかしよお、それじゃ俺様たちの同盟はこれっきりってことカ?」
「まさか。まだ魔王軍四天王の残党や、何よりも魔王そのものが残っている。魔王の脅威があり続ける限り、エリカ殿に危険が及ぶ可能性が高い。迎え撃つにせよ、こちらから進軍をするにせよ、この城は地政学上の重要拠点となるだろう。同盟関係は今後も継続だ。……ただし、お互いに戦い以外の仕事もあるだろう。お前は新たな城主として、俺は自領の領主として」
「ハッ、ごもっともダ! 各地に散らばる混血共を集めて戦力増強しねえとナ」

 私たちはバフォメット城の最上階から、地上を見下ろして話し合う。アモン軍は今回の一件でだいぶ戦力が削がれたから、今まで配下にいなかった混血種にも呼び掛ける予定らしい。

「……」
「エリカ殿?」

 今回の戦いで、敵も味方も大勢の命が失われた。私は無意識のうちに跪いて、祈りを捧げていた。
 この世界の祈りの作法はよく知らない。それでも祈らずにはいられない。とにかく死者の魂が救われるようにと、それだけを祈り続ける。
 ――すると空を覆っていた暗雲から、一筋の光が降り注ぐ。光は次第に大きくなり、まるで空へと続く階段のような形状を作った。

「あ、あれハ……!?」
「【天国への階段】……魔族に殺された者の魂は地上に縛り付けられ、天へ昇れないと言われています。しかし聖女の祈りにより発生する【天国の階段】を使えば、魔族に殺された者も天へ昇れるという……文献に書いてあった通りです。エリカ殿なら発現できると信じていました」

 どうやらこれも聖女の力の一部らしい。フレイさんの言葉を裏付けるように、地上から白い球状の発光体が出現すると、光の階段を昇っていく。その数は、今回の戦いで命を落とした人と同じ数だった。

「アモンの部下の魂は、天に昇れないの?」
「魔族は女神の祝福を受けちゃいねえからナ。俺様たちは人間とは別のところへ行くのサ」
「別のところ?」
「地獄ってやつダ。おイそんな顔すんナ。人間にとっちゃロクな場所じゃねえだろうガ、魔族にとっちゃ楽園だゼ」
「そう……ひょっとして私の祈りは、魔族の魂にとってマイナスになったりしない?」
「ただ祈ってるだけだロ? 何の影響もねぇヨ」
「なら良かった」

 ついでに言うと、私の回復魔法はアモンにも効くみたいだ。
 地属性魔法は、聖女の力とは本来関係ない。それに今の私はアモンの魔力を吸収している。そのおかげで相性が良くなっているんだとか。

 ちなみに純血魔族は聖女の存在そのものが苦手らしい。近付くと頭痛や眩暈といったデバフ効果が現れたり、触れると火傷したり。
 でも混血魔族は混血先の影響が強いらしく、そこまで大きな影響はない。
 ましてやアモンのように魔力のバイパスで繋がった相手には、私の存在は何の影響もないようだった。……齧ると不味いみたいだけどね。

 混血魔族たちは、アモンが認めた人間だということで、私の存在を容認している。アモンの盟友としてフレイさんのことも認めている。
 ……さすがに立場上、肩を組み合ってはしゃぐことはできないけど。混血魔族の統率はアモンに任せ、フレイさんは人間軍を統率する。私はフレイさんの補佐をしつつ、聖女であるという立場も示すようになった。
 人間と魔族、両者の代表が公の場で手を取り合うことで、部下たちに示しをつけているという具合だ。

「それにしてもエリカ殿と魔力で繋がっているとは、羨まし――けしからん話です」
「そこ、気にするところですか?」
「おかげで離れていてモ、ある程度の意思疎通ができるようだナ」
「なんと、ますますけしからん」
「そう思うカ? だったらお前からも魔力を全部還すように言ってくレ!」
「……」
「いやいやいや、ダメですよ!? 同盟を結んだとはいえ、まだまだ何が起きるか分からない状況ですからね!?」
「無論、承知しております。しかし如何ともしがたいこの心境を、どうしたものか……」
「繋がってると言っても、無線みたいなものですから! 向こうから意識が流れてきても、受ける気がなければこっちの意識は伝わりませんから!!」
「無線?」
「私の世界にあった道具です」

 説明すると、フレイさんは納得してくれた。

「なるほど。ではその能力があった方が、パーシヴァル領とバフォメット城の情報共有もスムーズに行えそうですね」
「そうそう。だから当面はこのままで!」
「おいおイ、それじゃ俺様にはこんなガキの姿で過ごせってカ? ったク、冗談じゃねえゼ!」
「その姿でもレオナールを倒せたんだから、大きな問題はないでしょ」
「まあナ、俺様は強えぇからナ! ……っテ、なんか乗せられてねぇカ?」
「気のせい、気のせい!」
「釈然としねえガ……まあいイ、当面は従ってやル! その代わリ、魔王軍へ侵攻をかける時は協力してもらうゼ!」
「ああ、もちろんだとも」
「……ところでもしアモンが魔王になったら、今度は私たちがアモンと戦うことになるのかな?」
「んア? そうはならねえだロ」
「どうして?」
「俺様は人間界を侵略するつもりは今んとこねぇからナ。混血種を認めたがらねえ純血魔族サマを押さえつけたリ、納得させるのが先決ダ」
「要するに、内政を安定させるのが先ということだな」
「そういうこっタ。んデ、安定させられんのはざっと見て何十年……何百年と必要だろウ。仮に人間界を侵略するとしてモ、お前らはとっくに死んじまった後ダ。だから安心しロ」

 それって安心していいのかな……でも意外だ。アモンは自分が魔王に就任した後のことも見据えて行動を決めているみたい。案外、本当に魔王の器があるかもしれない。割と話が通じる相手だから、今の魔王よりよっぽど良さそうだ。
 それから数日後、私たちはアモン軍と別れ、バフォメット城を後にした。
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