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国王陛下ならではの天使の娶り方。婚約破棄言い出しそうな馬鹿息子は廃籍です!
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「シャリエル・ミンベルス!
前へ出てこいっ!」
貴族学園での卒業パーティーが始まる直前。四人の男子生徒と一人の女子生徒が舞台に上がり、その女子生徒と対になっていると思われる真っ白いジャケットやズボンに青や紫で豪華に刺繍がされているスーツを着こなした男子生徒が大きな声を出した。青い髪を後ろに撫で付けた彼は水色の瞳を見開いて怒りを表していた。
「ブルーソン殿下。何事でございましょうか?」
淡い金髪をハーフアップにし、紫色の上品なドレスの女子生徒が前に出た。口元に扇を当てているため薄紫の瞳しか見えない。
「貴様は!」
「国王陛下のご入場ですっ!」
ブルーソン殿下と呼ばれた男子生徒が声を上げようとしたタイミングで大扉が開かれた。
そこにはブルーソンと同じ青い髪に水色の瞳の壮年の男が威厳のありそうな壮年の男たち三人を従えて立っていた。
「父上?」
「父さん……」
「おやじ?」
「義父上……」
四人の男子生徒はそれぞれの父親を目視した。
四人の壮年の男たちは貫禄を持って舞台へ歩いてくる。誰の号令もないが皆が頭を垂れた。舞台の五人以外は。
十数人の護衛と秘書官と思われる者たちを舞台の下に残して四人は舞台に上がった。
「皆、頭を上げよ」
会場中がそれに従う。
「騎士団長」
国王陛下と思わしき男が後ろに並んでいた男の一人に目配せした。
「はっ!」
青い髪の男子生徒以外の三人に鉄拳が舞う。
「ぐわぁ!」
「っ!!」
「へっ?」
三人は尻もちをついて啞然とした。
「捕らえよ」
騎士団長が舞台下の部下に命じると上がってきた兵士たちはあっという間に三人と女子生徒を縛り上げ、女子生徒の口をタオルで塞いだ。
「抑えよ」
国王陛下の命で兵士二人がブルーソンの後ろ手を取る。
「何をするっ! 無礼者めっ!」
「聞いていなかったのか? 俺の命令だぞ。
貴様の言葉より重いに決まっている。
本当に愚か者だな」
国王陛下はブルーソンの右頬を平手打ちした。
「父上っ! 何をするのです」
「お前たちの愚行に対して罰を与えに来た」
「まだ何もしておりません」
「そうだ。お前たちはなぁんにもしておらん」
「それならば、何の罰でありましょうや?」
国王陛下はブルーソンの左頬を叩いた。
「お前らがなぁんにもしないから、俺が過労で倒れたのだろう?」
「え?」
国王陛下は右に左にとブルーソンの頬を打ち抜いた。
誰も止めることはできない。
だって、この国の最高責任者国王陛下なのだから。
〰️ 〰️ 〰️
遡ること三日前。
『ガツン!』
「「「陛下ぁ!!!!」」」
俺は執務机に突っ伏すように倒れた。
『あぁ、過労死かぁ。
…………あれ? この世界に過労死なんて言葉はあったかなぁ?』
俺は薄れゆく意識の中で怒涛の渦のように流れてくる記憶を受け入れた。
目が覚めると豪華絢爛な見慣れた天蓋だった。
「陛下っ! 陛下っ!」
「陛下はお目覚めになったばかりだ。静かにしなさいっ!」
白髭をもっさりと蓄えたいかにも医者と言わんばかりの老人が涙目で叫ぶ成人男性を睨む。
「陛下。ご気分はいかがですかな?」
「うーん。よく寝た」
「はい。二日ほどお休みになっておりましたので」
セルド老師は俺の脈を取りながらゆったりと話しかける。
俺はホアヤン王国の国王だ。過労死しかけた時に薄っすらと前世を思い出した。
だが、現世の記憶もしっかりと残っていて自分が国王であることに違和感は感じていないし、医師がセルド老師であることも、涙目になっているのはケートンという側近の一人なのもわかっているし、壁に沿って立ち涙ぐんでいる者たちの名前もわかる。
「二日も寝ていたのか。
それで? ブルーソンは?」
「殿下にもお伝えしたのですが…………。
そのぉ……卒業パーティーの準備が忙しいとかで」
卒業パーティー
ケートンの言葉に俺は酷く動揺した。
「卒業パーティーはいつだ?!」
「あと五時間ほどで始まると思います」
ケートンが腕時計を見ながら言った。俺はセルド老師を振り切り立ち上がると命令した。
「宰相と騎士団長とミンベルス公爵を学園の応接室へ呼べ。
俺もすぐに向かう」
「「「はっ!」」」
ケートンが真顔になり、壁際に立っていた部下たちも頭を下げた。ケートンが指示を飛ばし、俺はメイドとともに着替えを始めた。
セルド老師は苦笑いを隠さず呟いた。
「あまりご無理はなさらないでくださいね」
「わかった。すまぬな」
セルド老師は頭をかきながら部屋から出ていった。
〰️ 〰️ 〰️
俺はこれまでのことを総合して考え前世で読んだ小説に酷似していることに気がついた。
俺が前世でOL時代にハマった小説だ。
国王は今回は息を吹き返すが、結局過労になる状況は変えられず早々に死去し、引き継いだブルーソンが東隣国に戦争をふっかけてこの国を潰すのだ。
ブルーソンに冤罪を着せられたミンベルス公爵令嬢シャリエルは西隣国へ追放されるがその後の行方は描かれていなかった。
〰️ 〰️ 〰️
学園の応接室に雁首揃えた俺たちは緊急会議を開く。
「ブルーソンがシャリエルを咎めそうだ。
咎めぬにしても男爵令嬢と揃いの服の支度をしていることはメイドに確認済みだ」
「そこまでとは……。あの小娘は我が家で引き取るつもりでしたのに。
宰相殿とミンベルス公爵殿ともそれで話を進めておりました」
騎士団長は眉を寄せて唸った。
「あの男を養子にしたのは私ですからその責任として、我が家の持つ男爵位を後継させ辺境地へ押し込み、団長殿のご子息夫妻と宰相殿の子息もそちらに行かせる算段でおりました」
ミンベルス公爵は困り苦笑いだ。ミンベルス公爵家は一人娘シャリエルが王子の婚約者となったため遠縁から養子をとり教育していた。
「そうであったか。苦労をかけるな」
「いえ、殿下の側近としての役割を担えぬのですから当然です。あれでは宰相補佐官など到底させられません」
宰相も苦虫を噛み潰したような顔をする。
「ブルーソン殿下は唯一の国王陛下のご子息であらせられますので、優秀な側近を選び直すつもりでおりました」
「三人にだけ責任を負わせるのは間違えておるぞ。ブルーソンも廃籍だ」
「かしこまりました」
「わかりました」
「承知仕りました」
そこにノックの音がする。
「そろそろパーティーのお時間でございます」
俺たち四人は立ち上がった。
〰️ 〰️ 〰️
俺の往復ビンタでブルーソンの膝が折れた。
「放してやれ」
兵士がブルーソンの後ろ手を放すとブルーソンは床に倒れた。
「ブルーソン。そなたは王家廃籍。男爵位を授けるゆえ、その小娘と婚姻しそやつら三人もその領地へ連れていけ。
とりあえず、離宮へ隔離だ」
騎士団長がテキパキと指示を出し五人を引っ立てさせた。
俺は会場へ振り返る。
俺を真っ直ぐに見つめるたくさんの目の中で俺は薄紫の瞳に釘付けになった。
『うわぁ! マジでカワイイ! 天使!
あれ? 俺って国王じゃん? 何でも好きにできる立場なんだよな?』
「ミンベルス公爵。反対はするな」
俺は壇下の薄紫の瞳から目を離さず壇上にいる三人にだけ聞こえる声で言った。
「っ!! それはご命令ですか?」
「そなたには命令だ」
「私には、ですね」
俺は壇上の薄紫の瞳に向き直った。
「強制はしないと誓おう」
「よろしくお願いいたします」
ミンベルス公爵が恭しく頭を下げた。
俺はゆっくりと階段を下りる。後ろの三人も俺に続いた。
俺はシャリエルの前に立った。
「シャリエル。苦労をかけたな」
「とんでもないことにございます」
シャリエルが頭を下げる。
「頭を上げてくれ。
今見たようにお前とブルーソンの婚約は白紙だ」
「はい」
「シャリエルよ。
もしかしたら、王家からの謝罪に聞こえるやもしれぬ。
もしかしたら、そなたの能力を欲するがゆえに感じるやもしれぬ。
もしかしたら、国民の安寧のための政策だと考えるかもしれぬ」
俺の言葉にシャリエルは目を見開いた。勘の鋭い彼女はもうわかったのかもしれない。
俺はシャリエルに跪きシャリエルの手を取った。
「そなたと過ごした時間は穏やかで心休まり至福の時であった」
ブルーソンらは全く仕事をせず、全てをシャリエルに押し付けていた。シャリエルとは仕事の報告がてら俺の執務室で何度もお茶をしていた。
「そなたを愛おしく思っておる。どうか俺と婚姻してはくれまいか?」
「陛下……」
「これは命令ではない。そなたが断ったとしてもミンベルス公爵家に咎は与えない」
シャリエルはミンベルス公爵を見た。
「シャリエルの望むようにしなさい。ワシはお前の幸せを願っている」
「お父様」
シャリエルが息を飲み、一つ大きく吐く。
「陛下。わたくしも陛下との時間は楽しいものでございました。わたくしでは頼りないかもしれませんが、お側に置いてくださいますか?」
「ありがとう! 俺の天使よ。そなただけを愛すると誓う」
俺がシャリエルの手に口づけを落とすと、一瞬の静寂の後、拍手喝采と大きな歓声が響いた。
卒業パーティーの第一ダンスは俺とシャリエルが務めた。
〰️ 〰️ 〰️
前王妃はブルーソンが三歳の時に儚くなった。俺はそれから妃を娶っていない。
王妃が不在の分も仕事は多くブルーソンの教育に口出しできなかったことはある意味痛手だが、俺がシャリエルを娶れることに繋がったので結果オーライ!
ちなみに前世で女だった俺だがそれはあくまでも記憶の一部であり精神的にはまるっと現世であるのでお好みは女性だ。
そして、まさにシャリエルはど直球のど真ん中! 早く結婚したいっ!
結婚しても忙しいのでは過労死という同じ轍になってしまうので、俺は文官改革をした。
貴族学園を卒業した長子以外の者たちは文官か騎士になることが多いのだが、騎士学校があるのに文官学校はない。
なので、文官が入城すると一人に一人の指導者が付くのだ。そして尚更仕事が回らないという悪循環。
今年からは数十人単位で会議室で文官に纏わる講義をした。これなら数十人に一人の教官である。
そして、配属を白紙にし、研修期間に適正を見て配属先を決めることにした。以前は語学もできないのに外交部に配属が決まっていた者もいたのだ。恐ろしい。
これによって勉強もしてこないくせに文官になった奴らはふるい落とされ、書庫係となり辞める者も出た。仕事ができないのに文官なら食えると思うことが間違えている。特に高位貴族令息にその傾向が強いことがムカつく。
宰相には現役の文官たちの配属替えを指示している。俺が指示したわけではないが、宰相は『配属先を考えるため』と銘打ち試験を開始したらしい。流石である。
文官学校の手配も進んでいる。
文官の質だけでなく数も増やすことにしたので、数年後には俺もシャリエルももっと楽に仕事ができるようになるだろう。
〰️ 〰️ 〰️
ブルーソンには小さな村を与えた。あの娘と三馬鹿も一緒だ。
普通の男爵領の三分の一ほどの大きさであるが、そこでさえも治められる実力があるのか甚だ不安がある。
男爵位の爵位年金は支払われるので生きてはいけるだろう。
俺は父親としてブルーソンを愛している。だからこそ冤罪を曰う前に止めたのだ。冤罪を曰ってしまっては男爵位を与えることも無理であっただろう。
それに…………ブルーソンには国王は無理だ。
ミンベルス公爵家には俺たちの二人目の子供を養子にする予定だ。
〰️ 〰️ 〰️
「はい。あーん」
俺の膝の上にいる天使が俺にクッキーを差し出し、俺が口を開けるとそっと入れた。
「いかがでございますか?」
天使は薄紫の瞳を潤ませ不安そうに俺の顔を覗き込む。
「とても美味い!」
俺はサラサラな金糸を梳きながら答えた。
「よかったですわっ! うふふ。わたくしが作ったのですよ」
天使が頬を染めるのであまりに愛おしくて思わず頬に口づけを落とした。
クッキーよりも甘い二人の時間を作るためこれからも改革していこう。
~ fin ~
連載の合間に思いつきで書いたので設定緩いです。ご了承くださいませ。
前へ出てこいっ!」
貴族学園での卒業パーティーが始まる直前。四人の男子生徒と一人の女子生徒が舞台に上がり、その女子生徒と対になっていると思われる真っ白いジャケットやズボンに青や紫で豪華に刺繍がされているスーツを着こなした男子生徒が大きな声を出した。青い髪を後ろに撫で付けた彼は水色の瞳を見開いて怒りを表していた。
「ブルーソン殿下。何事でございましょうか?」
淡い金髪をハーフアップにし、紫色の上品なドレスの女子生徒が前に出た。口元に扇を当てているため薄紫の瞳しか見えない。
「貴様は!」
「国王陛下のご入場ですっ!」
ブルーソン殿下と呼ばれた男子生徒が声を上げようとしたタイミングで大扉が開かれた。
そこにはブルーソンと同じ青い髪に水色の瞳の壮年の男が威厳のありそうな壮年の男たち三人を従えて立っていた。
「父上?」
「父さん……」
「おやじ?」
「義父上……」
四人の男子生徒はそれぞれの父親を目視した。
四人の壮年の男たちは貫禄を持って舞台へ歩いてくる。誰の号令もないが皆が頭を垂れた。舞台の五人以外は。
十数人の護衛と秘書官と思われる者たちを舞台の下に残して四人は舞台に上がった。
「皆、頭を上げよ」
会場中がそれに従う。
「騎士団長」
国王陛下と思わしき男が後ろに並んでいた男の一人に目配せした。
「はっ!」
青い髪の男子生徒以外の三人に鉄拳が舞う。
「ぐわぁ!」
「っ!!」
「へっ?」
三人は尻もちをついて啞然とした。
「捕らえよ」
騎士団長が舞台下の部下に命じると上がってきた兵士たちはあっという間に三人と女子生徒を縛り上げ、女子生徒の口をタオルで塞いだ。
「抑えよ」
国王陛下の命で兵士二人がブルーソンの後ろ手を取る。
「何をするっ! 無礼者めっ!」
「聞いていなかったのか? 俺の命令だぞ。
貴様の言葉より重いに決まっている。
本当に愚か者だな」
国王陛下はブルーソンの右頬を平手打ちした。
「父上っ! 何をするのです」
「お前たちの愚行に対して罰を与えに来た」
「まだ何もしておりません」
「そうだ。お前たちはなぁんにもしておらん」
「それならば、何の罰でありましょうや?」
国王陛下はブルーソンの左頬を叩いた。
「お前らがなぁんにもしないから、俺が過労で倒れたのだろう?」
「え?」
国王陛下は右に左にとブルーソンの頬を打ち抜いた。
誰も止めることはできない。
だって、この国の最高責任者国王陛下なのだから。
〰️ 〰️ 〰️
遡ること三日前。
『ガツン!』
「「「陛下ぁ!!!!」」」
俺は執務机に突っ伏すように倒れた。
『あぁ、過労死かぁ。
…………あれ? この世界に過労死なんて言葉はあったかなぁ?』
俺は薄れゆく意識の中で怒涛の渦のように流れてくる記憶を受け入れた。
目が覚めると豪華絢爛な見慣れた天蓋だった。
「陛下っ! 陛下っ!」
「陛下はお目覚めになったばかりだ。静かにしなさいっ!」
白髭をもっさりと蓄えたいかにも医者と言わんばかりの老人が涙目で叫ぶ成人男性を睨む。
「陛下。ご気分はいかがですかな?」
「うーん。よく寝た」
「はい。二日ほどお休みになっておりましたので」
セルド老師は俺の脈を取りながらゆったりと話しかける。
俺はホアヤン王国の国王だ。過労死しかけた時に薄っすらと前世を思い出した。
だが、現世の記憶もしっかりと残っていて自分が国王であることに違和感は感じていないし、医師がセルド老師であることも、涙目になっているのはケートンという側近の一人なのもわかっているし、壁に沿って立ち涙ぐんでいる者たちの名前もわかる。
「二日も寝ていたのか。
それで? ブルーソンは?」
「殿下にもお伝えしたのですが…………。
そのぉ……卒業パーティーの準備が忙しいとかで」
卒業パーティー
ケートンの言葉に俺は酷く動揺した。
「卒業パーティーはいつだ?!」
「あと五時間ほどで始まると思います」
ケートンが腕時計を見ながら言った。俺はセルド老師を振り切り立ち上がると命令した。
「宰相と騎士団長とミンベルス公爵を学園の応接室へ呼べ。
俺もすぐに向かう」
「「「はっ!」」」
ケートンが真顔になり、壁際に立っていた部下たちも頭を下げた。ケートンが指示を飛ばし、俺はメイドとともに着替えを始めた。
セルド老師は苦笑いを隠さず呟いた。
「あまりご無理はなさらないでくださいね」
「わかった。すまぬな」
セルド老師は頭をかきながら部屋から出ていった。
〰️ 〰️ 〰️
俺はこれまでのことを総合して考え前世で読んだ小説に酷似していることに気がついた。
俺が前世でOL時代にハマった小説だ。
国王は今回は息を吹き返すが、結局過労になる状況は変えられず早々に死去し、引き継いだブルーソンが東隣国に戦争をふっかけてこの国を潰すのだ。
ブルーソンに冤罪を着せられたミンベルス公爵令嬢シャリエルは西隣国へ追放されるがその後の行方は描かれていなかった。
〰️ 〰️ 〰️
学園の応接室に雁首揃えた俺たちは緊急会議を開く。
「ブルーソンがシャリエルを咎めそうだ。
咎めぬにしても男爵令嬢と揃いの服の支度をしていることはメイドに確認済みだ」
「そこまでとは……。あの小娘は我が家で引き取るつもりでしたのに。
宰相殿とミンベルス公爵殿ともそれで話を進めておりました」
騎士団長は眉を寄せて唸った。
「あの男を養子にしたのは私ですからその責任として、我が家の持つ男爵位を後継させ辺境地へ押し込み、団長殿のご子息夫妻と宰相殿の子息もそちらに行かせる算段でおりました」
ミンベルス公爵は困り苦笑いだ。ミンベルス公爵家は一人娘シャリエルが王子の婚約者となったため遠縁から養子をとり教育していた。
「そうであったか。苦労をかけるな」
「いえ、殿下の側近としての役割を担えぬのですから当然です。あれでは宰相補佐官など到底させられません」
宰相も苦虫を噛み潰したような顔をする。
「ブルーソン殿下は唯一の国王陛下のご子息であらせられますので、優秀な側近を選び直すつもりでおりました」
「三人にだけ責任を負わせるのは間違えておるぞ。ブルーソンも廃籍だ」
「かしこまりました」
「わかりました」
「承知仕りました」
そこにノックの音がする。
「そろそろパーティーのお時間でございます」
俺たち四人は立ち上がった。
〰️ 〰️ 〰️
俺の往復ビンタでブルーソンの膝が折れた。
「放してやれ」
兵士がブルーソンの後ろ手を放すとブルーソンは床に倒れた。
「ブルーソン。そなたは王家廃籍。男爵位を授けるゆえ、その小娘と婚姻しそやつら三人もその領地へ連れていけ。
とりあえず、離宮へ隔離だ」
騎士団長がテキパキと指示を出し五人を引っ立てさせた。
俺は会場へ振り返る。
俺を真っ直ぐに見つめるたくさんの目の中で俺は薄紫の瞳に釘付けになった。
『うわぁ! マジでカワイイ! 天使!
あれ? 俺って国王じゃん? 何でも好きにできる立場なんだよな?』
「ミンベルス公爵。反対はするな」
俺は壇下の薄紫の瞳から目を離さず壇上にいる三人にだけ聞こえる声で言った。
「っ!! それはご命令ですか?」
「そなたには命令だ」
「私には、ですね」
俺は壇上の薄紫の瞳に向き直った。
「強制はしないと誓おう」
「よろしくお願いいたします」
ミンベルス公爵が恭しく頭を下げた。
俺はゆっくりと階段を下りる。後ろの三人も俺に続いた。
俺はシャリエルの前に立った。
「シャリエル。苦労をかけたな」
「とんでもないことにございます」
シャリエルが頭を下げる。
「頭を上げてくれ。
今見たようにお前とブルーソンの婚約は白紙だ」
「はい」
「シャリエルよ。
もしかしたら、王家からの謝罪に聞こえるやもしれぬ。
もしかしたら、そなたの能力を欲するがゆえに感じるやもしれぬ。
もしかしたら、国民の安寧のための政策だと考えるかもしれぬ」
俺の言葉にシャリエルは目を見開いた。勘の鋭い彼女はもうわかったのかもしれない。
俺はシャリエルに跪きシャリエルの手を取った。
「そなたと過ごした時間は穏やかで心休まり至福の時であった」
ブルーソンらは全く仕事をせず、全てをシャリエルに押し付けていた。シャリエルとは仕事の報告がてら俺の執務室で何度もお茶をしていた。
「そなたを愛おしく思っておる。どうか俺と婚姻してはくれまいか?」
「陛下……」
「これは命令ではない。そなたが断ったとしてもミンベルス公爵家に咎は与えない」
シャリエルはミンベルス公爵を見た。
「シャリエルの望むようにしなさい。ワシはお前の幸せを願っている」
「お父様」
シャリエルが息を飲み、一つ大きく吐く。
「陛下。わたくしも陛下との時間は楽しいものでございました。わたくしでは頼りないかもしれませんが、お側に置いてくださいますか?」
「ありがとう! 俺の天使よ。そなただけを愛すると誓う」
俺がシャリエルの手に口づけを落とすと、一瞬の静寂の後、拍手喝采と大きな歓声が響いた。
卒業パーティーの第一ダンスは俺とシャリエルが務めた。
〰️ 〰️ 〰️
前王妃はブルーソンが三歳の時に儚くなった。俺はそれから妃を娶っていない。
王妃が不在の分も仕事は多くブルーソンの教育に口出しできなかったことはある意味痛手だが、俺がシャリエルを娶れることに繋がったので結果オーライ!
ちなみに前世で女だった俺だがそれはあくまでも記憶の一部であり精神的にはまるっと現世であるのでお好みは女性だ。
そして、まさにシャリエルはど直球のど真ん中! 早く結婚したいっ!
結婚しても忙しいのでは過労死という同じ轍になってしまうので、俺は文官改革をした。
貴族学園を卒業した長子以外の者たちは文官か騎士になることが多いのだが、騎士学校があるのに文官学校はない。
なので、文官が入城すると一人に一人の指導者が付くのだ。そして尚更仕事が回らないという悪循環。
今年からは数十人単位で会議室で文官に纏わる講義をした。これなら数十人に一人の教官である。
そして、配属を白紙にし、研修期間に適正を見て配属先を決めることにした。以前は語学もできないのに外交部に配属が決まっていた者もいたのだ。恐ろしい。
これによって勉強もしてこないくせに文官になった奴らはふるい落とされ、書庫係となり辞める者も出た。仕事ができないのに文官なら食えると思うことが間違えている。特に高位貴族令息にその傾向が強いことがムカつく。
宰相には現役の文官たちの配属替えを指示している。俺が指示したわけではないが、宰相は『配属先を考えるため』と銘打ち試験を開始したらしい。流石である。
文官学校の手配も進んでいる。
文官の質だけでなく数も増やすことにしたので、数年後には俺もシャリエルももっと楽に仕事ができるようになるだろう。
〰️ 〰️ 〰️
ブルーソンには小さな村を与えた。あの娘と三馬鹿も一緒だ。
普通の男爵領の三分の一ほどの大きさであるが、そこでさえも治められる実力があるのか甚だ不安がある。
男爵位の爵位年金は支払われるので生きてはいけるだろう。
俺は父親としてブルーソンを愛している。だからこそ冤罪を曰う前に止めたのだ。冤罪を曰ってしまっては男爵位を与えることも無理であっただろう。
それに…………ブルーソンには国王は無理だ。
ミンベルス公爵家には俺たちの二人目の子供を養子にする予定だ。
〰️ 〰️ 〰️
「はい。あーん」
俺の膝の上にいる天使が俺にクッキーを差し出し、俺が口を開けるとそっと入れた。
「いかがでございますか?」
天使は薄紫の瞳を潤ませ不安そうに俺の顔を覗き込む。
「とても美味い!」
俺はサラサラな金糸を梳きながら答えた。
「よかったですわっ! うふふ。わたくしが作ったのですよ」
天使が頬を染めるのであまりに愛おしくて思わず頬に口づけを落とした。
クッキーよりも甘い二人の時間を作るためこれからも改革していこう。
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連載の合間に思いつきで書いたので設定緩いです。ご了承くださいませ。
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.o┳⊂ )=| ∥∥∥∥ |
◎┻し’◎.◎ ̄ ̄◎
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そう言っていただけると嬉しいです。
今後ともよろしくお願いします。