30 / 47
30 ゾフキロの仕事
しおりを挟む
ボーラン男爵家にとって、サビマナが平民になったことも、婚姻が成ったことも初耳だったのだ。サビマナ自身も驚いている。
「ど、どうしてっ?!
私はレンと結婚するんじゃないのっ?!」
サビマナは四日前にレンエールに向かって『レンと結婚は無理』と宣言したことを忘れているのか、単に図々しいだけなのか、それとも精神的に不安定なのか、王家に嫁ぐと思っていたかのような言葉を投げた。
「貴女が王家を裏切ったことは変わらぬ事実ですよ。それに今は平民です。それなのに殿下との婚姻は何をおいてもありえません」
ネイベット侯爵が冷たく突き放した。
ボーラン男爵は汗を滝のように流してよろめいた。ボーラン男爵夫人が男爵の額の汗を拭い必死に声をかける。ボーラン男爵子息は口をパカンと開けていた。
「それともゾフキロと婚姻せずにお一人で市井で暮らしますか?」
三年前まで平民であったサビマナだ。一人で生きていくことは無理な話ではない。だが、先立つものもないのだ。生きていくために娼館へ行くことになるだろう。
サビマナはそこまで想像して眉根を寄せた。
だが、ネイベット侯爵の言葉はさらに眉根を寄せるようなものだった。
ネイベット侯爵は目を細めてサビマナを睨んだ。
「貴女によって王家の醜聞を撒き散らされては困りますので、国境付近の街へ護送することになりますよ。ボーラン男爵領とは反対方面の、です。
今なら婚姻無効を受け入れますよ」
あからさまな脅迫にサビマナは瞠目した。
「大臣……」
レンエールが小さな声でネイベット侯爵を叱責する。だが、内容を否定はしない。つまりは、言い方に問題があるだけで、事実だということだろう。
サビマナのショックを他所に、ムアコル侯爵とゾフキロの話は進んだ。
「婚姻に関係なく、殿下がお前に仕事を用意してくださった。南の辺境伯軍の参謀見習いだ。現辺境伯殿が片腕となる若者を所望していてな。お前を推薦してくれたのだ」
ゾフキロは文武両道であった。サビマナに懸想し両陛下からの評価は落ちたが、元は優秀な男なのだ。
平民となるのに辺境伯の片腕など、破格の待遇であることは明らかである。
ゾフキロはレンエールの目をしっかりと見てからゆっくりと頭を下げた。
「国防の要だ。ゾフィの能力を遺憾なく発揮してくれ」
バザジール公爵はチラリとレンエールを見た。レンエールはその意味を理解しているが、『ここは許せ』と苦笑いを返した。
頭を上げたゾフキロはレンエールに愛称を呼ばれたことに破顔した。それから、ハッとして父親を見た。
「父上と兄上はどうなさるのですか?」
「恩情をいただき、騎士団に所属し続け、心身ともに国王陛下に捧げることを誓うことになった。
元々そのつもりなのだ。お咎めなしと同意だな。ムアコル侯爵家は子々孫々まで王家に忠誠を誓う。
ゾフキロ。お前も元ムアコル侯爵家の者として国に貢献しなさい」
「はい。父上。南の辺境伯様のお役に立てるよう精進いたし、ひいては国のためになりますよう努力いたします」
ムアコル侯爵はゾフキロの肩をポンと叩いて頷いた。
「ゾフキロはこれからのことを決めたようですね。サビマナはどうしますか?」
ネイベット侯爵は先日までは『ボーラン嬢』と呼んでいたが、平民として扱っているので『サビマナ』と呼んでいる。にもかかわらず、サビマナは自分が平民になることを納得していないので、決断ができずに黙っていた。
レンエールは答えないサビマナを急かすことをしないようにと考えた。
「大臣。先にボーラン男爵の話を進めよう」
レンエールはネイベット侯爵を促した。ボーラン男爵一家がビクリとした。
「かしこまりました」
ネイベット侯爵が手元の資料を開いた。
「ど、どうしてっ?!
私はレンと結婚するんじゃないのっ?!」
サビマナは四日前にレンエールに向かって『レンと結婚は無理』と宣言したことを忘れているのか、単に図々しいだけなのか、それとも精神的に不安定なのか、王家に嫁ぐと思っていたかのような言葉を投げた。
「貴女が王家を裏切ったことは変わらぬ事実ですよ。それに今は平民です。それなのに殿下との婚姻は何をおいてもありえません」
ネイベット侯爵が冷たく突き放した。
ボーラン男爵は汗を滝のように流してよろめいた。ボーラン男爵夫人が男爵の額の汗を拭い必死に声をかける。ボーラン男爵子息は口をパカンと開けていた。
「それともゾフキロと婚姻せずにお一人で市井で暮らしますか?」
三年前まで平民であったサビマナだ。一人で生きていくことは無理な話ではない。だが、先立つものもないのだ。生きていくために娼館へ行くことになるだろう。
サビマナはそこまで想像して眉根を寄せた。
だが、ネイベット侯爵の言葉はさらに眉根を寄せるようなものだった。
ネイベット侯爵は目を細めてサビマナを睨んだ。
「貴女によって王家の醜聞を撒き散らされては困りますので、国境付近の街へ護送することになりますよ。ボーラン男爵領とは反対方面の、です。
今なら婚姻無効を受け入れますよ」
あからさまな脅迫にサビマナは瞠目した。
「大臣……」
レンエールが小さな声でネイベット侯爵を叱責する。だが、内容を否定はしない。つまりは、言い方に問題があるだけで、事実だということだろう。
サビマナのショックを他所に、ムアコル侯爵とゾフキロの話は進んだ。
「婚姻に関係なく、殿下がお前に仕事を用意してくださった。南の辺境伯軍の参謀見習いだ。現辺境伯殿が片腕となる若者を所望していてな。お前を推薦してくれたのだ」
ゾフキロは文武両道であった。サビマナに懸想し両陛下からの評価は落ちたが、元は優秀な男なのだ。
平民となるのに辺境伯の片腕など、破格の待遇であることは明らかである。
ゾフキロはレンエールの目をしっかりと見てからゆっくりと頭を下げた。
「国防の要だ。ゾフィの能力を遺憾なく発揮してくれ」
バザジール公爵はチラリとレンエールを見た。レンエールはその意味を理解しているが、『ここは許せ』と苦笑いを返した。
頭を上げたゾフキロはレンエールに愛称を呼ばれたことに破顔した。それから、ハッとして父親を見た。
「父上と兄上はどうなさるのですか?」
「恩情をいただき、騎士団に所属し続け、心身ともに国王陛下に捧げることを誓うことになった。
元々そのつもりなのだ。お咎めなしと同意だな。ムアコル侯爵家は子々孫々まで王家に忠誠を誓う。
ゾフキロ。お前も元ムアコル侯爵家の者として国に貢献しなさい」
「はい。父上。南の辺境伯様のお役に立てるよう精進いたし、ひいては国のためになりますよう努力いたします」
ムアコル侯爵はゾフキロの肩をポンと叩いて頷いた。
「ゾフキロはこれからのことを決めたようですね。サビマナはどうしますか?」
ネイベット侯爵は先日までは『ボーラン嬢』と呼んでいたが、平民として扱っているので『サビマナ』と呼んでいる。にもかかわらず、サビマナは自分が平民になることを納得していないので、決断ができずに黙っていた。
レンエールは答えないサビマナを急かすことをしないようにと考えた。
「大臣。先にボーラン男爵の話を進めよう」
レンエールはネイベット侯爵を促した。ボーラン男爵一家がビクリとした。
「かしこまりました」
ネイベット侯爵が手元の資料を開いた。
84
あなたにおすすめの小説
乙女ゲームの悪役令嬢の兄の婚約者に転生しましたが傷物になったので退場を希望します!
ユウ
恋愛
平凡な伯爵令嬢のリネットは優しい婚約者と妹と穏やかで幸福な日々を送っていた。
相手は公爵家の嫡男であり第一王子殿下の側近で覚えもめでたく社交界の憧れの漆黒の騎士と呼ばれる貴族令息だった。
結婚式前夜、婚約者の妹に会いに学園に向かったが、そこで事件が起きる。
現在学園で騒動を起こしている第二王子とその友人達に勘違いから暴行を受け階段から落ちてしまう…
その時に前世の記憶を取り戻すのだった…
「悪役令嬢の兄の婚約者って…」
なんとも微妙なポジション。
しかも結婚前夜で傷物になる失態を犯してしまったリネットは婚約解消を望むのだが、悪役令嬢の義妹が王子に婚約破棄を突きつける事件に発展してしまう。
婚約破棄のその場で転生前の記憶が戻り、悪役令嬢として反撃開始いたします
タマ マコト
ファンタジー
革命前夜の王国で、公爵令嬢レティシアは盛大な舞踏会の場で王太子アルマンから一方的に婚約を破棄され、社交界の嘲笑の的になる。その瞬間、彼女は“日本の歴史オタク女子大生”だった前世の記憶を思い出し、この国が数年後に血塗れの革命で滅びる未来を知ってしまう。
悪役令嬢として嫌われ、切り捨てられた自分の立場と、公爵家の権力・財力を「運命改変の武器」にすると決めたレティシアは、貧民街への支援や貴族の不正調査をひそかに始める。その過程で、冷静で改革派の第二王子シャルルと出会い、互いに利害と興味を抱きながら、“歴史に逆らう悪役令嬢”として静かな反撃をスタートさせていく。
普段は地味子。でも本当は凄腕の聖女さん〜地味だから、という理由で聖女ギルドを追い出されてしまいました。私がいなくても大丈夫でしょうか?〜
神伊 咲児
ファンタジー
主人公、イルエマ・ジミィーナは16歳。
聖女ギルド【女神の光輝】に属している聖女だった。
イルエマは眼鏡をかけており、黒髪の冴えない見た目。
いわゆる地味子だ。
彼女の能力も地味だった。
使える魔法といえば、聖女なら誰でも使えるものばかり。回復と素材進化と解呪魔法の3つだけ。
唯一のユニークスキルは、ペンが無くても文字を書ける光魔字。
そんな能力も地味な彼女は、ギルド内では裏方作業の雑務をしていた。
ある日、ギルドマスターのキアーラより、地味だからという理由で解雇される。
しかし、彼女は目立たない実力者だった。
素材進化の魔法は独自で改良してパワーアップしており、通常の3倍の威力。
司祭でも見落とすような小さな呪いも見つけてしまう鋭い感覚。
難しい相談でも難なくこなす知識と教養。
全てにおいてハイクオリティ。最強の聖女だったのだ。
彼女は新しいギルドに参加して順風満帆。
彼女をクビにした聖女ギルドは落ちぶれていく。
地味な聖女が大活躍! 痛快ファンタジーストーリー。
全部で5万字。
カクヨムにも投稿しておりますが、アルファポリス用にタイトルも含めて改稿いたしました。
HOTランキング女性向け1位。
日間ファンタジーランキング1位。
日間完結ランキング1位。
応援してくれた、みなさんのおかげです。
ありがとうございます。とても嬉しいです!
侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!
珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。
3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。
高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。
これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!!
転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!
【本編完結】ただの平凡令嬢なので、姉に婚約者を取られました。
138ネコ@書籍化&コミカライズしました
ファンタジー
「誰にも出来ないような事は求めないから、せめて人並みになってくれ」
お父様にそう言われ、平凡になるためにたゆまぬ努力をしたつもりです。
賢者様が使ったとされる神級魔法を会得し、復活した魔王をかつての勇者様のように倒し、領民に慕われた名領主のように領地を治めました。
誰にも出来ないような事は、私には出来ません。私に出来るのは、誰かがやれる事を平凡に努めてきただけ。
そんな平凡な私だから、非凡な姉に婚約者を奪われてしまうのは、仕方がない事なのです。
諦めきれない私は、せめて平凡なりに仕返しをしてみようと思います。
王宮侍女は穴に落ちる
斑猫
恋愛
婚約破棄されたうえ養家を追い出された
アニエスは王宮で運良く職を得る。
呪われた王女と呼ばれるエリザベ―ト付き
の侍女として。
忙しく働く毎日にやりがいを感じていた。
ところが、ある日ちょっとした諍いから
突き飛ばされて怪しい穴に落ちてしまう。
ちょっと、とぼけた主人公が足フェチな
俺様系騎士団長にいじめ……いや、溺愛され
るお話です。
【完結】断罪された悪役令嬢は、本気で生きることにした
きゅちゃん
ファンタジー
帝国随一の名門、ロゼンクロイツ家の令嬢ベルティア・フォン・ロゼンクロイツは、突如として公の場で婚約者であるクレイン王太子から一方的に婚約破棄を宣告される。その理由は、彼女が平民出身の少女エリーゼをいじめていたという濡れ衣。真実はエリーゼこそが王太子の心を奪うために画策した罠だったにも関わらず、ベルティアは悪役令嬢として断罪され、社交界からの追放と学院退学の処分を受ける。
全てを失ったベルティアだが、彼女は諦めない。これまで家の期待に応えるため「完璧な令嬢」として生きてきた彼女だが、今度は自分自身のために生きると決意する。軍事貴族の嫡男ヴァルター・フォン・クリムゾンをはじめとする協力者たちと共に、彼女は自らの名誉回復と真実の解明に挑む。
その過程で、ベルティアは王太子の裏の顔や、エリーゼの正体、そして帝国に忍び寄る陰謀に気づいていく。かつては社交界のスキルだけを磨いてきた彼女だが、今度は魔法や剣術など実戦的な力も身につけながら、自らの道を切り開いていく。
失われた名誉、隠された真実、そして予期せぬ恋。断罪された「悪役令嬢」が、自分の物語を自らの手で紡いでいく、爽快復讐ファンタジー。
持参金が用意できない貧乏士族令嬢は、幼馴染に婚約解消を申し込み、家族のために冒険者になる。
克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
セントフェアファクス皇国徒士家、レイ家の長女ラナはどうしても持参金を用意できなかった。だから幼馴染のニコラに自分から婚約破棄を申し出た。しかし自分はともかく妹たちは幸せにしたたい。だから得意の槍術を生かして冒険者として生きていく決断をした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる