35 / 47
35 レンエールの涙
しおりを挟む
ノマーリンが音を立てずにテーブルに紅茶を置いた。
『この所作一つ一つもノマーリンの努力の証なのだな。それらの所作が俺を穏やかな気持ちにさせてくれる』
サビマナを見てきたレンエールは改めてノマーリンの素晴らしさを感じていた。
「殿下。お勉強はいかがですか?」
「うん。やってみたらとても楽しいよ。ただ、知りたいことがどんどん増えるのだ。今まで自分がどれだけ無知だったのかと呆れている」
「まあ! 殿下は優秀ではありませんか。そんなに卑下してはいけませんわ」
「そうか? それは、まあ、ありがとう」
自分が恥ずかしいと思っていた過去の自分を褒められて顔を赤くした。
「確かに学園ではそうであったかもしれん。だがそれは、あくまで貴族としての教養だ。
為政者としてはそれでは足りないのだとわかったんだ。例えば、貴族であれば、自領の為政のために自領と隣領を学べば事足りる。
だが、俺はこの国の為政者となるのだ。この国のすべての領を理解すべきだし、それらの繋がりも理解すべきだ。さらに隣国についてもな」
ノマーリンは微笑みとともに聞いていた。
「これまでは、それらの勉強の必要性などを考えず、ただやらされていた。だからやってもやっても身につかなかったのだ。
だが、必要性をわかってやってみると、興味も湧くし、楽しく思える」
「そうでしたの。素晴らしいお考えだと思いますわ。ですが、なぜ、そう思うようになられましたの?」
「え? あ……そうだな……なぜだろうか?」
レンエールは顎に手を当ててじっくりと考えた。ノマーリンはにこやかに待っている。
レンエールは俯き加減で膝に肘を当て手を組んで考えながら口を開いた。
「そう……だ。サビマナを導かなければならないと必死で、導くにはそれ以上に知識が必要で、さらには根気も必要で……」
「そうですのね」
レンエールが思案顔をふと上げるとそれを微笑みで見守るノマーリンと目が合った。
「っ!!」
レンエールは慌てて目を逸らしたが染まってしまった頬は熱いままだ。
『俺はこうやって見守られてきたんだ。いつでも俺の意見も気持ちも聞いてくれて、導いてくれていたんだ……』
「いかがいたしましたの?」
「えっ! いや、何でもない」
紅茶を一口口にして落ち着こうとする。
「導くというのは大変なのだな。相手が導かれていることを理解していないと、ただただ嫌味に聞こえてしまう。だが、嫌われても断られても、相手を思えば心を鬼にして言わねばならない。つらいな……」
「そうでございますわね……」
レンエールは深々と頭を下げた。
「バザジール嬢。本当に申し訳なかった。貴女の立場も気持ちも考えず、わかろうともせず、私のわがままを通そうとしていた。
そして、それが通らないことをバザジール嬢の責任のように考えてしまっていた。
恥ずかしい限りだ」
「殿下。臣下に頭を軽々しく下げてはなりませんわ」
それでもレンエールは頭を上げない。
「今は、貴女と私しかいない。外では決してやらない。だから、だから、今は……」
テーブルに水の跡がついた。
「すまない。すまない。すまない……」
ノマーリンは黙って聞いていた。
レンエールは頭を下げたまま涙を流した。そして、落ち着いてみると今度は恥ずかしくて頭を上げることができない。
ノマーリンがサイドテーブルからタオルを持ってきてレンエールに渡した。
「すまぬ。ありがとう」
「いえ」
レンエールは下を向いたままの顔をガシガシと拭いて、大きく息を吸ってから頭を上げた。
『この所作一つ一つもノマーリンの努力の証なのだな。それらの所作が俺を穏やかな気持ちにさせてくれる』
サビマナを見てきたレンエールは改めてノマーリンの素晴らしさを感じていた。
「殿下。お勉強はいかがですか?」
「うん。やってみたらとても楽しいよ。ただ、知りたいことがどんどん増えるのだ。今まで自分がどれだけ無知だったのかと呆れている」
「まあ! 殿下は優秀ではありませんか。そんなに卑下してはいけませんわ」
「そうか? それは、まあ、ありがとう」
自分が恥ずかしいと思っていた過去の自分を褒められて顔を赤くした。
「確かに学園ではそうであったかもしれん。だがそれは、あくまで貴族としての教養だ。
為政者としてはそれでは足りないのだとわかったんだ。例えば、貴族であれば、自領の為政のために自領と隣領を学べば事足りる。
だが、俺はこの国の為政者となるのだ。この国のすべての領を理解すべきだし、それらの繋がりも理解すべきだ。さらに隣国についてもな」
ノマーリンは微笑みとともに聞いていた。
「これまでは、それらの勉強の必要性などを考えず、ただやらされていた。だからやってもやっても身につかなかったのだ。
だが、必要性をわかってやってみると、興味も湧くし、楽しく思える」
「そうでしたの。素晴らしいお考えだと思いますわ。ですが、なぜ、そう思うようになられましたの?」
「え? あ……そうだな……なぜだろうか?」
レンエールは顎に手を当ててじっくりと考えた。ノマーリンはにこやかに待っている。
レンエールは俯き加減で膝に肘を当て手を組んで考えながら口を開いた。
「そう……だ。サビマナを導かなければならないと必死で、導くにはそれ以上に知識が必要で、さらには根気も必要で……」
「そうですのね」
レンエールが思案顔をふと上げるとそれを微笑みで見守るノマーリンと目が合った。
「っ!!」
レンエールは慌てて目を逸らしたが染まってしまった頬は熱いままだ。
『俺はこうやって見守られてきたんだ。いつでも俺の意見も気持ちも聞いてくれて、導いてくれていたんだ……』
「いかがいたしましたの?」
「えっ! いや、何でもない」
紅茶を一口口にして落ち着こうとする。
「導くというのは大変なのだな。相手が導かれていることを理解していないと、ただただ嫌味に聞こえてしまう。だが、嫌われても断られても、相手を思えば心を鬼にして言わねばならない。つらいな……」
「そうでございますわね……」
レンエールは深々と頭を下げた。
「バザジール嬢。本当に申し訳なかった。貴女の立場も気持ちも考えず、わかろうともせず、私のわがままを通そうとしていた。
そして、それが通らないことをバザジール嬢の責任のように考えてしまっていた。
恥ずかしい限りだ」
「殿下。臣下に頭を軽々しく下げてはなりませんわ」
それでもレンエールは頭を上げない。
「今は、貴女と私しかいない。外では決してやらない。だから、だから、今は……」
テーブルに水の跡がついた。
「すまない。すまない。すまない……」
ノマーリンは黙って聞いていた。
レンエールは頭を下げたまま涙を流した。そして、落ち着いてみると今度は恥ずかしくて頭を上げることができない。
ノマーリンがサイドテーブルからタオルを持ってきてレンエールに渡した。
「すまぬ。ありがとう」
「いえ」
レンエールは下を向いたままの顔をガシガシと拭いて、大きく息を吸ってから頭を上げた。
79
あなたにおすすめの小説
乙女ゲームの悪役令嬢の兄の婚約者に転生しましたが傷物になったので退場を希望します!
ユウ
恋愛
平凡な伯爵令嬢のリネットは優しい婚約者と妹と穏やかで幸福な日々を送っていた。
相手は公爵家の嫡男であり第一王子殿下の側近で覚えもめでたく社交界の憧れの漆黒の騎士と呼ばれる貴族令息だった。
結婚式前夜、婚約者の妹に会いに学園に向かったが、そこで事件が起きる。
現在学園で騒動を起こしている第二王子とその友人達に勘違いから暴行を受け階段から落ちてしまう…
その時に前世の記憶を取り戻すのだった…
「悪役令嬢の兄の婚約者って…」
なんとも微妙なポジション。
しかも結婚前夜で傷物になる失態を犯してしまったリネットは婚約解消を望むのだが、悪役令嬢の義妹が王子に婚約破棄を突きつける事件に発展してしまう。
婚約破棄のその場で転生前の記憶が戻り、悪役令嬢として反撃開始いたします
タマ マコト
ファンタジー
革命前夜の王国で、公爵令嬢レティシアは盛大な舞踏会の場で王太子アルマンから一方的に婚約を破棄され、社交界の嘲笑の的になる。その瞬間、彼女は“日本の歴史オタク女子大生”だった前世の記憶を思い出し、この国が数年後に血塗れの革命で滅びる未来を知ってしまう。
悪役令嬢として嫌われ、切り捨てられた自分の立場と、公爵家の権力・財力を「運命改変の武器」にすると決めたレティシアは、貧民街への支援や貴族の不正調査をひそかに始める。その過程で、冷静で改革派の第二王子シャルルと出会い、互いに利害と興味を抱きながら、“歴史に逆らう悪役令嬢”として静かな反撃をスタートさせていく。
普段は地味子。でも本当は凄腕の聖女さん〜地味だから、という理由で聖女ギルドを追い出されてしまいました。私がいなくても大丈夫でしょうか?〜
神伊 咲児
ファンタジー
主人公、イルエマ・ジミィーナは16歳。
聖女ギルド【女神の光輝】に属している聖女だった。
イルエマは眼鏡をかけており、黒髪の冴えない見た目。
いわゆる地味子だ。
彼女の能力も地味だった。
使える魔法といえば、聖女なら誰でも使えるものばかり。回復と素材進化と解呪魔法の3つだけ。
唯一のユニークスキルは、ペンが無くても文字を書ける光魔字。
そんな能力も地味な彼女は、ギルド内では裏方作業の雑務をしていた。
ある日、ギルドマスターのキアーラより、地味だからという理由で解雇される。
しかし、彼女は目立たない実力者だった。
素材進化の魔法は独自で改良してパワーアップしており、通常の3倍の威力。
司祭でも見落とすような小さな呪いも見つけてしまう鋭い感覚。
難しい相談でも難なくこなす知識と教養。
全てにおいてハイクオリティ。最強の聖女だったのだ。
彼女は新しいギルドに参加して順風満帆。
彼女をクビにした聖女ギルドは落ちぶれていく。
地味な聖女が大活躍! 痛快ファンタジーストーリー。
全部で5万字。
カクヨムにも投稿しておりますが、アルファポリス用にタイトルも含めて改稿いたしました。
HOTランキング女性向け1位。
日間ファンタジーランキング1位。
日間完結ランキング1位。
応援してくれた、みなさんのおかげです。
ありがとうございます。とても嬉しいです!
侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!
珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。
3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。
高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。
これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!!
転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!
【本編完結】ただの平凡令嬢なので、姉に婚約者を取られました。
138ネコ@書籍化&コミカライズしました
ファンタジー
「誰にも出来ないような事は求めないから、せめて人並みになってくれ」
お父様にそう言われ、平凡になるためにたゆまぬ努力をしたつもりです。
賢者様が使ったとされる神級魔法を会得し、復活した魔王をかつての勇者様のように倒し、領民に慕われた名領主のように領地を治めました。
誰にも出来ないような事は、私には出来ません。私に出来るのは、誰かがやれる事を平凡に努めてきただけ。
そんな平凡な私だから、非凡な姉に婚約者を奪われてしまうのは、仕方がない事なのです。
諦めきれない私は、せめて平凡なりに仕返しをしてみようと思います。
王宮侍女は穴に落ちる
斑猫
恋愛
婚約破棄されたうえ養家を追い出された
アニエスは王宮で運良く職を得る。
呪われた王女と呼ばれるエリザベ―ト付き
の侍女として。
忙しく働く毎日にやりがいを感じていた。
ところが、ある日ちょっとした諍いから
突き飛ばされて怪しい穴に落ちてしまう。
ちょっと、とぼけた主人公が足フェチな
俺様系騎士団長にいじめ……いや、溺愛され
るお話です。
【完結】断罪された悪役令嬢は、本気で生きることにした
きゅちゃん
ファンタジー
帝国随一の名門、ロゼンクロイツ家の令嬢ベルティア・フォン・ロゼンクロイツは、突如として公の場で婚約者であるクレイン王太子から一方的に婚約破棄を宣告される。その理由は、彼女が平民出身の少女エリーゼをいじめていたという濡れ衣。真実はエリーゼこそが王太子の心を奪うために画策した罠だったにも関わらず、ベルティアは悪役令嬢として断罪され、社交界からの追放と学院退学の処分を受ける。
全てを失ったベルティアだが、彼女は諦めない。これまで家の期待に応えるため「完璧な令嬢」として生きてきた彼女だが、今度は自分自身のために生きると決意する。軍事貴族の嫡男ヴァルター・フォン・クリムゾンをはじめとする協力者たちと共に、彼女は自らの名誉回復と真実の解明に挑む。
その過程で、ベルティアは王太子の裏の顔や、エリーゼの正体、そして帝国に忍び寄る陰謀に気づいていく。かつては社交界のスキルだけを磨いてきた彼女だが、今度は魔法や剣術など実戦的な力も身につけながら、自らの道を切り開いていく。
失われた名誉、隠された真実、そして予期せぬ恋。断罪された「悪役令嬢」が、自分の物語を自らの手で紡いでいく、爽快復讐ファンタジー。
持参金が用意できない貧乏士族令嬢は、幼馴染に婚約解消を申し込み、家族のために冒険者になる。
克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
セントフェアファクス皇国徒士家、レイ家の長女ラナはどうしても持参金を用意できなかった。だから幼馴染のニコラに自分から婚約破棄を申し出た。しかし自分はともかく妹たちは幸せにしたたい。だから得意の槍術を生かして冒険者として生きていく決断をした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる