「聖女は2人もいらない」と追放された聖女、王国最強のイケメン騎士と偽装結婚して溺愛される

沙寺絃

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37話 コイバナ

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「——というわけなんだけど、私、どうしたらいいんでしょうね」
「……あのねえ。久々に顔を出したかと思えば僕に恋愛相談とか、人選ミスも甚だしいよ」

 フレイさんとのデートの翌日。私は久しぶりに植物を改良し、ハロルド=カーター子爵邸へ届けにやってきた。
 ちょうど午後のティータイム、休憩中だったハロルドさんは、私をお茶に招いてくれた。カーター邸の中庭、果物の木々に囲まれたガーデンテーブルでお茶を飲む。
 お茶はリラックス効果のあるカモミールティーだった。おかげで私の心は解れ、先日からの悩み事をつい零してしまった。するとハロルドさんは、露骨に嫌そうな顔をする。

「でも他に、相談できそうな人もいなくて」
「パーシヴァル家のメイドさんにでも相談すりゃいいでしょう。仲いいって聞いてますよ」
「それはその、みんな同じお屋敷に住んでいるから、かえって気まずいというか……かといって、外でこういうプライベートな話ができるぐらい親しい人というと、だいぶ限られてくるから」
「まあみんな、エリカさんを聖女ってことで敬ってるからなあ。等身大の恋愛話とかは難しいだろうねえ」
「でしょ?」
「だからって僕を選ぶのはどうかと思うよ。そりゃ話しやすいかもしれないけど、こういう話題で気の利いた返しができるタイプじゃない。それぐらい、これまでの付き合いで分かるだろうに」
「いや、建設的な意見は期待してないっていうか……」
「ん? ああ、アレか。とりあえず誰かに話すことで、自分の気持ちに整理をつけるっていうアレ。女性にありがちなやつ」
「なんか、言い方に刺を感じるんですけど」
「貴重な時間を割いて付き合うんだから、多少の毒舌には目を瞑ってもらわないとね」

 そう言いながらカップに口をつけるハロルドさんに、やっぱり人選ミスしたかなぁ……という思いが胸を過ぎる。
 だけど一応聞く姿勢を見せてくれている。ここまで口に出してしまった以上、撤回するのもかえって失礼だ。私は先を続けることにした。

「それで、君は彼とどうしたいの? 偽装とはいえ婚約者なんでしょ? だったら正式に恋人になるなり、正妻になればいいじゃないか」
「えっと、私が言いたいのは、そういうことじゃなくて」
「じゃあ何を求めてるの? まさか無償の愛だとでも?」
「そんな高尚なことを言うつもりはないですよ。ただ……その……正式にけっこん、とか、したとしても……今はちょっと気持ちが追い付かないというか、受け入れにくいというか……」
「劣等感を抱いてしまう?」
「そう、それです!」

 指先をわきわきと組み合わせていると、ハロルドさんは私の心を見事に見抜いた。

「フレイさんと私じゃ、全然釣り合わないじゃないですか。同情なんじゃないかとか、聖女の力を欲しいだけなんじゃないか、とか。フレイさんはそんな人じゃないのに。私がこんな風に考えてしまうのは、自分に自信がないからだって分かってるんです。だから――」
「だから?」
「自分に、自信をつけたい。フレイさんの隣にいても恥ずかしくないぐらい、立派な自分になりたい。そう思うんです」
「はあ……それは立派な考えだねえ。誰かの為に頑張ろうなんて、僕にはない発想だからねえ。いやあ、立派立派」
「茶化さないでくださいよ」
「茶化したくもなるでしょ。そんな疲れそうな生き方、僕は絶対したくない。人生の先輩として言わせてもらうけどね、もっと自然体で、ゆるーく付き合える方がいい。でないと息切れするよ」
「人生の先輩って」

 まあ普段は緩すぎるぐらい緩い人だけど、これでも私より5歳以上年上だし。学者として立派な実績もある。改めて言われてみれば、確かに人生の先輩だと納得……かな?

「君はアドバイスなんて求めてないかもしれないけどね。僕だって単なるノロケに見せかけた自慢話なら本気で付き合う気はないけど、どうやらそうじゃないらしい。君はなんていうか、フレイさんを過大評価しすぎたよ」
「でも実際、フレイさんはすごい人じゃないですか」
「……彼の実績や日頃の振る舞いを考えると、そう見えてしまうのも仕方ないんだろうけど。彼は10代の頃にはもう王国最高峰の騎士と呼ばれていたし、実力も実績も申し分ない。伯爵位を次いでからも、良き領主として民に慕われている。何よりあの容姿だ。そりゃあ恋に恋するお年頃の女の子はコロっといっちゃうよね。実際何人も見てきたし」
「だったら――」
「でもそれは、現在のフレイ像だ。ほんの表層のごく一部に過ぎない。一応僕ん家は昔っからパーシヴァル伯爵家に仕えている家柄だからね。子供の頃のフレイさんも知っている。彼だって最初から完璧超人だったわけじゃない。それなりに苦しんで苦労して、今の彼がある」
「……」
「そして僕が知るフレイさんは、君に背伸びなんて望んじゃいない。ありのままの今の君と過ごす時間を、何よりも尊く想っている筈だよ」
「え――?」
「君が無理をして息切れしてしまったり、自分じゃ釣り合わないって離れていったりしては、その方が彼は嫌だと思うな」
「そう、なのかな?」
「少なくとも僕はそう思う。まあ、これだって僕の考えるフレイ像だけどね。僕だってエスパーじゃないから、彼の心の内側までは分からない。分からないけど、それなりに予想することはできる。まあこれは、友人の一意見として胸に留めておいてよ。君にも彼にも、不幸になってほしくはないからね」
「ハロルドさん……ありがとうございます」
「どういたしまして。……うん、お茶が覚めてしまったね。淹れ直させようか?」
「ううん、もう大丈夫です。話を聞いてくれたおかげでスッキリしました。あんまり長居をしても悪いから、そろそろ帰りますね」
「あ、そう? それじゃフレイさんによろしく――いや、やっぱいい。君に変なことを吹き込んだなって、彼に睨まれるのは嫌だ」
「あははは。ハロルドさんとフレイさんって、本当に仲がいいんですね」
「長い付き合いになるからねぇ。もう12年、いや13年になるのか」
「13年? フレイさんって確か、22歳じゃなかったっけ?」

 それなのに13年? ハロルドさんはたった今、カーター家は代々パーシヴァル家に仕えていると言った。にも拘わらず付き合うが13年とは、どういうことなんだろう。
 私が指摘すると、ハロルドさんは「しまった」という表情になり、片手で口を覆った。

「……まだ君に話していなかったのか」
「どういうことですか?」
「あー、うん。まあ……この辺りに昔から住んでる人なら知ってることだし、いいか。ええっと、フレイさんが元はパーシヴァル伯爵家の嫡子じゃなかったっていうのは知ってるかな?」
「ええっと、確かお兄さんがいて、その人が継ぐ筈だったけど流行り病で亡くなったって……」
「お兄さん、ね。確かに前々伯爵の晩年には養子に入っていたから、お義兄さんと呼べないこともない、か」
「え――養子ってことは、フレイさん、本来はパーシヴァル伯爵家の人じゃなかったんですか!?」
「んー、この辺りがややこしいんだよなあ……人様の家庭の事情でもあるし。いくら周知の事実ではあっても、これ以上は僕の口から言うのは憚られる。ただこれだけは言っておくと、彼はパーシヴァル家の血を引いているよ」
「それってどういう……?」
「後は彼自身から聞きなよ。フレイさんだって、こそこそ嗅ぎ回られるよりも直接話す方がいいだろうからね」

 それはそうだ。フレイさんの過去や生い立ちがデリケートなものであるなら――恐らくその読みは十中八九当たる――、こんな風にハロルドさんから聞き出すのは良くないだろう。
 知りたいと思うなら、ちゃんと本人から聞かないと。それが最低限の礼儀だし、彼に対する誠意だ。

「分かりました。いずれ機会を窺って、もし聞けそうならフレイさん本人に聞きます」
「そうしてくれ。君が物分かりのいい子で助かったよ」
「こちらこそ、ハロルドさんがちゃんとした人で良かったです。……普段の態度は緩すぎるけど」
「何か言った?」
「何でもないですよ」

 重苦しい話をしてしまったから、あとちょっぴり恥ずかしい話もしてしまったから、あえて軽口を叩き合って私たちは別れる。
 これもきっとハロルドさんなりの優しさなんだろう。彼は口調や態度こそ適当だけど、本質的には優しい人だ。周りをよく見て、適度な気配りをしている。
 そんなハロルドさんが私と親しくしてくれていることと――たぶん複雑な事情を抱えているフレイさんの長年の友達であることに感謝しつつ、カーター邸を後にした。
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